ナタリー PowerPush - 杉本恭一

LÄ-PPISCHデビュー25周年目前! ソロ新作「Macka Rocka」リリース

亡くなった人にはもう太刀打ちできない

──お話を伺っていると、上田現さんとのエピソードは微笑ましい話題が多いですね。

うん。でも彼が亡くなったことは相当大きな出来事で。引きずってるとかじゃないですけど、まだ確実にそれを、彼が亡くなったっていう何かポッカリしたものを持って生きてますね。音楽をやってる以上、ずっとそうだと思いますけど。

──まあ、何かを背負うことにはなりますよね。

うん。不思議なもんで、現ちゃんはもう亡くなった人だから。そうなると太刀打ちできないことだらけなわけですよ。

──いい思い出にうまいこと変わっていきますからね。

ホント、ひどいこと、ダメなこと、いっぱいしてるのに! 亡くなり際のカッコよかった上田現しか浮かばないんですよ。

インタビュー風景

──相当ひどい目に遭ってきたはずなのに(笑)。

そうなんですよ! 実は一番ひどかったですからね、LÄ-PPISCHの中で。行いは。

──そうだったんですか?

うん。ひどいのは俺とMAGUMIみたいに思われてるんですけど、奇抜なひどいことっていうのは全部彼でしたからね(笑)。それが最後はビックリするぐらい大人になってて。そういうところも負けたくねえなみたいなことも思ってくると、ずいぶん生き方も変わってきてはきてるんですよね。いろいろ思い出すんですよ。余命数カ月になってからの現ちゃんの言葉とか。

──別人のようになって善人と化してからの。

20周年のLÄ-PPISCHをやるという話が当時のスタッフから来たときで、正直そんなに乗り気ではなかったんですよ。まだ知らなかったんで。現ちゃんの病気のことは。それで1回、現ちゃんと俺とMAGUMIと舞台監督で集まって、実はかくかくしかじか、現ちゃんがガンだって話したんですよ。でも、現ちゃんはガンだからどうのこうのっていうことは言わなくて、ただこう言ったんです、「俺はまだ10年は生きるつもりでいる」って。「10年!?」ってそのとき思って(笑)。

──ダハハハハ! さすがですね(笑)。

「大丈夫かあんた?」とか思ってるのに、「草野球ももうすぐ復帰するから」って。で、なんかやんなきゃっていうのとも違う、強い、なんというかいろんな思いが生まれるじゃないですか。しかも本人は、病気のことは外には絶対に言いたくないって人だったから。その集まりの前にも何度か現ちゃんと会ったんですけど、20周年をやるかやらないかって言ってて、メールでやり取りもしてたんですよ。まあこんな近い付き合いだけど「一緒にやりたい」って、どんな内容書いたか覚えてないけど、ラブレターに近いような形で現ちゃんに送って。

──「お前抜きじゃダメだ」みたいな。

うん、やるんだったら現ちゃんとやりたいって。で、現ちゃんもそういう俺のふざけても強がってもいない文章に、なんか真摯に応えてくるような返事が来るんですよ。で、いろんな問題がクリアになるならぜひやりたいっていう話になって、その打ち合わせだったんですよ。多分メールのときまでは現ちゃんはガンのことを言う気はなかったんだろうなって、今は思いますけど。現ちゃんはメールでは不安がってて、いろんなことを心配したり弱い部分を見せたりしてたのに、その打ち合わせの帰りにタクシーに乗って2人っきりになったときにはもう違ったんですよね。多分ガンのことを伝えたあとだから。そこでなんて言われたかは覚えてないんだけど、なんかすごかったんですよ。

──ある種の覚悟というか決意というか……。

うん。もうそんな次元で、これからやる表現について考えてるっていうか。なんでこんなカッコいいキャラに変わってるんだろうなって……。

ミュージシャン同士は音楽でつながっていられる

──上田現トリビュートに収録されているLÄ-PPISCHバージョンの「ワダツミの木」もいいですよね。

ああ、ありがとうございます。家族はそうはいかないけど、俺らミュージシャンは音楽でまた会えたりつながったりできますから。本人も、それはもう知ってたんですよね。現ちゃん自身も「ミュージシャンとは大丈夫だ。音楽でずっとつながっていられる」って。

──ただ、ダメージは相当大きかったと思いますけど……。

うん、そうですね。でも今回の取材にしろ、現ちゃんに負けらんねえって思ってやってますよ(笑)。もちろんそこが一番の敵とか対象ではないんだけど。

──どこかにはありますよね。これまで活動をやってきた上で、心が折れそうになったことってあるんですか?

うーん……音楽を辞めようとか、そういうのはないですけどね。LÄ-PPISCHの活動が止まって、しかももうできないってなって、そこからどうしていこうとは思いましたけどね、まず。ただ、もうとてもできないって思ったんで。もう俺は辞めるって言うつもりだったんです。MAGUMIやtatsuと話して活動停止っていうことにしようかってなったんですけど。で、だからしばらくは、やりたいけどやれるのかっていう不安はそのときにあって。2年くらい弾き語りで日本中うろうろしてたんですけど。そこから現状につながるいろんなミュージシャンに出会って現在に至るんですけどね。あの一瞬だけかな? 実はそんなにも不安に思ってなかったかもしれない。

──さっきポロっと言った一番お金がない時期でも、意地があって燃えてたわけですからね。

インタビュー風景

そうですね。これもまた現ちゃんとの会話になっちゃいますけど、俺らの時代って、まだロックミュージシャン、バンドマンが食えるなんて思ってなかったじゃないですか。アマチュアのとき、プロのミュージシャンになって音楽で生きていくんだっていう話をまだ熱く現ちゃんとかと語ってたときに、当時東京ロッカーズの人たちの話とかが、誰々の友達でとかって感じで伝わってくるわけですよ。高円寺で三畳一間で、もう40歳だけど風呂なしで暮らしてるとか。清志郎さんだって武道館終わったあとに銭湯に行ったとか。

──サンプラザ中野さんもそんなこと言ってました。

そういう中野さんの話とかも伝わってきて。その覚悟がないとプロにはなれないなって思ってたから。俺も現ちゃんもいわゆる普通のサラリーマンの家庭で中産階級の代表みたいな中で育ってるから、安定のない世界っていう恐怖はすっごいあったんですよ。

──そこに一歩踏み出すには覚悟が必要ですよね。

だから俺、デザイン学校を卒業するときに就職しようとしたんですよ。デザインの世界を一回覗きたい、みたいな。たぶんどっかで守りに入ってたんでしょうね。そんなこと考えてるときに現ちゃんに呼び出されて、「お前ふざけんな!」って。「今からイラストレーターの先輩のところに行くから」って言ったら、「お前、そんな甘い世界じゃなくて、お前は音楽をやるって言ってんだから、そんな就職とかするな!」みたいなことを、俺に散々説教したんですよ。そのくせ、自分が翌年大学を卒業するときにキユーピーの内定とってましたから。

──ダハハハハ! 最悪ですね(笑)。

もう俺、10倍激怒しましたよ。「お前ふざけんなよ!」って。当然キユーピーに行かせませんでしたけど(笑)。だからずっとこの20何年、背中、背筋は寒いですよ、いつも。売れてるときだろうが、売れてないときだろうが。やっぱり、それでもやりたいんでしょうね。

──そうじゃないとソロでこんなに続かないですもんね。

そうですね、うん。

ニューアルバム「Macka Rocka」 / 2011年10月26日発売 / 2300円(税込) / iLHWA RECORDS / ILH-001

  • Amazon.co.jp
収録曲
  1. Birth
  2. Fantasia
  3. RED MONKEY
  4. ENCORE
  5. Piece of Cake!
  6. キャロラインベッキー
  7. KY? O....... IC! H I
  8. オー・ソレ・ミオ
  9. moon
  10. Antique Radio
杉本恭一 & The Dominators
「Tail Peace Tour 2011」
  • 2011年12月3日(土)愛知県 名古屋ell. SIZE
    OPEN 18:00 / START 18:30
  • 2011年12月4日(日)大阪 梅田Shangri-La
    OPEN 18:00 / START 18:30
  • 2011年12月17日(土)東京都 原宿アストロホール
    OPEN 18:00 / START 18:30
杉本恭一(すぎもときょういち)

1964年熊本県出身。1984年にLÄ-PPISCHを結成し、1987年にメジャーデビュー。1996年には初のソロアルバム「ピクチャーミュージック」をリリースし、自らが率いるバンド、analersでも精力的な活動を行う。2003年にLÄ-PPISCHが活動を休止した後はソロを中心にリリースやライブを続け、2011年10月に6枚目となるソロアルバム「Macka Rocka」を発表した。現在は上田健司とのユニット、穴場でも活躍中。