lynch.結成20周年|入手困難インディーズ作の再録アルバムでアップデートされた初期衝動 (2/2)

あの頃にしかできない表現もあった

──DISC 1「GREEDY DEAD SOULS」、DISC 2「UNDERNEATH THE SKIN」に関しては悠介さんの加入前に制作された楽曲ですね。

悠介 でも、曲によっては3回目の再録だったりするんですよ。

悠介(G)

悠介(G)

──そうか、初期曲の再録アルバム「THE BURIED」(2007年11月発売)やベストアルバム「10th ANNIVERSARY 2004-2014 THE BEST」(2015年3月発売)もありましたからね。

悠介 そうなんです。でも「greedy dead souls」や「underneath the skin」という作品単体として考えると僕や明徳の音が入っていないわけなので、そこに関して思い残すことがなくなったのは、一番うれしかったことですね。ギターに関してはなるべくオリジナルの音源からかけ離れることがないように意識しましたけど、これまでライブで何度も演奏してきたものを下地にしつつも、今の自分の音を反映させたりもして。曲によっては3回目(のレコーディング)だったりもするので、ちょっとした遊びも入れていたりします。

──明徳さんは今作の多くの楽曲が初レコーディングになったわけですよね。

明徳 そうですね。しかもこの頃のlynch.って僕の世代だったらみんな聴いていて、バンドを始めるとバンド仲間や先輩から「これは聴いておいたほうがいい」と絶対に勧められるような存在だったんですよ。そうやってリスナーとして触れてきた作品に、こうして自分が携わることができるのは素直にうれしかったです。ただ、オリジナルのよさというか、絶対に超えられない壁があることも重々理解しているので、そこは自分なりのリスペクトを込めて「絶対にいい作品にしたい」という気持ちでレコーディングに臨みました。

明徳(B)

明徳(B)

──例えば、DISC 1「GREEDY DEAD SOULS」の冒頭3曲「VERNIE」「QUARTER LIFE」「矛盾と空」はそれぞれカラーが違っているけど、確実に今のlynch.の骨格になっていますよね。

葉月 しかも、すごくシンプルなアレンジですし。今だったらもうちょっと装飾を施すところもありますけども、当時はシンプルにやりたい音楽を、何も考えずにやっている感じ。でも、最近だと歌詞はもちろんですけど、ビデオとかアートワークとか写真とか、ステージで演奏している姿とかトータルで考えて作ることが多いので、あの頃の楽曲にはそういうのも考えてないがゆえの勢いをすごく感じますね。

──「GREEDY DEAD SOULS」はニューメタルなどのヘビーミュージックやヴィジュアル系以降のJ-ROCKなど、当時好きだったロックを素直に表現して詰め込んだ?

葉月 初めてのフルアルバムなのでいろんなバリエーションを用意して、それぞれに役割を与えてという感じだったと思うんですけど、これが当時の自分の中の幅のすべてといいますか。ニューメタルと90年代のヴィジュアルロックが軸だったのは間違いないです。

晁直(Dr)

晁直(Dr)

「実はこれ、厳密には純粋な新曲じゃないんです」

──そんなリテイク楽曲の中に、新曲「GOD ONLY KNOWS」も収録されています。この曲は初期曲のリテイク作品の中に収録されることを意識して作ったものなのか、それとも昨年のEP「FIERCE-EP」からの流れを汲んだものなんでしょうか?

葉月 実はこれ、厳密には純粋な新曲じゃないんです。2008年のツアーで、当時の新曲としてやっていたんですけど、結局ボツになってしまって。でも、のちに聴き返したときに「これ、構成し直したらアリだな」とは思っていたんです。で、今回新曲を1曲入れましょうという話になったときに、この曲の存在を思い出して。当時のデモを改めて聴くと構成が退屈だったので、その時の曲をベースに新たに書き下ろしました。リリースに先駆けて公開されたMVでファンのみんなが聴くことになったのですが、「あのときの曲だ」ってわかる人はわかったんじゃないかな。

葉月(Vo)

葉月(Vo)

悠介 僕はどんな曲だったか、最初はまったく記憶になくて(笑)。新しいデモを聴いて「ああ、あったね」と思い出したくらいなので、今回はまっさらな状態でレコーディングに臨みました。

──リテイクアルバムならではの新曲とも言えますね。アレンジだったり演奏のちょっとしたフレーズだったり、そういうところに今のlynch.を強く感じるものの、楽曲のテイストとしてはほかの初期曲にも馴染んでいる。不思議なバランス感の曲だなと思ったので、どういう意図で制作したものなのかが気になっていたんです。歌詞も新たに書き下ろしたものなんでしょうか?

葉月 そうです。当時は歌詞なしでライブをやっていたので(笑)、改めて書いたんですけど……大変でした。

──2012年に葉月さんにインタビューしたとき(参照:lynch.「LIGHTNING」インタビュー)、歌詞に対しての意識が変わったとおっしゃっていましたが、そこから10数年を経た現在でそのあたりの心境がまた変化しているのかなと思います。

葉月 どんどん歌詞が長くなってますよね(笑)。でも、例えば前半と後半とで歌詞がちょっと違うことによって、曲に奥行きや広がりが出るじゃないですか。そういうよさをどんどん知ってしまったから、それをしないと手抜きみたいになっちゃうので、もうやるしかなくて(笑)。なので、最近は作詞に時間がかかってます。

──「GOD ONLY KNOWS」はMVも制作されています。

玲央 監督とは「前回のMV(『EXCENTRIC』)は明るいところで撮ったけど、今回は20周年だし、よりlynch.らしく神秘的な映像にしたいなと考えていたんだよ。大丈夫だよね?」っていうやりとりがあったぐらいで、あとは監督はじめ映像スタッフに完全にお任せで。一緒に作っているという感覚が強いからこそお任せできるのもあるし、実際に上がってきた映像は非常にlynch.らしい作品になっていました。

葉月 絵コンテを見た時点で「いいな」と思ったし、仕上がった映像を観てもスピード感があって黒くてハードみたいな、「そうそう、lynch.ってこうだよね」と思うような条件がそろってました。お客さんが参加できるかけ声パートもあるので、ライブでの披露も楽しみにしてほしいですね。

古参ファンも唸るであろう会場を回るツアー

──4月18日からは、新たなツアー「[XX] act:5 TOUR'25『UNDERNEATH THE GREED』」も始まりました。会場選びにもこだわりがあるように感じられますが。

玲央 ライブ制作チームには「インディーズ時代にライブをやっていた会場を優先してピックアップしてほしい」とお願いして、調整してもらいました。ひさしぶりに行く場所もいくつかあるので自分自身も楽しみですし、皆さんも楽しみにしていただければなと思います。

葉月 中でも岡山IMAGEは特別小さい会場ですし、そういう規模感もインディーズ時代と近いものがあるんじゃないかな。

玲央 それこそ4月20日のHEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1は、lynch.が初めて埼玉でライブをやった会場なんですよ。当時は今とは違ってVOGUEって名前でしたけど、そういう会場選びの1つひとつに理由があったりするんです。葉月が喉を痛めて一時離脱して、復帰したのが岡山のIMAGEだったとか。

玲央(G)

玲央(G)

──なるほど。古くからのファンにとっては感慨深いツアーになりそうですね。昨年12月末に発表された「lynch. 20th ANNIVERSARY PROJECT」ですが、“act:5”と銘打った4月からのツアー以降もいろいろ予定されているのでしょうか?

葉月 そうですね。まだ言えないことも多いんですけど、1年かけてワクワクさせることが続きますので、引き続きご注目ください。

玲央 lynch.という名前は知ってるけどまだ触れたことがないという方にとっても、これまでの活動を凝縮したようなプロジェクトになっているので、これを機に深く知ってもらえたらうれしいです。今からでも遅くないので、ぜひチェックしてみてください。

公演情報

TOUR'25-UNDERNEATH THE GREED-

  • 2025年4月18日(金)神奈川県 新横浜 NEW SIDE BEACH!!
  • 2025年4月20日(日)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
  • 2025年4月24日(木)大阪府 Yogibo META VALLEY
  • 2025年4月26日(土)和歌山県 SHELTER
  • 2025年4月29日(火・祝)岐阜県 岐阜club-G
  • 2025年5月15日(木)北海道 BESSIE HALL
  • 2025年5月16日(金)北海道 BESSIE HALL
  • 2025年5月18日(日)青森県 青森Quarter
  • 2025年5月20日(火)宮城県 darwin
  • 2025年5月30日(金)福岡県 DRUM Be-1
  • 2025年5月31日(土)熊本県 熊本B.9 V1
  • 2025年6月5日(木)愛知県 ElectricLadyLand
  • 2025年6月7日(土)高知県 X-pt.
  • 2025年6月8日(日)岡山県 IMAGE
  • 2025年6月13日(金)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
  • 2025年6月15日(日)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
  • 2025年6月20日(金)東京都 Spotify O-EAST

プロフィール

lynch.(リンチ)

愛知・名古屋出身のロックバンド。2004年8月に葉月(Vo)、玲央(G)、晁直(Dr)の3人にサポートベーシストの4人を加えた形で始動した。2006年に悠介(G)が、2010年に明徳(B)が加入。2011年6月、アルバム「I BELIEVE IN ME」でメジャーデビューを果たし、徐々にライブ会場の規模を拡大させる。2020年3月にアルバム「ULTIMA」を発表。2021年2月に初の東京・日本武道館公演を予定していたが、コロナ禍の影響で中止に。同年12月に一時活動を休止するも2022年9月に活動を再開し、11月に日本武道館公演を行い、リベンジを果たした。コンスタントにリリースやツアーを重ね、2025年4月に結成20周年を記念したリテイクアルバム「GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN」を発表した。同月よりワンマンツアー「UNDERNEATH THE GREED」を開催。