コロナの前からずっとつらかった
──全体的にポジティブな印象の作品の中でも、特に1曲目の「Too Bad Day But...」はポップで聴きやすいなと思いました。
この曲もフックからできましたね。
──Kvi Babaさんの楽曲はメロディアスでつい口ずさんでしまうようなキャッチーさがありますが、どうやって作ってるんですか?
宇宙語を歌って、あとから歌詞を当てはめるようなことはあんまなくて。いつもトラックを流しながら、ワードとメロディが同時に出てきてくれる感じですね。
──オートチューンの使い方にこだわりはありますか?
オートチューンを使うと、みんな似ちゃうんですよね。だからオートチューンをかけながら録ってはいないんです。あくまで地声で聴けるように録って、そこからトラックに馴染ませるくらいの使い方をしています。歌えないからオートチューンで聴けるようにする、みたいな感じではなく。海外のポップスでも使わなくて成立するところでオートチューンを使ってるんですよね。
──リリックの書き方で影響を受けているものはありますか?
うーん、やっぱZORNさんやSALUさんには影響を受けてる部分があるかもしれないですね。言葉の選び方は全然違いますけど。「Too Bad Day But...」のリリックでは、1ヴァース目で「いつか虹がかかるさ なんて言う訳じゃ僕ならないが」と歌って、2ヴァース目で「綺麗事もいつかの実話に基づくものなんだったら今に虹にかかるともう言っちゃおうか?」と歌う流れが気に入ってますね。
──この曲で「9割が悪い事なんだって けど1割は良い事あるんだって」と歌っていますが、コロナ禍で暗いニュースばかりが流れる中、少しでも明るいほうを見ようという姿勢が作品全体に表れているんでしょうか?
いや、コロナの影響を受けて書いたリリックはほとんどないです。確かに僕もライブが何本もキャンセルになりましたし、外に出にくいし、下向きなニュースばっかりだし、みんなの顔も憂鬱に感じるし、そこから影響を受けている面は少なからずあると思うんですけど、僕はコロナの前からずっと生きるのがしんどかったんで。
──それでは、どうして前向きなリリックやサウンドの曲を歌うようになったんだと思いますか?
昔はしんどくても泣いたら楽になれたし、自分を泣かせるような曲を作っていたんです。でも、体に限界が訪れて、泣くこともできなくなって。自分がおかしくなりそうで怖かったし、つらかった。その恐怖と戦う中で、ポジティブな曲が生まれたり、自分の心構えを変えるような曲ができていったんだと思います。
──そうだったんですね。「Happy Birthday to Me」(2020年5月配信のEP)の頃からポジティブな印象の楽曲が増えてきているので、マインド的にどんどん明るくなっているのかと思っていました。
僕の周りにもそう言われるんすよ。「Kviちゃん変わったね」とか。親にもよくなったねって言われる。でも、何も問題は解決してないし、逆に焦っているくらいなんです。
──余談ですが、フックの「昨日会った身内がパクられても」の部分、Kvi Babaさんのリアルが現れていていいなと思いました。
このフックができた前日にマジで身内が捕まってます(笑)。まあギャグではなく、僕自身だけじゃなくて、僕の周りにも、家庭環境がよくなかったり、ややこしい問題を抱えている人は多くて。
迷ったときに見る両腕のタトゥー
──表題曲の「Toge ni Bara」にはどんな思いが込められていますか?
「薔薇にはトゲがある」という言い方はよくあるけど、この曲は薔薇にトゲじゃなくて、トゲに薔薇なんですよ。今ある問題だけに目を向けたら、死んだほうがいいんじゃないかと思うし、逃げたくもなる。でも、その先に何かがあると思う。トゲの先に花が咲くことに美しさがあると思う。冒頭の「病まなければ、感謝し得ない いっぱいの水が僕はあると思う」という言葉もそういう観点。僕の右腕には「Toge ni Bara」ってタトゥーが入っていて、その下には「not perfect but just right」って入れてるんです。「完璧じゃないけどちょうどいい」って意味ですね。
──曲を作ってる最中に入れたんですか?
そうですね。作ってる途中で気に入って。迷ってるときに腕を見て、何が自分にとって大事か確認しています。自分が幸せかどうかを決めるのは、結局自分の心でしかないから、日頃どういう心構えを持っておくか、どうやって自分を守るための心を整えておくかが重要なんですよ。
──左腕にも同じように文字が入っていますよね。
こっちは「Love is my only hope」と、「Like the moon」って入れてます。
──「Like the moon」の言葉には、どういう思いが込められているんですか?
月は太陽という存在があって輝くことができるのであって、月自体は光ってないじゃないですか。それを忘れないようにという意味ですね。
自分の使命をやり切るだけ
──月と言えば、「Fool in the Moon」は疾走感があってライブも盛り上がりそうですね。
僕がこんな曲を作ると思ってなかったです。それは今作のほかの曲もそうなんですけど、1、2年前の自分だったら「今夜はバカになって踊っていたい」なんて歌わないし、そんな曲を好きにはならないだろうなって。でも、これが今の自分だし、反対に2年前の自分を今の僕は好まないだろうと思います。
──その変化は先ほど話していたように、ご自身の抱える問題が変わったことによるものですか?
そうですね。音楽というツールで問題に向き合うのはこれまでと同じなんですけど、抱える問題が変わったから答えも変わったという感じです。
──「今夜は馬鹿になって踊っていたい」というリリックでも、ひたすらアゲるだけのパーティチューンにはならず、切ないニュアンスなのがKvi Babaさんらしいなと思いました。
僕は馬鹿になれないやつに対して歌っていて、普段から馬鹿やってるやつらには歌ってないから。僕が活動をするうえで決めているのは、僕自身と、僕みたいなやつに対して歌うってことなんです。僕以外のやつのことはわからないし、そこに向けて歌うことはできない。結局、僕は僕自身のことで手いっぱいで、自分のこと以外を考える余裕はないんすよ。YouTubeでほかのアーティストの曲を聴いて文句言ったりする暇もない。「Too Bad Day But...」では「神が持つ計画」と歌ってますけど、自分の使命や役割をやり切るだけ。しっかり境界線を引いてますし、それはBLさんから学んでいる部分でもありますね。BLさんも自分が得意なこと、苦手なこと、できること、できないことをしっかり見極めて、関わらないって決めたら関わらない人なんです。
SALUとのドライブ
──SALUさんが参加した「After Effect」もさわやかな印象ですが、この曲はどういう経緯で生まれたんですか?
プライベートですげえトラブったことがあって、マネージャーにも迷惑かけたし、制作チームのモチベーションも下げるような、とんでもないことになってたんです。前にもあったんですけど、僕はそういうどうしようもないときにSALUくんに連絡するんすよ(笑)。そしたら「会おうよ」って返事をくれたから、SALUくんの地元に電車で行ったら、車で迎えに来てくれて、ドライブに行ったんです。そのドライブ中に「今音楽はどんな感じ?」とか「日常生活は?」とかSALUくんが親身になって話を聞いてくれたんですけど、車内でBLさんのトラックをかけて盛り上がる中で、こういう力が抜けた感じの曲を作れたらいいよねって話になって。その1カ月後くらいに僕のほうからまた連絡を取って、僕とSALUさんとBLさんの3人でSALUさんのスタジオに入りました。
──そんな出来事があったんですね。SALUさんとのコラボは「A Bright」(2019年3月配信の「19」収録曲)以来、2度目ですか?
そうですね。「A Bright」はこちらで作った曲にあとからSALUさんにヴァースを乗せてもらったので、一緒にスタジオに入ることもなくて。今回はイチからスタジオで共作しました。SALUくんも僕と同じように繊細で、問題を抱えていて、音楽性も似た部分があると思うんですけど、そんな僕らが「もういいっしょ」って歌うのはちょっと変じゃないですか? どう見てもそんな気楽なタイプじゃないのに。影響を受け合って、お互いにとって新しいものが生み出せたんじゃないかと思います。
──なるほど。今後コラボしてみたい人はいますか?
価値観が合えばいろんな人とやってみたいですね。あえて名前を挙げるなら、miletさんはめちゃ好きで。
──意外ですね。ラッパーの名前が出てくるかと思いました。
日本人のアーティストではmiletさんが今一番好きですね。でも、ラッパーはみんなリスペクトしてます。ヤバいやつらはたくさんいるし、みんな自信を持ってほしい。
誰かの歌は絶対歌わない
──前向きなリリックとトラックで自分の問題に向き合った本作を経て、今後はどういう作品が生まれそうですか?
作り貯めている曲はもうアルバム分くらいあるんですけど、これから先のことは考えたくないですね。僕にとって音楽を作ることは問題と向き合うことだから。思い煩いたくないです。でも、生きている限り、新しい問題に直面し続けて、そこから生み出される音楽も変わっていくんだろうなとは思います。
──アーティストとしての長期的なビジョンやゴールなどは頭にありますか?
そんな大層なもんは作れないですね。僕は明日の晩飯も考えられないんで、音楽なんて絶対無理。でも、あえて言うなら、誰かの歌は絶対歌わないってことだけはこの先もブレることはないです。僕が歌うのは、僕と僕みたいなやつを救うためだから。
- Kvi Baba(クヴィババ)
- 1999年生まれ、大阪府茨木市出身、21歳のラッパー / シンガーソングライター。友人の付き添いで大阪・⻄成のスタジオに訪れたことをきっかけに音源を作り始め、本格的な音楽活動をスタートさせた2019年に2枚のEPとミニアルバムを発表した。SALUやZORNといったラッパーとのコラボレーションやRed Bullのマイクリレー企画「RASEN」への参加でも注目を浴び、2020年5月に変態紳士クラブのVIGORMANやRYKEY、NORIKIYOらとコラボした3rd EP「Happy Birhday to Me」をリリース。同年11月には、vividboooyやFuji Taitoとのコラボ曲も収録した4th EP「LOVE or PEACE or BOTH」を発表した。2021年1月には、ZORNが東京・日本武道館で行ったワンマンライブにゲスト出演し、21歳で武道館のステージを経験。4月からは4カ月連続配信リリース企画を実施し、7月に新作EP「Toge ni Bara」をリリースした。