こはならむ「Iam」特集|こはならむ×マクドナルドさん対談

2019年にYouTubeを中心に活動を開始し、“泣きながら”“感情を沢山込めて”歌うカバー動画で注目を集め、現在はチャンネル登録者が67.2万人を突破したシンガー・こはならむ。コンスタントにリリースを重ねながら、昨年11月には北京で初の海外公演を開催するなど着実に活動の規模を拡大している。

そんな彼女にとって初のCD作品となる2ndアルバム「Iam」がリリースされた。「Iam」には、テレビアニメ「僕の心のヤバイやつ」第2期のエンディングテーマ「恋してる自分すら愛せるんだ」や、テレビドラマ「DIY!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-」のエンディングテーマ「Attitude」など全10曲が収められている。

さまざまな楽曲が収録された本作だが、このうち「Tonight ~月の下眠る君~」は、らむがマネジメントするストリーマー・こはならみが、ゲーム「グランド・セフト・オートV」を舞台としたマルチプレイサーバー「ストリートグラフィティ ロールプレイ」(ストグラ)で“マクドナルドさん”と名乗る人物と出会ったことで生まれたもので、マクドナルドさんがこの曲を歌唱する動画はYouTubeで222万回再生を記録している。

音楽ナタリーでは「Iam」の発売を記念して特集を展開。前半はらむとマクドナルドさんに「Tonight」の制作秘話について話を聞いた対談、後半はらむが「Iam」に込めた思いや今後の展望を語ったソロインタビューを掲載する。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 梁瀬玉実

こはならむ×マクドナルドさん 対談

こはならみとマクドナルドさん、「ストグラ」での出会い

──アルバム「Iam」の収録曲「Tonight ~月の下眠る君~」は、らむさんがマネジメントしているこはならみさんと、マクドナルドさんが「ストグラ」内で出会ったことで生まれた曲だとお聞きしました。本日の取材はらみさん不在ですが、らむさんとマクドナルドさんがお二人で話すことは普段あるんですか?

こはならむ いや、初めてですね。なんだかめちゃくちゃ緊張する……。

マクドナルドさん あなたは、らみさんに似てるらむさん? らもさん?

らむ らもではないです(笑)。らむって言います。

こはならむ

こはならむ

マクドナルドさん 君は、歌を作れるのか?

らむ 作れますよ。でも今は歌うことをメインにしています。

マクドナルドさん 本当にらみさんに似てるんだな。らみさんは元気ですか?

らむ はい。元気にしてますよ。

マクドナルドさん そうですか。あの子が元気だったらそれでいい。

──らみさんとマクドナルドさんが「ストグラ」で出会ったきっかけから教えていただけますか?

らむ マクドナルドさんはもともと「ストグラ」でGBC(GoodbyeCircus)というギャングのボスをやっていて、らみはあとから参加したみたいです。らみのほうからマクドナルドさんに近付いていって、確か出会って1年半くらいですかね。今はらみもGBCに所属しています。

マクドナルドさん 私の組織に入った人は、みんな家族だと思っていますから。らみさんも、私にとって大切な家族の1人です。

──マクドナルドさんは初めてらみさんに会ったとき、どんな印象を持ちましたか?

マクドナルドさん 怖いもの知らずな子だと思いましたよ。無邪気な子供みたいにいろいろなところで遊んだりはしゃいだりしている姿を見ていました。それに、私はこんな見た目をしているでしょう? こんな怖そうな人に近付いてくるなんて……怖いもの知らずだと思いませんか?

左からこはならむ、マクドナルドさん。

左からこはならむ、マクドナルドさん。

らむ らみは「ストグラ」の中で面白いことを探していて、「何か面白いことはありませんか?」といろいろな人に声をかけて回っていたみたいなんです。そしたらシャンクズさんという人から「あの人にちょっかいをかけてみなよ」と言われて、マクドナルドさんに声をかけたみたいです。

マクドナルドさん そうだったんですか。それは知らなかった。

らむ 出会った当時、GBCにはマクドナルドさんともう1人しかいなかったんです。らみと同じ日に3人同時に入って、合計5人になりました。

マクドナルドさん そうなんです。その頃、組織から多くのメンバーが脱退して、ほとんど私1人で活動していたんですよ。とあるギャングから抗争を持ちかけられたものの、あちらは大人数なのにこちらは私1人。ですから「そもそも争いになりませんけど、いいですか?」という話をしたんです。そしたら「だったら人を集めてくださいよ」と言われまして。「誰かうちのメンバーになりませんか?」と街でいろいろな人に声かけをしていたときに、らみさんと出会ったんです。

らむ さっきマクドナルドさんが「こんな私に声をかけるなんて」と言っていましたけど、らみは特に怖がっている様子はありませんでしたよ。それよりも「この人は面白いことをしてそうだな」と思ったみたいです。

マクドナルドさん そうですか。確かに面白いことは毎日やっていますよ。

──どんなことをしているんですか?

らむ 主に芸事をやっていますね。音楽やお笑いのイベント、ミュージカルとか。ギャングと言ってもいろいろな人たちがいるんですけど、GBCは詐欺部類のギャングで、銃を撃たないし人も殺さないんですよ。

マクドナルドさん 人々の心を沸かせ、そして操るという。

らむ らみが入ったばかりのときは占いで詐欺をしたりしていました。

マクドナルドさん

マクドナルドさん

「あんまり無理すんな」

──らみさんから見たマクドナルドさんは「信頼できるボス」という感じなんですかね。

らむ そうですね。男性か女性か今でもわからないし、前に言っていた年齢も嘘かもしれないけど、らみにとっては信頼できる人みたいです。らみは最初「ただただ面白い人なのかな?」「明るい雰囲気だし」と思っていたみたいなんですよ。

マクドナルドさん ええ、私は明るいですよ。

らむ だけど、いろんな話をしていくうちにマクドナルドさんは抱えているものが多いと感じたみたいで。

──「ストグラ」内で「Tonight」が生まれるまでの切り抜き動画がYouTubeに上がっていますけど、その中でらみさんがマクドナルドさんに「責任を分けてほしい」と伝えていましたよね。

らむ らみには、マクドナルドさんが1人でいろいろ抱えているように見えていたみたいです。マクドナルドさんはなんでもできる人で、だからこそネガティブな部分が見えなさすぎるんですよ。

マクドナルドさん ネガティブな部分が見えないって、元気でいいじゃないですか。

らむ うーん……。マクドナルドさんは1人ぼっちでいる人に声をかけたりしているけど、マクドナルドさんにもなんでも話せる相手がいたらいいのになと思ったんじゃないですかね。マクドナルドさんが「つらい」と言っているところは一度も見たことがないけど、背負っているものがあるのだとしたら、人に分けたほうが楽になるかもしれないって。らみがGBCのアンダーボス(ボス不在時に全体をまとめる役職)になったのも、「背負っているものをわけてほしい」という気持ちの表れだったと思います。

マクドナルドさん あのときのらみさんはすごかった。細かい仕事をいろいろやってくれてましたよ。だけど最近は見かけない。

らむ ああ……。最近時間がなくて、あまり「ストグラ」の街に行けてないみたいで。

マクドナルドさん やっぱりね、背負い続けることは難しいんですよ。だから「私が背負う」ってあんまり決めないほうがいい。

らむ なるほど。

マクドナルドさん あのときらみさんは、私が抱えているものを一緒に背負うと言ってくれましたけど、「背負う」というのは簡単にできることじゃない。「何かやらなきゃいけない」というものが積み重なると、どうしてもストレスになるんですよ。あの街(ストグラ)で生きるのは、この世界で生きるのと同じくらい難しいですから。背負って、思い詰めてしまって、去ってしまうこともあるわけです。私はあの街で、たくさんの人が去っていくのを見てきました。当時らみさんと同じタイミングで多くの人が街に来たけど、残っている人はほとんどいない。多くの人がいなくなりました。だったら、背負わなくていい。遊びたいときに遊んで、笑いたいときに笑う。私はそういう“自由”を教えてきたつもりですよ。だから「あんまり無理すんな」って伝えたいです。自由に過ごせばいいんです。

──マクドナルドさんは、去っていく人の背中をたくさん見送ってきたんですね。

マクドナルドさん そうですね。別れが一番つらい。人が去っていくたびに“寂しい”という気持ちを知りました。寂しさを感じたときは、海の彼方へ歌を歌います。「もう会えない」と思ってしまいそうになるけど、「どこかで生きているんじゃないかな」と想像しながら。