もうちょっと偉くなっていてもいいだろ?
──デビュー15周年おめでとうございます。まずは、15周年を迎えた率直な感想からお聞かせください。
今までも言ってきたんですけど、「もうちょっと偉くなっていてもいいだろ?」と。
──と、言うと?
今って、社長とか部長とか課長とかなんらかの役職はもらっているんだけど、給料はそのまま変わらずみたいな感じなんです(笑)。バイトなら「とりあえずアイツをリーダーにしといたら?」みたいな。
──その発言を踏まえて前作の「存在感」を聴くと、なんだか香ばしい気持ちになりますね(笑)。
それはヤバイ(笑)。でも、本当にもっと偉くなれると思っていたんですけど、なかなか難しいなと。ずっとそう感じていますね。
──ちなみに、その偉くなっている像とは、KREVAさんの中でどんなものなんですか?
思うがままツアーをしたり、思うがまま作品を出したりとか。
──今は思うがままじゃない?
じゃないですね。思ったら即実行できる場所とパワーがない。「次は、全曲ロサンゼルスレコーディング行きますか!」とか言って、みんなですぐ行くとかね。まあ、そういうのを求めているのかと問われたら、今は別にそうじゃないんだけれど、 何かをやるとなっても「うーん」と考えちゃう自分がいることは確かで。
──それはつまり、自ら気を遣って採算を考えてしまうとか、活動にブレーキやセーブをかけてしまうということでしょうか?
そうですね。「知ってしまったが故に」という。そこに穴があるとわかっていたら走れないというか。例えば、「テキーラがめちゃくちゃ好きだから、ちょっとメキシコまで行ってくるわ」とノリで行けるうちはいいんだけど、メキシコの犯罪率の高さとか知ったら、今は怖くてちょっと行けないなあと。
──キャリアを重ねた分、理想と現実を知ってしまった?
そうそうそう。
──そうしたジレンマも抱えつつ、「存在感」のインタビュー(参照:KREVA「存在感」インタビュー)では、一時、音楽が楽しくなくなってしまったことについてもお話しいただきました。それでも折れずに迎えたソロ15周年ですが、現在の原動力を問われたらなんですか?
やっぱりシンプルに音楽が好きというのと、これしかできないということ……いや、やりたいのはこれだなという地点にちゃんとたどり着けたところかな。そこはデカいですね。
──KREVAさんのライブに足を運ぶと、お客さんの熱量がとても高く感じられます。そこも背中を押してきた要因の1つなのでは?
もちろんです。だから理想としては、去年の「完全1人ツアー」を、さらに倍か、それ以上の回数できるぐらいが俺の思う「偉くなった」姿ですね。あのツアー、すごい楽しいんですけど費用対効果が悪過ぎるんですよ(笑)。準備にかける物量と、披露できる場所と、得られるものの比率が合っていないんですよね。
──本当はもっと得ないとという感じ?
そうそうそう。でも、受験勉強じゃないけれど、ちゃんと準備をすればその分、結果というか評価も返ってくる。当たり前のことかもしれないけれど、それも強く感じられました。
──KREVAさんには“Dr.K”という二つ名もありますが、それがさらに広く浸透するか、もしくは坂本龍一さんにおける“教授”的なニックネームがもう1つ付いてほしいぐらい「完全1人ツアー」は面白くてためになるライブでした。
ありがとうございます。まあそういう二つ名が自然発生的に付いたらいいですね。
バンドサウンドは不利じゃない
──「成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~」は、ライブでもよく披露されるレパートリーをバンドサウンドで録り直したものですね。
10周年のときもだいぶ豪華なベスト盤を出したし、その前にもベスト盤を出したことがあるし。しかも、今やプレイリストを組めば自分だけの無限のベスト盤が生まれるわけでしょう? だったら、せっかくここまでライブをバンド編成でやってきたんだし、全曲バンドで録り直したやつを出そうとすぐに決めました。たまに自分の曲がラジオとかで流れているのを聴くと、「今はそうやって歌ってないな」と感じて。曲ってライブで育っていくじゃないですか。とくにラップはフロウが変わることもあるし。せっかくならば最新形を皆さんに聴いてほしかったので、そういう意味でも「成長の記録」というタイトルはいいなと。
──ほかのメディアの取材では、ストリーミングが隆盛の昨今において、ある意味で「バンドサウンドは不利といえば不利」というを発言されていましたが、その側面からの躊躇などは?
それは一切なかったですね。このサウンドが不利という意識もまったくなかったし。
──そこはアレンジも含めて、ツアーで練られてきた蓄積や手応えがあったから?
まさにそうです。「アレンジも固まってきたね。で、どうすんの?」ということじゃなく、「俺たちがやるのはこれだ」というものができあがっていたので、これを形に残そうと素直に思えました。
このままライブをやっても成立する
──今回のレコーディングで重点を置いたポイントは?
アレンジは固まっていたからスタジオでは一切迷わなかったんですけど、音源をプライベートスタジオに持ち帰ってからいじっていたんです。すると、スタジオで録っていたときはOKだったものが、いざ作品として聴くなるとまた別というか。ライブでよくても、それを作品にしようとするとまったく違うんだなと思った。俺の最初の思惑で言えば、バンドでライブの通り演奏をして、それをババッと録ればそのままいい形になっていくのかなと踏んでいたんですが全然そんなことはなかった。バンドのグルーヴそのものを変えることはなかったけど、ミックスも相当したし、ドラムの音も意識的に補強しましたね。普通のバンドサウンドに聞こえたくないという点も含めて、そこはかなりこだわりましたね。
──曲を持ち帰ってから詰めていく作業にはどのくらいの時間を費やしたのですか?
このレコーディング自体が約2年、途中で触っていない期間を除いても実質1年半はかけていて。レコーディングして持ち帰っては音をいじって、納得のいく形に整えていくという作業を繰り返していましたね。これまでの俺のベスト盤の流れからいくと、曲順はリリース順かリリースをさかのぼる形になりがちなんですけど、そう並べるとものすごいボリュームになっちゃうので。ライブをやるつもりで曲順を決めて、その曲順に合わせて、またさらに編集を繰り返していきました。全体の終わり方を変えたりとかね。
──確かに“ライブ感”も、本作が持つ気持ちよさの一端だと感じられます。
うん。このままライブをやっても成立するぐらいの曲順だと思います。
──それこそ「存在感」は、リリース時のアレンジからガラリと変わりましたね。
「存在感」は俺がわがままを言って2回録ったんです。オリジナルの「存在感」ができた直後にすぐにそれをバンドに聴いてもらって、バンドアレンジのバージョンができたんですよ。で、その後のライブでBPMを上げて、全員がつかんだものをまたさらに形にしようともう1回録り直したんです。「完全1人ツアー」でもやったので、新たに自分で作り直したバージョンとバンドのバージョンを合わせてできた「存在感」とも言えますね。あと「908 FESTIVAL 2018」(2018年8月31日に東京・日本武道館で開催)の1曲目だったので、「派手にしよう」という意識も働きました。
──そのほかにライブの手応えが反映されたという曲は?
「成功」のゆっくりしたバージョンとかは、TOKYO FMでやった企画ライブに合わせて作ったアレンジが原型でした。そういうフィードバックは多々ありますね。
──これはピアノの音が気持ちいいですね。
それもライブの曲順ありきでしたね。曲に入るまでの時間で弾いていてもらったピアノが定番になったという。
──「イッサイガッサイ」はよりトロピカルになりましたね。
これは夏フェスでダンスホールレゲエっぽくやっていた時期があったので、その影響かなという気がしますね。
──「アグレッシ部」は音数が増えて、“横幅”が広がったアレンジになっていますね。
もとのストリングスは、Bunkamura Studioで録らせてもらったんですけど、当時は何をどう録るとか、どの楽器がどういう役割をしているとか、まったくわかってなかったんです。今はだいぶコントロールできるようになったので、その当時のファイルを編集して、人数感を増やして、それをまたバンドに聴いてもらい、それに合わせて演奏してもらいました。だから物理的に横幅は広がっていると思います。
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周年のご褒美でロンドンへ