坂本真綾×堂島孝平×土岐麻子|ないものねだりな3人の「Duets」クロストーク

ボーカリスト原昌和の発掘、
内村友美との「女の子たちがんばれソング」

──過去に何度か共演しているthe band apartの参加こそ自然な流れですけど、ベーシストの原昌和さんがデュエット相手に抜擢されるというのは完全に予想外でした。最初に話を聞いたときは思わず笑っちゃいましたけど……マジでいいボーカリストを発掘しましたね。

いいでしょ? 歌声も素晴らしいし、この曲すごくカッコいいんですよ。「デュエット曲を書いて」とお願いして、普通こんな曲上がってこないですよね(笑)。バンアパを聴いていて、荒井(岳史)さんのボーカルが素敵なことはご存知ですけど、不意に耳に入ってくるコーラスが気になることがたびたびあったんです。ライブを観てみたら原さんが歌っていて、しゃべり声と全然違うから意外だったんですよね。すごく優しいソフトな声で、コーラスをやってるくらいだから歌うのも好きなんじゃないかと思って誘ってみたところ、笑ってましたけど(笑)「やれと言われたらやります」と言ってくれて。

──原さん、元をたどればただの坂本真綾ファンですからね(参照:坂本真綾「SAVED. / Be mine!」特集)。いちファンだった人が楽曲提供のみならず……。

デュエットなんてしちゃって(笑)。最初は自分で作詞するつもりだったんですけど、曲が独特のメロディラインなので難しくて。しかもこの曲には言いたいことが骨太にしっかりあったほうがいいと思ったので、歌詞は岩里(祐穂)さんにお願いしました。そもそも「プラチナ」(岩里祐穂が作詞を手がけた1999年10月発売のシングル曲)をきっかけに私の音楽を聴き始めた原さんと縁がないわけではないし、結果すごくよかったと思います。今度の横アリは原さんにもゲスト出演をお願いしているので、原さんがベースを持たずにマイク1本で歌う姿を想像すると今から楽しみですね(笑)。

──la la larksの内村友美さんと歌う「sync」は作曲が同じくla la larksの江口亮さんで、作詞はお二人の共作ですね。

友美ちゃんは公私共に仲のいいボーカリストで、デュエット相手として真っ先に浮かんだ1人ですね。これまでla la larksと一緒に作った曲はアニメの主題歌ということもあって、ソリッドで激しめな難しい曲が多かったので、もっとガーリーでポジティブな曲を一緒にやってみたかったんです。もしかしたらla la larksのファンからすると、こういう曲を歌う友美ちゃんはすごく新鮮かもしれない。でも普段私が付き合っている友美ちゃんは女子力高めでかわいい人なんですよ。私が思う友美ちゃんは、むしろこっち。

──歌詞の共作はどういう配分なんですか?

普段から、友美ちゃんとごはんを食べていたりすると作詞の話をよくするんです。そんな中で「一緒に作詞をしたら面白いかもね」って話は出ていたんですけど、じゃあ実際に共作してみようとなったときに、2人とも共作ってどうやったらいいのか全然わかんなくて(笑)。2人で探りながら話していく中で、戦っている人が共鳴できる「女の子たちがんばれソング」を作れたらいいなと思ったんです。で、「書いてみました。どうでしょう?」「うーん、ここはこうしたほうがいい」とすべてをLINE上でやりとりして完成させました(笑)。

──LINEによるラリーの応酬で歌詞を。

そうなんです。私が突然「この間奏部分にラップを入れたい」と言い出したことがあって。嫌だったら断られるだろうと思ったんですけど「わかりました。どんなのがいいでしょう?」と返ってきたんです。私そのときNiziUにハマりすぎてて(笑)、リマちゃんのラップがカッコよすぎて「がんばれ女の子と言えばNiziUでしょ!」とラップを思い付いたんだけど、あとで冷静になって「ごめん友美ちゃん、ラップのことは忘れて」と却下しました(笑)。「こうしたい」と伝えたときに返ってくる球が、私からは絶対に出てこない意外な角度だったりして。でも、お互いあまり多くを説明しなくても、どこを変えればどうなるかがわかるから話が早くて、作詞をしている人同士ならではのやりとりが面白かったです。

ミュージカルのパートナー・井上芳雄とのデュエットを作曲

──井上芳雄さんとのデュエット「星と星のあいだ」は作詞のみならず作曲も坂本さんご自身ですね。男女のデュエット曲の作曲はキーの違う2つの声で主旋律を構成しなくてはいけないし、相当ハイレベルだと思うのですが。

作曲は今まで自分が歌うための曲だけしかやったことがなかったので、誰かが歌う前提で曲を書くこと自体が初めてだったんです。それが男性となるとなおさら難しくて、例えばキー設定1つにしても今までとは違う感覚で作らなくちゃいけない。今回、芳雄さんをパートナーにお呼びするとなったときに、誰に曲を書いてもらうか考えたけど……ずっとミュージカルの相手役として共演してきた芳雄さんのいいところは私自身がよく知っているし、芳雄さんとデュエットするならこういう曲を書いてほしいという説明を誰かにするのは難しいなと思ったんです。それで自分で書くと言っちゃったけど、デュエット曲を書くのは本当に難しくて。自分のことはさておき、ただ芳雄さんの声が魅力的に響くことを考えて作りました。作ってはみたものの、男性に歌ってもらわないとイメージができなかったので……佐々木社長に仮歌をお願いしたんです(笑)。

──まさかの仮歌シンガーとしての起用を(笑)。

坂本真綾

ちょっと歌ってもらって、キーを半音変えたり、ハモりのフレーズを変えたり、社長をテストに使いました(笑)。実は歌がうまいんですよ、佐々木さん。その甲斐あって、ミュージカルとまでは言わないけど、劇中のワンシーンみたいな曲ができたかなと思います。

──ミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ」で長年共演してきた井上さんと、アーティストとして自身の曲でぶつかり合うのはどんなお気持ちでしたか?

まずひと声聴いて「ああ、芳雄さんの声にぴったりな曲ができた」とホッとしました。何かの役を演じている芳雄さんとはまた違う、素の井上芳雄さんの歌という感じがして。役を演じていない芳雄さんの透明な、ニュートラルな歌い方で、すっと言葉が入ってくる。レコーディングは私があとだったので、芳雄さんの歌を聴きながら歌ったんですけど、すっと寄り添えるというか、引っ張ってもらえる感じがありましたね。

25年目の「約束はいらない」

──3月20、21日の横浜アリーナ公演「坂本真綾 25周年記念LIVE『約束はいらない』」は、まずタイトルが発表されたときのファンの反響がすごかったですね。タイトルだけですでに泣いたという方も多くて。

よかった! 大成功だね。これはマネージャーが考えてくれたんです。「そろそろタイトル考えなきゃなー、めんどくさいなー」とか思っていて(笑)、もう「25周年記念LIVE」でいいんじゃない?と思っていたんですけど、マネージャーがいろいろ考えてくれた中の1つがこの「約束はいらない」で「これだ!」って。

──デビュー曲のタイトルですね。ここで原点に立ち返るような。

ありがたいことに、曲もタイトルも25年経ってもまったく色褪せないというか、遠い昔の出来事を掘り返しているという感覚はないんですよね。ずっとそばにあって。でも25周年という感慨深さもあるし、いろんな意味合いに取れるというか。このご時世で、どうしても行きたいけど行けない人もきっといる。そんな中で、この2日間限りの特別なライブにはなるけれども、また会えるときまでの余白も残してくれるようなタイトルになっていて、すごくいいと思います。これだけボーカリストをたくさんゲストに迎えるライブは初めてなので、失礼のないように……たくさん差し入れのお菓子を用意しておくといいんですかね(笑)。ライブに参加することがひさしぶりというお客さんもいるでしょうし、できるだけ安心して楽しんでもらえたらと。そして私も、とにかく2日間を楽しもうと思います。

公演情報

坂本真綾 25周年記念LIVE「約束はいらない」
  • 2021年3月20日(土・祝)神奈川県 横浜アリーナOPEN 16:30 / START 18:00<出演者>
    坂本真綾
    バンドメンバー:北川勝利(G) / 佐野康夫(Dr) / 千ヶ崎学(B) / 奥田健介(G) / 扇谷研人(Key) / 毛利泰士(Per、Manipulator) / 稲泉りん(Cho) / 高橋あず美(Cho)
    ゲスト:内村友美(la la larks) / 堂島孝平 / 原昌和(the band apart)
  • 2021年3月21日(日)神奈川県 横浜アリーナOPEN 15:30 / START 17:00<出演者>
    坂本真綾
    バンドメンバー:北川勝利(G) / 佐野康夫(Dr) / 千ヶ崎学(B) / 奥田健介(G) / 扇谷研人(Key) / 毛利泰士(Per、Manipulator) / 稲泉りん(Cho) / 高橋あず美(Cho)
    ゲスト:内村友美(la la larks) / 堂島孝平 / 土岐麻子
坂本真綾