映画「殺さない彼と死なない彼女」鼎談 奥華子×間宮祥太朗×桜井日奈子|映像と音が一体となった「殺カレ死カノ」の魅力

最初の10曲はボツに

間宮 音楽と映像のリンクが印象深い場面はたくさんありますが、その意味で一番印象的なのは冒頭のシーンかな。それぞれの登場シーンに合わせて音楽が変化して、これから起きることを予期させる、ワクワクする音楽が付いているんです。まるでジェットコースターみたいなメロディですよね。

 監督が劇伴でもっともこだわっていたのが最初のシーンなんです。「きゃぴ子(堀田真由)がシュンとするところで音をなくして」とか「最後はカーニバルみたいな感じで」とか。映画の冒頭で小坂が登場するシーンもすごくカッコいいですよね!

左から間宮祥太朗、桜井日奈子。

桜井 私は小坂と鹿野がバイバイするシーンの音楽が印象に残ってますね。

 あの場面、切ないですよね……あそこは「エンディングみたいな感じで」という指定があったんですけど、実は冒頭の曲と似た雰囲気にしているんです。

──劇中で一番幸せな場面かもしれないですね。その後、意外な展開を見せますが……。

桜井 すでに映画を観てくださった方からも、「あのあと、まさかこんな展開になるとは」というコメントが寄せられていて。そう感じてもらえるのも、音楽の力が大きいと思ってます。

 ありがとうございます。劇伴、大変でしたけどね(笑)。最初に作った10曲くらいは全部ボツになっているので。

桜井 えー!?

 監督に「弾きすぎです」と言われて。そのあと、かなり音数を減らしたんです。

桜井 監督には最初から映画の完成形がハッキリと見えているようでしたね。私も撮影が始まったばかりの頃は、監督から言われたことがうまく咀嚼できなくて苦戦していたんです。撮影初日は冒頭のシーンだけで5時間もリハをやったんですよ。小坂とクラスメイトが話していて、私はその奥でずっとゴミ箱をあさり続けるシーン(笑)。撮影を重ねていくにつれて監督が求めていることがわかるようになり、そこから先はいろいろスムーズに進んでいった気がします。

「天気がよくならないから、今日は撮影をやめよう」

奥華子

 音楽を作っている中で感じたのは、とにかく監督のこだわりがすごいということで。撮影中は日の光が傾くまで何時間も待ったことがあったと伺いました。

間宮 今回の撮影では基本的に照明を使っていなくて、自然光で撮影したんですよ。日の光を使った独特な画作りなんですけど、それがけっこうよくて。皆さんにもきっと「これはいいかも」と思ってもらえると思います。

 しかも手持ちのカメラで、長回しすることも多かったんですよね?

間宮 はい。そういう撮り方だとカット割りがないから、あとで編集できないんですよね。「念のため、こっちの角度から撮っておくか」ということもないし。ただ、長回しで20テイクくらい撮ることもあって。

桜井 ありましたね(笑)。

 果てしないですね……。

桜井 朝から支度して、天気がいい感じになるまでずっと待った挙句、「天気がよくならないから、今日は撮影をやめよう」という日もありました(笑)。最初は不安もあったんですけど、スケジュールに余裕があったこともあり、撮影が進むにつれてこれで大丈夫と思えるようになったし、私も無理せず鹿野を演じられました。

間宮 僕もお芝居をするにあたって、今回はまったく力が入ってない状態で臨めたんです。今まではしっかりと役作りを決めてかかる役が多かったんですけど、今回の撮影では監督から「気乗りしなかったら、そのテイクは捨てていいし、無理して“見せなきゃ”と思う必要はない」と言われてたんです。それが楽しかったし、新鮮だったんですよね。完成したときも、「こんなにリラックスして演技している自分を初めて見たな」と思いました。

 この映画は、間宮さんのカッコよさが120%出てると思います。ファンの方はもちろん、とにかくいろんな方にぜひ観てもらいたいです。

映画に関われたことは、15年の音楽人生の集大成

桜井 私、この作品には、「1人でも大丈夫」というメッセージが含まれていると感じていて。この映画に携わってみて、大切な人と過ごした時間が、今の自分だけじゃなく、この先の自分も支えてくれるんじゃないかな……と気付きました。皆さんにも何か受け取ってもらえる映画になっていると思います。

間宮祥太朗

間宮 自分の過去を振り返ってみると、「あいつは俺の本質をしっかり見てくれていたんだな」という存在に気付くことがあるんですよね。酸いも甘いも見てくれていて、否定も肯定もせず、自分を認めてくれる人がいると、すごく安心できると思うんです。今の時代、SNSのフォロワー数を気にする風潮があったり、自分の発言がどれくらい見られているか気にしたり、個人が大多数を相手にしすぎている気がして。そうじゃなくて、本当は大切な人がそばにいればそれだけで幸せなはずなんですよね。この映画を観たあと、「ひさしぶりに昔仲良かった同級生に連絡してみよう」と思ってもらえたら、すごくうれしいです。

 1人でも味方がいてくれたら大丈夫だと思えるし、その人がそばにいてもいなくても、1人の存在によって自分の中の何かが変わることがあると思うんです。それって、私が自分の曲で描いてきたテーマと同じなんですよね。だからこそ、この映画にはすごく共感できたんです。表現したいテーマや世界観が似てるし、この映画に関われたことは15年の音楽人生の集大成だなと思っています。あとエンドロールのときに曲が流れるので、ぜひ最後まで聴いてほしいです! 席を立つ人がいるんじゃないかと心配で……。

間宮 それは大丈夫だと思います。あそこで席を立てる人はいないんじゃないかな。

桜井 奥華子さんの主題歌を含めてこの映画は成立しているので。ぜひ最後の最後まで聴いてほしいですね。

左から桜井日奈子、間宮祥太朗、奥華子。