ナタリー PowerPush - 黒崎真音

自由を見つけて手に入れた新たなビートと言葉

当初「unchain.」は「chain」だった

──カップリングの「unchain.」の中の黒崎さんもやっぱり前向きですよね。

確かに最終的には前を向く感じの歌詞にしてみたんですけど、実は最初に書いた詞はもっと怨念じみたものになっていたんです(笑)。

──「怨念」ですか?

「X-encounter」ジャケット撮影風景

完成形の詞は過去に囚われていた人が「unchain.」な状態、最終的に鎖を解き放っているんですけど、最初のバージョンでは「chain」の状態、鎖につながれた状態のまま。最後の最後まで本当に報われない詞にしていたんです。

──それはなぜ?

確かに今の私の気持ちはプラスに向いてはいるんですけど、プラスに向かいすぎるのも違うな、って思っているんです。「UNDER / SHAFT」の取材のときにも言ったかもしれないんですけど、私の中には2人の黒崎真音がいるんだと思っていて。強い私と弱い私がいるので。

──せっかく今、ボーカリストとしてのキャリアの中で一番楽しめている状態にいるのであれば、弱い自分は見せなくてもいい気もしますけど。

でも弱い自分にもちゃんとポジションというか、お仕事があるんです。特に詞を書くときにはすごく必要な存在で。「X-encounter」の詞なんかもそうなんですけど「自分はこれを疑問に思っている」「こうしたい」っていうことを歌うには、すぐ逃げ出してしまう自分や、ネガティブな自分も知らないと、たぶん世の中に疑問を抱けないし、自分の克服したいことやなりたい自分にも気付けないと思うので。歌ったり発信したりするのは、前向きで強い自分の仕事だとは思うんですけど、強い自分が歌ったり発信したりするための言葉を書くのはやっぱり弱い自分なんです。私の中では2人のどちらにもちゃんと役割があるんですよ。だけど、前を向きすぎちゃうと、その弱い自分がうまく前に出てきてくれなくなっちゃう。ポジティブになりすぎちゃうと「あれっ? 私、どうやって詞を書いてたっけ」ってなっちゃいますから。

──確かに100%ハッピーな人は自己表現なんかしなくてもいいはずですもんね。

だからポジティブに向かいすぎると言葉が出てこなくなっちゃったりもするんですけど、私にはまだまだ歌いたいことがあるし、歌わなきゃいけないことがあるとも思っていますし。それにそもそも弱い詞や暗い詞ってかなり好きなんです(笑)。だからこそ弱い黒崎真音も必要な存在だと思っていて。最初の「unchain.」の詞も、そういうもともと暗い詞が大好きで弱い部分も抱えているんだけど、今はポジティブな黒崎真音っていう人が1回うしろを振り返ってみたイメージで書いてみたんです。ずっと過去に縛られていて、いつまでも暗くなっていた弱い自分を、改めて見つめ直すつもりで。

私の愛している「私の歌」

──さっき「怨念じみた」って言ってましたけど、詞を読むぶんにその怨念を向ける対象って自分なんですね?

はい。以前から「昔のできごとをいつまでも引きずってしまう、この感情ってすごくムダだな」「いらないものだな」と思っていたので、最初に書いた詞の主人公は、鎖に縛られたまま抜け出せずにいる自分に苛立ったり、絶望を感じたりしている人。「chain」な私を詞にしてみたんです。それにfu_mouさんの曲が、マイナー進行ではあるんだけど、音色的にもフレーズ的にもいろんなアイデアが盛り込まれた派手な印象もあるものだったので「この曲に、ものすごい暗い詞が乗ってるのもギャップがあって面白いかな」とも思って。ただその詞をスタッフさんに渡してみたら……。

──ちょっと首をかしげられてしまった?

「もうちょっと前を向きません?」って(笑)。それで弱い自分の生み出した言葉は大切にしつつも、ラストは「もうこの鎖からは抜けられない!」じゃない。「X-encounter」の詞にも通じる最近の私らしさを発揮して「鎖なんか引きちぎれ!」「腕ずくでねじ伏せてしまえ!」っていう少し光の見える詞に書き換えてみたんです。だから完成版の「unchain.」は強い黒崎真音と弱い黒崎真音の共作というか。さっきは黒崎真音の中には強い私と弱い私の2人がいるって言ったんですけど、実はそうじゃなくて、2人が合体して初めて1人の黒崎真音になれているのかもしれませんね。

──そのバランス感覚って面白いですよね。暗い歌が好きな弱い黒崎さんの存在も大切に思っているなら「もうちょっと前向きに」と言われたとき「いや、私が書きたいのはもっと暗い歌だから!」ってなってもおかしくない気がしますから。

「X-encounter」ジャケット撮影風景

むしろ選択肢がたくさんあることのほうがうれしいですね。周りの方からいろんな意見をもらって、その中に「確かにいいな」って思えるものがあれば、私のアイデアはまた別の機会に使ってみようっていう気持ちになれるんです。今回であれば「暗い曲はまた今度作ろう」って(笑)。「もうちょっと前を向きません?」って言われたときも「確かに黒崎真音のシングルとしては1年ぶりのシングルだし、来年の1月13日には私の誕生日当日にワンマンライブをするわけだし、ライブでも映える爽快感を重視した曲を作ったほうがいいよなあ」って思えました。当たり前のことなんですけど、聴いてくださる方は「黒崎真音のシングル」として手にするわけだから、私自身がすべての楽曲に対してきちんと責任を負わなきゃいけないんですけど、逆に言えば私が納得の上で責任を負えればいいというか。完成した楽曲が自分の愛せるものになるのであれば、ちゃんと「私の歌」「私の言葉」として歌えるんです。

──だからこそ「unchain.」も……。

私の愛している「私の歌」なんです。

ニューシングル「X-encounter」/ 2013年11月6日発売 / GENEON UNIVERSAL
初回限定盤 CD+Blu-ray 2625円 / GNCA-0312
初回限定盤 CD+DVD 1890円 / GNCA-0313
通常盤[CD] 1260円 / GNCA-0314
収録曲
  1. X-encounter
    [作詞:黒崎真音 / 作曲・編曲:高瀬一矢]
  2. unchain.
    [作詞:黒崎真音 / 作曲・編曲:fu_mou]
  3. X-encounter<instrumental>
  4. unchain.<instrumental>
初回限定盤Blu-ray / DVD 収録内容
  • MAON KUROSAKI TOUR 2013 “VERTICAL HORIZON” 2013.4.28 at SHIBUYA O-WEST
  • TVアニメ「東京レイヴンズ」ノンテロップオープニング
  • 「X-encounter」TV-SPOT
黒崎真音(くろさきまおん)
黒崎真音

アニソンシーンを中心に活躍する女性シンガー。2000年代のアニソンに多大な影響を受け、音楽活動を開始する。2010年にテレビアニメ「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」で全話異なるエンディングテーマを歌唱。その異例ともいえるリリース形態とあらゆるジャンルの楽曲を歌いこなす高い歌唱力で大きな注目を集める。そして「HIGHSCHOOL OF THE DEAD」の関連楽曲すべてを収録したアルバム「H.O.T.D.」でCDデビューを果たす。その後もテレビアニメ「とある魔術の禁書目録II」やOVA「薄桜鬼 雪華録」のエンディングテーマ、映画「リアル鬼ごっこ3」「同4」「同5」の各主題歌、テレビアニメ「薄桜鬼 黎鳴録」のオープニングテーマなど、多くのアニメのテーマソングを担当。その一方で2011年以来「Animelo Summer Live」に連続出演するなど国内外のアニソン系フェスに招へいされ、またmotsu、fripSideのsatとユニットALTIMAを結成し個人名義以外の活動も広く展開している。そして2012年10月にはアニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」のオープニングテーマを収録した5thシングル「UNDER / SHAFT」を発売し、2013年4月には2ndアルバム「VERTICAL HORIZON」をリリース。同年11月にはアニメ「東京レイヴンズ」のオープニング曲「X-encounter」を発表する。