ニューリー、東里起にアレンジを依頼したワケ
──ここからは1stアルバムについて聞かせてください。本作は“採掘”を意味する「Mining」と名付けられていて。作詞も自身の内面を掘り下げていく作業に近いのかなと思ったのですが、いかがですか?
嫌なことがあったときに「自分はこう感じるな」とか、それを感じて歌詞にするところに、全部をポジティブに変換できる人ではないんだと気付きました。それはほかのアーティストの曲を聴いていても感じていたことで、「今はこういう状況です」というのを歌っているみたいな。だから聴いてくれる人を励ますような曲じゃないかもしれないけど、同じ状況の人に刺さればいいなと思います。
──1曲目の「true to true」は、「トゥルットゥットゥルー」と繰り返すサビが印象的です。こういう言葉遊びもkojikojiさんらしいですね。
去年の夏に「FUJI ROCK」に遊びに行ったんですけど、山の中でコーヒーを飲んで芝生に寝っ転がったときに、自然に出てくるハミングとかラフで簡単に歌える曲を作りたいなと思って。それで「トゥルットゥットゥルー」と繰り返すだけのサビができて、タイトルを考える中で「もう『トゥルットゥットゥルー』でいいかな」と思ったんですけど、さすがになと思って「true to true」になりました(笑)。
──2曲目の「poyon」は浮遊感のあるトラックと、kojikojiさんのウィスパーボイスが印象的な1曲です。ポップなムードのサウンドですが、歌われているのは自分の弱さについてですよね。これはどのようなイメージで歌詞を書いたんですか?
この曲は友達の悩み相談に乗ったときのことを書いてみました。その中で私は人の相談事は聞くけど自分のことについて相談するのは苦手だと気付いて、そういうことを消化しようとしたのかな。自分も悩んでいるよ、と言いたかったのかもしれないです。
──なるほど。アレンジャーのニューリーさんとはどのように制作を進めていったんですか?
この曲は私がLogicで大まかな鍵盤の部分を打って、メロディと歌詞を書いて、それからニューリーに「浮遊感は残しつつ、ビートは極限まで音数を減らしたい」と伝えてアレンジしてもらいました。彼がアレンジに加わってくれたものは全部ビート先行ではなくて、私が作ったデモを渡してブラッシュアップしていくというやり方で進めていきました。
──アルバムにはニューリーさんのほかに、東里起(Small Circle of Friends)さんがアレンジで参加していますが、東さんとの制作はまた違いました?
そうですね。東さんの場合はデモトラックを数十曲送っていただいて、その中から自分が作りたいトラックを選んで歌を乗せていきました。そこからはほぼほぼブラッシュアップしてないです。
──ニューリーさんと東さんはkojikoji作品ではお馴染みの面々ですが、この2人にアルバム曲のアレンジを依頼したのはなぜ?
1stアルバムをリリースするにあたって自分ですべての作詞をすると決めたんですけど、新しい自分を見せたいというわけではなかったんです。「Mining」というタイトルにもあるように自分の内省的な部分を表現したくて、そのためには歌として馴染んで歌詞が自然と出てくるような人たちのサウンドがいいなと思って。そう考えたときに真っ先に浮かんだのがニューリーと東さんでした。
歌詞で日常を描きたい
──今回インタビューをするにあたってアルバムを繰り返し聴かせていただいたんですけど、中でも旅の思い出を歌った「wan-tan」が印象的でした。資料を読んだらkojikojiさんが沖縄旅行へ行った際に食べたワンタンがおいしかったというエピソードを曲にしたとあって、作詞に苦手意識があった人が旅の情景が浮かぶ詞を書いたんだと思って。ワンタンを食べる様子を「すっと雲を飲み込んだ感覚」と描くのも面白い表現です。
ワンタンの専門店みたいなところで食べたんですけど、めちゃくちゃおいしかったんですよ(笑)。それでワンタンについて調べたら漢字で「雲呑」と書くことを知って、雲という文字が入るのとかもかわいいなと。まずはサビをバーッと書いて、「マリヤシェイク片手に向かう竹富」みたいに沖縄での思い出を入れていきました。
──そうやって日常のふとしたタイミングで「この体験を曲にしよう」と思うんですか?
そうかもしれないです。
──それで言うと10曲目の「じっくりコトコト」も、kojikojiさんの日常が見えてきます。
大阪の事務所の近所にある中華料理屋さんのごはんがおいしくて。その近くの公園で子供と大人が遊んでいる風景とかをそのまま歌にしたんです。友達と飲みに行った帰り道に小腹が空いたからたい焼きを食べたとか、そういう日常のエピソードも入ってますね。この曲はサビの歌詞が好きで、長くライブで歌えるんじゃないかなと思います。
──アーティストによってはフィクションベースで歌詞を書く人もいますけど、kojikojiさんは実体験をもとに歌詞を書いていきたい?
そうですね。どっちが自分らしいかなって考えたときに、やっぱり日常を描きたいなと思うんです。激しい生活を送っているわけではないからブッ飛んだ歌詞は出てこないんですけど(笑)、「そういうのでいいよな」と思うというか。昔はそれをコンプレックスに感じたり、「もっと壮絶な体験をしていないと響かないかな?」と考えることもあったけど、これが私の人生だし、世の中はこういう人のほうが大多数なんじゃないかって。だから今は日常を歌っていたいですね。
大橋トリオとの制作で学んだこと
──ニューリーさんと東さんがアレンジで入った曲が多く並ぶ中で、「長い朝」はkojikojiさんが1人で完成させた1曲です。宅録っぽい質感が印象的ですが、この曲にアレンジャーを入れなかったのはなぜですか?
アルバムの全体像を想像したときに、1曲は私が部屋で歌っているのをボイスレコーダーで録ったくらいのラフで短い曲があるといいなと思ったんです。だからレコーディングルームにスマホのボイスメモを3台くらい置いて、空調の音とか、下の階に配達の人が来てる様子とかを入れながら録音しました。
──続く「はぐれ雲」は、大橋トリオさんが書き下ろしたそうですね。大橋さんとはもともと親交があったんですか?
いえ、私が一方的に好きで大橋さんの楽曲を聴いていたんです。同じA.S.A.B所属なのでスタッフさんにつないでもらって、何度かライブを拝見させていただいて、大橋さんに「いつか一緒に音楽を作ることができたらうれしいです」とご挨拶していたんです。それで今回曲を書き下ろしていただけることになって。
──大橋さんからデモを受け取ったときはどうでした?
大橋さんが「kojikojiちゃんが歌っていい感じになるように」と送ってくださって、それを聴いたら音の中に私の好きな大橋トリオがいたので、「これは絶対にいい曲にしなきゃ」と思って歌詞を書きました(笑)。
──ほかの収録曲に比べると詩的な歌詞になっていますよね。
デモを聴いたときに草原で1人で風に吹かれながら歌ってる、みたいな印象を受けて。それで草花が風で揺れるイメージで歌詞を書いていたら今の形になりました。
──大橋さんの曲に引っ張られて出てきた歌詞なんですね。大橋さんとの制作を振り返ってみていかがですか?
私はラッパーではないのにヒップホップ界隈の人とライブでご一緒したり、楽曲に参加させていただく機会が多いので、大橋さんとの制作は新鮮でした。Aメロ、Bメロ、サビみたいなかっちりしたJ-POP的な作り方も普段は意識していなかったし、文字数が少ないので1つのフレーズに意味をしっかり込めないとふわっとしちゃうんだなとか学ぶことが多かったです。この曲の制作にあたって大橋さんの楽曲を聴き直したりして、そこからインスピレーションを受けたりもしました。
──アルバムのエンディングを飾るのは、メロウな歌声とゆったりとしたビートが心地いい「陶芸」です。
「陶芸」が最後にできあがったんですけど、トラックに華があるし、サビも英語で一番キャッチーだし気に入ってます。個人的にはこの曲にkojikojiっぽさみたいなものが一番色濃く出ている気がしていて。アルバムの最後に持ってくることで、リスナーの方にkojikojiの世界観をより理解してもらえるような曲になったと思います。
「Mining」の制作で得たものを手に初ツアーへ
──kojikojiさんは今回のインタビューでも名前が挙がったBASIさんをはじめ、変態紳士クラブ、クボタカイさん、LUCKY TAPESといったアーティストの楽曲に参加していますけど、その歌声が求められている理由については、ご自身でどう分析していますか?
うーん……どこに行っても染まれるというのはあるかもしれないです。エディット次第でどういうテイストの曲にも合うというか。客演で呼んでもらうときは自分らしさを声でしか表現できないので、コーラスワークとかで自分の存在感をどう出していくかみたいなことは意識はしています。……質問の答えになってないですよね?(笑) ただ「Mining」の制作を通して、自分で曲を作るとなったら声じゃない部分でも表現ができるので、引き算ができるなと気付きました。
──「Mining」の制作を終えて、今後新たに挑戦してみたいことはありますか?
新しいことに挑戦したい気持ちは今のところはなくて、これまで通り、日常だったり、ライブでのお客さんの反応だったり、おいしいものを食べたりしたときの感情だったりをベースに曲を書き続けたいです。
──10月からは初のツアー「kojikoji 1st tour "Mining"」の開催が決まっていて、今のところ東京、福岡、大阪公演のスケジュールが公開されています。ツアーに向けて、今の心境はいかがですか?
ツアー、めちゃくちゃ楽しみにしています。「Mining」で作詞作曲に挑戦したことで伝えられることの幅も広がったと思うし、ライブの編成もニューリーとのセットを経て、人数を増やして新たな体制で挑もうとしているので、ぜひとも会場に足を運んでほしいです。
ライブ情報
kojikoji 1st tour "Mining"
- 2022年10月17日(月)東京都 LIQUIDROOM
- 2022年10月19日(水)福岡県 BEAT STATION
- 2022年10月20日(木)大阪府 BIGCAT
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プロフィール
kojikoji(コジコジ)
シンガーソングライター。SNSにアップした弾き語りのカバー動画をきっかけに多くの注目を浴び、変態紳士クラブ、冨田ラボ、LUCKY TAPESといったアーティストの楽曲に参加し、BASIのサポートバンドの一員としてコーラス / ギターを担当してきた。プロデュースにBASIを迎え、2020年1月に1st EP「127」、2021年2月に2nd EP「PEACHFUL」を発表。2022年8月には自身が全曲の作詞を担当した1stフルアルバム「Mining」をリリースした。
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