夏フェスでの“つぶやき”がきっかけで

──坂本さんとthe band apartのコラボが発表されたときは、ナタリーでも読者からものすごい反響があったんですよ（参照：坂本真綾×バンアパ、新作アニメOPテーマで初タッグ）。どういった経緯でこの組み合わせが実現したのか、詳しく教えてもらえますか？

坂本真綾　去年の夏、私は初めて夏フェスに出たんです。the band apartさんはたまたま同じ日に出演されていたんですけど、その日は特になんのコンタクトもしていなくて。後日知人に「バンアパの原さんって人がTwitterで真綾ってつぶやいてたよ」って聞いて（笑）、なんだろうと思ったら原さんはもともと私の音楽を聴いてくださっていて、「どの曲をやったんだろう」ってつぶやいてくださってたんですね。すれ違ったのなら話しかけてくれたらよかったのにと思いながら（笑）。

原昌和　いやいや（笑）。

坂本　バンアパさんのことは知っていたけど、私の音楽を知ってくれている人がどんな音楽をやってるんだろうって改めて興味を持ってCDを聴かせていただいたんです。その頃はちょうど「世界征服～謀略のズヴィズダー～」のテーマソングのお話をいただいて、どんな曲が欲しいかいろいろ考えていた時期で……これは電撃的な出会いなんじゃないかって。イメージにぴったりだったんですよ。それで、なんの面識もないまま声をかけてみたんです。今まで楽曲提供はされていないと聞きましたし、ちょうどツアー中だから難しいんじゃないかなと思いながらも。

──バンアパ、というか原さんにとっては完全に寝耳に水のオファーで。

原　まあ、そうですよね。

──原さんはもともとアニメにも詳しいんですよね。坂本さんの音楽にもそこから？

原　いや、俺はずっと子供の頃からアニメを観てこなかったんです。でも数年前にふと、歳を取ると興味の方向が一点に集中して閉じていくから、自分になかった反対側のものを観ようと思って手を出してみたら……たぶん俺の形がこう、今までアニメの部分に沿って削げてたんでしょうね。削げてた部分にパチッとハマった感覚があって。

──あはははは（笑）。なんかわかります。

原　これは面白いなと。でも坂本さんの音楽はそれよりも前に、いとこが教えてくれて知ってたんですよ。うわあ素晴らしい音楽だなと思って、単純にファンだったんです。

──そんな2人が夏フェスをきっかけにクロスしたと。そもそも坂本さんが「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」に出るというのも大きなニュースになりましたが、何か心境の変化があったんですか？

坂本　変化は何もなくて「出ませんか？」「出る出る！」ってだけなんです。私が「出させろー！」って言ったわけじゃないですよ（笑）。でも、ずっと出たいと思っていたので、すごくうれしかったですね。

──去年、1枚まるまる自身で作詞・作曲したアルバム「シンガーソングライター」を作り上げたことで、音楽に向き合う姿勢にも少し変化があったのかな、と感じていたんです。フェスに出ることやバンアパとのコラボも驚きつつも、あのアルバムを経た流れとしてはむしろ自然だなと。

坂本　去年は「シンガーソングライター」を出したあとに、憧れていた大貫妙子さんとのコラボレーション（2013年7月発売のシングル「はじまりの海」）も体験して、いろいろ再確認できるいい機会になったというか。私にしか作れない私の世界もあるし、自分にないものを人に引き出してもらえる部分も並行してずっと持ちながら、かたよらずにやってきたいなと再確認しましたし、どんな形であっても大丈夫、私のものになると自信を持って言えるようになりました。だから今回バンアパさんに頼むときもヘンな不安はまったくなくて、ひたすら楽しかったんですよ。

原　ああ、素晴らしいことですよね。

天を仰ぎましたね

坂本　バンアパさんからデモが上がってくるのを待っている間もすごく楽しみで。ツアーの移動中にフェリーの上で作ったんでしたっけ？（笑）

原　フェリーで揺れながら歌を録って、どういう酔っぱらい方なんだろうかと。

──もともとファンだった坂本さんからオファーが来たとき、原さんとしてはどんな心境でしたか？

原　友人と一緒に近くの喫茶店で優雅な1杯を楽しんでたんですよ。そしたらスタッフから電話がかかってきて「大変です！」って。「坂本真綾さんから楽曲提供のオファーがありました」って言われて……ワーイ！ってなればいいじゃないですか。俺はなんか深刻に受け止めちゃって。横の友人には何も言わずに、ただ天を仰ぎましたね。

坂本　あはははは（笑）。

原　「……ああああああっ！」って。俺たちはいつも自分らだけで時間かけて音楽作ってるから、期限のこととかも心配だったけど、それ以上に、これだけいっぱいインスピレーションをもらっている人に恥をかかせるわけにはいかないぞと。決意が必要でしたね。

木暮栄一　すごかったですよ。俺らは4人とも曲を作るんですけど、期日を決めて曲を集めるといつもこいつが一番遅いんですよ。ねばってねばって、がんばって作ってるから遅いんですけど、今回は今までになく集中力がすごくて（笑）。

原　自分のことじゃないからさ。好きな世界を持った人に恥をかかせたくないという思いがあるから。

木暮　愛情が深いからこそ、フェリーの上で揺れながらでも曲が作れるんだ（笑）。

原　自分のことならフェリーではやんないよ。フェリーで和室を1つ借りるってすごいもんね。精神と時の部屋みたいな和室があって。