坂本真綾×佐野康夫×千ヶ崎学|ライブを支えるリズム隊と振り返る25周年横アリ公演

シャボン玉とルンバとアドリブと

──横浜アリーナでの2日間の中で、皆さんが特に印象に残っているシーンは?

千ヶ崎 映像はまだ観てないんだけど、けっこうくまなく覚えてますよ。袖にスタンバってるところから。中でも特に印象に残ってるのは……「誓い」かなあ。

坂本 大丈夫でした? あのシャボン玉。

千ヶ崎 うん。減らさなくてよかったね。

坂本 私は「量が多すぎるから減らしたほうがいいんじゃない?」って言ってたんですよ。楽器はベトベトになりませんでした?

千ヶ崎 大丈夫大丈夫。「約束はいらない」もワクワクしたなあ。

坂本 1曲目にしてよかったですね。

千ヶ崎 外から観たらどう見えているのかもわからないし、不思議な感覚。

坂本真綾が「ルンバ」と称したドレス。

──オープニング映像のあと、ライティングされたケージの中で演奏する場面ですね。その後ケージが上昇して皆さんの姿が見えたとき、坂本さんの髪型の変化もさることながら、派手な衣装にも目が行きました。坂本さん曰く「ルンバ」ですね(笑)。

千ヶ崎 ルンバね(笑)。あのMCは最高だったなあ。

佐野 あれは面白かった(笑)。

坂本 今までみたいに歓声や笑い声がないから、私はスベったかなと思って焦ってたんですけど(笑)。

佐野 相当ツボにハマったよ。

千ヶ崎 基本、真綾ちゃんはMCが面白いですよね。

坂本 ほらまた褒めてくれる(笑)。私は「いつか旅に出る日」かな。レコーディングではシンプルなアレンジだったけど、ライブではバンドバージョンのアレンジになっていて、それがすごく気に入っているんです。あと「ユーランゴブレット」のイントロがすごく難しくて、みんなと何度も練習したのが思い出に残っています。修行のような「ユーランゴブレット」が終わったあとの「オールドファッション」でみんなが解き放たれる感じも(笑)。

佐野 それを聞いてすごく記憶がよみがえってきた(笑)。メドレーもいい流れだったよね。

坂本 そうですね。ボリュームもあって。すごくいい形で落ち着いたけど、ここに行き着くまではけっこう時間がかかったんですよ。私がメドレーで歌いたい曲をバンマスの北川さんに伝えて、そこからデモを作ってくれるんだけど、「ここでこの曲が入れたい」「この曲は外そう」と少しずつ調整して……バージョン7まで行ったのかな。

千ヶ崎 「あなたじゃなければ」の堂島くんとのやりとりは、アドリブなの?

坂本 はい。何も決めずに「だいたいこのへんを歩きましょう」とだけ話し合って。堂島さんには励まされるばかりですよ。堂島さんの生誕祭ライブも配信で観たんですけど、こういう人になりたかったなって本当に思うくらい、全方向に自由で。

──セットリストにはない部分ですが、最後に「ポケットを空にして」のインストを流しながら皆さんがゆっくり行進して退場する場面も印象的でした。いつもならアンコールの最後、観客と一緒に大合唱するこの曲が歌えない状況の中、BGMとして流れているだけだけど、みんなが心の中で合唱しているような。

坂本 あの曲がないと終わった気がしないというお客さんもいるし、でも私だけが歌ってみんなに「歌わないでね」というのは違う気がするし……「歌わないでね」というワードは絶対に発したくなかったんです。みんなが歌わないのなら私も歌わないほうがいいんじゃないかな、と今回はセットリストには入れず、私の中では「じゃあ退場曲でいいかな」くらいの感じで決めたんですけど、お客さんにとってはこれも演出のひとつになっていたみたいで。自分が想像していた以上のエピローグになって、本番で初めて「こんなふうになるんだ」と驚きました。

おばあちゃんになっても

坂本 2人は自分が出ているライブの映像は観ます?

千ヶ崎 僕はあまり観ないかなあ。

佐野 僕は観たり観なかったりだけど、真綾ちゃんのはけっこう観るよ。

坂本真綾

坂本 ホントですか? 私のライブ映像は佐野さんが映っている場面がけっこう多いので佐野さんファンは絶対観たほうがいいですよ(笑)。前に「ミツバチ」のライブ映像が出たときは(2012年のライブツアー「坂本真綾 Live Tour 2012 TOUR "ミツバチ"」。参照:坂本真綾の初カウントダウンライブが映像化、6月リリース)、メンバーで集まって鑑賞会をしましたね。あのときは佐野さんは参加できなかったんでしたっけ。打ち上げもできていないし、みんなで集まって観たいなあ。

佐野 いつになったら打ち上げできるんだろうね。1年後、2年後になってもいいから集まりたいな。

千ヶ崎 そうこうしているうちに次の周年が来ちゃいますね。次は……30周年!?

坂本 早いですよねえ、5年刻みって。30周年のときは私が45歳になるから……佐野さんは何歳? でも90歳まで叩いてくれるって約束しましたよね(笑)。

佐野 90歳までドラムは叩くけど、「マジックナンバー」は80歳までじゃないかな(笑)。

左から佐野康夫、坂本真綾、千ヶ崎学。

──では最後に、お二人から坂本さんにひと言ずついただけますか?

坂本 最後に褒めさせて終わるみたいでイヤだな(笑)。戒めでもいいですよ。

佐野 5年後と言わず毎年でも、ライブをやるのは楽しいのでいつでも呼んでください。節目としては5年後になるかもしれないけど、10周年、15周年、20周年、25周年とやってきて、きっと次も同じ感じだと思うんですよね、いい意味で。同じように、たくましい真綾ちゃんを見て節目を迎えるという。そういうイメージしか湧かないですよね。さっき喉の調子が悪かったなんて言ってたけど、全然そんな感じはなかったよ。

坂本 リハのときはみんな不安になるくらいでしたよ。佐野さん、歌を聴いてないんじゃないですか?(笑)

佐野 いやいや(笑)。本番のときなんてむしろ「これからもついていきます!」というくらい頼もしかったし、それは毎回そうだよ。うん、やりましょう。これからも。

──では千ヶ崎さん。

千ヶ崎 あ、25周年おめでとうございます。

坂本 なんで今(笑)。

千ヶ崎 ちゃんと言ってなかった気がして(笑)。いやホント、体調には気をつけて。おばあちゃんになっても後ろでベースを弾いていたいので。

坂本 おじいちゃんとして(笑)。そんなにできますかねえ。

千ヶ崎 できますよ。

佐野 俺はやるよ?

坂本 あはは(笑)。私は40を過ぎて体力の低下を思い知る日々なので、体と精神が噛み合わないことが出てきたとき、いつまで続けられるのかなと弱気になるけど、こうして先輩方が生き生き元気に楽しんでいるのを見ると、そんなこと言ってちゃいけないなって思いますね。

左から佐野康夫、坂本真綾、千ヶ崎学。
坂本真綾(サカモトマアヤ)
坂本真綾
1980年生まれ、東京都出身。幼少期より劇団で活動し、自身が主人公の声を担当した1996年放送のテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビュー。以降コンスタントに作品を発表する傍ら、声優、俳優、作詞家、ラジオパーソナリティとしても活動している。2019年11月に10thオリジナルアルバム「今日だけの音楽」を発表。2020年にデビュー25周年を迎え、同年7月に「シングルコレクション+ アチコチ」、12月にシングル「独白↔躍動」をリリースした。2021年3月には全曲デュエットのコンセプトアルバム「Duets」を発表し、神奈川・横浜アリーナで2DAYSライブ「坂本真綾 25周年記念LIVE」を開催。10月には横浜アリーナ公演を収めたライブBlu-ray / DVD「坂本真綾 25周年記念LIVE『約束はいらない』 at 横浜アリーナ」が発売された。11月には自身が作詞した作品130編を書き下ろしエッセイとともに収載した歌詞集「刺繍」が発売予定。
佐野康夫(サノヤスオ)
1965年4月30日生まれ、福岡県出身のドラマー。大学在学中より古澤良治郎に師事し、ミュージシャンとしての活動をスタートさせる。1980年代には菅野よう子が在籍したバンド・てつ100%に所属。1989年よりスタジオミュージシャンとしての活動を本格化させ、ORIGINAL LOVE、MONDO GROSSO、YUKI、the brilliant greenなど多彩なアーティストのライブやレコーディング作品に参加している。
千ヶ崎学(チガサキマナブ)
1971年4月25日生まれ、神奈川県出身のベーシスト。坂本真綾、NONA REEVES、土岐麻子、松浦亜弥、山下久美子、堂珍嘉邦、大澤誉志幸ほかさまざまなアーティストのサポートを務め、2013~2020年にはKIRINJIのメンバーとして活躍した。