10代作詞家募集中!「青春恋愛MVプロジェクト」特集 佐伯youthKインタビュー|未来の作詞家に贈る、“オリジナルの詞”を生むためのヒント

10代の若者を対象に“青春”や“恋愛”をテーマにした歌詞を一般募集し、佐伯ユウスケ名義でアーティストとしても活動する作家・佐伯youthKと、マンガ「田中くんはいつもけだるげ」原作者のウダノゾミとコラボレートしたミュージックビデオを制作する企画「青春恋愛MVプロジェクト」が本日9月18日に始動した(参照:10代の作詞家を大募集!佐伯youthK、ウダノゾミ参加のMV制作プロジェクト始動)。

バンダイナムコアーツが主催するこの企画では、テレビアニメ「田中くんはいつもけだるげ」制作スタッフチームの協力のもと、佐伯が作曲、ウダがキャラクターデザインを担当した完全オリジナルのMVが制作される。音楽ナタリーでは、作品のストーリーを担う“未来の作詞家”の募集開始を前に佐伯にインタビュー。これまで西野カナ、Nissy(西島隆弘)、SixTONES、入野自由といったさまざまなアーティストの楽曲に参加してきた佐伯に、作詞活動を始めたきっかけや自身が思う“いい詞”のルール、今回の企画を機会に初めて歌詞を書く人たちに向けてのアドバイスなどを聞いた。なおコミックナタリーではウダのインタビューを公開している。

取材・文 / ナカニシキュウ 撮影 / 須田卓馬

楽しみな気持ちでいっぱいです

──まず今回の企画についてのお話があったとき、どんなふうに感じましたか?

10代の作詞家さんを募集するというところがまず衝撃的でしたね。僕は曲を作るときメロディと歌詞を同時に考えていくことがほとんどなので、もちろん作詞家さんが入ることもあるんですけど、「そこにリアルな世代の方が入ると、どうなるんだろう?」と楽しみな気持ちでいっぱいです。

──今日は佐伯さんの作詞に対する考えをいろいろ聞いていきたいんですけど、そもそも最初に曲作りを始めたのはいつごろだったんでしょうか。

佐伯youthK

高校を卒業した18、19歳くらいですね。その年に音楽とかお芝居とかいろんなことをやる専門学校に入りまして、その一環で。当初は既存の楽曲のオケを作ってカバー曲を歌っていたんですけど、そのスタイルでは生き残っていけないと思い、だったらキーの設定から歌詞からサウンドから、全部を自分の気持ちいいようにできるオリジナル曲を作ろうと。そうすれば自分の色も出せますし、そのほうがいいなと考えたのがきっかけです。

──当初から作曲だけでなく、作詞もされていたんですか?

そうですね。先ほどもお話しした通り、基本的には詞曲同時なので。こういう言い方をしちゃうとカッコよくなっちゃうんですけど(笑)、どのメロディにも自然と呼ばれてくる歌詞、とくに母音の感じというのが必ずあるんですよ。

──詞の内容についても、当時からこだわっていたんでしょうか。

はい。あまり人が使わないようなワードをあえて入れてみたり、ちょっと下ネタを混ぜてみたりとか(笑)。引っかかりがないと聴いてもらえないと思っていましたし。

──ちなみに当時、作詞の面で参考にしていたソングライターはいましたか?

参考にしていたというより、ただただ好きでめちゃくちゃ影響を受けたのは、さかいゆうさんとRHYMESTERさんですね。その2組に共通するのは、難しい言葉をあまり使わずに深いことを言っていて、共感できたり考えさせられたりするところ。あと聴いていて耳なじみがすごくいいというか、単に伝えたいことを書いているだけじゃなくて、ちゃんとリズムや語呂が意識されているんですよ。ラップなんてその最たるものですけど、そういうところに無意識に惹かれていたんだと思います。

よく考えたらドSですよね

──佐伯さんにとって、“いい歌詞”とはどういうものですか?

それは難しい質問ですね(笑)。

──すみません(笑)。答えるのに一晩かかるテーマなのは承知の上で、かいつまんで教えていただけると。

ちょうど昨日も作詞の作業をしていて、「いい歌詞とはなんだろう?」みたいなことを考えていたんですけど……作家目線で言うなら、やっぱり難しい言葉を使わずにわかりやすい表現でちゃんと深く伝えることができている歌詞はすごいと思います。もう1つ個人的な目線で言うと、好き嫌いはさておき、その人なりの言葉が出ているものは“いい歌詞”だと思いますね。言葉遣いもそうですし、文章構造やストーリーの作り方などがオリジナルなもの。

──ほかの人からは出てこないような。

そうですね。オンリーワンなものというのは、オリジナルな歌詞を作るうえで重要な条件の1つだと思います。

佐伯youthK

──佐伯さんは作詞も作曲も編曲もされますし、さらにご自身で歌も歌われる方です。全体を生み出せるタイプの方にとって、部分的に「作詞だけしてください」という仕事は逆に難しかったりしますか?

いや、そんなことはないですね。難しくはない……けど、ちょっと脳みそを変えないとなっていうところはあります。作詞だけの場合は、自分の中から出てきたメロディではないので、どういう言葉を乗せたら一番気持ちいいかをつかむのにすごく時間がかかるんです。最初、メロディはシンセメロで届くことがほとんどなんですけど、そこにどれが正解なのか考えながらパズルのように言葉を当てはめていく、とても根気のいる作業ですね。

──詞曲を同時に作るときと違って、ほかの方が作ったメロディを1回自分の中に入れる作業が必要になると。

そういうことです。それに加えて、作曲した方に失礼がないように返さないといけないっていう気持ちもあるので。

──それを今回、10代の若者にやってもらおうという企画ではありますけど(笑)。

確かに……よく考えたらドSですよね(笑)。

体験がゼロのものは書けない

──今回の企画のように、テーマを指定されて作詞をするお仕事も多いと思います。そういう場合、どういうところから考え始めるんですか?

人って、自分が体験したことしか表現できないと思うんですよ。例えば宇宙の話であっても、どこかで見たり聞いたりしたものから想像して作っていることがほとんどで、体験がゼロのものを書くのは無理だと思うんです。なので、どんなテーマであれ、まずは自分が体験したことや思っていることを根幹にして発想を広げていく。恋愛がテーマだったら「あのときこうしたけど、仮にそうしていなかったら?」というストーリーにしてみたり、「あのときはこう思っていたけど、今の年代になって考え直してみたらどういうアプローチになるだろう?」とか。

──自分の身をいったんその世界に置いてみて、想像を膨らませると。

そうです。リアルなものを中心に置いて。例えばこの間、Leadの「シンギュラリティ」という楽曲(2020年3月発売のアルバム「SINGULARITY」収録曲)で作詞を担当したんですけど、最初のオーダーが「“シンギュラリティ”をテーマにしたい」だったんですよ。

佐伯youthK

──シンギュラリティ……?

シンギュラリティというのは“技術的特異点”という意味なんですけど……。

──日本語で言われてもわからない(笑)。

ですよね(笑)。僕も詳しい意味は忘れちゃったくらいなんですけど、「人工知能の能力が人類を超える時点」みたいな。それをモチーフにしたいと言われ、最初はびっくりしましたね。けど、メンバーと話し合って「じゃあ、モチーフは技術的な概念だけど、それを自分たちに例えたらどうなるか」という発想でいくことになり、最終的にはシンギュラリティを“自分の限界”として比喩的に使って、「それを超えていこうぜ!」という歌詞になりました。どんなテーマが来ても、大事なのは自分がどこに正解を置くかじゃないかなという気はします。

──なるほど。じゃあ、例えば今回の企画に挑戦したいと思っている10代の方々が「恋愛テーマはちょっとなあ」と思っていたとしても、今までの経験に置き換えてみたら書けるんじゃないかと。

そうですね。極端な話、恋愛経験がなかったり、そもそも恋愛というものがよくわからないという人であっても、それをそのまま書いちゃえばいいと思います。「恋愛をしたことがないからわからないよ」という歌詞にすればいい。1つの角度だけじゃなく、いろいろなアプローチの方法を考えてみてほしいですね。