Kroi特集|“素のKroi”を見せた初の日本武道館ワンマンを振り返る (2/2)

武道館でやる日が来るとは思えなかった曲を

──セットリストについては、シングルや各作品のリード曲は押さえつつ、おおむね「LENS」(2021年6月発表のメジャー1stアルバム)以前の曲が中心になっていたと思います。Kroiの原点を見せるようなライブだと感じましたが、どういう意図があったんでしょうか。

 武道館という特別なステージで俺らの地盤になっている曲をやる意味は絶対あるなと思ったんです。「Fire Brain」で始まり「Shincha」で本編を締めたのも、この2曲でインディーから今まで駆け上がってきたという自負があったからですし、武道館ライブの大事な役回りにしたいという気持ちがありました。そのほかの曲に関しても、武道館でやる日が来るとは思えなかったような楽曲をふんだんに盛り込んだんです。アンコールの最後にやった「Polyester」も、ラストに持ってくるような曲ではないんですけど、ちゃんと大役を成し遂げてくれました。Kroiとしての武道館でのライブがこの1回だけではないと思いたいですし、次があれば違ったアプローチをしたいと考えてますが、1回目は自分たちの基礎になっているセットリストでお届けしたいなと。

関将典(B)

関将典(B)

──普段はライブの終盤に披露している「Fire Brain」を頭に持ってきていたので、のっけからハイライトを作ろうという勢いを感じました。

 実はアレンジ周りを考え始めた9月くらいから、その日はあえて「Fire Brain」をド頭に持ってこようというアイデアはあって。みんなでそれに見合うアレンジを考えていきました。Kroiのライブに普段から来てくれる人からすると、「Fire Brain」で始まる驚きがあると思ったし、ブーストした状態でいいスタートが切れるだろうという気持ちもありましたね。

──本編ラストに披露された「Shincha」は、Kroiにとってはどんな曲なんですか?

内田 なんだろうなあ……ライブで育ってきた曲ですし、もとの曲からはアレンジもがっつり変えたので、武道館で披露した「Shincha」が今のKroiを表しているというか。インディーの頃から「いつか武道館で『Shincha』をやりたいね」と話していたので、実際に武道館のステージで演奏できてよかったです。

自分で自分にツッコむような時間が一番気持ちいい

──ほかに印象に残っている曲はありますか?

長谷部 俺は「Monster Play」です。「Monster Play」や「Fire Brain」は、会場のキャパが増えていくにつれてアレンジがパワーアップした楽曲なんです。でも「Monster Play」は“素のKroi”を見せるというテーマのライブだからこそ、あえて昔のネイキッドな状態のアレンジでやりたいという思いがあって。お客さんが2、3人くらいのときにやってたアレンジのまま演奏できたので、感慨深さはすごかったです。

──ライブ全体を通して特に盛り上がっていた曲だと思います。

内田 「Monster Play」を演奏しているとき「なんでこの曲を武道館でやってんだろうな?」と思いました(笑)。でも、それが自分の好きな瞬間というか。自分で自分にツッコむような瞬間が、音楽をやってて一番気持ちいいんですよ。

──どうして「Monster Play」でそういう感情になったんですか?

内田 うーん、昔の暗い時期の自分が作った曲ですし、本当はそんなに盛り上がらないような曲だから(笑)。それをみんなが知ってくれて、メンバーも自分もスキルアップして、すごくいい演奏ができるようになって武道館でやれたという。違和感と成長と感動みたいなものが、一気に押し寄せてきたのかな。

益田 俺が「おお!」と思ったのは「shift command」ですね。1曲目の「Fire Brain」と2曲目の「Drippin' Desert」は、メンバーのシルエットを見せるクールな演出で、3曲目の「shift command」が始まったときにパッとメンバーの姿が現れるという流れだったんです。「shift command」はこれまでもライブでやってきた曲だけど、武道館のときほどお客さんの歓声が聞こえたことはなかったので、あの曲で「改めて武道館ライブが始まった」とワクワクしました。

千葉 俺は「Drippin' Desert」かな。「Drippin' Desert」は「telegraph」(2022年7月発表のメジャー2ndアルバム)のリード曲だったんですけど、ぶっちゃけリリースした直後はライブでやってもめちゃくちゃ盛り上がる曲ではないなと思ったんです。でも、ライブで演奏していくにつれてめっちゃ盛り上げるでもなく、かといってゆったり聴かせるわけでもない、つなぎの立役者みたいな位置付けの曲になってきて。

千葉大樹(Key)

千葉大樹(Key)

内田 演奏するほうはめっちゃ体力使うんだけどね(笑)。

千葉 そう、こっちはがんばってるんですけど、お客さんは……みたいな。Kroiって盛り上がったり、じっくり聴かせたりの中間の曲が少ないんですけど、「Drippin' Desert」はみんなにそういう共通認識があって。バン!と盛り上げたあとの曲って大事じゃないですか。「Drippin' Desert」は「shift command」でバーン!といくまでのつなぎとしてすげえちょうどいい中火感があったというか、お客さんのテンションを落とさずに、内なる闘志で演奏する瞬間がすごく楽しかったです。

このチームで武道館まで立てた

──ライブ中盤には長谷部さんが1曲飛ばしてしまうハプニングもありましたが、結果的にはその後のMCを含めて、合間のゆるい雰囲気につながった気がします。メンバーのミスに即座に対応するKroiの柔軟さもすごいなと。

長谷部 でも、ライブのレポを見るとそこが切り取られてて(笑)。

千葉 凹んじゃったんだよね(笑)。

長谷部 この3年間は、渋谷のWWWで初めてワンマンライブをしたときから同じチームでやってきたので、あの日はチームKroiとしてのライブを見せる日でもあったと思うんですよ。「このチームで武道館まで立てた」というところを見せたい気持ちがデカかった分、そこでミスってみんなで作り上げたものを台無しにしちゃったなと思って。

──それは悔しいですね。

長谷部 ただ、始まる前は緊張したり感極まったりするかなとも思っていたんですけど、同じチームでやってきたこともあって、いつも通りのテンションでライブができたんですよね。演出も照明も含めて、めちゃめちゃいいライブができたと思っています。

 どこ見ても結局いつもと同じ景色だったんです。前にいるカメラマンも、袖にいるローディーチームも、モニターPAも客席の向こうにいるPAも照明も、みんな同じ人たちがやってくれているので。武道館でも安心してライブができる環境を作ってくれました。

Kroi

Kroi

──信頼感があったと。

 そうですね。あと長谷川凪という照明がおりまして。彼が24歳で史上最年少武道館メイン照明の記録を塗り替えたらしいです。

──それはすごいですね。

長谷部 俺がミスったときもほかのスタッフは「どうする? どうする?」となってたんですけど、彼はすぐに照明を切り替えてくれて。

千葉 肝が据わってるんですよね。

 「Astral Sonar」は4小節ほどギターを弾いてから入る曲なので、俺らはどうとでも合わせられるんですけど、照明やVJは対応が難しいのにすごいですね。終わったあとに謝ったら「全然大丈夫」と言っていて。凪は本当にすごい。

千葉 凪を含めて本当にいいチームだなと改めて思いました。守谷(和真 / Kroiが所属するIRORI Recordsのレーベル長)さんがインスタに「武道館でこんなに穏やかな準備は初めて見た」と書いていたのが印象的で。僕はスタッフも和気あいあいとしている現場じゃないと、いいライブにならないと本気で信じてるんですよ。だからなるべくスタッフとも楽しく接したいし、やるんだったら生き生きとしていてほしい。この雰囲気のままスケールアップしていけたらめっちゃいいですし、このチームの一体感は今後のKroiにとってもすごく強みになるだろうなと思います。

Kroiが今聴かせたい音楽を

──今後のスケジュールで言うと、3月8日から始まる「SXSW 2024」への出演が決まりましたね。

 「SXSW」はインディーの頃から知っているフェスですし、日本のアーティストも毎年出演していて。先輩だとCHAIさんのように世界で人気が出た先人もいますし、そういったフェスに自分たちが出演できるのはうれしいです。昨年は台湾のフェスに出させていただいて、そのときはお客さんがすごく盛り上がってくれたんですけど、今度は英語圏なので。自分たちの音楽がそこでどう響くのかを試すいい機会だと思っています。

Kroi

Kroi

──演奏したい曲はありますか?

内田 俺は「Page」やりたいんだよな。

 いいね。マジで何が刺さるかわかんないし。

内田 そうそう。海外だと新たな気持ちでできるから楽しみです。やっぱりね、普段ライブをしていても「この曲はこのぐらい盛り上がるだろう」という予感があるんですよ。

 どこか安心感みたいなものはあるよね。

内田 「SXSW」では、「この曲はここに入れたほうがいいよね」みたいな見込みが立てられないから。でも、それはインディーズの頃もそうだったし、何も見えない状態でスイカを割るみたいなことを、ひさびさにできるのが楽しみです。

──今年は3rdアルバム「Unspoiled」のリリースも控えていますが、制作状況はいかがですか?

 まだ着手して間もなくて、どういう曲を入れるかも決まってないです。新録も2、3曲しかできてないので、ここからはパツパツの作業になりそうです。

──曲ができていない状態でタイトルが決まっているんですね。

 「Unspoiled」は「腐っていない」「ダメじゃない」「損なわれていない」という意味の言葉なんです。もともとKroiはダメなものが実はよかったり、ダサいものがカッコよかったり、逆転の発想を大事にしてるんですよね。「Unspoiled」はそういったKroiのスタンスをひと言で表現できるなと思って付けました。例えば「こういうのは嫌いだと思ってたけど、実は好きなんだ」とか、次のアルバムはリスナーにとって音楽を聴くときの発見の場になればいいなって思います。

──今いる環境やこれまでに経験してきたことって、多かれ少なかれ曲に反映されると思うんですが、ライブの規模も大きくなって、メディア露出も増えている中、ご自身の楽曲にはどんな影響があると思いますか?

内田 反骨精神が強いので、本当は一度すべてをぶっ壊したいんですよね。今の形態をただ進化させるだけでは面白くないから。でも、現時点ではそういう聴き手を裏切るような曲を作れていないので、次のアルバムも挑戦の作品になりそうです。あと「Hyper」と「Sesame」はアニメに当て書きした曲なので、Kroiだけのクリエイティブで作るリード曲ってひさしく出していないんですよね。

──言われてみるとそうですね。

内田 なので次のリード曲は、俺らが今聴かせたい音楽を提示するひさびさの作品になると思います。きっとこれからのKroiにとって大きな曲になるんじゃないかと。

Kroi

Kroi

ライブ情報

Kroi Live Tour 2024

  • 2024年8月23日(金)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2024年8月29日(木)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2024年8月31日(土)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2024年9月1日(日)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
  • 2024年9月6日(金)宮城県 チームスマイル・仙台PIT
  • 2024年9月8日(日)北海道 Zepp Sapporo
  • 2024年9月12日(木)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2024年9月13日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside ※追加公演
  • 2024年9月15日(日)香川県 高松festhalle
  • 2024年9月21日(土)新潟県 NIIGATA LOTS
  • 2024年9月26日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2024年9月27日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO) ※追加公演

プロフィール

Kroi(クロイ)

R&B、ファンク、ソウル、ロック、ヒップホップなど、あらゆるジャンルからの影響を昇華した独自の音楽を提示する5人組バンド。2018年2月にInstagramを通じて結成し、同年10月に1stシングル「Suck a Lemmon」をリリースする。2019年夏には「SUMMER SONIC」に出演。同年12月に2ndシングル「Fire Brain」を、2020年5月にEP「hub」を発表した。2021年1月にEP「STRUCTURE DECK」をリリース。6月にはアルバム「LENS」でポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからメジャーデビューを果たした。2022年7月にメジャー2ndアルバム「telegraph」、2023年3月にメジャー2nd EP「MAGNET」をリリース。2024年1月には初の東京・日本武道館公演を成功させ、メジャー2ndシングル「Sesame」をリリースした。8月からは全国10都市を巡るライブツアー「Kroi Live Tour 2024」を開催。年内に3rdアルバム「Unspoiled」をリリース予定。

衣装協力
YUKI HASHIMOTO / KIDILL / amok / DISCOVERED / KIMMY / Tamme / SUBLATIONS / I iro tokyo / Eye's Press / CONVERSE