lynch.「FIERCE-EP」インタビュー|どの時期のlynch.ファンにも刺さる作品がここに完成 (2/3)

ワルくて尖った存在でいたい / ニューメタルの話題から……

──では、EPの1曲目「UN DEUX TROIS」から順に各曲について聞かせてください。もったい付けずにいきなりスタートするこのオープニングチューンは、まさに“始まりの曲”という印象ですが、どういった発想から生まれたものなんでしょうか?

葉月 実はこの曲、最後に僕が持ってきたものなんです。ほかの曲が出そろって、僕があと1曲持って行かないといけないなという段階でどうしようかなと考えた結果、最も王道っぽいものを作ろうと思ったんです。「Adore」(2008年4月発表のシングル)とか「ALLIVE」(2020年12月発表の配信シングル)とかああいう主人公めいた感じの曲ではなく、もうちょっとワルい感じの王道で行きたいな、と。「Adore」とかの場合、正義のヒーローみたいな感じじゃないですか。それとは逆の悪者のほうで。

玲央 いわゆるヒールのほうですね。

玲央(G)

玲央(G)

──つまりキカイダーではなくハカイダーですね。例えが古くてすみません。

玲央 僕、わかっちゃいましたけど(笑)。

葉月 仮面ライダーで言えばショッカー側ですよね(笑)。

──ダークヒーロー的な願望も潜在的にあったのかな、と思える部分があります。2曲目の「EXCENTRIC」の歌詞にはVILLAIN(ヴィラン)という言葉が出てきますけど、これはまさに悪者、悪役という意味ですし。

葉月 そうです。僕、この言葉をホントに最近まで知らずにいて、「そんな意味があるんだ」と思ったんですよね。今まで自分たちについてEVILとかDARKとかいろんな言葉で表現してきましたけど、「まさにこれだよな」と(笑)。要するに、けっこうワルくて尖ってる存在になりたいというか、そういう像であるべきだな、と改めて感じたんです。

──その「EXCENTRIC」は、「UN DEUX TROIS」よりも前にできていたわけですね。こちらも葉月さんの作詞・作曲によるものです。

葉月 この曲の場合、それこそテーマがニューメタルでした。僕の言うニューメタルって、AKがさっき挙げたバンドとはちょっと違うんですけど。Linkin ParkもKornもSlipknotも好きは好きなんですけど、ちょっとスター過ぎるというか、僕にとってニューメタルといえばMudvayneとか、もうちょっと……。

明徳(B)

明徳(B)

──それこそダークでアンダーグラウンドな匂いが伴っている感じですか? 例えばStatic-Xとか?

葉月 ああ、いいですね。まさにあのへんの人たちのイメージです。lynch.はもともと、そういう色をすごく大事にしてたというか、そういうところに影響を受けてきたという自覚があって。ギターソロとかも必要最小限で、パンクのノリでヘビーなリフを突き付けるというところを大事にしてたんです。それに対してこの「EXCENTRIC」にはちょっとラップメタルっぽいノリ、Rage Against The Machine的なところもあって。そういうことは過去にやったことがなかったんですよね。それは単純に、当時の僕がそういうスタイルをあんまり好んでなかったからかもしれないし、僕自身がラップをやろうと思ったことがないからでもあるんだろうけど。あと、ニューメタルというよりはミクスチャーなのかもしれないです。僕が言ってるのは。

悠介 僕もその種の音楽はひと通り聴いてましたし、嫌いではないですけど、熱心に聴き込んできたというわけじゃなかったですね。ただ、時代的に避けて通れなかったというか、こちらから聴こうとしなくてもそういう音楽が流れてるという時期はありましたし。

玲央 僕の場合は、のちにミクスチャーと呼ばれるようになるものがクロスオーバーと言われてた時代によく聴いてたんです。それこそAlice In ChainsとかFaith No More、Living Colourといったあたりを。

──グランジ、オルタナティブ、クロスオーバー、ミクスチャー、ニューメタル、モダン・ヘヴィネス……などなど、音楽的な傾向にもそれぞれ微妙に違いはあるものの、各々の時代にとってのメインストリームではないヘヴィロックというか。そのあたりが1つの共通言語になっているところもあるわけですね。晁直さんはどうです?

晁直 そういうのが時代的にストライクだったし、今でもStatic-Xとかは好きですね。ただ、年代によってはそれをまとめてラウドロックと呼んだりもするだろうし、ジャンルを指す言葉だけが違うみたいなところもある。そんな中でもやっぱり90年代後半とか2000年代前半にニューメタルと言われてたものは、今聴いても気持ちいいなと思うし。

晁直(Dr)

晁直(Dr)

──90年代末期から2000年代のヴィジュアル系と、当時のニューメタルとの因果関係にも興味深いものがあるように思います。共通項もけっこう多い気がしますし。

玲央 確かに。そういえば今、思い出したんですけど、lynch.結成当初って、ラップ的なことをやってる共演相手がやたらと多かったんですよ。当時、ライブ会場の楽屋のモニターで対バンのライブの様子が流れてる中で、葉月がぼそっと「絶対あれ(ラップ)はやりたくない」と言ってたのを聞いた覚えがあります。自分が目指してるのはアレじゃない、ということを。今の話の中で、それをふと思い出しました。時代的にそういう傾向のバンドがめちゃくちゃ多かったんですよ。けっこうな割合で曲のBメロのところでラップ調になっていましたね(笑)。

葉月 僕はその発言、あいにく記憶にないです(笑)。でも、ミクスチャーって要するにメタルとヒップホップの合体だったじゃないですか。そのヒップホップの部分があんまり好きじゃなかったのは確かです。Linkin Parkは好きですけど、そっち側の要素が強すぎるのは違うかな、と。ちょっと空気が乾き過ぎてるというか、アメリカン過ぎるというか。僕としてはもう少し湿り気が欲しくなるんですよね。

──とはいえヒップホップ、ラップにも悪者文化的なところがあるわけですが。

葉月 そうですよね、ギャング方面というか。ワルさの種類が違うんじゃないですかね。なんかそっちのほうにはあんまり憧れたことがなくて。

玲央 ラッパーのほうは陽気な悪者という感じじゃないですかね、どちらかというと。多分、僕らの場合はもうちょっと陰のあるほうに惹かれてたということでしょうね。

偉大なるバンドへのリスペクトも込めて

──話を戻しますが、3曲目に収録されている「斑」の作曲クレジットは明徳さんと葉月さんの連名になっています。先ほどの話からすると、これは明徳さんが原案を持ち込んで葉月さんが仕上げた、ということなんでしょうか?

明徳 そんな感じです。さっき言ったように、ちょっと昔のlynch.の激しさみたいなものを意識しつつ、あんまり自分ではギターで複雑な表現ができなかったんですけど、元々はRob Zombieをチューニング低めにしたみたいなイメージで作り始めてたんです。そこからちょこちょこ変わっていって、最終的にこうなりました。

葉月 いや、けっこう複雑でしたよ(笑)。だからむしろシンプルにしました。なかなか難しいフレーズだったので、それをもっと簡単にして、曲が始まった瞬間にお客さんがすぐさま乗れるようなところを大事にしようと思って練り上げました。結果、わかりやすい曲になったと思います。

──歌詞については“マダラ”という言葉は最後のほうまで出てきませんが、「ミダラ、フシダラ、ヌラヌラ」といった言葉が韻を踏みながら続々と登場しています。

葉月 実はほかのインタビューで、どうしてこの曲のタイトルが「斑」なのかって聞かれて「わからない」って答えちゃってたんですけど(笑)、これは多分「ミダラ、フシダラ、マダラ」という流れから出てきたんですよ。今、「ああ、そうだった」と思い出しました(笑)。

──マダラ三段活用みたいな(笑)。僕は「きっと仮歌の段階でダラダラみたいな言葉を載せて歌っていて、そこから発展していった歌詞なんだろうな」と想像していました。

葉月 いやいや。そんなことはないです。なにしろ僕、仮歌というのを録らないですしね。いつもデモの歌メロは鍵盤で打ち込んでいくんで。「REBORN」に入ってる「CANDY」とかはそういうのがありましたけどね。

──この曲の作詞クレジットは葉月さんと悠介さんの連名になっています。悠介さんが歌っている箇所がありますが、そこを書いているということでしょうか? BUCK-TICKの楽曲で今井寿さんが部分的にボーカルを務めるケースに近い感じがしましたが。

悠介 まさにそういうリクエストが葉月君からあったんです。

悠介(G)

悠介(G)

葉月 「今井さんみたいな感じでやってくんない?」みたいな。曲の中に楽器隊のメンバーが1人で歌う箇所があるっていうのが、ライブにおいてすごくいい目玉になるというか、いいシーンになるなと思ってお願いしたんです。

悠介 僕としては「望まれれば歌いますよ」という感じで(笑)。ただ、歌詞のキャラクターをどうするかについては最後まで悩んだところがありました。その話をもらった時点では、本筋の歌詞の内容がまだなかったので、その状態のまま自分のパートを作っていいものなのかというのもあったし、テーマが特にあったわけでもなかったので。そこでキャラクターを自分の頭の中で作って、そいつが歌の中で自己紹介してるような感じにしようかな、と考えて。それでまあ、どこか憎めない感じの登場人物が生まれてきたというか。主役級のヴィランというよりは脇役的な感じですね。そこに、ステージに立っている人間としての「できれば死に場所はステージで」という思いを重ねたんです。葉月君からBUCK-TICKというワードが出てきたことで、どうしても櫻井さんのことが頭に浮かんだところもあって……。