KREVA|「録り直しベスト」で導き出した最新形の正解

子育て世代を俺は待つ!

──あくまで個人的な印象ですけど15年選手のライブとしては客層に若い子も多い気がしますけどね。

そうですか? 仮に俺ドンピシャの世代が俺と同世代前後だとすると、そこってかなりの人が今、子育てをしていて音楽から遠ざかっている現状もあると思うんです。その人たちに関しては俺は待つ!

──そこは確かに仕方がないですよね。ひと段落していただくまでは(笑)。

ひと段落したら、きっとライブもまた来てくれるだろうし。あとは自分の中での反省としては、ある時期から世の中の音楽のこととか、あまり考えなくなっちゃった自分がいたんです。

──ああ、つまり何が流行っても俺は俺、みたいな?

うん。そうなっちゃった部分は少なからずありますね。昔、DREAMS COME TRUEのメンバーがニューヨークでレコーディングした際に、「ドリカムはドリカムの音楽しか聴いていない」みたいな発言をされていて、「すげえ!」と思ったんです。だからドリカムのせいです(笑)。ドリカムの夢は叶ったのに俺の夢は叶っていないんですよ! 嘘です。お会いしたこともないのに(笑)。

──とんでもない言いがかりですね(笑)。

今のは冗談ですけど、真面目な話、要は自分たちの音楽にどう自信を持って向き合うかだと思うんですね。その過程において、俺は「こうしたら世の中に響くはず」というよりも、自分ができることにフォーカスを移しすぎていたのかもしれない。あとは2011年以降、自分のファンに向けて歌おうとする姿勢が強くなった気がしますね。そうなるとどうしても狭くなる。歌詞を書くときも世の中に向けて「イェイ!」みたいなことは、あまり言えなくなったというか。ちょっとミクロ化した気はします。もちろん、その先にマクロがあると信じてはいるんですけどね。

──でもそれって、業界全体的に音源セールスが下降して、よりライブの集客にスポットが当たり始めた頃の流れを踏まえた必然の動きだったとも捉えられますよね。つまり、それはそれでちゃんと時代の流れに敏感だったというか。

そうかもしれないですね。もし、その頃に「イェイ!」と世の中に対してやっていたら、今聴いてくれているファンのコア層はいなくなっていたかもしれないし。そういえば、歌詞を書くのも年々遅くなってきた。昔だったら、トピックなんてなんでもよくて、しかもすぐラップにできた。でも、「俺のファンはこの人たちだ」と顔が見えてくると、より大切にしたいという意識が働くから、作詞にすごく時間がかかるようになった。適当なことは言えませんからね。一方で、トラック作りは、もうずーっと楽しいですね。それだけは変わらない。「トラック作りだけで仕事になったら最高なんですけど」というぐらい年中ずーっと作っている。そこは一生変わらないと思います。

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“エデュテイメント”の才能

──トラックメイキングで、最近この界隈が面白いとか、この人が衝撃だった、みたいなことはありますか?

ないですね。もう、誰とかそういうのはない。俺がそう思う人や界隈って、だいたいブレイクしているしね(笑)。そこは曲単位ですね。「この曲のこのやり方が面白い」とか「この機材使ってるのか」とか。

──それでいうと、もう一度「完全1人ツアー」に話を戻しちゃいますけど、個人的には使用機材の詳細な説明もかなり楽しませてもらいました。

うれしいことに、あのライブを観てくれた人が寄せてくれる俺への評価が、それ以前とまったく変わるんですよね(笑)。

──「完全1人ツアー」はぜひ今後も続けてほしいですね。

ありがとうございます。まだまだいろんなやり方ができると思いますし、次にまたやる際は今回のアルバムをバラバラにすることだってできるし。それだけでも前回とはかなり感触が異なるはずだと思う。この“エデュテイメント”、つまり“エデュケーション”プラス“エンタテインメント”は、やるたびに素晴らしい着地が見られると思います。しかも、これができる人って今は本当に少ないと思うんです。例えば宇多丸(RHYMESTER)さんなら歌詞に歴史を入れ込んでやれるけど、機材から録音から編集に演奏までもすべてを触って“エデュテイメント”をできるのは、多分、ラッパーではまだ俺くらいしかいないはずなので。まあ、すげえニッチな世界なので見せ方のバランスは重要ですけど、それが1つの武器だと気付けたのはかなりデカかったですね。

──そこから新たな才能を発掘したり、それこそ坂本龍一さんとテイ・トウワさんのような関係性になれる後続のアーティストだって誕生するかもしれません。

うん。3年前ぐらいから、自分の持っている知識をもうちょっとみんなに授けていきたいと考えていました。今のところ熊井吾郎(※DJ、トラックメーカー)にしか教えてないので。もっと「曲って、案外簡単にできる部分もあるんだよ?」というきっかけを提示していきたいというか。プロと言われている人たちでも、機材を使いこなせていない人ってけっこう多いように思うんです。どうしても自分で新しい曲を作るほうが楽しくなっちゃうんだけど(笑)、そこで自分が持っている知識を解禁しつつ、誰かと一緒に曲を作ったりしていけたらとは思ってます。例えば、RomancrewをやっていたALI-KICKは、ビートメイクもやれる一方で、俺の「PROPS」という曲のMVも撮ってくれている。そういう近しい仲間とも助け合いながら新しい音楽が作れたらいいですね。

──知識とは言わば商売道具です。ライブはチケット代こそ発生しますが、その宝箱に鍵をかけるのではなく、むしろどんどんシェアしていきたい?

そうですね。だからYouTuberとしての道も一瞬考えたんですけど、実際、音楽系のそういうニッチな動画って観ているやつがまあ少ないんですよ(笑)。俺が観ているような、すごく一生懸命いいこと教えてくれている動画でも視聴者は1200人ぐらいとかで。アメリカで大成功しているやつでも何十万再生がいいところですから。やっぱり、ライブには生のエンタテインメント性があるし、瞬間のマジックも生まれるじゃないですか。

──確かにそうですね。今後の展開が楽しみです。6月30日には15周年を記念した武道館ライブも控えていますね。

これまでの武道館ライブを振り返ると、どうしても「908 FESTIVAL」の印象が強くなると思うんですけど、そうではなく自分1人だけでやっていた頃の武道館を思い出して、「完全1人ツアー」とは違うライブをやろうかなと。もちろん、「完全1人ツアー」や「908 FESTIVAL」の要素も交えつつ、せっかく今回のアルバムで17曲もの最新の“正解”を弾き出せたので、そこも生かしてやれたらと思っています。

ライブ情報

15TH ANNIVERSARY YEAR
KREVA NEW BEST ALBUM LIVE 成長の記録
  • 2019年6月30日(日)東京都 日本武道館