工藤晴香×ナユタン星人|音楽の魔法って本当にあるんだ リミックスで生まれ変わった「MY VOICE」

録った覚えのない新曲

──今回のリミックスにあたって、最初に工藤さんのほうから何かオーダーはあったんでしょうか。

工藤晴香

工藤 どんなものになるのかまるで想像がつかなかったので、特に私から細かいオーダーはせずに「お好きにどうぞ」とお伝えしました。ただ、選曲については指定させていただきました。これまでにリリースした2作(2020年10月発売の2ndミニアルバム「POWER CHORD」と2020年3月発売のソロデビューミニアルバム「KDHR」)のリード曲をやってもらいたいなと思ったので、「MY VOICE」と「KEEP THE FAITH」という曲目はこちらで選んだものです。

──ナユタンさんはそのうち「MY VOICE」のリミックスを依頼されて、どのように料理してやろうと?

ナユタン星人 最初はちょっと遠慮気味というか(笑)。原曲があまりにもよかったから、なるべくそのよさをそのまま生かそうと、既存のフレーズをなぞって音色だけ変えるように作っていったんです。でも、それを送ったら「もうちょっとナユタン色を好き放題に出してほしい」という要望が返ってきまして。

工藤 私はその最初のバージョンですでに満足してたんですけどね(笑)。「すごーい!」って。でも、スタッフさんたちが「ナユタンさんだったら、もっともっと面白い方向にできるはず」と。

ナユタン星人 それで僕もニヤリとしまして(笑)。そこからは“編曲する”というよりも半分“作曲する”くらいの勢いで、自分のフレーズとかもたくさんぶち込んで、自分の新曲を出すような気持ちで作り直しました。

工藤 本当にそうなんですよ。直ってきたものを初めて聴いたときは「新曲だ!」と思いましたもん。「あれ? レコーディングしたっけ?」って(笑)。録った覚えのない新曲が勝手にできあがっていたような感覚がめちゃめちゃ新鮮で、すごくうれしかったです。

──素材としては、工藤さんのボーカル以外に何か使いましたか?

ナユタン星人 いや、何も使ってないですね。一般的には、リミックスというと元素材を切り貼りしてループさせたりエディットするケースが多いと思うんですけど、それよりも一から全部作ったほうが自分の色になるかなと思って。

──そうして完成した「MY VOICE(ナユタン星人 Remix)」の、工藤さん的お気に入りポイントを教えてください。

ナユタン星人 「ない」と言われたら凹んじゃいますね。

工藤 そんなわけないじゃないですか(笑)。まず手拍子が入るところがナユタンさんっぽくてすごく好きですし、間奏が原曲とまったく違うナユタンフレーズの嵐になっているのもいいですよね。全般的に、ユルさというのかポップさというのか……地球の言語ではうまく表現できないんですけど(笑)、ナユタンさんならではの独特の世界観が投影されているなと感じました。リミックスをお願いして本当によかったです。

ナユタン星人 ありがとうございます。原曲がすごくヘビーでカッコいいロックテイストの曲だったんで、ポップな音使いにしたらまた違ういい面が出てくるんじゃないかなというのは、確かに大きな方向性として持っていました。「曲の魅力を違う角度から提示しよう」というのは意識したポイントですね。

──個人的に、工藤さんの声自体にわりとボカロ感があるなと思っているんですけど、その点についてはいかがでしょう。

ナユタン星人 それも感じましたね。原曲でもボーカルエフェクトがボカロっぽくかかっていたりするので、そういう曲を頼んでくれたことがすごくありがたかったです。もっとボカロと離れた声質の方だったら悩んじゃったかもしれないんですけど、工藤さんの声が自分の得意なフィールドに連れて行ってくれたような感覚があります。いろいろイメージが湧きやすかったですね。

左から工藤晴香、ナユタン星人。

予想できないものほど面白い

──今回コラボしてみて、お互いに何か共通点は感じましたか?

工藤 ナユタンさんがちょっとミステリアスすぎて……。

ナユタン星人 ほとんど情報がないですよね。

工藤 情報がないので推理するしかないんですけど、たぶん宇宙はお好きですよね? 私は「スター・ウォーズ」から入った宇宙好きなんですけど。

ナユタン星人 ああ、いいですね。僕も宇宙は好きです。

工藤 やったー、共通点だ! 正直、惑星の名前とかにはそこまで詳しくないんですけど、日々、宇宙の不思議に思いを馳せています。今地球に届いている星の光が実は何千年、何万年も前のものだったりするところにすごくロマンを感じますし、「地球外生命体って、いるのかなあ」とかもよく想像していて……。

──こちらにいらっしゃいますけどね。

工藤 そうだった(笑)。

ナユタン星人 (笑)。僕は単純に規模が大きいところとか、ミステリアスなところが好きです。宇宙って、わかっていないことがあまりにも多いじゃないですか。いくら調べてもわからない、終わりが見えない不安さが逆に安心みたいな。その“わからなさ”は日常の人間関係などと共通する点も多いので、歌詞のテーマにもつながりやすいんですよ。逆に、全体が把握できるものにはあまり興味が持てないです。ゴールが見えるとすぐ飽きちゃうところがあって。

工藤 私にもそういうところがあります。

ナユタン星人 そこも共通点ですね。工藤さんの書かれる歌詞を見ても、それは感じます。先がわからないところにあえて突っ込んでいくような、フロンティア精神みたいなものを。

工藤 ナユタンさんの「銀河電燈」という曲を聴いたときに「宮沢賢治さんの『銀河鉄道の夜』みたいだな」と思ったんですけど、物語もお好きですか?

ナユタン星人 もちろん好きですよ。あらかじめ物語を考えてからその曲を作る、というのが自分のスタイルなんです。全部の曲がそうなんですけど、特に「銀河電燈」ではそれを顕著に出しました。

工藤 物語は私も大好きなんですよ。銀河鉄道つながりで言うと、松本零士さんの「銀河鉄道999」もすごく好きで。子供の頃にアニメで観ていたんですけど、地球を旅立った鉄郎とメーテルが未知の世界にどんどん進んでいくお話ですよね。それもやっぱり、次に何が起こるかまったく予想がつかないところにめちゃめちゃワクワクしていました。マナーの悪い乗客を車掌さんがいきなり車外に放り出すシーンとか、もはやトラウマになっています(笑)。

ナユタン星人 「マナーはきちんと守ろう」と思うようになりますよね(笑)。

──宇宙好き、物語好き、先の見えないものが好き、という共通点が見つかりましたね。

ナユタン星人 そういう意味でも、今回のリミックスは本当に楽しかったです。実はこれまで、リミックスの仕事ってあんまりやらないようにしてたんですよ。そもそも編曲が苦手というのもあるんですけど、作業する前からやるべきことがだいたい予想できちゃうというのもあって。

工藤 ああー、なるほど。

ナユタン星人 その点、「MY VOICE」にはすごくいろんなギミックが入ってて、途中でテンポが変わったりもするし、単純じゃない構成で展開しますよね。「自分じゃこんな曲は絶対に作らないな」と思ったので、「リミックスしたらどうなるんだろう?」という興味が湧いたんです。

工藤晴香

工藤 ありがとうございます! ちゃんと私や原曲の要素も残しつつ、ナユタンさんらしさも全開で……音楽の魔法って本当にあるんだなと思いました。私の場合、普段好きなアーティストが新曲を出すと聞いても「前作がああだったし、だいたいああいう感じなんだろうな」みたいにある程度予想がついちゃうことも多いんですけど……。

ナユタン星人 急に毒舌が出ましたね。

工藤 あははは(笑)。今回は本当に予想がつかなかったし、なおかつ最高においしいものがバーンと出てきたので大満足です。本当にありがとうございました。

ナユタン星人 原曲と変えすぎちゃって、怒ってないですか?(笑) 今日は怒られるためにセッティングされたインタビューかもな、と覚悟していたんですけど……。

工藤 まさかそんな(笑)。この記事が出たら、絶対に作曲の平地(孝次)さんにも読んでもらおうと思います。めちゃめちゃ楽しみにしてましたので。

ナユタン星人 口きいてもらえなくなったりしないですかね。

工藤 絶対に大丈夫です!(笑)