ナタリー PowerPush - 間々田優
私は人が好き、人と音楽を共有したい 激情シンガーソングライターが迎えた大きな転機
2007年リリースのミニアルバム「あたしを誰だと思ってるの」、続く2008年リリースの1stフルアルバム「嘘と夢と何か」でシーンに大きな衝撃を与えたシンガーソングライター、間々田優。心の闇を鮮烈に切り取ったメッセージを激情ボーカルで叩きつけるスタイルは、多くのリスナーの胸に確かな傷跡を刻んだ。だが、彼女はそのイメージを一変させる新作を作り上げた。それが2ndフルアルバム「予感」。
今回のインタビューでは、彼女の口から何度も「人が好き」「人と共有したい」という言葉が語られた。鮮やかな光の見える、風通しのいい作品に込められたその思い。新生・間々田優の胸に広がる新たな“予感”に迫る。
取材・文/もりひでゆき
ライブの延期・復活で気付いた「人が好き」という思い
──2ndアルバム「予感」は、前作とはかなり聴き心地が変化しているような印象を受けました。曲のバリエーションが多彩だし、それによって間口がグッと広がっているような感じもあって。
曲作りのスタンスは、最初のミニアルバムや1stフルアルバムと全然変わってないんですよ。ただ、決定的に違っていたのは「誰かに伝わるようにするためにはどうしたらいいだろう」ってふと立ち止まる瞬間がどの曲にもあったことで。そういう試みは初めてだったんです。それが結果的にどう生かされたのかは、リリースされてからわかることだとは思うんですけど。でも、取材でお会いする方々にも私の印象について「明るくなりましたね」みたいに言っていただけることが多いので、自分が試みたことは間違ってなかったのかなとは思ってます。
──「誰かに伝えたい」という思いがより強くなったのは、何か理由があったんですか?
1年前の11月に1stフルアルバムを出したんですけど、それによっていろんな人に出会えたり、いろんな人に聴いていただく機会がものすごく増えたんですね。でも同時に、批判や評価などの反応もすごく増えたんです。そういうことは予想してはいましたけど、実際に反応が返ってくると予想以上に怖くなってしまったところもあって。で、どうしたらいいかわからなくなって、曲を作ることも怖くなってしまったんです。
──なるほど。
でも、自分にはライブがあるから、不安にさいなまれていてもやっていけるっていう思いもあったんです。アルバムリリースよりももっともっと前に、私はギターを持ってライブを始めたんだっていう自分の基礎があったので。なのに、今年の2月に予定されてたワンマンライブをインフルエンザで延期させてしまったんですよ。自分が唯一すがれるものであったライブを延期させてしまったんです。で、私にはもう光がない、夢も希望もないんだっていう状態になって(笑)。今は冗談めかしく言ってますけど、そのときは本当に落ち込んで。
──うん、うん。
でも、その1カ月後にまたライブをする機会をいただけたんですよね、ちゃんと。さらに新たに曲を作るとか、レコーディングすることもできるわけなんですよ。そういう中で、今まで自分一人のものとして必死で守っていた私の音楽や、アーティスト・間々田優っていうものが、自分一人だけのものじゃないんだなっていうことをものすごく実感したんです。今さらっていう感じではあるんですけどね。で、そこから、やっぱり私はいろんな人と音楽を共有したいし、知ってほしい。自分は人が好きなんだなっていうことに辿りついたんです。
──そこに気付けたのは意味のあることですね。
そうですね。1stアルバムのときに感じた怖さや不安みたいな気持ちも、今ではちゃんと整理できて、あんまりさいなまれなくなったというか。そこばかりにとらわれてちゃいけないんだって冷静になれたところもあって。でも、今回の2ndアルバムを出したら、またそこに直面しなきゃいけないとは思うんですよ。「人が好き」って言いながらも、また人が怖くなっちゃったり、めちゃくちゃ不安になったりもするんじゃないかなって考えたりもしちゃうんですけどね。
──作品を世に出したら、さまざまな反応が返ってくるのはアーティストとしての宿命ではありますからね。
うん。そういう部分では、矛盾してる自分もまだいたりもするんですよ。私一人だけの音楽じゃないと言いつつ、裏を返せば、最終的には誰も助けてくれないって思っちゃってる自分もいるし。とは言え、今の私はこのアルバムを出すことにワクワクしてるし、すごく期待もしてるんです。だからタイトルに「予感」っていう言葉をつけたんですよね。
窓を閉じた自分から開けた自分への変化
──1stアルバムの頃は「伝えたい」という思いとどう向き合っていたんですか?
根本的に言えば、人に伝えたい、人に認められたい、人が好きだっていうのは、今になってバコッと出てきた答えじゃないんですよね。最初のミニアルバムからずっとあって。でも、どちらかと言うとそれを表現するのが怖かったのかなって感じがしますね。ミニアルバムの頃なんかは、自分はもちろん、他の誰かのことも殴りつけるというか、傷つけることで精一杯だったというか。
──どうして怖かったんでしょうね?
私はギターの弾き語りで音楽を始めたんですけど、1人でやるっていうのはすごく身軽だし、行動力もあるんですよね。でも、その一方で、自分で自分を信じないと誰も力を貸してくれないんです。ある意味、根拠のない自信というか、自分を信じる気持ちを“念”のように自分の中にためこまないといけないんですよ。誰も信じられない、信じられるのは自分だけだっていう気持ちを守るのに必死だったんですよね。
──その“念”が結果的に、伝えたいという思いを覆ってしまう鎧のようになってしまっていたのかもしれないですね。
うんうん、かなり。窓に例えると、最初は完全に閉じてたと思うんですよ。窓枠もなかったかもしれない。ただの壁。でも根本的に人が好きだから、耳を当てて外の音を聴いたりはしてるんだけど(笑)。で、1stアルバムでは、やっと窓は取りつけたけど、カーテンはまだ閉まってました。それが今回のアルバムでは、ビビりながらも窓を開けることができたんですよね。窓を開けたら風も入ってきたし、光もあったかいし、じゃお布団干そうかな、みたいな(笑)。そういう変化があったからこそ今回のように、カラーバリエーションがあるというか、彩度や明度の上がった曲たちになったのかなとは思いますね。
間々田優ワンマンライブ
「事が起こるその前に」
- 2009年11月21日(土)
大阪府 梅田Shangri-La - 2009年11月23日(月・祝)
東京都 原宿アストロホール
間々田優(ままだゆう)
茨城県出身のシンガーソングライター。
2006年、東京・下北沢GARAGEで初ライブを実施。その後渋谷La・mamaのオーディションを2回目で突破すると同時に、急速にライブの動員を増やす。
2007年9月26日、ミニアルバム「あたしを誰だと思ってるの」をタワーレコードにて先行発売。2008年8月8日、同作を全国発売。2日後の8月10日には「SUMMER SONIC 08」に初出演を果たす。11月12日、1stフルアルバム「嘘と夢と何か」をリリース。心に抱える暗い感情を赤裸々に吐露する楽曲と、激しく歌うボーカルスタイルに注目が集まる。また12月30日には「COUNTDOWN JAPAN 08/09」に参加。
2009年も精力的な活動を行い、3月には東阪ワンマンライブ「嘘と夢と間々田優」を開催。10月7日は満を持して2ndフルアルバム「予感」をリリースする。