Kroi「Jewel」インタビュー|ドラマ「オクラ」主題歌はバンドのムード反映したバラード

6月にメジャー3rdアルバム「Unspoiled」をリリースし、現在は自身最大キャパシティとなる神奈川・ぴあアリーナMM公演を含む全国ツアー「Kroi Live Tour 2024-2025 "Unspoil"」で全国を巡っているKroi。そんな忙しない日々を送る彼らから最新曲「Jewel」が10月9日に届けられた。

「Jewel」は、反町隆史と杉野遥亮が共演するテレビドラマ「オクラ~迷宮入り事件捜査~」の主題歌として書き下ろされた1曲。人々の交わりを宝石のきらめきのように描いたフォーキーなバラードナンバーとなっている。このインタビューではKroiの5人に「Jewel」の制作秘話や、終盤戦に突入した全国ツアーの手応え、来年2月に控えるぴあアリーナMM公演への意気込みを語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / Leo Iizuka

Kroiの今のムードは?

──新曲「Jewel」、僕は名曲だと思いました。穏やかなサウンドの中に力強さがあって、歌詞にも今のKroiの心情がとても素直に表れているのかなと。ドラマ「オクラ~迷宮入り事件捜査~」の主題歌ですが、どのようなことを考えながら書いたのでしょうか?

内田怜央(Vo) 我々はタイアップのときはその作品にアジャストして曲を作るんですけど、今回も「オクラ」というドラマの世界観に合ったものをと事前に台本を読ませていただいて。ドラマのエッセンスと、自分たちが今言いたいことや伝えたいことの共通点を見つけるところから始めました。

──「バラードを書こう」と思ったのは、「オクラ」の物語を踏まえてというのが大きかったですか? 個人的にはアルバム「Unspoiled」(2024年6月発表の3rdアルバム)から続いているKroiのムードが、今回の曲調にも表れているように感じました。

内田 ああ、確かに。「明滅」(「Unspoiled」収録曲)のような、フォーキーな楽曲をよりポップな方向に振って作ってみるのはどうだろう?というのは、アルバムを作り終えてすぐに考えていました。あとはドラマの中で流れていてほしい音、というのは意識しましたね。

Kroi「Jewel」MV撮影時の様子。

Kroi「Jewel」MV撮影時の様子。

──それだけ「明滅」には手応えがあったということですね。

内田 本来、「明滅」は音源化する予定はなかったんです。LAに行ったときに「歌が入った曲を録ろう」ということで、昔作ったデモを掘り返して形にしてみたら意外とよかった。オープンコードで、アコギが鳴っていて、今までKroiがやってこなかった広いムードのある曲だと思っていて。自分たちのライブのキャパが大きくなってきている中で、実験的に「こういう曲をやってみたらどうなるかな?」と新しい扉を開いた先に「Jewel」があったという感じです。

違う誰かと接してみたい

──Kroiが「オクラ」の主題歌を担当することが発表された際、内田さんは最近、人と人とのコミュニケーションの大切さを強く感じることが多いとコメントしていましたが、そこがドラマとご自身が言いたいことの共通項としては大きかった?(参照:Kroiが初のフジテレビ連続ドラマ主題歌担当、反町隆史×杉野遥亮出演の刑事ドラマ「オクラ」で

内田 そうですね。ありがたいことに最近忙しくさせてもらっていて、アウトプット続きなんですけど、そういうときに意外と必要なのは普通に友達やメンバーと話す時間だと思っていて。そういうコミュニケーションを通して、音楽を作ることへのモチベーションや新たなアイデアが生まれることが多い。それに、周りの人を見ていても孤独を抱えている人が多いように感じます。そういう意味でも、デジタルを通してじゃない、リアルなコミュニケーションをもうちょっと大事にしたいなと最近思ってるんですよ。

──孤独そうな人は多いですか?

内田 うん……そう思いますね、周りを見ていても。ひさびさに会うと「さみしい」みたいなことを言う人はけっこう多いんで。

内田怜央(Vo)

内田怜央(Vo)

──その孤独感に対して、Kroiというバンドだからこそ伝えられることが「Jewel」という曲になっている?

内田 自分たちだからこそ、というわけでもないですけどね。ただ僕自身、何かが枯渇しているときは「ほかの誰かと接してみたい」と思うし、自分と違う意見の人と対峙したほうが視野も広がると考えているんです。もちろん、自分と違うものを知ってしまうのは、怖いことでもあるんですけどね。でも、一歩踏み出して全然違う意見や価値観を持っている人と話してみると、自分の作品や生き方にいい影響を与えてくれる気がします。

日常の中にある異物

──皆さんの中では、この「Jewel」はどんな曲にしたいという思いがありましたか?

益田英知(Dr) サスペンスドラマの主題歌なので、それに合った音楽にしたいというのはありました。実際、バラードだけどサスペンスっぽい感じにはなったと思うんですよね。

内田 前に益田さんがこの曲について「ちょっと不気味な部分がある」と言っていたんですけど、その感じは確かにあるんですよ。柔らかくて朗らかなものの中に、暗さが混ざっているというか。そういうのが一番怖い。「日常の中に異物がある」みたいな感覚、それは曲調に表れていると思うんですよね。ただ間奏に若干、不気味な感じがあったりするくらいで。全体的にわかりやすく怖く聞こえたり、サスペンス感がにじみ出ているわけではないんだけど。

益田 ドラマとの違和という点もあるよね。楽曲の清々しさと、ドラマのサスペンスな感じが混ざって、不思議な感じになるという。

益田英知(Dr)

益田英知(Dr)

内田 確かにね。ドラマはコメディっぽい部分もあったりして、ひと言では語ることができない作品なんですよ。そういう深みを楽曲にも持たせたい、というのがありました。場面によって違う聞こえ方をするような曲にしたかった。

──「違和感を持つ」ということは決して悪いことばかりではなくて、感動するきっかけになったり、自分が動き始めるための原動力になったりしますよね。そう考えると、「自分とは違う意見や価値観のものに出会う」というメッセージを内包しているこの曲が、音楽的にも違和感を抱えているというのはすごくしっくりきます。ジャケットも違和感に満ちていますよね。

関将典(B) ジャケットに関しては、そもそも怜央が「森とそれ以外の場所の境目に、違和感があるものが突き出している情景にしたい」と言っていて。その話をアートディレクターのRakさんに伝えたんです。Rakさんは今イギリスでお仕事をされているんですけど、「近くの森で写真撮ってきます」と言ってくれて。野性の馬や牛が森の中を徘徊している写真をたくさん送ってきてくれたんです。その中からこの写真を選びました。広大な土地に、生きているのか死んでいるのかわからない馬が横たわっているという。この馬もたぶん、飼われている馬じゃなくて野生の馬なんです。優しさの中に若干の不気味さがある曲の違和感を表現したジャケットになったと思います。

Kroi「Jewel」ジャケット

Kroi「Jewel」ジャケット

内田 めちゃめちゃいいジャケットですよね。俺、小さい頃から人工物と自然の森が並んでいる、みたいな異物感のある組み合わせが好きで。例えば映画の「ジュラシック・パーク」って、ジャングルの中にハイテクな建造物が建っていたりするじゃないですか。なので、このジャケットも最初は「森の中にトレーラーハウスみたいなものがあるのがいいな」と思っていたんですけど、Rakさんが送ってくださった写真の中で、この写真がめちゃくちゃ輝いて見えて。ほかにもモシャモシャの牛を正面から撮ったカットとか面白い写真はいっぱいあったんですけど、特にこの写真は曲とマッチしているなと思ったんです。

聴き始めと終わりで異なる感覚に

──「Jewel」は、Kroiには珍しいフォーキーなバラードですが、レコーディングはいかがでしたか?

長谷部悠生(G) アメリカ映画とかを観ていると、車の中でフォークやポップソングが流れる場面があったりしますけど、ああいう光景が自分はすごく好きで。その雰囲気がこの曲にはあるんですよね。今回はビンテージのギターを借りて録ったんですけど、今までにないくらいいい音で録ることができたし、俺はレコーディングがすっごい楽しかったです。

長谷部悠生(G)

長谷部悠生(G)

 俺は「できるだけ名脇役になろう」というテーマでレコーディングに入りました。ギターやピアノの邪魔をせず、そのうえで無意識のうちに「いい曲だ」と思ってもらえるような低音を鳴らし続けることができるか?という。あまり派手なことはせず、いい音で曲に寄り添えるようなベースを弾ければいいなと考えていました。

益田 この曲は始まりから終わりにかけて、段々とダイナミクスがデカく付いていく曲なんですけど、その中に少し跳ねの要素も入っていて。そういう展開を考えたときに、出だしを静かに叩きすぎると、後半のノリのいいリズムと整合性がつかなくなってくるんです。なので、叩き始めのフレーズをどれくらい後半に合うように調整できるか?ということは意識しました。完成したものを聴いても、結果的にそこは上手にできたと思いますね。

──「違和感」や「他者と出会う」という話につながりますけど、「Jewel」は曲を聴き始めたときと聴き終わったときで感覚が違う。いつの間にか別の場所にたどり着いているようなところがありますよね。

益田 そうなんです。そこに違和感が生まれないように、うまくリズムのテンションを調整していった感じです。

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音源とライブの差異