kojikoji「Mining」インタビュー|自分自身を“採掘”して完成させた1stフルアルバム

kojikojiが8月31日に1stフルアルバム「Mining」をリリースした。

2018年にSNSにアップしたBASI「愛のままに feat. 唾奇」のカバーがBASI本人の目に留まったことで一躍脚光を浴びたkojikoji。そのメロウかつ憂いを帯びたボーカルが高く評価され、これまでに変態紳士クラブ、クボタカイ、LUCKY TAPESといったアーティストの楽曲にゲストボーカルとして参加してきた。

kojikojiにとって初のフルアルバムとなる「Mining」には、先行配信されていた「true to true」「陶芸」を含む全13曲を収録。kojikojiは本作でこれまで敬遠していた作詞作曲に挑戦している。

音楽ナタリー初登場となる今回は、kojikojiが音楽活動を始めたきっかけや、カバー楽曲のアレンジにおけるこだわり、「Mining」の制作エピソードについて話を聞いた。

取材・文 / 下原研二

「アーティストになりたい」とは思ってなかった

──まず本題に入る前に、kojikojiさんの経歴から聞かせてください。kojikojiさんがアコースティックギターに触れたのはいつ頃だったんですか?

小学生くらいの頃からギターで弾き語りするのに憧れていたんです。中学のときに軽音部に入ろうと思ったら、エレキの音があまり好きじゃなくて、アコギのほうがやりたいんだと気付いて。それで部活動でギターをやるのは一旦断念して、オーケストラ部でバイオリンを6年間弾いてました。でもギターを弾きたい気持ちはずっとあって、大学に入ってようやく始めたという流れですね。

──Instagramへのカバー動画の投稿が音楽活動を本格的に始めるきっかけになったと思うのですが、そもそもなぜ投稿を始めたんですか?

もともと「アーティストになりたい」みたいな気持ちはなかったんです。投稿してみんなからリアクションをもらうことで、自分のギターの技術力や歌のレベルが上がりそうだと思って。だからどちらかと言うと、フィードバックを求めて投稿を始めたんです。

kojikoji(photo by jacK)

kojikoji(photo by jacK)

──なるほど。kojikojiさんのようにアコギで弾き語りをする人がヒップホップの楽曲をカバーするのも、2018年当時は珍しかったように思います。

カバーをやり始めた頃は、自分が歌っていて楽しいポップスやJ-ROCKを中心に選曲していたんです。それで自分が好きな曲はやり尽くしたから、全然違うジャンルのカバーをやってみようかなって。Instagramを観てくれている人たちに対して「ちょっと面白いことをしてるのを観てもらいたい」みたいな気持ちはまったくなくて、ただ自分がずっと歌ってきたスタイルに飽きたから新しいことをやってみようという気持ちが強かったです。だから受け入れられるとは思ってなくて、むしろ「何やってるの?」ってリアクションが来るやろなって(笑)。

──実際、フォロワーの反応はどうだったんですか?

中には理解できなかった人もいると思います。でも、原曲を歌っているラッパーさんがたまたま動画を観てくださって「いいね」をくれたんです。それまでは観られたら絶対に怒られると思ってコソコソやっていたんですけど(笑)、面白がってくれる人、心の広い人がいるんだなと思って。

──kojikojiさんのヒップホップ楽曲のカバーはアコギの弾き語りというのももちろんあるけど、フロウやリズムが独自のものにアレンジされていて、原曲とはまた違う魅力があります。

私はギターがうまいわけでもないし、使えるコードのバリエーションも少ないんですよ。それにラップの曲はコード譜とかがあるわけではないから、自分でコードを当てて歌うしかなくて。だから自分がカバーするなら全然違う感じで表現しようと思ったんです。やっぱり真似したらダメだと思って(笑)。

──それがオリジナリティにつながっているのかもしれないですね。ラッパーさん本人から好意的なリアクションが返ってきたということは、ただのカバーじゃなかったということですから。そもそもヒップホップは聴いていたんですか?

いえ、それまでは聴いてこなかったんですよ。だからヒップホップのシーンや文化みたいなものも知らなくて。最初は唾奇さんがフィーチャリングで参加しているhokutoさんの「Cheep Sunday feat. 唾奇」をYouTubeでたまたま知ったんですね。トラックがすごく明るくて華やかやのに、暗くて壮絶な過去が歌われていて。誰にでも当てはまるようなことではない、唾奇さん自身の生活が歌われているのに刺さったんですよ。それが新感覚で「これはすごい」と思ってずっとリピートして聴いてたんです。それで聴き続けていたら自分も歌いたくなって、ギターでコードを付けて歌ったのが初めてのヒップホップカバーでした。

BASIとの出会い、オリジナル曲を作るまでの経緯

──その後、kojikojiさんの存在はBASIさんの「愛のままに feat. 唾奇」のカバー動画をきっかけに広く知られるようになりました。ご自身の存在や歌声が多くの人に知られるようになったことについて、当時はどのように受け止めていました?

何が起こってるのかよくわからない感じでした(笑)。CHICO CARLITOさんと唾奇さんの「memory trigger」をカバーしたときに、BASIさんが薔薇の絵文字を送ってくれたことがあって。「あれ? 『愛のままに』のBASIさん!」と思って。ヤバイヤバイってなりながら「『愛のままに』めっちゃ聴いてます」とコメントを返したら、BASIさんが「i want 2 listen」と返信してくださったんです。ご本人に聴きたいと言われたらやるしかないじゃないですか。で、そのカバー動画を公開した翌日にインスタを見たらフォロワーがめちゃくちゃ増えていて、「どういうこと?」と思ったらBASIさんがリポストしてくれたみたいで。

──すごい話ですね。

増えたのもBASIさんのフォロワーなので、アーティストの方もいれば音楽関係者の方もいて。その中でもヒップホップ好きのリスナーがたくさんフォローしてくれて、「この曲のカバーも聴きたいです」と言ってもらえる機会が増えたんです。私はヒップホップの原曲を全然違う感じにアレンジして歌ってみるというプロセスがすごく楽しかったので、何が起こっているのかわからなかったけど、とにかく楽しくて続けていた感じですね。

──オリジナル曲を作りたいとは思わなかった?

それが全然思わなかったんですよ。ただ、フォロワーが増えたタイミングで「自分の曲は出さないんですか?」と聞かれることが多くなって。私は「オリジナル曲を出せるわけない。歌詞も書いたことないし、そんなのすごい人たちがやることだ」と思っていたんです。そういうのが半年くらい続いたときに、変態紳士クラブのGeGさんから「そろそろライブやったらどう?」と言われて。それまで配信ライブしかしたことがなかったけど、初めてお客さんの目の前でライブをして……もちろん自分の曲はないから全曲カバーだったけど、めちゃくちゃ楽しかったんですよ。そのときに「自分の曲で人を感動させることができたら、そりゃもっと楽しいだろうな」と、ほんのり思い始めて。でも自分の中で作詞作曲というハードルはすごく高かった。BASIさんにも「コジちゃんのオリジナル曲を作ったほうがいいよ」と何度も言われていて、「私はまだそこまでのレベルに達してないです」とお伝えしたら、「じゃあ僕が作ってあげるから一緒にやろう」と言ってくださって。それからオリジナル曲を作ることになったんです。

──そういう経緯だったんですね。2020年1月発表の1st EP「127」、翌2021年2月発表の2nd EP「PEACHFUL」は、全曲の作詞およびプロデュースをBASIさんが担当しています。でも、今回の1stアルバムではkojikojiさんが全曲の作詞を担当している。どうして苦手意識のある作詞に挑戦したんですか?

理由の1つは生のライブです。お客さんを前に歌うと会場全体の切ないムードだったり、逆に燃えた感じの温度感だったりを感じるんですね。それに私の歌を聴いて涙ぐむお客さんもいたりして、その様子を見て「歌でつながれるんだ」と思ったんです。自分が歌うことによって、目の前のお客さんは最近あった嫌なことや悲しかったことを思い出しながら聴いてくれているのかもと想像したときに、「自分の歌詞でお客さんを感動させられるようになりたいな」って。

こんなに幸せな空間なんだ

──ライブのことで言うと、kojikojiさんは1人で弾き語りもしつつ、コンポーザーのニューリーさんを迎えた2人編成でステージに立つこともありますよね。6月にLIQUIDROOMで開催された1stワンマンは2人編成でしたけど、そもそもこの編成はどのように生まれたんですか?

ずっと1人で弾き語りをやってたんですけど、ギターがそんなにうまくないのもあって、もっと大きな会場でライブをしたり、この次のステージに行くためにはパフォーマンスのクオリティを上げなきゃいけないと感じていたんです。ニューリーとは「せもたれ feat. Kojikoji, Akusa」という曲を一緒に作ったり、私がコーラスで参加したBASIさんの楽曲「かさぶた」のビートを担当していて親交があったんです。それにいろんな楽器を弾けるトラックメイカーですし、好きな音楽のテイストも似ているのでライブアレンジも考えやすくて。

──アルバムの初回盤にはLIQUIDROOMでのライブ音源を6曲分収録したCDが付属しますけど、初めてのワンマンはどうでした?

すごかったです。観客の全員が自分の音楽を聴くためだけに集まっているという状況は初めてで、めっちゃ楽しかったし、こんなに幸せな空間なんだなと思いました。反省点もあるんですけど、「Mining」を出したあとにまたLIQUIDROOMに立たせていただく機会があるので、もっといいライブができたらなと思っています。