ナタリー PowerPush - LOST IN TIME

“暗くても前向き”な傑作アルバム「ロスト アンド ファウンド」完成

「お前は本当にメンタルハードコアだよね」って言われて(笑)

──でもその暗くて前向きっていうのは、ある意味LOST IN TIMEの王道なのかもしれないですね。

そんな気はしますよね。むやみに明るくする必要はないんです。暗くたって笑うし、暗くたって面白いこと思いつくし。

──このアルバムには「いつまでたっても分かり合えないじゃないか」とか「もう会えなくてもいい このままサヨナラでもいい」のような、あきらめを匂わせる歌詞も少なくないですが、これは文字どおりの意味に受け取ってもいいんでしょうか。

いや、やっぱ常にどっかで天の邪鬼なとこがあって。「会えなくてもいい」ってのは会いたい裏返しだし、「分かり合えない」って思うのはわかり合いたいっていう裏返しだし。わかり合おうよって言うのは簡単だけど、そう考えて、本気でぶつかり合って、なんでこんなにわかり合えねえんだろうって腹が立ってるときのほうが、わかり合いたいっていう欲求は強いんだと思うんです。

──なるほど。

だから喜怒哀楽でいう怒の部分ですよね。でもそれを「腹立ってんすよ!」「憤ってんすよ!」って言い方で言うと、みんな耳ふさいじゃうんだなっていうのはすごくわかるようになった。デモ行進とかでも「ナントカしろー!」ってあんなでっかい声で言われたら聞く気を失くすし、その中の人たちは一生懸命かもしれないけど、結局その声は誰にも届かなくなっちゃう気がして。

──その怒りや苛立ちをどう表わすかっていう部分で、表現者としての姿勢が問われる気がしますね。

うん、そのあたり俺はもともと主流に噛みついてナンボっていうか。最近になって先輩にも言われたんすけど、「お前は本当にメンタルハードコアだよね」って。

──あはははは(笑)。

インタビュー風景

これパンクスの先輩に実際言われたんですよ。「こんなきれいな歌を歌ってんのに、やってることはほんとハードコアだよね」って。でももともと俺がバンドをやり始めたきっかけってそういうところにあるし、そのスタンスはやっぱ俺はなくしてないと思ってる。俗に言う“主流”ってものに俺はなり得ないのか、なりたくないのかわかんないけれど、そういうところからこぼれ落ちちゃったり疎外感を感じてる人こそ、俺は手を差し伸べたいし。ただ、そういうことを声を大にして言うつもりはないんですよね。そしたらみんな耳ふさぐから。俺は俺のスタンスで、淡々とやり続けることで示していくっていう、その覚悟はあるつもりです。

──「メンタルハードコア」っていい表現ですけど、性格的にはめんどくさい感じですよね(笑)。

あはは(笑)。だからいよいよ自分のめんどくささに腹が決まったっていうかね。昔からめんどくさかったと思うんですけど、俺は。

──でも下世話なことを言えば、海北くんはいいメロディを書くし、きれいな声で歌えるんだから、もうちょっと当たり障りのないラブソングでも歌っていれば、もっと売れたりチヤホヤされたりしてるかもしれないですよ(笑)。

そうなんですかね(笑)。でもそんなのぜんっぜん面白くないじゃないですか。俺は面白いことがやりたいんですよ、やっぱり。それだけなんです。で、今はそれができそうな形が少しずつできてきてる。だから楽しいんだと思うんですよ。

──確かに。このアルバムにも、当たり障りのない曲はひとつも入ってないですもんね。

思いっきり当たって障ってますから(笑)。でも絶対に、前向きなアルバムだと思ってます。

外殻動物から、ようやく脊椎動物になった

──そしてこのアルバムは、曲が良いのはもちろんなんですが、音のまとまり、バンドとしての一体感もこれまで以上に強いですね。

そこは本当に2人ががんばってくれたのがでかいと思うんですよね。ミッちゃんも源ちゃんもすごくこだわって俺のわがままに付き合ってくれて。ミッちゃんもレコーディング終わるギリギリまでギターリフ悩んでくれたりとか、俺が「これでいこうよ」って口説いてるのに「納得してねえ」って自分の出したいものにすごく向き合ってくれて。源ちゃんも源ちゃんですげえ練習していたし。なんか今までやってきた活動がようやくつながりだした気がするんですよ。俺はアクティブに動いてって、いろんな場所でいろんな人と会って、1人でも歌ってたし、ときに「ブレてんじゃねえの?」って言われるくらいいろんなバンドと対バンした過去もあるし。そこでどこでもできるって自信がついて。自分たちのスタンス、やり方ってものをもう一度取り戻すことができたっていうか。

──1人で歌うことで、かえってバンドのスタンスが明確になった?

俺自身はとにかくバンドがやりたいけど、現実的には三井くんは仙台に住んでるし、他の仕事もある。でも「忙しいからできない」っていうのはもうやめようと思って。だったら今俺らができること何かないかなって思ったときに、俺にとってはそれが弾き語りの一人旅だったんです。決して俺のエゴとかじゃなくて、これは絶対バンドのためになることだから俺はやるって言って。俺自身、どこに軸足を置くかっていうのがようやく定まってきたのかもしれないですね。LOST IN TIMEってずっと名乗り続けてきたことによって結果的に俺がLOST IN TIMEになってきたっていうか。やっぱり俺はバンドがやりたいんですよ。

──それって、海北くんが作ってやり続けているLOST IN TIMEというバンドの存在自体が、海北くんを変えたということですよね。

面白いですよね。ほんとそういうことだと思います。俺どんどんバンドマンになってきてるような気がしますもん。だから今バンドが本当に楽しくて。で、今もまた曲を書いていて、今まで書いたことないような言葉だったり思いだったりにフォーカスを当てることができてきてるし、なんでも歌えるようになってきたなっていう実感があって。なんでも歌えるけど、やっぱ俺はこうだっていうとこは絶対ブレずにいきたいっていうのもあるし。

──なんだか調子よさそうですね。

はい、調子いいです(笑)。

──でも、ここに来るまでだいぶ遠回りしたような気もする。そういう意識はないですか?

あはは、遠回りは、したと思います(笑)。誰よりも遠回りしたと思う。でもその分誰よりもいろんなものを得たし、その自信もあるんです。今やってる弾き語り旅もほんとそんな感じですよ。基本1人で在来線で回ってるから、名古屋まで7時間かかったりとか。

──すごい(笑)。

で、その7時間分はなんだろうって考えると結構面白いんですよね。乗ってるお客さんのしゃべる言葉がだんだん変わってきて関西弁に近づいていったりとか、謎の老夫婦に声かけられて仲良くなっちゃっておむすびもらったりとか。

──時間もかかるしめんどくさいけど、得るものもあるっていう。

時間がかかってめんどくさいことをやるのが俺なんだって思えたんですよね。ただ、そこも意固地になってるわけではなくて、本当に時間なかったら新幹線でも飛行機でも使えばいいと思うんです。時間もあって余裕もあるなら在来線のほうが安く上がるし、いいじゃんっていうくらいの感じで。

──その柔軟さは以前の海北くんにはなかった部分のような気がしますけど。以前はもうちょっと頑なだったんじゃないですか?

そうですね。なんか外殻動物から、ようやく脊椎動物になったっていうか。昔は確かに自分の殻はすげえ固かったと思う。その固い殻で、中の柔らかい部分を一生懸命守ろうとしてた。でもその中の部分が今はすごく強くなってきたっていう。そういうことだと思うんですよね。

インタビュー風景

ニューアルバム「ロスト アンド ファウンド」 / 2010年11月10日発売 / 2520円(税込) / DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT / UKDZ-0103

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CD収録曲
  1. ひとりごと
  2. その名前を
  3. 虹のしずく
  4. 青よりも蒼く
  5. なくした歌
  6. 進む時間 止まってた自分
  7. 勲章と傷
  8. スピンオフ
  9. 所在なき歌
  10. 陽だまり

※初回プレス分には特典としてDVDが付属。

LOST IN TIME(ろすといんたいむ)

2001年1月、海北大輔(Vo,B)と大岡源一郎(Dr)を中心にバンド結成。2002年6月に初のアルバム「冬空と君の手」を発表し、同年9月に榎本聖貴(G)が正式加入する。その後「きのうのこと」「時計」といったアルバムをリリースし着実に評価を高めていく。2006年7月に榎本が突然のバンド脱退を表明。その後も海北・大岡の2人でバンドを継続し、CDのリリースやライブを重ねる。現在はギタリストに三井律郎(THE YOUTH)を迎えた3人編成で活動を行っている。