まらしぃ「まらフェス2022 EP」発売記念インタビュー|過去を取り戻すのではなく、今だからできる「まらフェス」を (2/2)

作業机に発生する“ジャングル”の曲

──3曲目にはlogical emotionによる新曲「GREEN TEA JUNGLE」が収録されています。一時期は「まらおバンド」というバンド名義の活動もされてましたし、まらしぃさんにとってバンドでの活動は欠かせないものになりつつありますよね。

やっぱりバンドの中のピアニストとして、メンバーのみんながいる中で演奏するのが楽しいんですよね。それにソロで弾くには文字通り「手が足りない」と感じることもあって、バンドだったらドラムにリズムを安心して任せることができるし、ベースにバッキングを委ねられるわけなので、ソロでやるよりもピアノの自由度が高い。ソロのピアノとバンドでのピアノは全然別物なので、どっちも楽しく弾かせてもらってます。それにバンドで耳にしたベースのフレーズやドラムのパターンがソロのピアノで生きることもあって。ソロとバンド、どちらもやることでいい循環になっている感覚があります。

──新曲のタイトル「GREEN TEA JUNGLE」はどういう意味なんですか?

これはバンドというより完全に僕の見た風景に由来していて。僕、めちゃくちゃお茶が好きで作業中によく飲んでいるんですが、ピアノの横にある机の上にどんどんペットボトルが溜まっていくんですよ。お茶のラベルって緑色なので、それが集まると森になるなあって。それで「緑茶の森」を英語にして「GREEN TEA JUNGLE」にしました。「回せツインテール」もそうなんですが、僕がコロナ禍で感じたこと、見た風景がけっこう新曲に反映されていると思います。

まらしぃ

──レコーディングの際にメンバーとはどんな話を?

僕と同じでタブクリア(Dr)店長は音楽ゲームに関する造詣が深いので、僕のイメージするリズムパターンをちゃんと汲み取ってくれることが多くて。ドラムのパターンに関しては1曲の中でもけっこう細かく要望を伝えていて、それを踏まえつつ「こういうのはどう?」と提案してくれることもありましたし、バンドでやる醍醐味を味わいながら曲作りができました。ベースのdさん(drm)に関しては基本的にほぼお任せでいいベースラインを弾いていただきました。レコーディング中は自分を追い詰めながら弾く人なので、奇声を上げながら弾くのを見守っていました(笑)。

──メンバーは皆さん地元の名古屋の方ですし、logical emotionはまらしぃさんにとってホームのような居場所なのかもしれないですね。

そうですね。今回のコラボの中でも一番気兼ねなくやれたのがlogical emotionかもしれないです。logical emotionとしてステージに立つのは、それこそ前回の「まらフェス」ぶりなので、めちゃくちゃ楽しみですね。

憧れのボーカリストを招いての「夢、時々…」

──4曲目に収録されているのは、ボーカリスト・recheさんとの「夢、時々…」です。コラボ相手がボーカリストの場合、まらしぃさんはご自身の演奏をどう切り換えているんでしょうか?

僕のCDではあるけれど、ボーカリストの方に歌ってもらう以上は歌を聴かせたい気持ちが強くて。そこで気をつけているのが抑揚ですね。歌ってくださる方の感情の起伏に僕がまったく違うテンションで入ると邪魔になってしまうので、どういう抑揚を付けて歌われるかを嗅ぎ取りながら弾くことを意識しています。

──これまでいろんなボーカリストとご一緒してきたと思いますが、recheさんというボーカリストの魅力をまらしぃさんはどう感じていますか?

recheさんのボーカルを初めて聴いたのはEGOISTさんの「名前のない怪物」(2012年12月発売の3rdシングル)なんですが、感情的な曲に心を込めるようなボーカルがすごい方で。特に僕が好きなのが、バラードで顕著に表れる息の入れ方。昨年のオンラインライブに呼んでいただいた際は宇多田ヒカルさんの「桜流し」でコラボさせていただいたんですが、憧れのボーカルの方のバラードを聴きながらすぐ隣で演奏するというのはすごい体験で、ひさしぶりにすごく緊張しました。

──まらしぃさんの持ち曲でバラードといえば「夢、時々…」だったわけですね。

はい。僕の曲で何か歌ってもらえるなら「夢、時々…」が絶対いいだろうなって。これはもうコラボが決まる前から考えていたことでもあります。ボカロで作った曲なので音域が高くて申し訳ないなと思っていたんですが、recheさんだったら難なく歌いこなせる確信もありましたし。僕、recheさんの歌を一番堪能できるのは生歌だと思っていて、これはぜひ「まらフェス」で聴いてもらいたいんですよね。よく「CD音源が口から出る」みたいなボーカルの方がいらっしゃいますけど、recheさんはむしろ生歌のほうが素敵なくらいですから。

まらしぃ

グランドピアノ1台で臨んだ武道館ライブ

──EPには昨年3月に開催された武道館ライブの映像を収めたDVDが付属します(参照:まらしぃ1人でステージに立ち、日本武道館をグランドピアノの音で満たす)。まらしぃさんのライブ映像は手元のアップが多いので、臨場感があるというか、けっこう迫力があるライブ映像だと感じました。

僕の音楽を聴いてくださる方の中にはピアノをやっている方や再開した方、新しくピアノを始めた方が多くいらっしゃって、「手元が見えるとうれしい」といった声をもらうことがあるんです。会場まで観に来ていただいてもカメラで大写しにしない限りは手元をじっくり見ることができませんから、DVDでは多めに手元を映してもらうことを意識しました。映せないものが多いという事情もありますが(笑)。

──ご自身でライブ映像を観返してみてどう思いましたか?

武道館の日は本当に緊張していたんですよ。無我夢中だったからあまり細かいことは覚えてなくて、当日はあっという間に終わっちゃって。だから今回改めて自分のライブを観て「こんなに楽しそうに弾いてたのか」と改めて気付かされました。実際楽しかったし、「いいライブだったな」と胸を張って言える内容だったと思います。

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──「空想少女への恋手紙」の演奏ではPAシステムをオフにして、グランドピアノの生音を届けるひと幕もありました。普段ホールで演奏することの多いまらしぃさんは、日本武道館という会場の響きをどう感じましたか?

あの場に立って初めて気が付いたことがたくさんありました。とんでもなく広い会場なので、どう音が返ってくるのか心配だったんですが、変な反響がなくて。「空想少女への恋手紙」の音も思ったより皆さんに鮮明に届いていたみたいで安心しました。

──当日披露された曲目はクラシックがあればカバーもあり、オリジナル曲ももちろん披露されるという、まらしぃさんの活動を総括するような内容だったと思います。特に思い入れの強かった曲はありますか?

強いて言えば、まらしぃとしての原点とも言える「ネイティブフェイス」を武道館で演奏できたのは感無量でした。それと、僕にとって初めてのオリジナル曲である「夢、時々…」ですね。いろんな会場で弾かせてもらったこの曲を日本武道館でも演奏できて、音楽をやってきて本当によかったなとしみじみ思いました。アンコールで「夢、時々…」の最後の音を弾くとき「あ、これを弾いたら終わっちゃう」と不意に思ったんですよ(笑)。でも弾かないわけにはいかないから、惜しみながらも最後の音を弾いたのをよく覚えていて。

──今回のEPはCDもDVDもどちらも「夢、時々…」で終わる構成になっています。

僕にとって大切な曲なので、「DVDに入っているから」みたいな理由で外せなくて。CDに入っている以上、「まらフェス」でも欠かさず披露する曲なので楽しみにしてほしいですね。

──最後に「まらフェス」に向けてひと言お願いします。

新型コロナウイルスが流行して、1人で考える時間と自分がピアノと向き合う時間が増えて。僕は自分の演奏、自分の配信を通じて新しい視点を持てるようになったので、それをどうライブにつなげていくかを課題としているんです。その1つの答えが今回の「まらフェス」になるので、僕なりの答えをライブで伝えられたらうれしいですね。来ていただくからには全力で楽しんでいただけるように準備していますし、まだいろんな事情で影ながら応援してくださる選択をした方には、次にお会いしたときによりよい演奏を届けられるように僕もがんばりますので、そのときまで楽しみにしてもらえれば。まずは「まらフェス」当日、晴れればいいなあ。

──梅雨時の6月に開催されることが恒例となっていますが、まだ「まらフェス」で雨が降ったことはないですよね?

そうなんですが、武道館の日は雨だったんですよね(笑)。雨の曲が多いので、雨でも楽しめるよう心の準備はしていますが、せっかくの野外なので晴れの野外を楽しめたらいいですね。

まらしぃ

イベント情報

まらフェス2022

「まらフェス2022」告知ビジュアル

2022年6月19日(日)東京都 日比谷野外大音楽堂

<出演者>
まらしぃ / maras k(marasy×kors k) / logical emotion(marasy、drm、tabclear) / reche / H ZETT M

プロフィール

まらしぃ

2008年よりニコニコ動画の“弾いてみた”カテゴリなどで活動しているピアニスト。ボカロPとしてもオリジナル曲を投稿している。2010年にDMEから1stアルバム「V.I.P(Marasy plays Vocaloid Instrumental on Piano)」をリリースした。2013年にはトヨタのハイブリッドカー「AQUA」のCMソングの演奏を担当し、CMでオンエアされた「チョコレイト・ディスコ」「千本桜」のカバーはいずれも大きな話題を集めた。2019年3月からはアジアツアー「marasy piano live asia tour 2019」を開催し、日本国内ならず中国各地でもライブを行った。2021年3月には東京・日本武道館にてグランドピアノ1台による単独公演「marasy piano live in BUDOKAN」を開催。2021年7月にボカロカバー集「V.I.P X marasy plays Vocaloid Instrumental on Piano」をリリースした。2022年6月に約2年ぶりとなる主催イベント「まらフェス2022」を開催する。