今、台湾音楽が面白い!第2回:向井太一×THREE1989対談|台湾R&Bの魅力や現地アーティストとの交流語る

THREE1989とLINIONの出会い

──THREE1989は、9m88のバンドでサポートベーシストとしても活動するシンガー・LINIONと「Horoyoi Karasu」という楽曲でコラボレーションしていますね。彼と共演することになった経緯を教えてください。

Shohey 2019年に台北でライブをやったとき、LINIONが遊びに来たんですよ。「僕、音楽やってるんです」ってカセットテープを渡してきて。ジャケットをパッと見たら、Spotifyでずっと聴いていたアルバムで。

THREE1989。台湾にて。

向井 へー、すごい!

Shohey Shimoが英語を話せるので、訳してもらいながら「このアルバム、むっちゃ好きです!」とかその場で話して。そのあと、こっちから「今度、曲を一緒にやりませんか?」とオファーしたら、「今度日本に行くからそのとき遊ぼうよ」という返事が来て。

──それで実際に遊んだのが2019年の夏?

Shohey そうですね。曲作りの前に仲よくなったほうがいいかなと思って、まずは寿司とビールを買って僕らのスタジオでセッションするところから始めました。

──LINIONとの制作を通して感じたことはありますか?

Shimo 作業が早かったですね。スタジオに遊びに来てすぐに弾いた一発録りのベースをそのまま使ったんですよ。僕のピアノも最初のテイクを使いましたし。

Datch 時間がない分、スピーディに作らなきゃいけないということもありました。

──そういえば、LINIONはアメリカで音楽の勉強をした経験があるようですね。

Shohey そうそう、十代の頃に向こうの音楽学校に通っていたみたいで。だから、レコーディングのやり方もアメリカ的なのかもしれない。

向井 何回もやり直しするのは日本くらいなのかもしれないですね。海外ではデモ段階から本気の人が多い気がする(笑)。

日本と台湾、それぞれの制作エピソード

──今は実際に会わず、データのやり取りだけで制作を進めるケースも多いと思うんですが、2組とも実際に顔を付き合わせて制作したわけですよね。そのことが曲作りに反映されたところもありますか?

Shohey(Vo / THREE1989)

Shohey 僕らの場合は大きかったですね。スタジオの屋上でLINIONと渋谷の街を一緒に見ていたとき、大きなカラスが飛んできたんですよ。「あの鳥、なんて言うの?」とLINIONが聞くので、「カラスだよ。台湾にいないの?」「台湾にはあんまりいないんだよ」という会話をしたんです。僕らも少し酔っぱらっていたので、一緒に作った曲のタイトルを「Horoyoi Karasu」にしました。

──なるほど。データのやり取りだけで作っていたら出てこないタイトルですね。

Shohey そうなんですよ。実際に顔を合わせて作ったからこそできた曲だと思います。

──向井さんは?

向井太一

向井 僕らの曲はTinder(位置情報を使った出会い系サービスを提供するアプリケーションソフトウェア)をテーマにしました。

Shohey Tinderですか!

向井 実際にTinderをやってるわけじゃないんですけど(笑)、遠距離恋愛の曲にしようと話していて。ただのラブソングだとつまらないから、チャット上で生まれる恋愛をテーマにしようということになって。実際に距離のある僕らだからこそできる曲にしようと思ったんですよ。

向井太一、THREE1989がおすすめする台湾音楽

──THREE1989の皆さんはLINIONと出会う前から台湾のR&Bをチェックしていたんですか?

Shohey そうですね。Datchは9m88も聴いていたみたいだし。

Datch(DJ / THREE1989)

Datch LINIONは9m88のバンドでベースを弾いてて、サマソニに出演するということで日本に来ていて。

Shohey 台湾のバンドだと落日飛車も大好きで、来日したときにライブを観に行きました。アジアの音楽はどんどん面白くなってきているし、チェックしようと思って。

──向井さんはアジアのアーティストについては?

向井 意識して聴くようになったのは最近ですね。あまり「アジア音楽」として捉えている感覚がなくて、アメリカや日本と同じ「自分の好きな音楽」として聴いているというか。

Shohey わかります、僕らもそういう感覚ですね。

向井 昔だったら言語が障壁になってとっつきづらいイメージがあったかもしれないけど、そういうところもなくなってきている。あと、自分の場合はやっぱりサブスクが大きいですね。サブスクがあったからこそ、気楽にいろんな国の音楽を楽しめるようになったところはあると思います。

──では、せっかくなので最後におすすめのアーティストを実際に聴いてみましょうか。

Datch 9m88が竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」をカバーしているんですけど、これがすごくいいんですよ。

向井 (日本のテレビ番組を模したMVのオープニングを観ながら)日本のテレビ番組を知ったうえで作ってるわけで、同時代の日本のカルチャーをこうやって取り入れているのが面白いですよね。9m88は僕も好きな曲があるんですよ。「Orientation」という曲。

Shimo オリエンタルな感じでカッコいいですね。弦楽器の感じがサンプリングっぽくて好きです。

Shohey めちゃくちゃカッコいい!

──THREE1989のシングル「紫陽花」にもテイストが近いですよね。エキゾチックな感じというか。

Shohey これまでは歌詞に英語を入れてたんですけど、僕はそれほど英語が得意じゃないので、一旦止めたんです。海外の人にはBGMとして楽しんでもらえたらうれしいし、日本の人には日本語で伝わるものを書きたいなと思って。

Shimo(Key / THREE1989)

Shimo 「紫陽花」ではメロディに都節(※義太夫や長唄に見られる日本の音階の1つ)を使っていて、日本的なよさを意識したんですよ。

Shohey 伝統的な要素と現代的な要素を合体させて世界へ発信していければ、同時代のものを作れるんじゃないかと思っていて。そこは最近意識してますね。

──向井さんは世界に発信するうえで、そういった「日本っぽさ」を意識することはありますか?

向井 僕はあまり意識していないかもしれない。「どういうものを歌いたいか」という最初の動機を重要視している気がしますね。アジアツアーのときには僕が歌っていることを理解するために、一生懸命日本語を勉強してくれた人もいて。音楽が言語を超えるということを何度も実感しましたね。

Shohey それはうれしいですね。

向井 そうなんですよ。初めて行った土地でそんなふうに受け入れてくれるなんて、本当にうれしかった。

Datch 不思議な感覚になりますよね。初めて訪れた場所なのにライブに来てくれる人たちがいて、しかも自分たちのことを知ってくれているわけで。

左から向井太一、THREE1989。

──最後にもう1曲、お気に入りの楽曲を紹介していただけますか?

Shohey 僕は落日飛車推しなんですよ。ヤバいですね、あのバンドは。ライブだとインストの部分も長くて、しかも踊れるんですよね。この曲が大好きで。

向井 カッコいいですね、これは。

Datch この柔らかいテイストが台湾の気候と合うのかもしれないですよね。

向井 確かにそれはありますよね。南国のちょっと生温い感じというか。酔っぱらいながら聴きたい感じ(笑)。

──台湾の伝統的な要素が入っていたりとわかりやすい「台湾ぽさ」があるわけじゃないですけど、この曲には確かに台北の空気感が入ってますよね。

向井 そうですね。ちょっと汗ばむ感じの。

Shohey 台湾のビールが合いそうですよね(笑)。

向井 ああ、台湾に行きたくなってきたな(笑)。


2021年8月13日更新