Linked Horizon「進撃の記憶」インタビュー|「進撃の巨人」に寄り添う“物語音楽”を総ざらい

Linked Horizonのベストアルバム「進撃の記憶」が発売された。

2013年から2023年まで10年間にわたり放送されたテレビアニメ「進撃の巨人」シリーズに数多くの楽曲を提供したLinked Horizon。「進撃の記憶」にはその軌跡をたどるように、Linked Horizonによる「進撃の巨人」の関連楽曲が収録されている。

音楽ナタリーでは10年以上の時を「進撃の巨人」とともに過ごしたLinked HorizonのRevoにインタビュー。別々にリリースされた楽曲がひとつの作品としてまとまったとき、新たに浮かび上がった全体像について語ってもらった。

取材・文 / 冨田明宏

音楽や物語に対する指向性

──「進撃の記憶」の資料を拝見した際に、「『進撃の巨人』とLinked Horizonの最後のコラボレーション」と書かれていて、いよいよかという感慨もあったのですが、Revoさんはいかがでしたか?

曲としては、「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」(「『進撃の巨人』The Final Season 完結編(後編)」の主題歌)を本当に最後の曲として書かせていただいたので、そこで終わっていたわけです。ただアルバムという意味では「進撃の軌跡」(2017年発表)以来リリースがなかった。物語が完結したわけだし、最後にベスト盤が出せたら、という思いもありましたけど……やっぱりちょっと感情は複雑ですよね。終わってしまうのは寂しいけれど、始めたことはいつか終わらせなければならない。「『進撃の巨人』の世界に寄り添い続けた証」というような作品で区切りを付けられるなら、胸を張ってまた次に行ける……みたいなことなのかもしれないね。もちろん「皆さんの中の進撃がこれで終わった」というわけではないので、何度でも戻ってきて一生楽しんでもらえればと思うのですが、創作者というものは次へ行かなければならないじゃないですか、やっぱり。どれほど素晴らしい世界であっても、そこに安住してはいけない。次の荒野を目指さなければ。まぁカッコよく言いすぎてるけどね(笑)。そもそもの本職であるSound Horizonの活動もがんばっていかなければならないので。

──アニメが完結したあとにベストアルバムをリリースすることは、もともと想定していましたか?

1つひとつ向き合ってきただけですからね。結果的にこれだけの数の「進撃の巨人」にちなんだ楽曲を作らせていただいた、という結果論というか。「進撃の軌跡」のようなアルバムのほうが異例で、普通は主題歌って単発で終わっていくものじゃないですか。いつまで続く作品なのかわからないし、どこまで関わらせてもらえるかもわからない。だからこそ幸運というか、「進撃の軌跡」で「進撃の巨人」の“インスパイア・イメージソング”を作り、アルバムにさせていただいたことがアメイジングだったわけで、「紅蓮の弓矢」(「進撃の巨人」Season1前期オープニング主題歌)を作っていたときは「進撃の軌跡」の構想すらなかったからね。

──Revoさんの音楽活動における最大規模のコンサートツアーが開催されたのも、「進撃の巨人」とのリンクからだったわけで。

改めて思いますけど、もともと僕が目指していた音楽や物語に対する指向性と、「進撃の巨人」が内包していた要素との相性がよかったんだろうね。厳密に言うとSound HorizonとLinked Horizonではサウンドのテイストが違うんだけど、Linked Horizonでいきなり「J-POPバンドになります!」とはならなかったわけで(笑)。Sound Horizonの延長線上にある音楽の方法論、物語的演出を取り入れたコンサートが作れたのは大きい経験だったと思います。Linked Horizonのほうが曲調的に多少聴きやすくなっているとは思うけど、根本と核の部分は変えてないからね。

Linked Horizon

──「進撃の記憶」を聴いていて、1枚の“物語音楽”だと感じました。Revoさんが20年以上追求してきた、アルバム1枚で1つの物語を語り奏でる手法が、このアルバムにも生きているなと。まるでオリジナルアルバムであるような印象さえあって。

主題歌という目的や、それぞれの曲を別々の時期に作ったという意味では、本来僕が指向してきた“物語音楽”とは強度が違うかもしれないけど、すべての楽曲が「進撃の巨人」の物語を描いているという歴史的事実が、その軌跡を物語音楽として昇華させる要素を補完してくれているんですよ。ストーリーとしては分断している箇所が当然あるわけですからね。特に「マーレ編」あたりは、僕たちはほとんど関われていないので。

──「The Final Season 完結編」の各話編オープニングテーマ「最後の巨人」でLinked Horizonが帰ってきて、「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」で最後を締めくくったことで、Linked Horizonとしての物語も完結させることができたと。

あの2曲がなかったら「進撃の記憶」もなかったでしょうね。あの2曲がない状態で「ベストアルバムを出しましょう」とお声がけいただいても、断っていたと思います。

リミキシングとリマスタリングの間

──「紅蓮の弓矢」で幕を開ける物語音楽として聴き応えのある前半から、「革命の夜に」「暁の鎮魂歌」「憧憬と屍の道」と連続して一気にラストに向けて畳みかけていく構成は、ベストアルバムであってもとてもかなり熱い展開です。

そうですね。熱いし、濃いと思います(笑)。今作は紙一重でコンプリート盤ではなくベスト盤なので、構成するうえで何曲かは抜いているけど、密度というか、聴き応えはしっかりと感じられる1枚になっていると思います。リスナーの体感は「リンホラ全部ノセ」でしょう。ちょっと疲れるくらいの密度というか。作ってる僕だって疲れるもん(笑)。

──その“圧”のようなものもまた「進撃の巨人」らしいといいますか(笑)。主題歌がちりばめられることでハイライトが生まれ、それ以外の曲が印象的なシーンをフォーカスしていくという構成は、想像以上に聴きやすかったです。今回すべての曲をこのベストアルバムのためにマスタリングし直したということですが、改めて過去の曲と向き合った感想は?

「変わっていない」ことを再認識しました。Sound Horizonのアラウンド15周年記念企画で、各CDをリマスター盤として再発しましたけど、あのときはびっくりするくらい変化を実感したんですよ。それぞれ別の作品なので、当たり前ではあるんだけど。でも今回「進撃の記憶」として各曲を並べたときに、10年以上も隔たりのある曲があるにもかかわらず、1枚のアルバムとして違和感がほとんどなかった。ちゃんと一貫した世界観が表現できているなと。ただ音質面、サウンドの方向性がそれぞれ違うので、リマスタリングではそのバランスをかなり厳密に図った感じですね。音楽とSEのバランスや聴かせ方が、曲によってかなり違う。伴奏に対して歌をどこまで出すかという点もかなり調整しているから、世に言う“リマスタリング”の範疇はかなり超えた作業をしました。混沌の中から意識的に「聴く」音を選ぶような音楽を至高の豊穣とするなら、整理された音楽には強いバイアスがかかっており「聴かされている」という状態にも近いはずです。実は耳ざわりのいい音の裏側にあるものは逆に失われてしまっているのですが、そもそも音を入れすぎている作風であることには自覚があるので、マスに届けるにはこちらのほうがいいだろうと現時点では結論しています。適切な言葉じゃないかもしれませんが、リスナーを甘やかすのか、甘やかさないのか、信じて自由を尊重するのか、信じず縛って支配するのか、作品を芸術品としたいのか、商品としたいのか。二択ではなくグラデーションなので、作品の王として君臨すべき創作者は惑うし、そういう問い自体がまた「進撃との親和性」があるからウケるんですが(笑)。平たく言うと、曲ごとに異なる思想性のようなものまでも、最新の視点から塗り替えてならしていったような感じかな。

Linked Horizon

──アルバムとしての整合性を徹底的に図っていったと。

言うなれば、リミキシングとリマスタリングの間みたいな感じです。聴き比べてもらえば、耳から得られる情報や感じ方がかなり違うと思えるくらいの変化があります。従来のベストアルバムだったら、そこまでする必要はないかもしれないよね。現在地から過去のいろいろな記憶にアクセスするような作品がベストなんだから、違っていて当然だし、それを楽しむような側面もあるだろうから。ただ、想起させたかったのは楽曲そのものの歴史というより、進撃という作品に対する記憶だったので、楽曲ごとの違いがいい意味でのバラエティ感ではなく、作品世界に没入するのに気が散るノイズとなり得るなら、そういう要素は排除していく方向に舵を切りました。考え過ぎかもしれませんが、やれることはやろうと。聴き応えを重視したうえで、最後まで一体感を持って聴ける形を目指したら自ずとこうなった感じですかね。世界観や音楽性の面が変わらないまま最初から最後まで走り抜けられたということは、過去の自分を褒めないといけないね。10年以上前からしっかりとした解像度で「進撃の巨人」と向き合えていたということですから。