ナタリー PowerPush - 小林太郎
「イメージ通りの音」から「伝わる言葉」へ 初シングルで挑んだ自己肯定と解放
今回は俺が聴き手と同じ側に立ってる
──「鼓動」は音源としては今年1月発売のアルバム「tremolo」以来半年ぶりとなりますが、実はシングルリリースってこれが初めてなんですね。なぜ今までシングルを出していなかったんですか?
アルバムのほうが俺のいろんな音楽的な可能性を提示できるし、ライブでも新曲がいっぱいできるじゃないですか。小林太郎のことを知ってもらうっていう上で、伝えようとすることを絞る作業に移ったからこそ、今回のシングルが作れたんじゃないかな。あと、アルバムは全曲できてからじゃないとリード曲を決められないけど、シングルの場合は最初からリード曲を作る作業なわけで。すごく負担がかかる作業で以前だったらたぶんできてなかったと思うんだけど、それが今ならできるんですよね。かなりギリギリでしたけど。
──シングルには「鼓動」と「蕾」という2曲が収録されています。この2曲に今の小林太郎が凝縮されていると?
そうですね。2曲とも同じキーで同じようなテンポなんですけど、印象としては真逆な感じがあって。でもどっちもすごくポップで、なおかつロック。そういうところに今の自分らしさがあるんじゃないかと思うんです。あと「tremolo」はサウンド的には自分のイメージ通りにできたので、今度はもっと伝わる言葉を選んで歌詞を書ければ、さらに聴き手と近くなれるんじゃないか、さらにぶつかり合えるんじゃないかと考えて作ったのがこの2曲なんです。
──確かに歌詞も以前よりダイレクトというか、飾りのない言葉が選ばれている気がしました。
歌詞のストーリーをバッと決めて、その中の主人公が自分だとしたらどうするかを考えて。どれだけ自分の素直な気持ちを書けるか、できるだけ生々しい自分の感情を表現しようとしたんです。その結果、「tremolo」のときは俺と聴き手がさっきの猪木さんのビンタの関係みたいだったのが、今回の「鼓動」と「蕾」では俺が聴き手と同じ側に立ってる。つまり今は猪木さんにビンタされる列に並んでるんです(笑)。もしかしたら聴き手とは列の前と後ろの関係なのかもしれないし。だから「鼓動」と「蕾」は「勝負しましょうか」じゃなくて「一緒に楽しみましょう」っていう気持ちの2曲なんですよね。
気持ちを表現する手段として知識を豊かにしたい
──その歌詞なんですが、「蕾」では言葉遣いも独特ですね。「私語く」(ささやく)という表記ってなかなか見かけないですし。
そうなんですよね。みんな「囁く」のほうに馴染みがあると思うんですけど、パソコンで「ささやく」って入れたら「私語く」というのも出てきたから使っちゃおうて。
──ああ、そういう感じなんですね(笑)。僕も最初に歌詞を見たときに読めなかったんですけど、曲を聴いて初めて読み方を理解して。
よく「私語は慎むように」っていう注意があるじゃないですか。いけないことっていうか、隠れてすることっていうイメージが湧いて、「私語く」のほうがいいかなと思ったんですね。
──ほかにも「強請う」(ねがう)、「識る」(しる)の表記も、日常の言葉遣いとは違っているので、耳で聴くぶんには理解できるけど、歌詞を読んだときにまた違った解釈ができて、そこが面白いなと思いました。
耳で聞いた言葉の響きは一緒でも、漢字1つで意味が変わってしまう。自分の気持ちを表現するための手段として、もっと知識を豊かにしていかなきゃいけないなと思ってます。
素晴らしいアーティストの歌詞は日常的な雑談
──太郎くんは以前、いろんな本を読んでそこから歌詞のヒントを自分の中にインプットしていくと言っていましたが、知識を豊かにするという部分では読書はいまだに強い影響を与えているんでしょうか?
そうですね。実は1回やめようと思ったんですけどね。制作の段階で集中しなきゃいけないから、読んでない本をすべて捨てようと。結果すごく集中できて、そうしたら音楽以外の部分も自分なりにコントロールできるようになったんですよ。なので最近はまたいろいろ本を読み始めてます。でもその理由付けは以前とは全然違っていて、以前は情報を得るために全部読まなきゃって思っていたのが、今はもっと軽い気持ちで読める。読んでも何も得られないかもしれないけど、まあいいやと。なんでまあいいやと思えるかと言ったら、無理して集中して音楽を作っても、いい音楽が作れるわけではないとわかったから。要するに休みが必要なんです。そういう意味では不必要なことがすごく必要だなと思えたんですよね。最近は音楽とはまったく関係ないジャンルの本を読んでますから。
──ちなみにどういうジャンルの本ですか?
株の投資についてとか(笑)。
──えっ、株ですか?
作家の石田衣良さんが小説家になる前に株で大儲けしようと思って日経を読み始めて、それが小説につながったっていうんですよ。時事的な問題を小説に取り入れる方法として、俺はそういう話がすごく好きで。
──いろんな世界に興味を持つことで、結果的には知識が豊かになりますしね。
そうですね。例えば投資会社の営業マンで一番成績のいい人は、雑談ができる人なんだそうです。これを売りたいとかこれを買ってほしいとかじゃなくて、なんでもない会話が2時間でも3時間でもできる人が最終的に業績を上げるんだと。でもそれって、俺は音楽も同じだと思うんです。
──同じ?
はい。よくインタビューで「俺はこの曲でこういうことを伝えたいんだ」って言うアーティストさんがいるけど、本当に素晴らしいアーティストさんの場合、曲を聴くとその歌詞は日常的な雑談なんですよね。ミスチルの桜井(和寿)さんの歌詞ってモロにそうだと思うんです、「ディカプリオの出世作ならさっき僕が録画しておいたから」(「タガタメ」の歌詞)とか。それが一番言いたいわけじゃないんだけど、伝えたいことはその歌詞に凝縮されてるような気がするんですよね。その雑談できるとか相手に寄り添うっていう意味では、俺もそういう歌詞を書きたいんだなって思ったんですよ。
自分を肯定してあげることが本当の自分に近付ける方法
──「これは全部音楽のためだ」と思いながら無理に何かをすると、それが枷になってどんどんつらくなるときもあると思うんです。だけどもっと気持ちを楽にして、無駄に時間を過ごすだけでもいいのかもしれないですね。
そうですね。自分が何かをすれば、そのしたことって最終的に自分に反映されると思うし。だからゲームをしてリラックスしても、気付いたら「あのBGMのBPM、けっこう速かったなあ」って速い曲ができるかもしれないし(笑)。
──確かに(笑)。
日常的にしてるいろんなことが、全部音楽に跳ね返ってくるわけだし。以前は全部音楽のためになるからいろんなことをしなきゃいけないって思ってたんですけど、意識して音楽のために何かをすることはないんだなって。ずっと「○○しなきゃいけない」って思ってるとストレスになる。だったら自分が「これしたい!」と思ったことをすればいいし、していいんだって肯定してあげればいいんです。自分を肯定してあげることが、本当の自分に近付ける方法なのかなって最近思ってます。
- ニューシングル「鼓動」/ 2013年7月17日発売 / STANDING THERE, ROCKS
- 初回限定盤[CD+DVD] 1500円 / KICM-91458
- 通常盤[CD] 1000円 / KICM-1458
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初回限定盤 CD収録曲
- 鼓動
- 蕾
初回限定盤 DVD収録内容
- TOUR2013 "tremolo" 2013.03.09 SHIBUYA CLUB QUATTROより(リバース / 白い花 / freedom / 輪舞曲 / 答えを消していけ / 安田さん)
- 「鼓動」MUSIC CLIP
通常盤 CD収録曲
- 鼓動
- 蕾
- BONUS TRACK:TOUR2013 "tremolo" 2013.03.09 SHIBUYA CLUB QUATTROより「Baby's got my blue jean's on」
小林太郎 VS Short Tour Vol.2
- 2013年9月20日(金)
- 愛知県 名古屋ell.FITS ALL
<出演者>
小林太郎 / another sunnyday / 黒猫チェルシー - 2013年9月27日(金)
- 東京都 渋谷eggman
<出演者>
小林太郎 / LUNKHEAD - 2013年9月29日(日)
- 大阪府 福島LIVE SQUARE 2nd LINE
<出演者>
小林太郎 / Droog / onelifecrew
Tour 2013 "SOL Y SOMBRA"
- 2013年11月15日(金)
- 福岡県 福岡Queblick
- 2013年11月23日(土・祝)
- 宮城県 仙台PARK SQUARE
- 2013年11月29日(金)
- 大阪府 OSAKA MUSE
- 2013年12月1日(日)
- 愛知県 名古屋ell.FITS ALL
- 2013年12月5日(木)
- 東京都 渋谷CLUB QUATTRO
小林太郎(こばやしたろう)
静岡県浜松市生まれのロックシンガー。初音源として、2010年1月にインディーズ1stアルバム「Orkonpood」をタワーレコード限定でリリース。力強いボーカルと洋楽の影響を感じさせる重厚なサウンド、鋭い歌詞で、リスナーから支持を得る。iTunesによる2010年に最も活躍が期待できる新人アーティスト「iTunes JAPAN SOUND OF 2010」にも選出され、2010年4月にはインディーズ1stアルバムが全国発売された。同年夏には「ARABAKI ROCK FEST」「SUMMER SONIC」など、新人としては異例となる16本の大型フェスに出演。10月にインディーズ2ndアルバム「DANCING SHIVA」を発表。翌月から初の全国ワンマンツアー「TOUR 2010 "DANCING SHIVA"」を全国10都市で開催した。2011年夏、新バンド「小林太郎とYE$MAN」を結成し野外フェスに出演。2012年よりソロ活動を再開させ、同年7月に新レーベル「STANDING THERE, ROCKS」からメジャー1stミニアルバム「MILESTONE」をリリースした。翌2013年1月には早くもメジャー1stフルアルバム「tremolo」を発売。リリース日より関東近郊をまわる対バンショートツアー「小林太郎VS Short Tour」、3月から東名阪ワンマンツアー「TOUR2013 "tremolo"」を実施した。同年7月に自身初のシングル「鼓動」をリリース。