Kvi Baba|僕が歌うのは僕と僕みたいなやつのため

Kvi Babaの新作音源「Toge ni Bara」が7月30日に配信リリースされた。

Kvi Babaは2018年にデビューした現在21歳のラッパー / シンガーソングライター。メロディアスな歌とラップを行き来するスタイルと、内省的なリリックで知られており、昨年ヒットチャートを席巻したZORNのアルバム「新小岩」へのゲスト参加でも話題を集めた。

4週連続リリース企画の第4弾として発表された新作「Toge ni Bara」には、2019年3月リリースの「19」以来、Kvi Babaがタッグを組んでいるBACHLOGICがプロデュースした全6曲を収録。世の中にあふれる悪いニュースよりもいい出来事に目を向けようと歌う「Too Bad Day But...」や、客演にSALUを迎えて「これくらいでもういいっしょ」と歌う「After Effect」など、これまでよりもポジティブなリリックとサウンドが印象的な作品となっている。音楽ナタリーでは本作のリリースを記念してKvi Babaにインタビュー。プロデューサーのBACHLOGICとの関係を聞きつつ、本作に現れたKvi Baba自身の変化を語ってもらった。

取材・文 / 三浦良純撮影 / 後藤倫人

ZORNやBACHLOGICとの関係

──Kvi BabaさんはZORNさんが1月に東京・日本武道館で行ったワンマンライブに出演していましたね。これまで立ったステージの中でも一番大きいステージだったのではないかと思いますが、いかがでしたか?

自分がこんな経験をすると思ってなかったし、不思議な感じでしたね。武道館に立つだけの知名度があるわけでもないのに、それでも立たせてもらったことで自分がやってることに間違いはないと思えたし、少なからず自分にも影響力があるんだと感じることができました。もちろん反省点もありましたけど、本当にいい経験になったと思います。

Kvi Baba

──ZORNさんとの関係は、ZORNさんとKvi Babaさんの楽曲をプロデュースするBACHLOGICさんを通して生まれたんですか?

いや、BLさんとつながる前からの関係ですね。今の僕のマネージャーを介して僕の音源をZORNさんが聴いてくれて。最初に会ったときはちゃんと挨拶できなくて、2回目に会ったときに「はじめまして」と言われるような感じだったんですけど、そのときに「聴いたよ、曲ヤバいね」って言ってもらえて、それからかわいがってもらえるようになりました。

──今作「Toge ni Bara」も含め、Kvi Babaさんの楽曲について、BLさんがずっとプロデュースを手がけていますが、どんな関係ですか?

ZORNさんに“親子”とか言われてますね(笑)。今年の2月頃に大阪から東京に引っ越したんですけど、BLさんの家と本当に近いので、レコーディングも風呂上がりに行くくらいなノリなんです。でも、すごい人と一緒にやってるんだっていう認識はもちろんあって、距離感の近い先生みたいな感じです。BLさんの作るトラックも好きですけど、考え方も好きなんですよ。地元からして隣町で、人間的な部分でも合ってると思う。そういう人が自分の周りには少なかったし、一緒にやらせてもらって本当に光栄ですね。最高です。

音楽は自分と向き合うためのツール

──BLさんと言えば、名だたるラッパーの楽曲を手がけた日本を代表するプロデューサーですが、Kvi BabaさんはBLさんからどういう部分を評価されていると思いますか?

えっ、どこも評価されてないんじゃないかな……(笑)。あえて言うならセンスですかね。技術力でいったら、どうやっても今の僕はBLさんとは対等になれないんですけど、さっき話したように僕の持ってる感性がBLさんとフィットしているから、ほかにもたくさんラッパーがいる中で一緒にやってもらえてるんじゃないかな。

──なるほど。Kvi Babaさんはご自身についてどういうラッパーだと思っていますか?

誰よりも繊細だと思ってます。弱いと言えば弱い。でも、それが自分の起爆源というか武器になってるのかなと。僕にとって音楽は自分と向き合うためのツールなんです。自分が抱える問題を解決に向かわせてくれたり、心を休ませてくれたり、逆に奮起させてくれたり。

──「僕はタフじゃない だけどヤワじゃない」と歌う今作の「ヤワじゃない」はまさに弱さを元にした曲ですね。ただ、直接的に死や痛みを歌っていて、鬱屈した内容の過去作とは違って、今作はかなり前向きで明るい印象を受けました。

そうですね。僕が書くリリックはネガティブをポジティブに変換するような内容で、それをサウンド面でも求めていたんですけど、今回は心が弾むようなトラックを使っていたり。昔とはだいぶ変わったと思います。

「誰の為でもない独り言も 誰かの孤独を埋めるのなら」

──EPの制作がスタートしたのは、いつ頃ですか?

半年くらい前ですかね。最初は自分の力でやりたいことをどれだけできるか試すために、シングルを出すことだけ考えていたんです。その中で1つの作品としてまとまりのある楽曲がそろってきた結果、EPになったという感じです。

──制作中はどんな音楽を聴いていましたか?

Lanyっていうバンドや、ジャスティン・ビーバーのアルバム「Justice」とか聴いてました。ただ、聴いている音楽と作りたい音楽は別なんですよね。自分で意識して寄せに行ったりもできないし。

──最初に作ったのはどの曲ですか?

「Tear Wave」ですね。

──この曲は“洗礼”がテーマとのことで、このEPの中でも一番壮大な楽曲ですね。

BLさんのトラックを何曲か聴かせてもらった中で、この曲がすごくよくて。フックがまずできたんですけど、そこから完成するまでには数カ月かかりました。1人でずっと試行錯誤していました。リリックを書き直すようなことは今までなかったんですけど、今回はフックもヴァースも何回も見直したんです。

──何回も書き直した中で、特に気に入っている部分はありますか?

「誰の為でもない独り言も 誰かの孤独を埋めるのなら」というラインは、今の僕そのものを表しているかなって。正直自分が何をやってるのかわからなくなるときもあるんですよ。自分と向き合う曲を作っても、ただ自分を責め立てているだけみたいに感じることもある。だけど、なんのためにやってるのかわからなくても、自分が発したい思いを発することが、結果として聴く人の孤独に寄り添うことになるんだったら、やる意味があると思うんです。