音楽ナタリー Power Push - THEラブ人間

スピードワゴン小沢と語る2年間の結晶

聴く人がいて初めて完成する手料理みたいな音楽

──「メケメケ」はクラウドファンディングで作ったっていうのも1つトピックだと思うんですよ。クラウドファンディングをやる理由って「やりたいことがあるけどお金がない」っていう場合が多いと思うんですけど、今回の場合は「全国のオーディエンスのみんなの体温を感じたい。みんなで作りたい」っていうふうに金田さんは「下北沢にて」(THEラブ人間主催のサーキットイベント)のステージで言っていましたよね。その中での「よりTHEラブ人間らしい音楽を鳴らしたい」という言葉が印象的だったんですけど、ずばりTHEラブ人間らしいってどういうことなんだろうって思いまして。

左から小沢一敬、金田康平、坂本遥。

金田 うーん、たぶんTHEラブ人間の音楽は聴いてくれる人がいないと成立しないんですよ。本来音楽は聴く人がいなくても成立するんですけど、THEラブ人間の音楽に関しては聴く人がいることで、曲が何倍もよくなるっていうのが7年間の活動でわかった。なんていうか、人と人がいてなんぼのロックンロールというか……。言葉にすると難しいな……。

小沢 料理も食べてもらえなきゃ料理じゃないって言ったりするもんね。皿の上に乗ってるだけじゃダメっていう。せっかくならきれいなお皿に乗せたいし、食べてもらいたいじゃん。で、その食べたときの相手の顔を見たいっていうさ。

金田 ああ、そういう感覚かも。THEラブ人間の音楽はそういう手料理みたいなものなのかもしれない。だからクラウドファンディングをやるにふさわしいなって思ったんですよ。

──その結果、目標金額を209%で達成しました。

小沢 へえ。余ったお金どうするの? ハワイロケ?

金田 NO。私利私欲には使わない。

小沢 私利私欲に使ってこそのロックバンドじゃないの?(笑)

金田 あはは(笑)。それやっちゃったら二度とクラウドファンディングできないよ。デザイン、プレス、マスタリング、ミックス、録音……CDを作るにはこういうお金がかかるっていうことを伝えて、それに集まったお金を全部ぶち込みました。目標の2倍の金額が集まったっていうのは、お客さんが僕らに期待を込めてくれてるからだと思ったんですよね。正直クラウドファンディングはやるかやらないか迷ってたんですよ。でも実際のところCDが付いてくるわけだし、新しい物販を出すくらいの感覚でやってみたらいいのかなって思ってやることに決めて。実際やってみたらみんな楽しんでこの企画に乗っかってくれて、よかったなと思いました。

小沢 みんなが期待した通り、もしくはそれ以上のものになったんじゃない? いいアルバムだよね。俺、けっこう聴いてるよ。定価2000円って安すぎない?

左から金田康平、小沢一敬、坂本遥。

金田 最近アルバムの値段が安くなってるんですよ。

小沢 へえ。まあこういう言い方はあれだけどさ、やっぱりロックバンドはこういう感じがいいな。これぐらいの値段で、1曲が3分ないくらい。そういうのが俺の理想。

金田 本当に今回は短いですね。今までこんなに短い曲ばっかりでアルバムを作ったことない。

──「SONGS」(2013年4月発売)は1曲ずつがすごく長かったですよね。

金田 うん。1曲6分とかザラだった。あれに関しては長くなるから削ろうというのを全部抜きにして、長くなってもいいからメッセージを詰め込みたかった。あれでも足りないくらいだった。

──小沢さんは「メケメケ」の中でどの曲が好きですか?

小沢 俺ね、全部好きなんだけど、特に「クリームソーダ」が超好きだよ。すごいいいよ。

坂本 「クリームソーダ」は前作の「恋は全部まぼろし」(2015年9月発売)の制作期間にツアーがかぶっていて、なんかいい曲ないかなって焦ってたときにできた曲なんです。金田くんが神戸のライブハウスの楽屋で突然「クリームソーダ」のサビのメロディを歌い始めて、「めっちゃいいじゃん。誰の曲?」って聞いたら、金田くんが「今思い付いた!」って。そのまま楽屋で音を合わせたらうるさくしちゃって申し訳ないからライブハウスの前に出て、タニさんと僕と金田くんの3人でその場である程度形にして。あの曲ができる過程はすごく運命的だったと思います。

金田 そうだね。

小沢 「クリームソーダ」はMVもいいよね。

金田 うん。出してから4カ月くらい経っちゃうけど、今回のアルバムに入れられたから、ミニアルバムとかシングルじゃ買わないけどフルアルバムだったら買うっていう人がこの曲と出会ってくれたらうれしい。あの曲はよかったね。ひさしぶりに降りてきたというか……。言い方ダサいけど(笑)。

“7年目の本気”に込めた思い

──「メケメケ」には初めてのデュエット曲「こいのおわり duet by 柴田ゆう(sympathy)」や打ち込みの「ハレルヤ track make by まつきあゆむ」も入ってて多彩な印象を受けました。

金田 このデュエット曲、実は「SONGS」に入れるつもりだったんです。でもそのときは入れることができなくて。今回このアルバムにアコギの音が欲しいなと思って入れたんですよ。俺、アルバムを作るときってレコードのトラック数で考えていて、となると5曲目がA面の終わりにあたるんです。それをアコギの音で締めたかった。実は5曲目の「こいのおわり」と6曲目の「ハレルヤ」の間だけ、曲間を長くしたの。ほかの曲は1、2秒で次の曲が始まるんだけど、ここだけ無音が多い。それはA面が終わったら、針を上げてひっくり返して針を落とす時間を考えてるから。で、アコギの音が終わったあとに打ち込みで始まるっていうのもいいなって思ってる。

小沢 5曲目が終わって、6曲が始まるとき、ここから新しい物語が始まる感覚があるよね。

──なるほど。なぜこのアルバムは「メケメケ」というタイトルに?

金田 今まではアルバムのテーマになる言葉をタイトルにしてきたんですけど、今作に関してはこの2年間の総決算だなあと思ってそれをやめたんです。この2年間のことを思い返したら、メジャーの事務所を辞めて、お客さんも減っちゃって。周りからは「THEラブ人間終わったね。時代遅れだね」って声が聞こえてくるし、前まで俺らの曲を聴いてくれてたお客さんが今は別の新人バンドを聴いてるっていうことが耳に入ってくるし。そんな状況の中で俺らはなんでこの2年間、THEラブ人間として音楽をやり続けてきたのかなと思ったら、人に何を言われても自分が面白いことを信じてやって、それでどんな結果が出ようと別にそこには興味がないっていう考えに行き着いたからなんですよ。「メケメケ」っていうのはフランス語で「それがどうした?」っていう意味がある言葉。だからこの2年間の結晶に「メケメケ」っていう言葉ピッタリだなと思って。しゃれてるでしょ?

──はい。親しみやすさのある言葉だなとも思います。

金田 「キラキラ」とか「ドキドキ」みたいな感じもありつつ、ちょっと物々しい雰囲気もあって気に入ってますね。2年間かけてじっくり作ったから、多くの人に本当に届いてほしい。7年目の本気です。

左から金田康平、小沢一敬、坂本遥。
ニューアルバム「メケメケ」 / 2016年2月3日発売 / 2160円 / 喫茶恋愛至上主義 / LOVE-1005
ニューアルバム「メケメケ」
収録曲
  1. コント
  2. クリームソーダ
  3. GOOD BYE CITY
  4. じゅんあい
  5. こいのおわり duet by 柴田ゆう(sympathy)
  6. ハレルヤ track make by まつきあゆむ
  7. 幸せのゴミ箱
  8. 気分を出してもう一度
  9. FUSHIGI DANCE
  10. 花嫁の翼
THEラブ人間 ワンマンツアー
2016年3月4日(金)福岡県 Queblick
2016年3月5日(土)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
2016年3月19日(土)北海道 COLONY
2016年3月25日(金)宮城県 enn 3rd
2016年3月27日(日)愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
2016年4月3日(日)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
THEラブ人間(ラブニンゲン)
THEラブ人間

金田康平(歌手)、谷崎航大(Violin)、さとうまりな(B)、坂本遥(G)、服部ケンジ(Dr)、ツネ・モリサワ(Key)からなる6人組ロックバンド。2009年1月に金田を中心に結成され、同年4月に自主制作音源「恋街のすたるじい」を発売。2011年5月にインディーズ1stシングル「砂男・東京」をリリースし、7月に東京・渋谷CLUB QUATTROにて初ワンマンライブを行った。同年8月にビクターエンタテインメントからミニアルバム「これはもう青春じゃないか」でメジャーデビュー。2012年5月にメジャー1stアルバム「恋に似ている」、2013年4月にメジャー2ndアルバム「SONGS」を発表し、2013年末をもってベーシストのおかもとえみが卒業した。2014年3月にさとうまりなと坂本遥を迎え6名体制に。彼らのお披露目を兼ねた全国ツアーを経て、9月に新体制初のシングル作品「じゅんあい / 幸せのゴミ箱」を自主レーベル「喫茶恋愛至上主義」より発表。2016年2月にクラウドファンディングで資金を集めて完成させたアルバム「メケメケ」をリリース。3月よりワンマンツアーを行い、4月には2度目の渋谷CLUB QUATTRO公演を行う。2010年に始めた下北沢が舞台のサーキットイベント「THEラブ人間決起集会『下北沢にて』」は2015年で第5回を迎え、過去最大規模で大成功に収めた。

小沢一敬(オザワカズヒロ)

1973年10月10日生まれで、出身地は愛知県知多市。1998年12月に井戸田潤とお笑いコンビ・スピードワゴンを結成し、テレビや舞台など多方面で活躍している。2015年に地元・愛知県知多市のふるさと観光大使と「なごやめしPR大使」に就任。著書にTwitterなどでの発言をまとめた「失恋出来るなら恋したってかまわない」がある。スピードワゴンとしては毎月最終月曜日に下北沢にて主催ライブを開催中。