初めてバンドに入ってきた客観的な意見

──もともとはっとりさんは、The Beatlesやユニコーンが好きなんですよね。

はっとり　はい。レジェンドたちの中でも、僕が思うカッコいいポップスのツボをうまく押さえてきた人たちだと思います。

──そしてどちらの楽曲にも遊び心がありますよね。今回はっとりさんはあまり頭で考えずに制作をしたからこそ、好きな音楽から影響を受けたポップ感や遊び心が自然ににじみ出たのでしょうか？

はっとり　そうかもしれないです。今までは「これ以上はやりすぎだ」ってアレンジする際にストップをかけてたけど、今回はもっとやっちゃっていいかなって。周りが誰も止めなかったし（笑）。やりたいことやりきらないで「もっとやってたらよかったな」ってあとで思うのも嫌だし、何にもとらわれずに楽しんだ結果ダメだったらしょうがないかなって。メンバー脱退もあって大変だったから、いい意味で吹っ切れたのかもしれないです（笑）。

長谷川　確かにはっとり、ノリノリだったかも。

はっとり　うん。

田辺　定期的にはっとりのデモ音源を聴いてるんですけど、アルバム制作前から曲がよくなる確信がありました。

はっとり　今回からはデモ音源を聴いてもらう段階で、「俺はあのアーティストを聴いて、この曲にはこういうイメージがあるんだ」ってイメージを共有してたよね。今まではあまりそれを伝えてこなかった。その結果、みんなからけっこういいフレーズが上がってきて。

長谷川　今までははっとりの正解に向けて擦り合わせてたけど、今回からは「でも俺はこういうアプローチをしてみようと思う」っていう提案もしやすくなった。

──今回からはなぜイメージを共有しようと思ったんですか？

はっとり　サティが抜けて、サポートドラマーとして入ってくれた久保田潤さんの言葉がきっかけです。俺たちは大学で組んだバンドで、同級生スタートだからこそ、だんだん客観的に自分らのことを見ることができなくなっていて。例えば煮詰まったときも、なんで煮詰まってるのか誰もわからないし、俺1人で悩んでるような状態だったんですね。そしたら久保田さんが「イメージの共有をしたほうがいいんじゃない？」ってアドバイスをくださって。これ以外にも客観的な目線を持ってる人が演奏者として入ってくれたおかげで、気付くことがたくさんありました。「俺もやり方をちょっと変えたほうがいいかな」とか、バンドを見つめ直すきっかけになりました。

「ロックだよね」って言われるため、愛のOasisオマージュ

──ラストナンバー「春の嵐」は、これもはっとりさんのルーツであるOasisの「Whatever」のオマージュですね。なぜこういった楽曲を作ろうと思ったんですか。

はっとり　最初からこういう曲を作ろうと思っていたわけじゃないんですよ。この曲はけっこう前に弾き語りで歌詞も含めて1コーラスできていて。そのデモを自分でも気に入ってたし、スタッフの反応もよかったので、大事に大事にしていました。で、レコーディングが近付いてアレンジをしていく中で、なんの気なしにDAWソフトでOasisの「Whatever」みたいな質感でストリングスを入れてみたら、全然違和感がなくて。

──へえ。

はっとり　そもそも乾いた音がマカロニえんぴつの特徴の1つだと思うから、これまで曲にストリングスを入れたことはなかったんですよ。でも今回入れてみたらすごく好きな質感になって、新しい発見でした。で、そこからアレンジを加えて「Whatever」らしさを足していって。すごくわかりやすくしましたけど、これは愛のオマージュであると僕は言い張りたいです（笑）。オマージュするなら中途半端にしたくないし、徹底的にやりたかった。実際のレコーディングでは、大学が一緒の長谷川の知り合いにストリングスを弾いてもらったんですよ。

長谷川　いやあ、最初ストリングスを入れるって聴いたとき、これ譜面書かなきゃいけないと思うけど誰が書くんだろうな……と思って。その時期はいろんな曲のアレンジをしてるときで、はっとりくん家に言ったら急に「ちょっと弦の譜面書いてもらっていい？」って頼まれて、めちゃくちゃ深夜まで1パートずつ書かされました。

はっとり　愚痴でしたね、ただの。

長谷川　お聞きいただいてありがとうございます！

──（笑）。じゃあ本当に「Whatever」っぽいアレンジをしてみようっていう思いつきから、この曲ができあがったと。

はっとり　単にやってみようっていう軽いノリもありつつ、ちゃんと意味もありますよ。Oasisのギャラガー兄弟って生き様がロックじゃないですか。俺は彼らが好きだから、ロックとは生き様だと思ってるんです。だから、そこに憧れてオマージュをしたって捉えてほしくて。

──なるほど。

はっとり　僕ら、今までだいたい「ポップだね」とか「キャッチーだよね」って言われてきて、あまり「ロックだよね」って言われたことがないんです。ポップって言われるのもそこまでうれしくなくて、俺は（笑）。歌詞を見て「ひねくれてるけど、アツいこと言っててロックだよね」「悲しい歌だけど前向きになれるよね」っていう、生き様的なロックを汲み取ってほしいんです。今回のアルバムがきっかけでそうなればいいなと思ってるから、そういう意味でのOasisオマージュでもあります。

──「ロックだよね」って言われたい人に対して、冒頭から「ポップですね」って言ってすみません（笑）。

はっとり　いや、味わったうえで「やっぱりポップだよね」って言われるのは嫌じゃないです。一聴して「あー、ポップな感じね」って言われるのが嫌いなだけで。

結成5年目で改めて感じた「音楽って楽しい」という気持ち

──今回のアルバムにはブルージーな「ミスター・ブルースカイ」やシティポップに挑戦した「クールな女」など、さまざまなジャンルのナンバーが収録されていますが、どの曲にも聴き手に対する説得力を感じました。

はっとり　なるほど。でも僕からしたら、いろんなことをやらないで曲の方向性が統一されていたほうが説得力があるんじゃないかなって思います。

──マカロニえんぴつは今回いろんなジャンルの曲をやってますけど「ちょっとマネしてみました」っていう感じではなく、ちゃんと愛を感じると言うか。もちろん遊びながら楽しく作った部分はあると思うのですが。

はっとり　そういうサウンド的な説得力ですね。それはうれしい。「クールな女」も最初はめちゃくちゃ遊びで考えたけど、真面目な顔してアレンジを考えていましたから。本気で楽しまないと、聴いてる人には絶対楽しんでもらえないと思うので。

──そういう点では楽しむことができた作品でもありますか？

田辺　楽しかったです。「クールな女」とか、高野くんが作曲した「イランイラン」も何度もやり直したけど、あれはあれで楽しかったなって今になれば思う。

はっとり　真剣に音楽をやってると楽しいって思える機会ってなかなかないと思うんだけど、結成5年目でそれを感じられたのはすごくいいなと。キツい時期だったからこそ、「俺は音楽をやってるな」っていう喜びがありました。改めて「音楽って楽しい」と心から思えたアルバムです。

──ほかの皆さんは「CHOSYOKU」ができあがってみて手応えはいかがですか？

高野　「CHOSYOKU」の収録曲はどれも切ないようで、弾いてる自分でも元気が出るのでお気に入りです。

長谷川　僕は、さっきから言ってますけど、それぞれの個性が出ていて“みんなで作った感”がしっかりある1枚になったのかなと。あれ……誰も「CHOSYOKU」にかけて発言してないけど大丈夫？

田辺　えっと、どれがリード曲になるか最後までわからなかったぐらい、強力なカードばかりのアルバムだと思います。「CHOSYOKU」だけに、どこから食べてもおいしいアルバムです。

長谷川　え？ 「朝食だけにどこから食べてもおいしい」って、何もかかってなくない？

はっとり　いいの！ うまく締めてくれたんやろ。

長谷川　おー、ありがとうございます！ 助かります！

──（笑）。3月からは「CHOSYOKU」を携えた全国ツアーが始まります。

はっとり　今回、大阪と名古屋で初めてワンマンライブができるのでうれしいです。聴き込んだら「いいね」って思ってもらえる前提で作ったアルバムですけど、ライブで観て初めてリンクするメッセージがあると思うので、ぜひ遊びに来てほしいです。アルバムを聴いて、ライブを観て改めて「いいアルバムだったな」って思ってほしい。

──ツアーファイナルワンマンの場所は「s.i.n」のリリースツアーと同じく、東京・渋谷CLUB QUATTROです。

はっとり　前回はチケットが売り切れなくて悔しい気持ちもあったけど、自分たちを観に来てくれるお客さんを目の当たりにしたうれしい気持ちもありました。だから単純に、「もう1回音楽やろうよ、そこで」っていう気持ちです。どこも全力でやりますけど、やっぱりツアーファイナルはさらに気合いが入ると思うので、東京の人と言わず全国津々浦々、無理して来てもらっても後悔はさせないです。「来てよかった」って思えるライブにします。