「LONDON NITE」37周年特集 大貫憲章×渡辺俊美対談|数々の才能を世に送り出してきた“ロックの名門”

東京セックスピストルズに緊急参加

──お二人が直接面識を持つようになったのは、どういうきっかけだったんですか?

大貫 よくイベントに遊びに来てくれてたから、もちろん顔は知ってたけど、直接接点を持ったのは東京セックスピストルズを手伝ってもらったときじゃないかな。インクスティック鈴江ファクトリーでやったロンナイで。

渡辺 ああ! たぶんそうですね。あれは僕が23歳のときだったから、1989年か。

左から大貫憲章、渡辺俊美。

大貫 UNDERCOVERをやってるジュン(高橋盾)とかBOUNTY HUNTERのヒカルが当時、東京セックスピストルズっていうSex Pistolsのカバーバンドをやってたんですよ。で、その日のイベントでライブをやることになってたんだけどドラマーが会場に来なかったんです。

──ええ!

大貫 それで、「どうするんだよ!」ってなってたときに、俊美くんが会場にいて。あれはなんで来てたんだっけ?

渡辺 TOKYO No.1 SOUL SETの前身のドラゴン&ビッケがライブをやることになってたから彼らを観に来てたんです。

大貫 そうだったんだね。で、待てども待てどもドラムが現れなくて困ってたら、ヒカルが「俊美くんに頼んでみましょうよ」って。

渡辺 ヒカルは僕のバンドを観に来てくれたりしてたんですよ。

大貫 それで、「実はこういう状況で困っていて。よかったらドラムを叩いてくれませんか?」って俊美くんにお願いしたんだよね。

渡辺 突然だったんでびっくりしましたよ(笑)。ただジュンもヒカルも以前から知ってましたし、なんとかなるんじゃないかと思って。そう言えばあの日、(須永)辰緒さんが演奏指導してくれたんですよ。

大貫 え? 辰緒って東京セックスピストルズで何かやってたっけ?

左から大貫憲章、渡辺俊美。

渡辺 いえ、メンバーではなかったですけど演奏のノリとかをアドバイスしてくれました(笑)。「ここはこんな感じで叩いたほうがいい」とか。

大貫 そうだったんだ(笑)。

渡辺 おかげで、なんとか乗り切ることができました。

大貫 いやいや、来なかったドラムの人より全然いい演奏してたよ(笑)。

渡辺 あの日、イッちゃん(LOW IQ 01)がアポロスってバンドで出演してたんですけど、僕がピンチヒッターでドラムを叩いてるのを見て「俺が叩きたかった!」って思ったみたいです(笑)。あとNIGOも客席にいて、「THE BLUE HEARTSだったら叩けるのに!」って思ったらしいですよ(笑)。

大貫 ははは。そうなんだ。

ロンナイきっかけでギター&ボーカルに

──そうした偶発的な出演がありつつ、俊美さんが初めて正式にロンナイに出演したのはいつだったんですか?

渡辺 1990年ですね。TOKYO No.1 SOUL SETでライブをやらせてもらったのが最初です。ライブは僕らとCHIEKO BEAUTYでした。

──ロンナイのステージはいかがでしたか?

渡辺俊美

渡辺 めちゃくちゃ気合い入りましたよ! ずっと遊びに来てた思い入れのあるイベントですから。実はロンナイに出ることが決まってGRETSCHのギターを買ったんです。田舎にいた頃は遊び程度にギターを弾いてたんですけど、ロンナイへの出演が決まったから本格的にやろうと思って。だから僕がソウルセットでギター&ボーカルを担当するようになったのはロンナイがきっかけなんです。

大貫 そうだったんだ! それは初めて聞いた。そう言えば、俊美くんって、それまでのソウルセットのステージでは役割が謎だったよね。

渡辺 ははは。そうですね。

大貫 ステージで楽器を持たずに踊ってたり、かと思えばパーカッションを叩いてたり。「この人は何を担当してる人なんだろう?」ってずっと思ってた(笑)。

渡辺 ひと言でいえば“盛り上げ役”です(笑)。

大貫 その後もソウルセットには何度かロンナイに出てもらったよね。

渡辺 はい。ただメンバーのドラゴンが辞めて3人編成になったり、メジャーデビューが決まったり、バンドの周りでいろんなことがあって、ロンナイと少しごぶさたになってしまった時期もありましたね。

大貫 俊美くんはソウルセットの活動に加えて、DOARATとかブランドの経営も本格的になってきたから。あと90年代の中旬ぐらいから、ロンナイ自体も以前と比べてテイストが変わってきて。

渡辺 メロコア色が強い時期がありましたよね。

大貫 そう。Hi-STANDARDがメジャーに移籍する数年前ぐらいかな。メロコアのシーンが盛り上がってきて。ブランドで言えばDEVILOCKとか。でも俊美くんとは別に仲違いしたわけじゃなかったから。付かず離れず、それぞれのフィールドで活躍してる様子を見てる感じだったね。

渡辺 ロンナイには20周年のときに、ひさびさに誘ってもらったんですよ。DJとして。

大貫 2000年にZepp Tokyoでやったときだね。そこから、たびたび出演してもらうようになって。で、あるとき俊美くんから新しいバンドを組んだっていう話を聞いて。それがTHE ZOOT16だった。

渡辺 大貫さんに「バンドを組んだんです」って言ったら、すぐにブッキングしてくれて。THE ZOOT16の初ライブは新宿LOFTでやったロンナイだったんです。でも、その時点で7inchシングル1枚しか出てなくて。持ち曲が2曲しかなかった(笑)。

大貫憲章

大貫 「何分ぐらいやれる?」って聞いたら、「たぶん15分くらいです」って言われて(笑)。でも、初めて観たTHE ZOOT16は衝撃的でしたよ。アコースティックギターの弾き語りとサックスっていう編成だったんだけどフォーク、ラテン、歌謡曲、あとはスペインのバスク地方の音楽みたいな哀愁漂う感じとか、いろんな音楽の要素が入り混じってて。しかも歌ってる内容はパンクだし。誰の真似でもない俊美くんにしか作り出せない強烈なオリジナリティを感じた。

渡辺 自分の中ではロックとクラブカルチャーをミックスしたようなことを生身でやりたかったんです。バンドにターンテーブルが入るみたいなスタイルって、その時期けっこうあったと思うんですけど、なんかみんなシュッとしてるって言うか。もっと泥臭い感じでやりたかったんですよ。

──ロックとクラブカルチャーの橋渡しをするというのは、大貫さんがロンナイでやられてきたことでもありますよね。

渡辺 そう。僕はそれを自分のやり方で表現したかったんです。だからTHE ZOOT16はロンナイイズムを体現してるようなところもあるんです。

大貫 俊美くんはDJとして膨大な音楽の知識があるし、それをミュージシャンとして表現できる。音楽の魅力を現場で伝えているという意味では、僭越ながら僕も彼と共通するところがあると思うので、俊美くんがやってることには、やっぱりすごくシンパシーを感じますよね。知識を持ってるだけじゃなく、それを自分なりのやり方で伝えていくっていう。

渡辺 その一方で、「洋服屋の店員なのにDJもやってバンドもやって、ちょっと面白くないですか?」みたいな(笑)。そういうスタイルを提案したい気持ちもあったんです。

大貫 体を張ってライフスタイルを表現するっていうね。

渡辺 そうなんです。やっぱり楽しいのがいいじゃないですか。DJもバンドも自分にとってはすごく楽しいことだし。音楽を全力で楽しみたいんです。で、それを僕に教えてくれたのがロンナイであり、ここにいらっしゃる大貫憲章さんなわけですよ。

ロンナイで学んだ「常に世界を意識する姿勢」

──俊美さんにとって、大貫さんはどういう存在ですか?

渡辺 ひと言で言えば学長。「LONDON NITE」っていう大学の創設者ですよね。

大貫 いやいや、加計学園みたいなもんでしょう(笑)。

──そうそうたるミュージシャンやクリエイターを輩出してるわけですから、そういう意味では名門ですよね。

渡辺 そう、名門なんですよ。大貫さんがいなかったら間違いなく日本のロックシーンはこんなに盛り上がらなかったと思います。いろんな才能のパイプ役を担ってきたのが学長である大貫さんなので。

──では俊美さんがロンナイを通じて一番学んだものとは?

渡辺 まずは音楽を純粋に楽しむ姿勢。あとは“世界を意識する”という心構えですよね。藤原ヒロシくんしかり、ロンナイの優秀な生徒は常に世界を意識してるんですよ。志のレベルがインターナショナルと言うか。身内受けみたいな小さな世界でみんなやってないし、そんな姿勢で活動してたら、まず続かないですから。実際、僕もソウルセットやTHE ZOOT16で活動するときは常に世界を意識してます。「もしかしたら、この曲を世界の誰かが聴くかもしれないぞ」って。ロンナイ出身者が息の長い活動をしてるのって絶対そういう意識が根底にあるからだと思うんですよね。

──なるほど。

左から大貫憲章、渡辺俊美。

渡辺 大貫さん自身、常に世界を意識しながら最新の洋楽を紹介し続けてきたわけですから。レコードをかけながら命も賭けてると言うか。そういうふうに僕は大貫さんの背中を見てます。

大貫 いやいや、ありがたいことですよ、本当に。

渡辺 そういう人じゃないと、そもそも37年もイベントが続かないと思うし。

──年末には東京・clubasiaでロンナイの37周年イベントが行われます。俊美さんも昨年に引き続きTHE ZOOT16で出演されますね。

大貫 THE ZOOT16にはここ数年ずっとお世話になってますからね。半ばレギュラーと言ってもいいぐらいの感じで。今年もオファーした段階で、すでにスケジュールを空けてくれていて。

渡辺 自分にとっては特別なイベントですから。特に今回はしばらく一緒にやってなかった、ムラジュン(村上淳)とかKEE(渋川清彦)と一緒に演奏することになったんで、自分自身、今から楽しみなんです。

──ちなみにそのメンバーでライブに臨むことになった理由は?

渡辺 単なる思い付きです(笑)。「ひさびさに一緒にやりたいなー」と思って。ガチンコで臨まなきゃいけない場所はフェスとかいっぱいあるんで、ロンナイではまず自分が楽しみたいなと思って。

大貫 ムラジュンもKEEもミュージシャンじゃないけど、本職の俳優で培ったものが面白い形で演奏に反映されるかもしれない。どんな化学反応が生まれるのか楽しみにしてます。

渡辺 そう言えば昨日、ムラジュンから「コード教えてください」ってメールが届いたんですよ(笑)。

大貫 えっ? このタイミングで?

渡辺 俺も「そこからかー」って思いました(笑)。でも、こういうやりとりも含めて楽しいんです。当日は変な大人が真剣に遊んでる姿を若いお客さんにも見せたいですね。

The 37th Anniversary LONDON NITE X'mas Special 2017
The 37th Anniversary LONDON NITE X'mas Special 2017

2017年12月17日(日)東京都 clubasia
OPEN&START 16:00

LIVEギターウルフ / THE NEATBEATS / 勝手にしやがれ / THE ZOOT16 / Lemon & The Availables / THE TOKYO

DJ大貫憲章 / ヒカル / 稲葉達哉 / SHOJI / katchin' / Yossy / U-ichi / YU-TA

ゲストDJ松田“CHABE”岳二(LEARNERS)

大貫憲章(オオヌキケンショウ)
音楽評論家 / DJ。1951年2月22日生まれ。1971年から音楽評論家として執筆活動を開始する。またNHKラジオ「若いこだま」への出演を皮切りに「全英TOP20」「サウンドプロセッサー」「ロックディメンション」といったラジオ番組のDJやTVK「ミュートマ・ワールド」のVJなどを担当。現在自らがDJを務める番組「Kenrocks Nite - Ver.2」がInterFM897にて毎週木曜日23:00より放送されている。1980年からロック系クラブイベント「LONDON NITE」を新宿ツバキハウスにてスタート。以降、「ロックで踊る」をテーマに掲げ37年にわたり同イベントを開催している。2017年12月17日には東京・clubasiaにて「LONDON NITE」の37周年イベント「LONDON NITE X'mas Special 2017」が行われる。
渡辺俊美(ワタナベトシミ)
1966年12月6日生まれ、福島県出身のアーティスト。TOKYO No.1 SOUL SETのボーカル&ギタリストであり、ソロユニットTHE ZOOT16でも活動。2010年に、福島県出身の松田晋二(THE BACK HORN)、山口隆(サンボマスター)、箭内道彦(風とロック)とともに猪苗代湖ズを結成。2012年6月に初のソロアルバム「としみはとしみ」をリリースした。2013年12月にTOKYO No.1 SOUL SETのアルバム「try∴angle」を発表。2014年4月に刊行した初の著書「461個の弁当は、親父と息子の男の約束。」がベストセラーとなり、翌2015年にテレビドラマ化された。2015年6月リリースのシシド・カフカのミニアルバム「K5(Kの累乗)」では常磐道ズとして「くだらない世の中で」の作詞・作曲・プロデュースを担当。また2016年に上映された映画「パパのお弁当は世界一」では武田玲奈と共に主演を務めた。