ナタリー PowerPush - 小林太郎

ついに手に入れた「イメージどおりの音」の秘密

「tremolo」は今までやってきた音楽に対しての区切り

──アルバムの内容についても訊きたいと思います。前作もかなり激しい作風だと思いましたが、今回も「frontier」「答えを消していけ」という冒頭2曲の荒々しさに完全に心奪われますね。たった2曲で勝ちを宣言されちゃったような。

ああ、それは大事ですね。高校の頃、頭の中で鳴ってる音楽がすごくカッコよくて、それを一生懸命形にしようと思ってたんだけどなかなかできなくて。きっと、もっと続けていけばイメージに近付けるはずだと思ってやってきたんですけど、いろんな要因があってなかなか完璧なものにすることができなかった。でも「tremolo」はそのイメージに最も近付けたんです。そういう意味ではすごく満足しているし、ひとつの区切りになったと思ってます。

──「MILESTONE」のときはまだそこまで達していなかった?

小林太郎

ですね。もし今後、このまま同じようにやれって言われたらやれるし、違うようにやれって言われても違うことがやれるし、もうなんでもできると思う。第1段階はクリアできたのかな。ここから第2段階に行けるので、今はすごく満足しています。

──言い方が正しいかどうかわからないですけど、小林太郎の音楽人生の第1章においてゴールにたどり着くことができたと?

ゴール……うん、そうかもしれない。身近なゴールにね。実際これが目標だったわけですから。だから次のゴールが今は全然わからないんです。

──だけど、どの方向に向かっていくこともできると。

そうなんですよね。だから今が一番楽しいんです。

音楽で出していきたいのは人間性の部分

──歌詞についてもお訊きしたいんですが、今回はより言葉遊びの部分に力が入ってる気がしました。例えば「艶花」でフレーズによって「艶」を「あか」「いろ」と読ませるように、耳で聴いた歌詞とそれを文字で読んだときに違った印象を受けて二度楽しめるというか。そういう部分は今回意識したんでしょうか?

実は全然意識をしなかったんです。「MILESTONE」のときと同じで、ストーリーとか伏線とかそういったことを一切考えずに、手が止まるまで書き続けた。でも、もしかしたら書いてるうちに無意識に語呂合わせとかしてるのかもしれないですね。できた歌詞を歌ってるときは自分の感覚ですんなり歌えるのに、改めて文字で読んでみると別の意味を持ってるように感じられるし。「お前こんなにストイックなこと考えてたの?」って(笑)。俺が特に今回びっくりしたのが「輪舞曲」って曲だったんですけど、書いてるときは「くそーっ! なかなか先に進まない!」って感じだったんですけど、完成した歌詞を読んでみたら歌詞がすごくて(笑)。この歌詞は俺にしか書けないなと思いましたね。

──確かに歌詞の部分においても「饒舌~interlude~」を経て「ナユタ」「輪舞曲」で畳み掛ける感じは、アルバム冒頭の「frontier」「答えを消していけ」とも違った攻めの姿勢が感じられます。

アルバムの流れを「饒舌~interlude~」で一度仕切り直したかったんです。「饒舌~interlude~」を軸にして、アルバムを前半後半で分けてみました。「ナユタ」はちょっとエモーショナルな、自分がバンドを始めるきっかけになったような王道の日本のロックをイメージして。その後はメタル(「輪舞曲」)とグランジ(「INDUSTRIAL LADY」)って感じですね。本当に好きなことしかやってない(笑)。

──「ナユタ」という言葉のセレクトも非常に印象的ですし(「ナユタ(那由他)」は仏教用語から生まれた極めて大きな数量を表す単位)。このタイトルを目にしたとき、小林さんが震災以降にいろんな本を読んで、その中には仏典もあったと言っていた話をふと思い出しました。

あはは(笑)。「輪舞曲」に至っては完璧に般若心経ですからね。まあ本を読むことで人間性が豊かになっていくというか。俺が音楽で出していきたいのはその人間性の部分なので、本を読むことは非常に大事な要素なんです。それが今回のアルバムではより色濃く表れたかなという気がしてます。

音楽の向こう側にいる人を無意識に求める

──その「音楽で人間性を出していく」という部分について、もう少し詳しく訊かせてください。

俺ね、この「tremolo」を作り終えたときに「いい音楽ってなんだろう?」っていうことがやっと見えてきた気がしたんですよね。それって人間が出る……つまりその曲を作ってる人が見える音楽だと思って。わかりやすく言うと、「あの曲を聴きたい」っていうときに、みんなカバーした別の人の曲じゃなくてその原曲のほうを聞きますよね。

──まあ普通はそうですよね。

っていうことは、みんなその曲に最初に歌った人、作った人の人間性を求めてるんじゃないかって気がするんですよね。音楽の向こう側にいる人を無意識に求めるような感じで。だって「ラブ・ストーリーは突然に」が聴きたいからって、誰が歌ってるかわからないやつでもいいとは思わないじゃないですか。ギターの「チャカチャーン!」ってフレーズから始まって、小田和正さんの声が聞こえてくるからいいわけですよ。曲の向こう側にいる小田和正さんを無意識に求めてるんです。

──ああ、なるほど。

小林太郎

俺がNIRVANAを初めて聴いたとき、「このボーカル(カート・コバーン)ってヤク中っぽくて病的で、キレやすいんだろうな」と思ったらそのまんまだったし(笑)。そういう人間の姿が音楽を通じて浮かんできたから興味を持ったんだなって。もちろんその人間性が浮かぶのが面白くて聴いてるなんて人はそんなにいないでしょうけど、音楽に面白さを一番感じるのはそこな気がするんですよね。だから自分が作るときもそこは外しちゃいけないんです。「tremolo」っていうのはそのことについてたくさん勉強させてもらったアルバムですね。

──例えばTHE BEATLESは初期の頃はカバー曲が多いけど、4人の個性がどんどん強くなっていった中・後期のオリジナル曲のほうがそれぞれの人間性みたいなものが表出してるような気がしますし。

「ホワイト・アルバム」なんてまさにそうですよね。

──カート・コバーンが亡くなって20年近く経ちますが、NIRVANAをリアルタイムで知らない世代の子たちにもNIRVANAの曲が愛されるっていうのは、もしかしたらそういうことなのかもしれないですね。

ベスト盤やボックスセットが何回出るの?って思うし(笑)。でもそれだけ金儲けできるぐらい、曲に体力があるんですよ。もっと言えば、演奏している人のエネルギーが曲に込められているからパワーがあるんです。その演奏している人、歌っている人のパワーも人間性だと思うし。だからNIRVANAを聴きたいっていうことはカート・コバーンが聴きたいっていうことだし、AEROSMITHが聴きたいってことはスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーが聴きたいということなんです。だから俺も「tremolo」が聴きたい、イコール小林太郎が聴きたいと思ってもらえるようになりたいですね。

ミニアルバム「tremolo」/ 2013年1月16日発売 / 2800円STANDING THERE, ROCKS / KICS-1859
CD収録曲
  1. frontier
  2. 答えを消していけ
  3. 艶花
  4. 目眩
  5. 饒舌~interlude~
  6. ナユタ
  7. 輪舞曲
  8. INDUSTRIAL LADY
  9. 愛のうた
  10. 星わたり

小林太郎 VS Short Tour

2013年1月16日(水)埼玉県 西川口Hearts
<出演者>
小林太郎 / another sunnyday
2013年1月18日(金)千葉県 千葉LOOK
<出演者>
小林太郎 / THE NAMPA BOYS / BLUE ENCOUNT
2013年1月19日(土)東京都 八王子RIPS
<出演者>
小林太郎 / UNCHAIN

NEW TOWER GENERATION 2013~SPECIAL~

2013年1月31日(木)愛知県 名古屋APPOLO THEATER
<出演者>
小林太郎 / ザ・ビートモーターズ
2013年2月1日(金)東京都 タワーレコード渋谷店B1F CUTUP STUDIO
<出演者>
小林太郎 / カラーボトル
2013年2月8日(金)大阪府 心斎橋Pangea
<出演者>
小林太郎 / カラーボトル

TOUR2013 “tremolo”

  • 2013年3月2日(土)大阪府 梅田Shangri-La
  • 2013年3月3日(日)愛知県 名古屋ell.FITS ALL
  • 2013年3月9日(土)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
小林太郎(こばやしたろう)

静岡県浜松市生まれのロックシンガー。初音源として、2010年1月にインディーズ1stアルバム「Orkonpood」をタワーレコード限定でリリース。力強いボーカルと洋楽の影響を感じさせる重厚なサウンド、鋭い歌詞で、リスナーから支持を得る。iTunesによる2010年に最も活躍が期待できる新人アーティスト「iTunes JAPAN SOUND OF 2010」にも選出され、2010年4月にはインディーズ1stアルバムが全国発売された。同年夏には「ARABAKI ROCK FEST」「SUMMER SONIC」など、新人としては異例となる16本の大型フェスに出演。10月にインディーズ2ndアルバム「DANCING SHIVA」を発表。翌月から初の全国ワンマンツアー「TOUR 2010 “DANCING SHIVA”」を全国10都市で開催した。2011年夏、新バンド「小林太郎とYE$MAN」を結成し数々の野外フェスに出演。2012年よりソロ活動を再開させ、同年7月に新レーベル「STANDING THERE, ROCKS」からメジャー1stミニアルバム「MILESTONE」をリリースした。翌2013年1月には早くもメジャー1stフルアルバム「tremolo」を発売。リリース日より関東近郊をまわる対バンショートツアー「小林太郎VS Short Tour」、3月から東名阪ワンマンツアー「TOUR2013 “tremolo”」をスタートさせる。