音楽ナタリー PowerPush - 2015年春のメジャーデビューアーティスト特集 音楽ライター宇野維正×柴那典×森朋之 座談会
ACC、藤原さくら、ふぇのたす、DAOKO…… 注目株とトレンドを解く音楽ライター座談会
TOPIC 2:密接になるアイドルとバンドのあり方
柴 この表でいうとアイドルとかガールズグループは……。
──nanoCUNE、Pottya、La PomPon、Especia、あゆみくりかまき、夢みるアドレセンス、OS☆U、五五七二三二〇、がんばれ!Victory、Carat、カントリー・ガールズあたりですね。
柴 ゆっふぃー(寺嶋由芙)もアイドル枠としますか。アイドルって今もう市場が飽和しているけど、メジャーデビューもすごく多いですよね。
森 近年のアイドルブームの一種の影響なのかわからないですけど、例えばアカシックの理姫もアイドルとして捉えることができると思うんですよね。バンドにアイドル要素が入ってるっていうことが最近多くないですか?
柴 アイドル要素入ってますね。Gacharic Spin、LUI FRONTiC 赤羽JAPANもそうだし。
森 あと、水曜日のカンパネラも。初期の頃は地下アイドル的なノリのお客さんもかなりいた印象もあるし、コムアイをアイドルというふうに捉えてる人も多いんだろうなって。
宇野 オーサムも、もうPORINちゃんのアイドルレベルを超えたかわいさにびっくりですよ。本気でかわいい(笑)。JUDY AND MARYが出てきた頃にYUKIちゃんと初めて会ったら同じようにびっくりしただろうな、っていうくらいのインパクトがありました。
柴 ここ5年のアイドルシーンの盛り上がりの中で見えたことは、アイドルっていう形態を取ればどんな音楽でも乗せられるということなんですね。だからlyrical schoolはヒップホップだし、Especiaはブギーファンクだし、ゆるめるモ!はクラウトロックだし。ももいろクローバーZのブレイク以降、アイドルっていうフォーマットだったらいろいろできるじゃん、っていう状況になっている。でもこれを1歩引いて見ると、もはや今のアイドルとバンドってフォーマットとして同じものになっている気がするんですよ。バンドだったらどんな音楽でもできるじゃんっていうのと同じ。どんな音楽もアイドルシーンには存在している。故に、アイドルの方法論をちゃんと咀嚼したバンドおよびグループっていうのが台頭してきていて、Awesome City Clubはその1つだし、ふぇのたすもアカシックもそこに当たるんですよね。
宇野 それのエクストリーム型が清 竜人25みたいなね。
柴 ああー、そうですね。
宇野 ただ、そこについてあえて異論を挟ませてもらうと、日本の音楽リスナーは言ってしまえば自作自演至上主義というか、パフォーマーに作り手の幻想を重ねてしまう傾向が根強いと思うんですよ。アイドルの人気が音楽ファンのある一定層を越えないのは、やっぱそこなんだろうなって気もするんですよね。
柴 ちょうどそこが、次の軸である女性シンガーソングライターのデビューにもつながっているとは思います。
TOPIC 3:シンガーソングライターも女性強し
──ソロシンガーの新人も女性が多いです。今年に入ってからは瀧川ありさ、藤原さくら、Nao Yoshioka、三戸なつめなどが登場しています。
宇野 さっきの話を補足すると、例えば海外の音楽シーンは有名なアーティストに曲を書いたソングライターがその何年後かにデビューして大物になっていく、みたいな循環があって新しい才能が回ってるけど、日本はなんかそういう感じにはいかないよね。ソングライターはやっぱりまず歌わされるし、書かない人には大人がつくし、みたいなね。だからこそ……どの話題でもオーサムすごいなって話に僕はなっちゃうけど(笑)、オーサムとかゲス極とか、物事を考える人、歌う人、曲作る人ってバンドの中で役割分担して、いろんな要素を持ってる人たちが強いんだろうね。ただ、そういう中で女の子のシンガーソングライターっていうのがもう一度注目されるタイミングかもしれないなという気はする。
柴 森さんはこの中では一番、女の子のシンガーソングライターを取材されてますよね。これはすごいっていう人いますか?
森 藤原さくらさんは光ってると思いますね。去年“ギタ女”っていうくくりもありましたけど、アコギを弾く女性シンガーって、僕の印象ではYUIの亜流がかなり多いというか。彼女もYUIの影響は受けてると思うんですけど、話を聞いてみたら真のThe Beatlesマニアだし、ものすごくちゃんと音楽を聴いてる子で。それを咀嚼して、さらにちゃんと自分のオリジナリティを音に出せるという、ここ数年のシンガーソングライターではなかなかいなかったタイプだなと思ってすごく注目してます。
宇野 藤原さくらさんはすごくポテンシャルがありますよね。僕も森さんに聞きたいんですけど、今ってソロ受難の時代だと思うんですよ。この10年くらい、才能あるなって思う子は何人もいたけど、今はもうそんなに作品出していなかったり、なかなか人気が持続しないじゃないですか。それって何が原因だと思います?
森 シンガーソングライターで? うーん……。
宇野 要するに、あまり大きな声では言えないけど、才能があっても花開かなかった何人ものシンガーソングライターを僕らは見てきてるわけですよね。
森 そうですね(笑)。それはさっきのバンドの話にも通じますけど、シンガーソングライターでも今のシーンを見極めてしっかりとビジョンを持っていないと、なかなか広がっていかないっていうことがまず1つあると思います。アーティスト本人に発信能力がないと。“大人にやらされてる”感はリスナーにもすぐ伝わってしまう。
宇野 ソロはバンド以上にダイレクトに、やらされてるように見えちゃう可能性がありますもんね。メンバーっていう緩衝材もないし。
森 そうなんですよね。
柴 シンガーソングライターでもバンドでも、アーティスト本人にしっかりとしたアイデンティティと発信力がないと、現場のスタッフの士気が上がらないんですよね。現場のスタッフって基本的にはアーティストを盛り立てる人たちだから、中心人物に何も考えがないとどう動いていいのかわからなくなってしまう。やっぱり今の時代、重要なのは“チーム”なわけで。
宇野 確かにね。
柴 ミュージシャンがスタッフと一丸となって世界観を発信していこうっていう“チーム”の概念をサカナクションが提示して、それ以降バンドもアイドルもそうなっていると思います。
森 確かにサカナクションがヒットして以降、みんな「チーム○○」って言い始めましたね。
宇野 Perfumeとかまさにそうですよね。きっとmiwaさんやきゃりー(ぱみゅぱみゅ)さんも、周りを巻き込んでいくのがうまいんだろうね。
柴 ミュージシャンはそういう意味でもリーダー=リードする役割であると。自分で全部決めなくてもいいけど、周りのクリエイターやスタッフに「こっちの方向にみんなでがんばっていきましょう」っていうのを示す役割ができてないと、特にソロのシンガーソングライターはキツいですよね。
2015年1月以降の主なメジャーデビューアーティスト
座談会参加者プロフィール
宇野維正(ウノコレマサ)
音楽・映画ジャーナリスト。雑誌編集を経て独立し、現在は洋邦の音楽や映画を中心に多岐にわたる分野で原稿を執筆。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほか「MUSICA」「リアルサウンド」「クイック・ジャパン」「GLOW」「BRUTUS」「装苑」など。
柴那典(シバトモノリ)
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンで「ROCKIN'ON JAPAN」「BUZZ」「rockin'on」の編集に携わり、その後独立。雑誌、WEB、モバイルなど各方面にて編集とライティングを担当し、音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほか「AERA」「CINRA.NET」「MUSICA」「リアルサウンド」「NEXUS」「ミュージック・マガジン」など。著書に「初音ミクはなぜ世界を変えたのか」がある。
森朋之(モリトモユキ)
音楽ライター。2000年頃からライター活動をスタート。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほか「WHAT's IN? WEB」「WHAT's IN?」「オリスタ」「リアルサウンド」「CDジャーナル」など。