「Curious」の制作を通じて感じた、不思議な感覚
──2曲目の「Sense of Wonder」はひびね。さん作編曲のEDMです。ロックとともに、今やこうした現代的なダンスミュージックも寿さんの軸になっているように思います。
ひびね。くんには「ジャンルはなんでもオッケーです!」とお願いしていたので、どんな曲が上がってくるか予想できなかったんですが、「私はロックも好きだけど、ダンスも好きだな」と改めて思わせてくれる曲をいただきました。今までも「save my world」とか「i wanna be my precious one」(「Tick」収録曲)とか、いろんなダンスナンバーがあったけど、それらと比べて「Sense of Wonder」は、音数は多いにしても大事な音以外はそぎ落とされていて。かつ重すぎず軽すぎず、でもキメるところはキメるみたいな、そのバランス感覚が絶妙なんです。ひびね。くんはZ世代のクリエイターだから、私にはない新しい感覚を持っている……なんて言い方をすると自分も歳をとったなと思うんですけど(笑)、私がイメージするZ世代の音楽って、まさにこういう感じなんですよね。
──“sense of wonder”は、特にSFの文脈で「不思議な感覚」「不思議さを感じ取る感性」のことを言いますね。
「Sense of Wonder」は最後に作った曲で、この「Curious」の制作を通じて感じた、目に見えるものだけじゃない不思議な感覚を歌詞に残したかったんです。さっきのハチの話もそうですけど、制作中に不思議なことがけっこう起こって。例えばジャケットやミュージックビデオの撮影でも、雨が降りそうな予報だったのに当日は晴天だったり、撮影現場でも「マックスで風速8mぐらいになるので、髪がバッサバサになるかも」と言われていたのに無風で済んだり。それが、自分が祝福されているように感じられたんですよ。もちろん偶然と言われればそれまでだし、信じる信じないは人それぞれだけど、私は信じたほうが、より自分自身がハッピーになれると思ったんです。
──ボーカルに関しては、特にA、Bメロを低いトーンで、ややダウナーな感じで歌っているのがカッコよかったです。
わあ、うれしい。「Sense of Wonder」は私の曲の中で最もキーが低いので、キーチェックのときに「上は問題なさそうだけど、下はどのあたりまでいけるかな?」「練習すればなんとかなりそう」とディレクターさんと話し合って、ボソボソとささやくような歌い方に決めたんですよ。特に2番の「離れてみたら 知らせに気づく どれだけ奇跡 恵まれてたのか」というパートの、途切れ途切れに歌っていく感じがお気に入りで。正直、ひびね。くんから音源を受け取ったときは、このリズムとメロディにどんな歌詞をハメたらいいか全然思い浮かばなかったんですけど、歌ってみたらすごく心地よかったです。私の中で、このパートは宇多田ヒカルさんのイメージなんですよ(笑)。
──(笑)。
宇多田さんもロンドン在住ですし(笑)、宇多田さんの歌い方を想像したら途端に歌いやすくなって。「もっと切って歌ったらどうなりますか?」と、いろんなトライをしながらできあがった曲ですね。
楽曲モチーフは“推し活”
──ここまでの2曲はどこか内省的なところがありましたが、3曲目の「DIVE INTO」はスカッとするロックナンバーですね。作編曲は金崎真士さんです。
弾けていますね。こういった明るめのロックもいい曲をたくさん集めていただいた中で、特に「DIVE INTO」はメロディも展開も私好みだし、ライブで私とお客さんが楽しくコミュニケーションしている景色が想像できたんですよ。「DIVE INTO」というタイトルも、いつかどこかで使いたいとずっと思っていたので「ここだ!」みたいな。
──寿さんはダイビングをするんですよね。
そうなんです。だから最初に頭に浮かんだ「DIVE INTO」は“飛び込む”という意味だったと思うんですけど、最近は“没頭する”という意味のほうが強くなっていて。この曲の歌詞も“推し活”がモチーフになっているんですよ。
──ああー。僕はアイドル的なものにハマった経験が一切ないので、そこには思い至りませんでした。
あ、そうなんですか? スフィアのメンバーだと戸松遥ちゃんもそういう経験がなくて、よく「いいな、私も誰かを推したい!」と言っています(笑)。かくいう私も5、6年前までは“推す”とはどういうことか、全然わからなくて。でも、いつも皆さんに推していただいている身として、推す側の気持ちもわかったほうが提案できることも増えるんじゃないかと、1カ月だけ、あるアーティストに無理やりハマるという修行みたいなことをしたんですよ。毎日その人の映像を観たり、SNSもチェックしたりして。
──けっこうな苦行じゃないですか?
1カ月過ごしてみても、どこか俯瞰しているような自分がいて(笑)。でも、そのあと自然と推しができて、そこで「DIVE INTO」して初めて「これか!」と。推すことの楽しさを知ったからこそ、推していただくありがたさもわかったので、ファンの皆さんへの感謝の気持ちも込めています。
──僕は、「DIVE INTO」の歌詞は恋愛または尊敬の対象、あるいはファンに向けたものなのか、いろんな捉え方ができそうだと思ったのですが、先ほど言ったように推しだけは考えつきませんでした。
実際、恋愛に夢中な女の子の歌詞にも見えるように書いていて。私は「『DIVE INTO』してる最中って、こんなに幸せ!」と思っているけど、推しがいない方も当然いらっしゃる。だからいろんな捉え方ができる歌詞にしたかったし、どんな捉え方でも正解なんです。
──解釈の仕方は複数あるにせよ、大切な他者のことを思う曲であることは間違いないですよね。であればこその、憂いのない大胆なボーカルなんだろうなと。
そうかも(笑)。以前、私は友達から「アクティブな人が推し活にハマると、こんなに大きく動くんだね」と言われて、「なるほど! 人によって動き方も違うのか」と思ったんです。例えばおうちで「DIVE INTO」する人もいれば、現場に足を運ぶ人もいる。いろんなタイプがある中で、私はダイナミックに「DIVE INTO」するほうなのかもしれません。
──ちなみに寿さんの推しって?
K-POPのアイドルグループで、一時期は年に4回ぐらい韓国に行っていました。推しの誕生日祝いのラッピング電車を見るためだけに飛行機のチケットを取って、その電車に出会うには何時何分にどこに行けばいいのか一生懸命調べたりして(笑)。
──寿さんは、急に休みができたらその日のうちに荷物をまとめてロサンゼルスに飛ぶような人ですもんね(参照:寿美菜子「emotion」特集)。
そんな話もしましたね。思い立ったらすぐ行動みたいな性格も、もしかしたら「DIVE INTO」の歌詞に生きているのかもしれません。
──歌詞に「キミ想うワタシ 一番輝いてる」とありますが、今楽しそうにお話ししているのを見て、このフレーズの説得力がめちゃくちゃ増しました。
結局、そこなんですよね(笑)。友達と推しについて話しているときも楽しくてしょうがないし、楽しいから自分たちもキラキラしていられるんじゃないかなって。
次のページ »
イギリス留学の経験から得た教訓