間々田優が16年ぶりにナタリーのインタビュー登場、ニューアルバムは“脱・突き刺し系” (2/2)

カッコ悪い自分を笑ってもらおう

──1曲目の「ごめんねピータン」は、ピータンにまつわる思い出がテーマです。これもすごくユニークで個性的な視点ですね。

そうかもしれないですね。中華街でデートして、大人ぶってピータンを食べてみたものの、食べられなくて吐き出してしまって。ついでに恋も終わってしまったという歌なんですけど、これは完全に実体験です(笑)。大学生のときの話で、私、恋愛で失敗したことや、恨みつらみみたいなものをネチネチと持ち続けてるタイプなんですよ。好きな人と中華街に行ったときの気持ちとか、「うわ、こいつ、ピータン吐き出しちゃったよ」という彼の顔とか、帰り道の雰囲気とか、20年以上経っても覚えていて(笑)。なんで今になって曲にしたかというと、「カッコ悪い自分を笑ってもらおう」と思えたからじゃないかなと。

間々田優

──以前は歌の内容を自分で狭めていたのかも。

「この曲には怒りが入ってない」とか「鋭い言葉がないな」というところでふるいにかけていたんですね。“突き刺し系”という自分で付けた冠に助けられたこともあるんですけど、それに縛られていたところもあるんだなって、今になって思います。そのことに気付けたのはコロナの頃のツアーがきっかけで。カッコつけてもしょうがないというか「裸一貫、あなたに会いに来ました」という気持ちで歌っていたし、どんな環境でも歌いたい、音楽を続けたい、“あなた”をとにかく楽しませたいという気持ちが強くなりました。自分に素直になれたし、それはアルバムの曲にも出ていると思います。

──「エロエロエッサイム」のような官能的な曲も、今だから表現できた?

性的なこと、エロティシズムみたいなことも昔はあまり出せなかったですからね。自分のビジュアル的な打ち出し方も、デビュー当時はかなり中性的だったんです。声もちょっと少年っぽかったし、CDジャケットもあえて女性を感じさせない撮り方をしていて。でも、齢40を過ぎて、自分の性欲や恋愛観、人を好きになるパワーみたいなものが、これからどう変化していくんだろう?という興味が出てきました。ここはもう、思い切り振りかぶって書いてみようかなと思ったのが「エロエロエッサイム」です。

──シンガーソングライターのシーンであまり触れられてないテーマかもしれないですね。

そうだと思います。女性シンガーソングライターって、どこかで清らかなもの、ピュアなものを求められている気がして。それに対する違和感もずっとありましたね。

──「帯状疱疹オン・マイ・マン」もすごいですよね。なんでこんな部位に帯状疱疹の症状が……という曲ですが、「こんなことを歌っていいのか?」という躊躇はなかったですか?

今もずっとあります(笑)。「帯状疱疹オン・マイ・マン」も実体験なんですけど、いろいろ考えて「これを曲にするんだったらパンクにしよう」と。この曲が書けたんだからなんでもできるなって、自分で勇気をもらってますね(笑)。

間々田優

まさに間々田のキャリアのよう

──そしてアルバムのタイトル曲「タイポグリセミア」は、黒崎ジョンさんが作詞作曲をしています。

作家の方にすべてお任せしたのは初めてで。ずっと作詞作曲を自分でやってきた中で、この曲をアルバムに収録したのも大きい変化だと思います。「タイポグリセミア」という題名は自分で提案したんですよ。単語の文字の順番が入れ替わっていても、最初と最後の文字が合ってれば、意味が通じてしまうことをタイポグリセミア現象と言うんですけど、そこに人間のおかしさや不思議さを感じて。そのことを黒崎さんにお伝えして曲を作っていただいたら、「遠回りも素敵 順序が入れ代わったって 結果オーライならそれで最高潮」という歌詞にしてくれました。

──“結果オーライなら最高潮”って、間々田さんのキャリアやこのアルバムの在り方にもつながってるかも。

そうなんですよね。昔の私の曲の歌詞がちりばめられてたり、すごく遊び心もあって。ふざけながら突き進んでいく感じもいいなと思ったし、「これをアルバムのリード曲にしよう」と。

──自分以外の方が書いた曲を歌うことで、シンガーとしての気付きもあったのでは?

最初は違和感がすごかったです(笑)。自分だったらこういうメロディにしない、こういう構成にしないと驚いたところがたくさんあるんですけど、だからこそ、私にできるのはシンガーに徹することだなと。まだ歌い切れてない部分があると思うし、今は「ライブを通して育てていきたい」という希望にあふれています。

──歌の表現についても、自由度が上がっている?

そうですね。昔はとにかくシャウトしていて、「がなりまくってライブで喉を潰すのが一番」みたいな意識があったんですよ(笑)。でも、お客さんはその日のライブしか観られないし、どのライブでもいい歌を届けることがプロフェッショナルだよなと思うようになりました。確かに歌い方も変わってきましたし、今回のアルバムではいろんな声色を使っていて。かなりバラエティに富んでいると思います。

──曲によって声のニュアンスが違いますよね。

いろんな歌い方を試してみたかったのかも。もともとリスナーとしてもジャンルを問わず音楽が好きなんですよ。ハードロックも聴くし、アニメソングや演歌も好きだったりするので。あと、配信ライブでファンの皆さんのリクエストに応えてカバー曲をやったり、ちょっとずつ幅が広がっているんでしょうね。例えばAdoさんって、本当にいろんな声色をお持ちじゃないですか。若いアーティストの皆さんからの刺激もあるし、すごく学ばせてもらってます。

間々田優

涙をこらえるように歌う

──「さよならファンタジア」もこのアルバムの聴きどころだと思います。躍動感のあるバンドサウンドと「さらば絶望よ」という歌詞で始まるポップチューンですが、この曲を書いたのはいつ頃ですか?

これはだいぶ前で、2015年くらいですね。5年ぶりに活動を再開して、弾き語りツアーをやらせてもらえることになって。DVD(「間々田優 弾き語りワンマンツアー公演映像集『復讐旅行』~狂気の夜明け」)にもなってるんですけど、そのツアーのとき、毎公演で新曲を披露したんです。「さよならファンタジア」はその中の1曲なんですけど、ファンの方が「いつか音源化してほしい」とずっと言ってくれていて。自分としては「そこまで特別な曲でもないんじゃないかな?」と疑心暗鬼でしたが、去年のツアーで歌ったときに「私がこれまで生きてきた道につながる曲かもしれない」と思ったんです。私、地元が茨城県なんですけど、過去を捨てたくて、18歳のときに逃げるように東京に来て。音楽を始めて、デビューして、活動休止があって、コロナ禍があって……いろんな出会いがあったし、選ばざるを得なかった別れもありましたけど、それでも未来につなげていきたい。「さよならは光の船だ」という歌詞は今の自分にしっくりくるし、やっと歌いこなせるようになったのかなと。

──キャリアを重ねる中で、この曲の本質に気付いた。

そうですね。ファンの皆さんの中には、親御さんを亡くされたり、介護をされていたり、いろいろな環境の方がいる。たくさんの出会いや別れを繰り返しながら、それでも旅を続けていきたい、歌っていきたいなと。アルバムに収録できたのはお客さんのおかげだし、最近のライブでは毎回、涙をこらえるような気持ちで歌ってますね。

間々田優

合言葉はナルシスト

──アルバムの最後に収録されているのは、バラードナンバー「ナルシスト」。「かっこつけてよ 私のナルシスト」というフレーズが印象的です。

バラエティに富んだアルバムにしたくて収録曲を決めていったんですが、途中で「バラードがないな」と気付いて。最後の最後に書き上げて、プロデューサーに「この曲も入れたいんですが、聴いてもらえますか?」とお願いしたのが「ナルシスト」です。「かっこつけてよ 私のナルシスト」って日本語としてちょっと変というか(笑)、ナルシストってもともと、あまりよくないイメージの言葉じゃないですか。

──確かに。

でも、私は「ナルシストでいることって、そんなに悪いことじゃないな」と思ってるんです。カッコつけて背伸びしたり、「人によく思われたい」という気持ちが前に出たりするきっかけになることもあって。私自身、一歩踏み出すときの合言葉みたいな感じで、ナルシストという言葉を捉えています。

──アーティストにとっては大事な要素かも。

そうですね。自分の中で「もうダメかも」と思ったり、心の中で白旗を上げたりしていても、ファンの方から「もっと聴きたいです」と言ってもらうことで、「またナルシストになってステージに上がるか!」と思えるので。

──「タイポグリセミア」は表現の幅の広がりとともに、間々田さんの本質が刻まれた作品ですよね。この後の活動ビジョンは?

まずは「タイポグリセミア」をいろんな方に届けたいなと思ってます。「間々田優って活動してるの?」と思ってる方もいらっしゃるし、「おーい! 間々田優、歌ってるよ!」って(笑)。来年は全国ツアーを予定しているし、声と体をしっかり使って、皆さんに楽しんでもらえたらなと。あと、生配信ライブを毎月やってるんですよ。海外の方にも視聴してもらってるし、画質も音質も日本一だと自負しているので、ぜひ観てほしいです!

間々田優

プロフィール

間々田優(ママダユウ)

茨城県出身のシンガーソングライター。2008年11月に1stフルアルバム「嘘と夢と何か」をリリースし、「SUMMER SONIC」「COUNTDOWN JAPAN」といった大型フェスに出演するも、2010年に活動休止。2015年の再開後は全国のライブハウスだけなく、刑務所やストリップ劇場、プロレスのリングなどさまざまな場所でパフォーマンスを行っている。最新アルバムは2025年9月リリースの「タイポグリセミア」。