KREVA|自由にヒップホップに向き合った初ミックステープ

KREVAが9月18日に「AFTERMIXTAPE」をリリースした。

本作はKREVAのキャリアにおける初の“ミックステープ”だ。1970年代中盤のアメリカまでルーツをさかのぼるミックステープは、明確な定義付けこそ難しいが、ヒップホップ史を語るうえで必要不可欠なアートフォームである。かつてのミックステープは、主にDJが既存のトラックをミックスし、そこにリリックを乗せることで実際にカセットテープ上で編まれてきた。しかし2010年代にヒットしたドレイク、チャンス・ザ・ラッパー、ヤング・サグ、エックス・エックス・エックス・テンタシオンらが発表してきたミックステープからもわかる通り、今日ではアーティストの自由な創作フォーマットと捉えることも可能だ。

大きなテーマを設けず、作風の統一感も意識せず、ただただシンプルにヒップホップと向き合った全12曲からはKREVAのトラックメイカー、ラッパー、アーティストとしての率直な思考と嗜好、ひいては剥き出しの深層心理や闘争本能が読み取れる。今回のインタビューでは、その制作過程や、ゲストアーティストのJQ(Nulbarich)、宇多丸(RHYMESTER)、小林賢太郎とのエピソードを聞いた。

取材・文 / 内田正樹

あくまでこれは“コマーシャルミックステープ”

KREVA

──まず、“ミックステープ”を作ることになった経緯から聞かせてください。

以前から自分でミックステープを作ってみたかったんです。タイミングとしても、デビュー15周年で9カ月連続リリースという、「やったことのないことをやってみよう」という流れの中で、バンドアレンジのベストアルバム(「成長の記録~全曲バンドで録り直し~」)をリリースしてまだ間もない状況でオリジナルアルバムを作るなんて想像の“圏外”という感覚だったし。自然な流れで、「じゃあミックステープかな」と。PRの便宜上、“ニューアルバム”と銘打たれてはいるけれど、俺の中でこれはミックステープです。もっと言えば“コマーシャルミックステープ”。つまり売り物のミックステープですね。

──ミックステープは明確な定義が難しい表現形態でもありますが。

確かに、ミックステープとオリジナルアルバムの違いを的確に例えるのは難しい。CDでもデータでも、ミックステープはミックステープと呼ばれてきたし。言わば創造上の自由ですかね。サンプリングやレーベルの権利関係にも縛られず、ただ「直接、人に届けたい」という自由な発想から生まれたわけだし。だからジャケットも、オフィシャルブートレグ(公式海賊盤)というイメージで、ダンボールみたいなデザインにしました。

──制作はいつ頃から?

ほとんどの曲は今年の3月くらいから録音して一気に作りました。とにかく作りたいトラックを作っては歌詞を書いて。制作に使うノートを見直しても、多分、精査をする間もなくできあがった曲が多かったんだと思います。1曲1曲を短くして、約30分に収めたいという気持ちだけはあったけど、それ以外はオリジナルアルバムと違って、まとめようという気持ちが一切なかった。細部までトリートメントしてあるけれど、ただただ心のままに曲を作っては歌詞を書いて、それを並べて。極端に言えば、結果的にリリースされなくても、それならそれでいいとさえ思ってました(笑)。

──オリジナルアルバムと異なる自由さについて、もう少し具体的に説明をすると?

例えば5曲目の「アイソレーター」について言えば、俺は普段、音楽を通してあまり怒りをリスナーと共有したくないんですね。「基準」のときのように、相当怒ったとき、よっぽど腹に据えかねたときじゃないとやらない。でも今回は、「まあ、ミックステープだからいいや」と。いつもだったら、「こんなことを曲にしてもな」と躊躇や精査をするような言葉も、ほぼ出てきたままの状態で使いました。

──今回、主に使った機材は?

多用したのはストリーミングシンセ。音源がクラウド上にあるやつですね。あとは買ったままであまり使っていなかったKORGのprologueというシンセをちょっとだけ。コンピュータだけでも完結できるんだけど、そうするとどうしても立体感がなくなるので。今回のジャケットもそうですが、本物のコラージュに勝るコラージュはないというか。だからけっこう生でオーディオを録音していますね。そうしないと自分が面白くないんです。面白いか、面白くないかは重要なことなので。あと、俺はいつもPro Toolsで曲を作っているんですけど、今作の「アイソレーター」という曲はAbleton Liveで作りました。最近のビートメーカーは、Ableton Liveを使っている人が多いです。

──KREVAさんはなぜ今まで使ってなかったんですか?

使い方を覚えることに費やす時間でアルバムが1枚作れちゃうから(笑)。あとは基本的にこれまでと変わらなかった。「どの包丁で刺身を切るか」という感じの違いでしたね。ライブパフォーマンスでは使っていたので。

JQとの出会いと岡雄三への思い

──1曲ごとにお話を聞かせてください。1曲目の「MIX / TAPE」には東京・神保町のコーヒーショップで録音したという、コーヒー豆を攪拌器にザーッと入れた音が入っていますね。

はい。それとカセットテープの音を合わせています。以前から使いたくて取っておいた“アフターミックス”(※焙煎後の豆を攪拌するブレンドコーヒーの製法)という言葉が“ミックステープ”とつながって、「AFTERMIXTAPE」というアルバムタイトルが生まれたので。

──「敵がいない国」は、ライブのことを歌った曲ですか?

はい。最初に「ゆらゆらU.F.O.」というフックが浮かんだとき、ふと「これ、ライブの歌だな」と。全員が自分のことを観に来てくれているライブは、ほぼ“敵がいない国”じゃないですか。現実は難しいけど、音楽を楽しんでいる瞬間ぐらいはギリで成立する“国”なのかもしれないなって。

──このベースライン、カッコいいですね。今更ですけど、KREVAさんのトラックって、いいベースラインが多いですよね。

このベースラインはさっきお話ししたストリーミングシンセに入っていたものです。いい素材があったってことですね。

──配信リリースもされた「One feat. JQ from Nulbarich」は、JQ(Nulbarich)さんとのコラボレーション曲ですね。

去年の「908 FESTIVAL 2018」で一緒に曲を作ろうと決めて、まずはJQが先に送ってくれた仮歌とトラックに、俺がラップを入れて送り返すところからスタートしました(当時のタイトルは「Stay The Way feat. KREVA」)。だから、骨格を作ったのはJQです。フェスで披露したときにいい感じだったので、バンドサウンドを入れたいなと思って、「成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~」のレコーディング最終日に一緒に録りました。JQとやりとりを何回もしたので、4つか5つぐらいのスタジオの空気が入った歌になりました。

──ちなみにJQさんとの出会いは?

以前、「Red Bull」のイベント(2017年開催の「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017」)で一緒になったときに「昔、3人組でラップやってました」と言われて。「マジか」と(笑)。JQは思っていた以上にヒップホップマインドが強くて。「One~」では、むしろ俺のほうがバンドサウンドにこだわって、8つぐらいのパターンを提示して彼を説得しました(笑)。

──本作で唯一バンドでレコーディングしたこの曲には、KREVAバンドのバンマスだったベーシストで、今年5月に亡くなった岡雄三さんによるKREVA作品での最後のベースプレイが収録されています。岡さんは、どんな方でしたか?

少年と変人が同居しているような人でした。そして、とてもベースが上手な人でしたね。この曲だけを別の機会を設けて際立たせるという考え方もあるのかもしれないけど、俺が考えるミックステープにはいいトラックが惜しげもなく入っているものなので迷わず収録しました。

──「S.O.S.が出る前に」は、ドラムンベースっぽいトラックですね。

気付いたらこうなっていた。ロニ・サイズとかガンジャ・クルーみたいな、出始めの頃のドラムンベースが好きでした。「頑張ってると思うよ」という歌詞が浮かんだので、その言葉に合う女性をイメージして作りました。

──「アイソレーター」のリリックは、思わず膝を打つフレーズの連発でした。

「俺って何が嫌なのかな?」と考えたとき、近年、特に嫌なのがマナーの悪い人で。交通マナーが悪い人とか、食事のマナーが悪い人とか。だから怒っとくならそこかなと思ったんです。身に覚えのある人が聴いて、「うっ!?」となるといいなと(笑)。トラックにはグライムの影響が出ていると思います。アメリカのヒップホップに対して、イギリスのグライムは倍の速度で言葉を重ねていく。勢いがあっていいですよね。

──グライムでは、どんなアーティストが好きですか?

スケプタとかディジー・ラスカル。この曲ではああいうのがやりたかったのかな。今回はルーツやジャンルを混ぜようという気もなければ、出てくるものをあえて止めようという気もなかった。結果的に「グライムっぽいな」とは思ったけど、修正しようという気もなかった。ちょっとしたリズムのズレも味だと思って、そのまま使っています。

──「リアルドクターK」は、医者をモチーフにしたユニークなリリックが特徴ですね。

トラックに引っ張られて、気付いたらこういう歌詞になっていました。韻は踏んでいるけど、なんでこういう歌詞になったのか、自分でもまったくわからない(笑)。