音楽ナタリー PowerPush - 2015年春のメジャーデビューアーティスト特集 音楽ライター宇野維正×柴那典×森朋之 座談会

ACC、藤原さくら、ふぇのたす、DAOKO…… 注目株とトレンドを解く音楽ライター座談会

TOPIC 4:まだまだ潜んでいるボカロ系 / ネット発クリエイター

──インターネットを中心に話題を集めてデビューするアーティストも1つのトピックです。直近でメジャーデビューしたボカロPはスズムですかね。

 スズムも才能ある作り手だと思うんですが、僕が今すごい可能性を感じているのは、ボカロP兼歌い手のまふまふ。Twitterのフォロワー35万人(4月1日現在)もいるんですよ(参照:まふまふ@4/25アルバム出すよ'ω' (@uni_mafumafu) | Twitter)。びっくりしました。フォロワー30万人以上って、ボカロPや歌い手界隈でもじんや96猫や__(アンダーバー)、ほか数人くらいしかいない。

宇野 この方はまだメジャーデビューしてないんだ?

 まだ同人でCDを出してます。メジャーデビューの誘いは来てると思うんですけどね、さすがに。この人はすごく個性的な声の持ち主で、キーがとんでもなく高いんですよ。さらに自分で曲を書けるのも強み。書く曲は、自分で言ってる通り厨二病。この人の同人のアルバムは自分で並んで買いに行こうと思ってます(笑)。

宇野 実際、作品はどのくらい売れてるの?

 同人なんで、自分で刷った枚数しか売れないはず。

 そうか。ファン層はどのあたりなんですかね?

 10代の女の子が中心だと思います。メジャーで活躍している歌い手はりぶが代表格で、やっぱりファン層は同じようなところですね。でもやっぱり、歌い手は曲を誰かに書いてもらわなきゃいけないので、自己表現としての限界があるんですよね。結局、ボカロPでも歌い手でも、曲を作れて歌える、もしくは小説が書ける、イラストが書けるっていうマルチな才能の持ち主が活躍している。そのシーンを超えた場所で活躍している代表格の米津玄師は、歌える、イラストも描ける、曲もハイクオリティで書ける人ですから。

宇野 その付加価値はボカロの世界に限らず、ほかのシンガーソングライターにも言えることだよね。今、ソロってだけでちょっと逆風が吹いてる状況だから、そろそろ風穴を開ける人が出てきてほしいし、僕は期待したいですね逆に。

 ソングライターじゃないですけど、DAOKOさんもネットの層から面白がられてる存在ですよね。

 うん。DAOKOは、水曜日のカンパネラとか泉まくらとかと同じ“フィメールラップ”というシーンの中にいるんですけど、その中でも彼女は繊細さと生きづらさみたいなものを放っている。今の「女子高生ラッパー」というくくられ方から何か抜ける存在になる気はします。

 そうですね。

 詩人っぽい感じがしますね。今度のアルバム(「DAOKO」)も片寄明人さんが参加してるし、関わる大人を本気にさせるタイプだと思う。

宇野 関わった人が「ちょっととんでもない」って言う、あの感じは気になるよね。俺はDAOKOを聴いて、むしろ音のほう、トラックのよさが頭に残ったな。

今の時代における“メジャーデビュー”の意義

──ここまで新人アーティストをさらってきましたが、この方々がメジャーシーンでサバイブしていく術って今の時代いろいろな方法がありますよね。CDという形態にこだわらなくても、顔出ししなくてもアリなわけで。

宇野 戦略的になってるっていうと、無邪気にやれなくなったとか、業界っぽい感じの不純なイメージを持つ人がいるかもしれないけど、ここで重要なのはみんな大人から押し付けられた戦略に沿ってやってるわけではなくてアーティスト発っていうことなんですよね、今の戦略性って。戦略的なんだけどもその戦略を作ってるのがバンドの中の人たちで、そこが時代の1つの線が引かれるところだと思うんです。昔のようにレコード会社とか事務所が派手にお金を使って打ち出してる時代とは大きく違うなって。そういう場合はすぐリスナーにバレちゃう時代になったので。そんなことを考えてると、やっぱりセカオワ(SEKAI NO OWARI)の影響はデカいなと(笑)。

 ああー。そうですね。

宇野 セカオワほど戦略的なバンドはなく、まさに女の子もいて、メンバーごとに役割が分かれてて、四つ打ちもやれば生もやり、架空の街の歌もあれば東京とか横浜とか上野とか実在の地名が出てくる歌詞もある。やっぱり時代の1つの象徴になってるなと思うし、今彼らの音楽を聴いてる10代の子たちがこれからバンドをやるってなると、そういうバンド発信の戦略性はますます高まっていくんだろうなっていう気はします。

──そんな中、“メジャーデビュー”とはどういう意味合いを持つんでしょうか。スタッフがいらないんじゃないかというくらい自己プロデュース能力の高いアーティストもいますし、故にあえてインディーズで活動を続けるアーティストもいます。今の時代にメジャーのレコード会社に所属する意義とは?

 そのあたりは最近のデビュー組でいうと、Sugar's Campaignがものすごく自覚的にやっていると思います。メンバーのSeihoは自分でインディーレーベルを主宰してるし、Avec Avecも個人の活動ではインディーに軸足を置いてるけれども、Sugar's Campaignとしては「パーソナルな部分を捨てて劇団になりたい」って言ってるんですよね。

宇野 ふむふむ。

 メジャーデビューをすると、まず単純に届く半径を広げることができる。そして自分たちの世界観を実現するために切れるカードの数が増える。そういう意味で言えば、セカオワはライブハウスを作っていたときと今とで明らかに持ってる切り札の数が違うわけで。ああいうコンセプチュアルなバンドであればあるほど、メジャーデビューっていうのは“周囲のクリエイターを自分の世界観のために起用できるチャンス”っていうふうに捉えてる節があるのかなと。あ、ふぇのたすもそうでした。新曲のショートムービーで起用しているれもんらいふっていうデザインオフィスのクリエイティブディレクター(千原徹也)はみこちゃんがずっと好きだった人で(参照:ふぇのたすメジャーデビュー飾る「ふふふ」ムービー公開)、一緒に仕事できるっていうのはメジャーならではですよね。だからメジャーデビューを周囲の大人やクリエイターを巻き込む手段として捉えてる人が、この20代くらいの世代では多い気がします。

 セカオワもきゃりーぱみゅぱみゅも、今成功してるアーティストは明確に自分でやりたいことがあって、そこまでのビジョンもあって、どこと組むのが正解かっていうことまでちゃんと考えてから動いてますもんね、明らかに。

 うん。で、そのメジャーの利点に魅力を感じない人はインディーズでやってる感がある。

 要はアーティストやバンドの考え方、やりたいことっていうのが一番大きいんでしょうね。ART-SCHOOLみたいなやり方だって今はできるわけだし(※ART-SCHOOLは昨年12月末に活動休止と同時に、制作環境を整えてから活動を再開しようと前向きに考えていることを発表した / 参照:ART-SCHOOL活動休止「必ず戻ってきます」)、選択肢は本当にたくさんあって。だからバンドを作る時点で、コンセプトと同じように将来的にどういうふうにしていきたいかをプランニングしたほうがいいと思う。そこが決まれば、じゃあメジャーを目指そうとかインディーのままでいいとか、おのずと決まってくると思うんです。そういうふうにジャッジする才覚は必要ですよね、やっぱり。

新人アーティストに必要な2つの力

──そろそろまとめに入りますと、今の新人アーティストに必要とされる力は?

 いろんな人が出てきて華やかだけど、結局は発信力とチームを巻き込む力だと思います。デビューしてからいろいろあっても残る人はやっぱりそれを持ってますから。

宇野 例えばアジカンとか、今でも最前線を走ってるバンドはみんなしっかり考えを持ってるもんね。

 ホントですね。

宇野 でもそうなるとさ、音楽の才能だけはめっちゃくちゃあるけど、ほかは何も考えられない人とかは出てこれないってこと?

 andymoriとか?

宇野 いやいやいやいや!(笑)

──まあ、“発信力”は頭脳的なことだけじゃなく、とにかく人を突き動かしちゃうパッションとか、なぜかわからないけどほっとけない魅力っていうのも含まれるでしょうし。

 そう思います。ちゃんと言っとかなきゃいけないのは、戦略があればいいわけではないってことですよね。才能があって、かつワンダーを作れる人じゃないと。

宇野 やっぱり音楽の才能と発信力って密接に結びついてるよね。

座談会参加者プロフィール

宇野維正(ウノコレマサ)

音楽・映画ジャーナリスト。雑誌編集を経て独立し、現在は洋邦の音楽や映画を中心に多岐にわたる分野で原稿を執筆。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほか「MUSICA」「リアルサウンド」「クイック・ジャパン」「GLOW」「BRUTUS」「装苑」など。

柴那典(シバトモノリ)

1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンで「ROCKIN'ON JAPAN」「BUZZ」「rockin'on」の編集に携わり、その後独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほか「AERA」「CINRA.NET」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」など。著書に「初音ミクはなぜ世界を変えたのか」がある。

森朋之(モリトモユキ)

音楽ライター。2000年頃からライター活動をスタート。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほか「WHAT's IN? WEB」「WHAT's IN?」「オリスタ」「リアルサウンド」「CDジャーナル」など。