寿美菜子「Curious」インタビュー|いつも好奇心を胸に──約5年ぶりの新作「Curious」完成

寿美菜子が1st EP「Curious」を10月25日にリリースした。

寿にとって約5年ぶりの音楽作品となるEPには全6曲を収録。そのうち5曲の作詞を寿が自ら手がけ、作編曲に山本玲史、ひびね。、金崎真士、クボタカイ、Taro Ishida、山崎真吾、川口圭太が参加している。

寿は「世界の大きさや広さを知り、もっともっと色々なことを見たい! 知りたい!という想いが溢れてきました」という言葉を残し、2020年から1年半にわたってイギリスに留学した。常に好奇心を胸に抱き続ける彼女には、まさにEPタイトルの「Curious」という言葉が似合う。音楽ナタリーでは寿に約5年ぶりにソロインタビューを行い、前回のインタビューから約5年間での心境の変化や、楽曲の制作過程について話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 梁瀬玉実

私の原動力は好奇心

──今回のEP「Curious」は、12thシングル「save my world」(2019年1月発売)以来、約5年ぶりのリリースになります。その間、イギリス留学やコロナ禍などいろいろなことがあったと思いますが、音楽活動に限った範囲で、どのような影響あるいは変化がありましたか?

変わらない部分と、変わった部分の両方ある気がしていて。変わらなかったのは、イギリスでもリモートで歌のレッスンは続けていたので、歌うことへのモチベーションや音楽を通して自分と向き合う時間を持てていたことです。そのおかげか、今年の5月に「さよなら中野サンプラザ音楽祭」で歌わせてもらったときに「いいね!」「ひさしぶりのライブって感じがしなかった!」といった反応もいただけて。それが今回のEPにつながったんです。

──え? 5月に制作が決まったんですか?

そうなんです。作り始めたのは7月からだったので、我ながらよく間に合ったなと(笑)。で、この5年間で変わったのは、音楽に癒される時間がどんどん増えていったことなんです。それ以前は、特に「save my world」のときはメンタル的に「とにかく攻めたい」「強く訴えたい」という感じだったんですけど、今は自分がリラックスできる曲も歌いたい。EPの収録曲でいうと「Chilling out」がまさにそういう曲になっていますね。

寿美菜子

──そのEPのタイトルが「Curious」=好奇心旺盛という。

最近、こういった取材で「自分の原動力は何か」みたいな話になったときに、よくよく考えると好奇心だなって。興味が向いたことはとりあえずやってみる。その積み重ねが今の自分を形作っている気がしたんですよ。裏事情としては、急ピッチでの制作だったので収録内容との関連性のあるなしはひとまず置いて、EP発売をアナウンスするためにもまずタイトルを決める必要があったんですけど(笑)。

──EP発売の発表があったのは7月7日でしたよね。

そうそう。しかも、その発表では「全5曲収録予定」だったのが、いい曲が多すぎて1曲増えたという。でも「とりあえずタイトルだけ決めて、あとは流れで」みたいな自由度の高い作り方にも可能性を感じましたし、どんな曲が収録されるにせよ、私の好奇心を出発点に出会っていく曲たちになるんだろうなという予感もありました。

──結果、収録された6曲は寿さんのスタンダードを更新しつつ意外性もある、バラエティ豊かなものになりましたね。

「Sense of Wonder」と「OMAJINAI」と「Golden hour」の3曲は決め打ちだったんですよ。「Sense of Wonder」のひびね。(暁月)くんと、「OMAJINAI」のクボタカイさんは私が大好きなクリエイターでありアーティストなので、この2曲に関しては私の指名というか希望が通った感じです。「Golden hour」の川口圭太さんは、今までも「ウレイボシ」(2014年9月発売の2ndアルバム「Tick」収録曲)や「"YES"」(2016年3月発売の10thシングル「Bye Bye Blue」カップリング曲)、「アンブレラ・アンブレラ」(2016年12月発売の11thシングル「ミリオンリトマス」カップリング曲)でお世話になっていたので、そんな圭太さんが思う「今の寿が歌うとハマりそうな楽曲」を書いていただきました。

──その3曲は、言ってしまえば各作家にお任せで?

そうですね、わりとフレキシブルに考えていて。逆にそれ以外の3曲は、各テーマに基づいてコンペで選ばせてもらいました。具体的には、5月に中野サンプラザで歌ったときにファンの皆さんがロックな曲を喜んでくださったので、ロック枠は設けようと。ただ、ロックはロックでも「black hole」(2015年4月発売の8thシングル表題曲)みたいなヒリヒリした感じなのか、はたまた「Shiny+」(2010年9月発売の1stシングル表題曲)まで戻ってポップにいくのか、いろいろ模索しまして。最終的に、1曲は昔の私がよく歌っていたライトなロックを今の私が歌ったら、当時とは違う重みや説得力が出るんじゃないかという観点で選びました。でも、皆さんが予想だにしないロックがあっても面白いので、そういう曲も入れることにして。もう1曲は、今の私がリラックスできる曲というテーマで曲を集めていただきました。結果、私の想像を超えた3曲と、私にとって理想的な3曲が混ざり合った、おもちゃ箱みたいなEPになりました。

唇にスズメバチが止まる夢を見た

──1曲目の「唇にWasp」は洋楽的かつ骨太なロックナンバーで、今のお話の流れでいうと「予想だにしないロック」になりますね。作編曲は山本玲史さんです。

この曲は、山本さんが作家デビューする前に書いた曲だそうで。あまりにも洋楽的で、当時の流行りとは合わなくて温めておいたのを、今回のコンペ用にブラッシュアップして提出してくださったと伺っています。もう、1回聴いただけで忘れられなかったですし、この重さと少しの切なさが、今までの私のロックナンバーにはありそうでなかったので、ぜひ歌いたいと思いました。

──サウンドはタフなのにボーカルは抑え気味で、例えば「black hole」や「ウレイボシ」のようにシャウトする感じではないですね。

「唇にWasp」はメロディを大事にしたいという思いもあったし、歌詞の内容的にも外に向けて発散するというよりは「いつも言いすぎてしまう」と悔いたり、自分を省みる感じなので自然とそうなりました。ちなみに「唇にWasp」というタイトルは、以前、私が見た夢がもとになっているんです。

寿美菜子

──“wasp”ってスズメバチですよね。めっちゃ怖い。

ですよねえ。夢の中で唇にスズメバチが止まるという。起きてから「え、何これすごい! 歌詞に書けるかも?」と思って取っておいたのを、ここで生かすことができました。この曲は自分の気持ちを言葉にすることについて歌っているんですけど、私は言葉を扱うお仕事をしていることもあり、そういうことを考える機会も多くて。言葉はときに他人も自分も傷つけてしまう。その怖さが、スズメバチと合うんじゃないかと思ったんです。

──言葉の危うさと確かさの両方を知っているからこその葛藤、みたいなものが表れている歌詞ですよね。

本当にそうですね。答えが出ているような出ていないような曖昧なところはあるんですが、歌詞の最後には「Don't be afraid to say」「Why don't we share our feelings now?」と。私はイギリスで英語の難しさを身に染みて感じたんですけど、言葉が通じなくても気持ちを伝える手段はあるし、逆にネイティブじゃない人同士で話すほうが、よりパッションでつながれる場合もあるんですよ。だから言葉以外のコミュニケーションも可能だけれども、言葉のおかげでつながれる人たちもいる。そういうことを再確認しながら書きました。

──言うべきこと、言いたいことがあったら言ったほうがいいと僕は思います。ただし、寿さんがおっしゃった言葉の「怖さ」に自覚的であることと、言う相手に対する想像力を持つことが前提ですが。

うんうん。私も迷ったら言うほうをチョイスするタイプなんですけど、言い方にはバリエーションがいっぱいあることを大人になればなるほど知っていくというか。いろんな人を見て「この人の言い方、素敵だな」と思う反面、そういう言い方ができない自分に落ち込んだりして。たぶんそれって、私にとって永遠のテーマのような気がするし、きっとこの曲を聴いてくださる方々にも重なる部分があるんじゃないかな。余談なんですけど、この歌詞を書いていたときに、家のベランダにも毎日ハチが来るようになっちゃって。

──夢の中だけじゃなくて、現実にも。

「やばい。これは巣を作られるんじゃないか?」と思って、ハチよけの線香を焚いたりハチが嫌がる匂いを振り撒いたりしていたんですけど、歌詞を書き終えた瞬間から来なくなるという、不思議な出来事がありました。