音楽ナタリー Power Push - 黒木渚

私が歌う4つのラブソング

黒木渚がニューシングル「君が私をダメにする」をリリースした。

これまで「革命」「虎視眈々と淡々と」など“強い女性”の心情をリアルに歌ってきた黒木。そんな彼女が今作では赤裸々なラブソングを書き上げた。表題曲のみならず収録曲すべてが恋愛をテーマにしており、彼女はこのシングルでさまざまな愛の形を歌っている。ほとんどが実話に基づくという4曲に彼女が込めた思いとは。また最近、音楽活動と並行して進めている小説執筆についても話を聞いた。

取材・文 / 宮本英夫 インタビュー撮影 / 笹森健一

 
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強い女はダメ男に引っかかりがち

──春のツアー、東京グローブ座で観させてもらいました。素晴らしかったです。

ありがとうございます。やっと方向が定まってきました。

──音楽と小説の朗読、さらに演劇的な要素もあって。

黒木渚

そうですね。各要素の配分とか、今後の方向性が見えたなと思いました。ここで根を固めて、より上質なものを目指していけばいいんだってわかって、得るものがたくさんありました。

──ニューシングル「君が私をダメにする」の表題曲も初披露してましたけど、どうでした? 生で歌った手応えは。

ノリがよくて軽快なロックチューンという感じだから、歌ってて本当に気持ちがいいというのがまず1つ。それと、かつて自分が経験したことのある心境を歌にしてるので、それらを思い出すことができて楽しいんですよ。心底楽しめるという感じです。

──2014年4月リリースのアルバム「標本箱」の1曲目「革命」があって、翌年1月発表のシングル表題曲「虎視眈々と淡々と」があって、自己主張ソングが表に出ることが多かったけれど、今回の曲調はその流れを汲みつつ、歌詞のテーマは恋愛にフォーカスしていて。

そうですね。「革命」や「虎視眈々と淡々と」のサイドストーリーじゃないですけど、主人公の女がプライベートでしてる恋愛の歌、みたいな感じです。ああいう強い女ってやりたいことを追いかけることに関しては完璧主義なんだけど、プライベートでは甘やかされないと強く居続けられなくて、まあ、ダメ男に引っかかりがちみたいな(笑)。強い女の共通項として、そういう人間くさい恋愛をしがちだよねって。私ももちろんそうだし。

──思い当たる節が多々あると。

ありますね(笑)。恋愛までも完璧にこなして、100点のパートナーとお互いを切磋琢磨していくみたいな感じじゃないんですよ。それよりも崩れ合っていくような、情熱的な恋愛にうっとりしちゃうタイプなんですね。

このタイプの恋愛は長続きしない

──表題曲の「このまま会社を休んで クラゲでも見に行こうなんて」という歌い出しが印象的です。なんで“クラゲ”なんですか?

いやー、「水族館行こうよ」じゃなくて「クラゲ見に行こうよ」って言われたほうが素敵っぽくないですか?

──えーと、よくわかんないです(笑)。

「クラゲ見に行かない?」って言われたら、なんかちょっと「この人一枚上手だな」みたいな感じがするんですよ(笑)。しかも「会社を休んでクラゲを見に行こう」って、もうダメですよね。全然ダメなんだけど、そこに私は流されるんです。「クラゲかー、いいね!」みたいな。ドライブ行こうとか、映画観ようとかじゃなくて、ピンポイントでクラゲという生き物を出してくるところが萌えポイントなのかな。ちょっと変化球みたいな。

──確かにその言葉で、この彼氏のキャラがはっきりしてくる。

うん。少しキザですけど。

──あと、やっぱり一番大事なフレーズだと思うのは、「大切なものを4つあげる」のところ。“愛、思想、時間、体”とズバリと言い切ってる。なんでこの4つだったんですか?

黒木渚

私が渡せるものをすべて羅列するとしたらこの4つかな?と感じていて。これを4つともあげちゃうと、もう私じゃなくなっちゃうんですけど、それでもあげていいよと思えるほどのめり込んでる状態。だけど「クラゲを見に行こう」というその男は、「ひとつで良いよ」って言うんですよ。全部あげるって言ってるのに。そこがまた!

──そこがまた!(笑)

そこがまた憎いというか。その4つをすべて奪っちゃうと、私が私じゃなくなっちゃうことが、ちゃんとわかってるかのように。だから「僕は1つだけいただいて、君は君のままでいてくれ」って思ってるんじゃないかみたいなことを勝手に察して、「素敵!」みたいな。これで4つとも欲張っちゃう男だったら、こんなにのめり込まないと思います。

──この4つが「愛、思想、時間、体」だと言い切るのがすごいなあと。ほかに選択肢はなかったんですか?

これぐらいしかなくないですか? 私が出せるものは。そんなことわかんないか(笑)。

──この曲、最後の最後にお互いの関係性がひっくり返って「次は君を私がダメにする」という歌詞になるのが面白いです。

一方的にダメにされるのもいいんですけど。恋愛に落ちていくときの無敵になっている感覚というか……恋さえうまくいっていればなんでもうまくできる時期って女の人にはあって。そこに突入してるんですよ、この女の人は。なので一方的にダメにされてるのもアリだけど、受け身になってるだけじゃなくて逆に自分から崩しにかかってやるという、挑発的な気持ちがどこかにあって。それはもちろん私にもあります。やられてばっかりじゃちょっと、みたいな。

──そこが黒木さんっぽいなと思いましたね。さすが「革命」と「虎視眈々と淡々と」を書いた人だなと。

でもこのタイプの恋愛は、総じて長続きしないです(笑)。だけど人生で1回こういう経験があるのとないのとではいろんなものの感じ方が変わってくるような。これを知ってると恋愛に対して安定を求める時期に入ったとしても、いろんなタイプの愛を許容できるという感じがします。

──サウンドも、いい感じで派手になりました。特にスガダイローさんのピアノ、なんと表現していいやら。

黒木渚

「君が私をダメにする」というワードが強烈なキャッチコピーになってしまったから、メロディはポップでシンプルなものでいいと思って。じゃあその“ダメ感”をどこで出すか?というと、サウンドで出すしかない。そんなときにスガダイローさんを動画サイトで知って。個人的にスガさんと柏倉(隆史 / Dr)さんがやり合ってるところを観たいなと思って、お願いしました。やっぱりレジェンドたちはすごいです。お互い自己主張がすごくて、手数も多い破天荒タイプなんだけど、ちゃんとお互い譲るスポットを与え合う。あんなにめちゃくちゃなのによくまとまったなという感じがしてます。特にスガさんの刹那的な芸術表現というものがあって、「2回目は弾けないからね」って堂々と言っちゃうみたいな。1回の演奏にすべての魂をこめて、スケールアウトも全然やっちゃうし、それがより“ダメ感”を煽るんですよ。計算してない感じがすごくよかったです。

ニューシングル「君が私をダメにする」 / 2015年6月10日発売 / LASTRUM
初回限定盤 [CD2枚組] / 1944円 / LASCD-0063
通常盤 [CD] / 1296円 / LASCD-0064
収録曲
  1. 君が私をダメにする
  2. エジソン
  3. レスポール
  4. アンチスーパースター
初回限定盤特典CD収録内容

4月11日東京グローブ座のワンマンライブ音源

黒木渚 FREE LIVE ONEMAN TOUR
「君が私をダメにする」
2015年7月5日(日)宮城県 MACANA
[昼の部]OPEN 15:00 / START 15:30
[夜の部]OPEN 18:30 / START 19:00
2015年7月11日(土)福岡県 BEAT STATION
[昼の部]OPEN 15:00 / START 15:30
[夜の部]OPEN 18:30 / START 19:00
2015年7月18日(土)大阪府 ROCKTOWN
[昼の部]OPEN 15:00 / START 15:30
[夜の部]OPEN 18:30 / START 19:00
2015年7月19日(日)愛知県 ell.FITS ALL
[昼の部]OPEN 15:00 / START 15:30
[夜の部]OPEN 18:30 / START 19:00
2015年7月22日(水)東京都 LIQUIDROOM
OPEN 18:30 / START 19:30
黒木渚(クロキナギサ)

黒木渚

宮崎県出身の女性シンガーソングライター。2010年12月に自らの名前を掲げたバンド・黒木渚を結成し、2枚のシングル 「あたしの心臓あげる」「はさみ」とミニアルバム 「黒キ渚」をリリースするも、2013年12月の「COUNTDOWN JAPAN 13/14」出演をもってバンドは解散した。翌年から黒木がソロ活動をスタートさせる。サウンドプロデューサーに松岡モトキ、ミュージシャンに柏倉隆史、中尾憲太郎、MASEEETAらそうそうたるメンバーを迎え、同年4月に1stフルアルバム「標本箱」を発売した。2015年1月には3rdシングル「虎視眈々と淡々と」と同時に初の短編小説「壁の鹿」を発表。同年6月にはラブソング4曲を収めた4thシングル「君が私をダメにする」をリリースした。女性の心理を生々しく歌った楽曲と、演劇のようなライブパフォーマンスでファンを魅了している。