工藤晴香×ナユタン星人|音楽の魔法って本当にあるんだ リミックスで生まれ変わった「MY VOICE」

工藤晴香 単独インタビュー

史上最速で書けました

──では、ここからは工藤さんに表題曲「Under the Sun」のお話を伺います。今までになく“歌もの”然とした楽曲で、すごくさわやかなラブソングになっていますね。正直ちょっと驚きました。

工藤晴香

本当ですか? うれしいです。1stシングルをリリースするとなったときに、「どういう曲にしようか?」という話の中で「ポップでキャッチーなものに挑戦してみよう」ということになって。

──「シングル表題曲といえばポップなものであるべき」というイメージがあったということですか?

というより、「1stシングルはそういう方向性がいいだろう」という判断ですね。“工藤晴香の1stシングル”として提示することになるので、これまでの活動を知らない人にとっては“デビュー曲”とも捉えられやすいじゃないですか。そういう方にもとっつきやすいものにしたいなということで。

──とはいえ、これまでやってきたラウド系の激しいサウンド感はしっかり踏襲されているという。

ですね。ツーバスがドコドコ鳴っていたり、相変わらず楽器陣はすごくうるさいです(笑)。

──歌詞に関しては、どういうふうに作っていったんですか?

これまでにリリースした計12曲がわりと強めの方向性だったので、「今回はちょっとキャッチーに、恋愛ソングとか書いてみたらどう?」という提案があったんです。それで、「確かにやったことないし、書いてみよう」と思いました。自分で言うのもなんですけど、わりとどんなことに対しても柔軟に対応してきた人間なので(笑)。ただ一応、「もし書けなかったら相談させてください」とは言いました。どうしても書けなかった場合の逃げ道は用意しておきたくて。

──そのお話からは、なんとなくですけど役者魂を感じます。曲の持つイメージに合わせて「この曲に対しては、こういうタイプの作詞家として挑もう」とスイッチを切り替えているわけですよね。

そうですね。わりといろんな方から「作詞家の考え方だね」とも言われます。

──そういう書き方は苦ではない?

今回、初めてテーマをいただいて書いたんですけど、史上最速で書けました。今までは、歌詞を書くとなったら何もアイデアがなくてもとりあえず机に向かって、テーマを探すだけで何時間も経っていたりすることもあったんですけど。今回はテーマが決まっていたので、すごく早かったです。

──メロディライン自体が平地さんにしては素直ですし、そのことも書きやすかった要因の1つですかね?

工藤晴香

それもあったと思います。今までは洋楽寄りの曲がほとんどだったので、英語を混ぜないとハマらない部分があったんですけど、今回は1stシングルということもあって、極力日本語を多めにしていこうというテーマがあって。平地さんは「日本語がハマりやすいメロを」というオーダーを受けていたようですし、私に対しても「工藤さんの歌詞はサビが英語から入るものが多いから、今回は日本語始まりのサビにしてほしい」という指令がありました。まあ、それは守れなかったんですけど(笑)。

──(笑)。「Baby」くらいは許してくれよと。

そうそう。もし何か言われたら「ベイビー」ってカタカナ表記にしようかなとも考えてました(笑)。

──全体的にも、意外と英語の多い歌詞になっていますよね。最初に歌詞を見ないで聴いたときは、まさかこんなに英語の多い歌詞だとは思いませんでした。

英語は控えめにしたつもりだったんですけど、そのわりにはけっこう使っちゃったなと自分でも思いました。改めて歌詞を見ると、本当に意外と多い(笑)。

──ボーカルに関しては、この曲ならではのこだわりポイントはありますか?

普段しゃべっている声に近いイメージで、作り込みすぎずに「等身大の自分で歌おう」というのを意識しました。今までの曲では、わりとキャラ作りをして挑んでたんですよね。強い女性だったり、少年、幼い女の子、ちょっとおちゃらけてる人など、曲によってキャラクターを設定して。

──「Under the Sun」は歌詞も自然体な雰囲気ですし、その世界観にリンクさせるための最善手として“等身大”を選んだということですよね。

そうですね。

工藤晴香

ゾンビと戦う工藤さん

──楽曲の王道感とは裏腹に、ミュージックビデオはすごく不思議な世界観になっていますね。

あははは(笑)。歌詞に沿った映像にしてしまうと、まるでこの曲が私の体験を歌ったもののように映る恐れがあったので、それは避けたかったんです。映画がモチーフの曲ではあるので、映画的な要素のある映像にしたいという思いはあったんですけど、「歌詞の世界観を映像化するのではなく、まったく別物にしてほしい」という要望だけを加藤マニ監督に伝えました。そうしたら、数日後に「ゾンビと戦う工藤さん」と書いてある字コンテが届きまして。

──単に監督さんがゾンビものを撮りたかったんですかね?

そんな気がします(笑)。その案が面白かったので、「それで行きましょう」となりました。

──曲が王道だからこそ、逆に映像は王道にしたくないというような思いもあったのかなと想像したんですが。

それもありますね。「いかにも」というか、「青空の下で白いワンピースを着た私が笑いながら歌ってるようなイメージはちょっと違うかな……」とはぼんやり伝えました。

──このMVがスペースシャワーTVとかでたまたま流れてきたら、すごく気になると思うんですよ。「なんだこれ?」って(笑)。

絶対観ちゃいますよね。歌の内容とまったく関係ない映像ですし(笑)。いろいろ不思議な展開がありますけど、最終的になんの説明もなく終わるので、「なんだったんだろう?」という気になって、もう1回観たくなるMVができたんじゃないかなと思います。

──あと、今回はアー写やジャケ写でギターを持っていませんね。

「Under the Sun」通常盤ジャケット

持ってないですね。アートワークに対する要望としては、「プールサイドでヘソ出しの服を着ている感じがいいです」とか「バカンスに来ている宇宙人がテーマです」という申し訳ないくらいぼんやりしたイメージをデザイナーさんにお伝えしました(笑)。それから衣装やスタジオなどが決まっていく中で、なんとなく「ギターはなくてもいいのかな」という方向性になって。

──宇宙人はあまりギターとか持たないですしね。

ですよね。それこそナユタンさんも楽器は弾かれないですし。

──今後についてなんですけども、今回このシングルが出たことで、工藤晴香としての次の展開がかなり読みづらくなった印象がありまして。

ああ、そうかもしれないですね。

──いろいろ可能性が広がった感じがします。何か「これをやってみたい」と考えていることはありますか?

具体的には何も決まってないんですけど、ミニアルバム、シングルと来たら、やっぱりフルアルバムはいずれ出したいですよね。あとは……すっかりリミックスに味をしめてしまいました(笑)。

──ああ、なるほど。

私、Nine Inch Nailsがすごく好きなんですけど、彼らはオリジナルアルバムをリリースしたあとにそのリミックスアルバムを出すんですよね。中にはリミックス盤のほうばかりを聴いている作品もあったりするので、そういうのもやってみたいな。

──いいじゃないですか。アルバムのあとに必ずリミックス盤が出る声優さんなんて、たぶんほかにいないでしょうし。“工藤晴香ならでは”の新たな武器になりそうなアイデアにも思えます。

そうですね。確かにそういうやり方をしている声優さんは思いつかないです。

──個人的には、けっこう本気で考えてもらいたい案ですね。

うふふふ。考えようっと(笑)。

ライブ情報

「PLANET SUMMER」

2021年7月25日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)

工藤晴香