音楽ナタリー PowerPush - LOVE PSYCHEDELICO

“ノーコンセプト”ベスト2000→2015

それぞれのターニングポイント

──デビューから15年の中で、もし何かターニングポイントがあったとしたら、それはどこになりますか?

KUMI いろいろあったけれど、4枚目のアルバム曲の「Freedom」は1つの節目だったかな。

NAOKI 新しいことをやろうとしてた時期だよね。

KUMI 自分たちの中ではね(笑)。3枚目のアルバムまでで自分たちのやりたいことをやりきった気がしてて、そこで1回区切りがあった感じ。また同じものを作ることはいくらでもできるけど、それだとつまらないなって。それで、それまで自分たちが手に入れたものを1回捨てて、まったくゼロから音の粒と向き合おうみたいな感じで。そのタイミングで作った自分たちのスタジオにこもって「Freedom」が完成して。あれを経たのは大きかったかな。

5thアルバム「ABBOT KINNEY」リリース時のアーティスト写真(2010年発売)。

NAOKI 今まで鳴らしたことない音だけ鳴らしてやろう、イントロで「これ誰?」って言われるくらいのことをしてやろうって言って作ったのに、発売前にいろんなレビューを見たら「帰ってきたデリコサウンド」とか書かれてて(笑)。もうちょっと批判されたかったっていうのはあった(笑)。僕はそれよりももうちょっとあとかな。2008年にアメリカのロサンゼルスに長期間滞在して、2人で向こうのレコード会社の指示でラジオに出たりアコースティックライブをやったりしてた時期があったんだけど、あそこで自分はすごく変われた。裸一貫、ギター1本持って知らない人の前で演奏して、人だかりを作って次の自分たちのライブに来てもらうっていうことを海の向こうで毎日のようにやったっていうのは大きかったな。それまではスタジオがあって、マイクもあって、Pro Toolsもあって、そういうすべてがないと音楽を表現できないと思っていたんだけど、アーティストっていうのはやっぱ演奏だなっていうことに気付けた。その経験が生きて今でも「TWO OF US」っていう2人だけのアコースティックライブをやってるし。

KUMI そこで自分たちのルーツを再確認してきたし、よりルーツが自分の中に根付いたよね。

NAOKI そうそう、ABBOT KINNEYっていう通りの近くで活動していたんだけど、それがあって「ABBOT KINNEY」というアルバムが生まれたんだよね。

純粋に1曲1曲と出会ってほしい

──今回の2枚のベストアルバムでは、単純に時代順に曲を並べるのではなく、それぞれ独立したアルバムのように選曲されていて、曲順もバラバラですよね。その理由は?

4thアルバム「GOLDEN GRAPEFRUIT」リリース時のアーティスト写真(2007年発売)。

NAOKI 時代をバラして並べていって、それでいけるんだったら、そのほうが面白いなって。

──それで「いけてます」よね、本当に(笑)。

KUMI (笑)。時代順もわかりやすいんだけど、それだと「時代順に聴いてます」みたいに、楽しみ方が限定されるから。もっと純粋に、今回の作品の中でリスナーに1曲1曲と新たに出会ってほしかった。

──2枚には、それぞれコンセプトがあるんですか?

NAOKI なるべく、そういうものがないようにしたかったんです。

KUMI もともと1枚にまとめたかったんだけど、さすがに1枚じゃ収まらなくて、それで2枚32曲になったという流れだったから。

NAOKI 発信する側としては、ジョー(・ガストワート)のマスタリングも含め、今のLOVE PSYCHEDELICOの表現として聴いてもらいたいという気持ちがあるんですよ。でも、そういう発信する側のこだわりはこだわりとして、リスナーには気軽に手に取ってもらえるものにしたかった。だから、そのこだわりついて語るのはカッコ悪いとは思ってるんだけど(笑)。

“今の時代の音”を意識した

──驚かされたのは、本当に気持ちよく最初から最後まで聴けることで。もちろん曲によっては懐かしい気持ちになったりもするんですけど、それは受け手の記憶とか思い出の問題で。純粋に作品としては、15年前も最近の曲もそれほど大きなギャップがあるわけではないし、表現としてすり切れてない。これは、ほかの10年以上のキャリアを持つアーティストのベスト盤ではなかなかないことだと思うんですよ。

KUMI それは意図したところでもあるよね?

4thアルバム「GOLDEN GRAPEFRUIT」リリース時のアーティスト写真(2007年発売)。

NAOKI うん。今の時代の中で流れる音というのは、マスタリングの際にも意識したところで。例えば「Freedom」のような曲では、オリジナルにあったデジタルの音はちょっと抑えめにして、ギターの音圧を強めにして、よりストレートなロックンロールのように聞こえるようにしたりとか。「Your Song」はあまりカジュアルな感じにならないように音をずっしりさせてみたりとか、「Last Smile」でもなるべく低音が際立つようにしたりとか。

KUMI そうだね。当時自分たちが本当に意図していたものに近付けるというよりも、今、みんなが聴きやすいものにしたかった。

──その「今」の基準っていうのは、言葉にするとどういうものなんでしょう?

NAOKI フルレンジで聴きたくなるような感じっていうのかな。去年のBeckのアルバム(「Morning Phase」)とか「これホントにCD?」っていうくらいレンジが広い音が鳴っていたけど、あの感じに近いかも。時代的にはハイレゾの普及とかも影響しているんだろうけど、なるべくマスタリングを感じさせない、レコーディングのときの広いレンジの音をそのまま届けるみたいな方向。僕らがデビューした2000年代前半までは1990年代からの流れもあって、打ち込みの音は打ち込みの音らしく鳴ってて、そことアコースティックの生っぽい音を融合させるのが流行りだったんだけど、今はデジタルな音はあまり主張しないほうがいいとか。そうやって時代ごとに音の流行って変化しているんですよね。

──今、新しい作品も準備中だと思うんですけど、では、そういうことも念頭に置いて作っている?

KUMI うん、もちろん。

NAOKI 常に新しい動きはチェックしてるし、ここ数年はそういう方向でのレコーディング方法も採ってきていますね。

ベストアルバム「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I & II」 / 2015年2月18日発売 / Victor Entertainment
ベストアルバム2枚組+ライブ盤CD 「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST SPECIAL BOX」 [CD3枚組] 5400円 / VIZL-795
ベストアルバム「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I」[CD] 2700円 / VICL-64273
ベストアルバム「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST II」[CD] 2700円 / VICL-64274
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I 収録曲
  1. Freedom
  2. Your Song
  3. Beautiful World
  4. Free World
  5. Shining On
  6. It's You
  7. Standing Bird
  8. all over love
  9. This way
  10. Help!
  11. Happy birthday
  12. My last fight
  13. life goes on
  14. Aha!(All We Want)
  15. These days
  16. 裸の王様
LOVE PSYCHEDELICO THE BEST II 収録曲
  1. Everybody needs somebody
  2. LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~
  3. Last Smile
  4. Good times, bad times
  5. Abbot Kinney
  6. Shadow behind
  7. Dry Town ~Theme of Zero~
  8. No Reason
  9. fantastic world
  10. Carnation
  11. I will be with you
  12. I saw you in the rainbow
  13. waltz
  14. Beautiful days
  15. I am waiting for you
  16. Happy Xmas
SPECIAL BOX 内容
  • 「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I」
  • 「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST II」
  • 「LOVE PSYCHEDELICO OFFICIAL GUIDE BOOK」
  • 「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST LIVE SELECTION」
    (「Your Song」「Free World」「Abbot Kinney」「It's Ok, I'm Alright」「No Reason」「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」)
LOVE PSYCHEDELICO(ラブサイケデリコ)

LOVE PSYCHEDELICO

1997年に結成された、KUMI(Vo, G)とNAOKI(G, B, Key)によるロックデュオ。2000年4月にシングル「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」でデビューを果たし、流暢な英語と日本語とが行き交うKUMIのボーカルスタイルや、洋楽を彷彿とさせる楽曲がシーンに衝撃を与える。その魅力は瞬く間にリスナーに広がり、2001年発売の1stアルバム「THE GREATEST HITS」は200万枚を超えるメガヒットを記録する。その後も数々の名曲やヒットアルバムを作り続ける一方で、2004年には初のアジアツアーを開催し、2008年にはアルバム「THIS IS LOVE PSYCHEDELICO」でアメリカデビューを果たすなど海外での活動も展開している。2010年1月に自分たちのルーツをコンセプトにした5thアルバム「ABBOT KINNEY」を発表。それから約3年後の2013年4月に6thアルバム「IN THIS BEAUTIFUL WORLD」を完成させた。2015年2月にデビュー15周年を記念して「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST I」と「LOVE PSYCHEDELICO THE BEST II」というベスト盤2枚を同時リリース。5月から7月にかけてベスト盤を携えての全国ツアーを実施する。