まらしぃ|オリジナル曲で振り返るまらしぃ10年のキャリア

08.
KARIN

──「KARIN」は「Sogna」と同じく「パズドラ」のキャラクターをモチーフにした楽曲です。まらしぃさんが「パズドラ」内で一番好きなキャラクターが……。

カリンちゃんですね(笑)。この曲は「パズドラ」5周年のタイミングで配信された生配信の番組で、僕がピアノで演奏させてもらった曲なんです。会場がニコファーレなのもあって演出が豪華で。会場のLEDで「パズドラ」のゲーム内の演出を取り入れた映像を流してもらったんです。「パズドラ」の1プレイヤーでもある僕にとっては最上級の名誉でした。

──アルバムに付属する特典DVDには「KARIN」と「Mille」のスタジオライブ映像が収録されていて、この映像にはピアノプロジェクションで「パズドラ」の公式イラストが使われています。

ガンホー(「パズル&ドラゴンズ」の運営会社)さんに画像素材をお借りしまして、すごくいい仕上がりになっています。ライブの演出でもピアノプロジェクションを使うことはあるんですけど、ステージからの映像だとどうしても皆さんにお見せできない部分もあって。今回のDVDに収録されているスタジオライブでは鍵盤に映像を投影して、僕の指の動きと連動して「パズドラ」のいろんな映像を楽しめるので、「パズドラ」ファンには絶対観てほしいですね。

09.
金剛

──「金剛」はゲームの登場キャラクター由来の曲ですね。

「金剛」は「First Piano」の収録曲で、当時はあえてV-Pianoを使って調律がちょっとズレたような独特の音を作ってレコーディングしていたんです。で、今回「marasy collection」は全曲グランドピアノでレコーディングすることが決まっていて、「First Piano」で表現した「ちょっと違和感を感じさせるような音」をどう再現するかけっこう悩んでたんです。調律師さんに「ちょっと狂った調律でお願いします」とお願いするわけにもいかないし。

──結局、どうしたんですか?

1日レコーディングをしていたらピアノのチューニングがちょっとズレてきている感じがして、「そろそろ今日は終わりにしようか」って話をしていたときに「あ、この状態『金剛』の演奏にちょうどいいぞ」と思い付きまして。狙っていたわけではないんですけど、ちょうどいいタイミングが訪れたのでその機会にレコーディングしたのが「金剛」です(笑)。ちょっとした違和感と一緒に楽しんでもらえたらうれしいですね。

10.
Linaria

──10曲目「Linaria」はYURiCa/花たんさんへの提供曲のセルフカバーです。

確か「お花」をテーマにしたアルバムへの提供曲で、ロックバラードみたいなオーダーをいただいたんですよね。「空想少女への恋手紙」と同じような方向性をイメージしながら作ってみたら、テーマもちょっと似ていて“絶対に実現しない恋愛の歌”になっちゃいました(笑)。当時の僕はそういう物語に心惹かれていたのかもしれません。提供曲なんですけど、けっこう自分でも気に入っていて、今回のベスト盤に収録しました。

──まらしぃさんが曲提供をする機会は多いんですが、歌詞も含めて提供したはこの「Linaria」のみですよね。

言われてみれば……確かにそうですね。当時も「花たんさんに歌ってもらうんだから、変なことは書けないな」と思ってました(笑)。ただ、提供かどうかはあまり深く考えてなくて、「Linaria」は言いたいことがキレイに収められた1曲でもあるんです。「marasy collection」はピアノ1本のアレンジですけど、花たんさんの歌もすごいのでオリジナルバージョンもぜひ聴いてもらいたいですね。

11.
sakura wishes

──11曲目の「sakura wishes」は、CM曲としてテレビでもオンエアされた1曲です。

この曲は富士通エフサスさんのCM用に書き下ろした曲なので、発注ありきで生まれた曲ですね。キャラクターに向けた曲はすでに何曲も書いていたんですけど、企業理念やイメージを形にするという経験はこのときが初めてで。僕なりに企業さんのイメージを解釈させていただいて、デモを送ったらそれが1発OKだったんです。キャラクターをイメージした曲は自分の趣味で作っているようなものですから、自分が趣味でやっていたことの経験がちゃんと企業さん向けでも通用するという手応えがあった思い入れ深い1曲ですね。。

12.
未来ハ廻ル

──「未来ハ廻ル」もCM曲としてオンエアされた楽曲です。しかもこのCMではまらしぃさん自身が出演しました(参照:まらしぃが太陽光発電ピアノで新曲演奏、ソフトバンクでんきCM映像で)。

やっぱりCM撮影のことを思い出しますね。撮影当日は雨が降り始めたり、天気がよくても太陽が出ていなかったり、自然ともタイミングを合わせなければいけないのがすごく大変で。普段の僕らの活動って、要は人間の準備が整えば、ライブや配信は滞りなくできるんですよ。でも撮影は自然まで含めて準備を整え、すべてのタイミングが合致した一瞬を逃さず捉えなければいけない。普段自分が見ることのできない世界を見せてもらえて、すごくいい経験になりました。

──まらしぃさんが手がけてきたキャラクターをテーマにした楽曲と違って、「sakura wishes」や「未来ハ廻ル」は曲のテーマが少し大きいですよね。具体的に言えば「希望」や「未来」といったテーマが与えられ、それらの要素を曲に落とし込まなければならないわけで。そういったテーマの違いをまらしぃさんはどう感じていますか?

キャラクターをもとにした曲であれば、ビジュアルはもちろんありつつも、その子の性格や身に付けているもの、衣装の色、作品中の言動など、そのキャラクターの周囲まで含めて曲を作るようにしてるんです。その甲斐あってか、「希望」や「未来」という少し大きいテーマをいただいたとしても、僕なりに希望を感じる景色だったり物事を連想していって、キャラクターの曲を作るのと同じようなプロセスで曲を作ることができたんですよね。あとピアノという楽器にも助けられていると思います。もし僕が作曲家で「未来をテーマにした歌モノをお願いします」ってオーダーだったら、もっと四苦八苦してただろうから(笑)。ピアノなら「僕はこういうメロディに希望を感じる」ということが表現できる。だからピアニストでよかったなと思いました。

13.
夢、時々…

──DISC 1最後の曲は、まらしぃさんが初めて作曲した「夢、時々…」です。

もう9年前になるんですけど、当時「オリジナル曲を書いてみない?」って言われなければ、もしかしたら僕はオリジナル曲を作らなかったかもしれないので、僕にとっては大事な“きっかけの曲”ですね。ボカロ曲として発表したものなんですけど、覚えているのは歌詞が全然書けなくてトゥライ(minato)さんにお願いしたことですね。歌詞は書いてもらえたんですけど、結局自分では曲のタイトルも決められなくて、作曲はできたけどそれ以外のことができず歯がゆい思いをした1曲でもあります。

──「夢、時々…」は、大きなライブでは必ず披露されている曲でもあります。

実は「夢、時々…」を演奏するときは、アレンジのことをあまり考えないんです。その日に集まってもらった人に対してどう思ったか、その瞬間に感じたことをそのまま曲で表現できる曲だと僕は思っていて。もちろん自分の弾き方の好みや、時期ごとのプレイ傾向もあったりはするんですけど、常にフラットな気持ちで、自分の感情を演奏で表現してきた曲です。機会があればこれからもずっと弾いていく曲になると思いますし、演奏を重ねていくごとにちょっとずつ器が大きくなるような曲なのかなと思っています。

まらしぃ

縁のある幕張メッセでのツアーファイナル

──DISC 2にはアジアツアー「marasy piano live asia tour 2019」のテーマソング「風来」が収録されています。この曲はどのような思いから作られたのでしょうか?

アジアツアーは香港で始まり、中国各地の都市をめぐって、最後に幕張メッセでツアーファイナルを迎える、という形なので、その流れをそのまま曲にしてみたくて。なのでところどころ中国音階的なフレーズを交えながら、日本っぽい和テイストも混ぜ込んだ、ちょっと変わった曲に仕上がっています。

──曲の中盤に右手だけで演奏するパートがありますよね?

ありますあります。

──きっとライブを意識しているんだろうなとは思っていました。

ありがとうございます。僕のライブはピアノを弾きながら皆さんに手拍子を煽ったりしなきゃいけないから、いっそのこと右手だけで弾くパートを用意しちゃえ、と思いまして(笑)。こういうアイデアはライブを繰り返してきたから出てきたものかもしれませんね。

──ツアーファイナルは幕張メッセ国際展示場7~8ホールという大舞台でのライブになります。

いやあ、すごいところでやりますよね。ただ幕張メッセって、僕にとっては少し縁のある会場で、「ニコニコ超会議」「マジカルミライ」「JAEPO」といったイベントで何度かステージに立たせてもらった場所でもあるんです。2017年の「マジカルミライ」で(初音)ミクさんのライブを観させていただいて、「僕もこういう場所でやれたらいいな」って話をしていたら、それが早くも叶うことになりました。

──幕張メッセは音の響きや会場の設備など、ピアノのコンサートをやるのには正直言ってあまり適した場所ではないと思うんです。ただ、まらしぃさんの公演はコンサートではなくライブに近いものなんですよね。

そう言ってもらえるとうれしいです。もちろんピアノを弾いて皆さんに聴かせるという土台はありながらも、幕張メッセのライブではレーザーを入れたり、照明を凝ったり、これまでライブでやってきた演出からもまた1つ進化させたものが見せられたらいいなと思っているんです。耳からも目からも、新しいものが楽しめるようなライブにします。

まらしぃ「marasy collection ~marasy original songs best & new~」
2019年4月24日発売 / Subcul-rise Record
まらしぃ「marasy collection ~marasy original songs best & new~」

[CD2枚組] 2800円
SCGA-00083~4

Amazon.co.jp

DISC 1収録曲
  1. うらめし太郎
  2. PiaNoFace
  3. 楓神
  4. アマツキツネ
  5. Sogna
  6. 空想少女への恋手紙
  7. Jeanne
  8. KARIN
  9. 金剛
  10. Linaria
  11. sakura wishes(富士通エフサス CM Music)
  12. 未来ハ廻ル(ソフトバンクでんき FITでんきプランCM song)
  13. 夢、時々…
DISC 2収録曲
  1. Love Piano
  2. ラーメン†デュエル
  3. cat's magic☆
  4. ホシアカリ
  5. わたしのマーガレット
  6. ざざぶり大作戦
  7. 黒ノ夜明ケ
  8. Iris
  9. Apricot memory
  10. ひかりのやくそく
  11. Mille
  12. Messier
  13. 風来
まらしぃ
まらしぃ
2008年よりニコニコ動画の“弾いてみた”カテゴリなどで活動しているピアニスト。ボカロPとしてもオリジナル曲を投稿している。2010年にDMEから1stアルバム「V.I.P(Marasy plays Vocaloid Instrumental on Piano)」をリリースした。2013年にはトヨタのハイブリッドカー「AQUA」のCMソングの演奏を担当し、CMでオンエアされた「チョコレイト・ディスコ」「千本桜」のカバーはいずれも大きな話題を集めた。2015年2月にはdrm(B)、タブクリア(Dr)とともにインストトリオバンド・logical emotionによる初の全国流通盤「LOGISTIC FUNCTION~VOCALOID SONGS COMPILATION~」をリリースした。また2015年7月には音楽ゲーム「BEMANI」シリーズのトラックメーカーとして知られるkors kとのコラボユニット・maras kとしてアルバム「Beat Piano Music」を発表。2018年10月には活動10周年を記念した“メモリアルアルバム”として「marasy piano world X」をリリースした。2019年3月からは中国各地を回る海外公演を含むアジアツアー「marasy piano live asia tour 2019」を開催。4月にはオリジナル曲を集めた2枚組仕様のベストアルバム「marasy collection」を発表した。6月には千葉・幕張メッセ国際展示場7~8ホールでアジアツアーの最終公演を行う。