ナタリー PowerPush - 清竜人
どうしちゃったの!? 異色作「MUSIC」に迫る 堀江由衣との対談&単独インタビュー
豪華ゲスト揃い踏み
──ストーリーパートやコーラスには、本当に幅広くて興味深いゲストが揃いましたね。軸となる部分で声優さんを起用したのはどういう理由で?
制作進行の都合もあり、複数の曲に出てくる人は器用さのある柔軟な役者さんがいいなというのが第一にあって。前作「PEOPLE」でも役者さんを招いてレコーディングしたんですけど、今回の楽曲を考えると、人間っぽさあふれる表現力を持った役者さんではなく、声だけに特化した声優さんがいいんじゃないかと。それで佐藤聡美さんや相沢舞さんの名前が上がって、同じ事務所の皆さんにお願いしました。
──「雨」の多部未華子さんの参加には驚きました。
僕は自分のデモを何回も何回もしつこく聴いてイメージを湧かせるんですけど、この曲だけはほかの曲と違って人間味がある演技のほうが絶対に良いし、より風景が見えるだろうなと。この曲は10曲中最後にできたんですけど、アルバムの中でもアクセントの効いた曲になるなと思ってて。多部さんは以前から大好きだったし、声に特徴のある方だなと思っていたので、ぜひにと。
──「GENERATION GAPなんて言わせない!」の伊集加代さん、山田洋子さん、「ステージ101」出身の若子内悦郎さん、藤島新さんという顔ぶれもすごいですね。いわゆる“和モノ”マニアにはたまらないラインナップで。
この曲はまずお年を召した方という設定がある上に、セリフも歌も重要なので、できるだけ経験とキャリアのある方にお願いしたいと思って。人選はディレクターにお任せしたんですけど、彼が昔から伊集さんたちの音楽が好きなんですよ。
──なるほど。さらに「バカ♡バカ♡バカ♡」には、作曲家&アレンジャーとしてアイドル楽曲やアニメソングの名曲を数多く手がけている永井ルイさんが、アレンジではなくコーラスのみで参加していたり。ヘンな言い方をすると「豪華キャストのムダ使い」というか(笑)。
アハハハ(笑)。永井さんは現場でいろいろアイデアをくださる方で、また体力がすごい。ずっと歌ってましたね。何度も声を重ねてくださってるんですけど、6~7時間ぐらいひとりで歌われてて。すごくタフな方でした。
アニソン&アイドル楽曲を自分なりの音楽に変換
──「Fall♡In♡Loveに恋してるっ♪」「バカ♡バカ♡バカ♡」といった曲は顕著に、今のアニソン文化直系の音楽になっていますよね。ヲタカルチャーを通過しなかったら出てこない音楽というか。
「Fall♡In♡Loveに恋してるっ♪」と「バカ♡バカ♡バカ♡」はけっこう早い段階で作った楽曲で、マネージャーやディレクターにプレゼンとして、次こういうことをやろうと思ってますって最初に渡したのがまさにこの2曲。
──普通のディレクターなら「えっ!?」って思う2曲ですね(笑)。
ええ(笑)。でも次の日には電話で「すごく良かった」って連絡があって安心しました。
──清さんはヲタカルチャーから生まれてくる音楽に対して、どういう考えを持っていますか?
アニメやゲームの音楽もそうですけど、昔から聴いていたアイドル楽曲も、音使いやサウンドメイクに独特な個性があるし、個人的に好きなものも多いです。自分でもやりたいなとはずっと思ってたんですけど、やっぱりただやるだけでは芸がない。「自分なりの音に変換できるか」というのを今回はとにかく意識しました。清竜人を通して新しいものにできればいいなって。
──アニソンもゲーム音楽もアイドル楽曲も、ほかの国ではあまり例のない独自の進化を遂げてるジャンルですよね。ジャンルレスで音楽的な決まりはないのに、ひとつの文化として進化している。
ええ。今回のアルバムもそうなんですけど、最終的にノンジャンルなアルバムにしたいと当初から思っていたので、そういうふうになっていればいいなと。
──アレンジャーの皆さんには、具体的な説明を加えた上でアレンジをお願いしたんですか?
曲によってまちまちですね。プリプロ段階まで詰めて渡しているものもあれば、簡単な弾き語りのデモだけ渡してる曲もあって。それはアレンジャーさんと楽曲の持ち味を考えて、自分なりに判断しました。最初に聴いた印象ってすごく大事だし、そこから広がるアイデアも変わってくると思うので。「GENERATION GAPなんて言わせない!」はいったんプリプロで詰めていたものをあえて全部なくして、ピアノ弾き語りの状態で渡したんですよ。デモ制作期間がまるまるムダになっちゃったんですけど(笑)。基本的には制作に入る前に会って、念入りにミーティングさせていただきました。制作中もメールでのやり取りは随時やらせていただいて、意向を伝える作業はすごく慎重にやりました。
──最初に想定してた仕上がりとは全然違う着地点に至った曲はありますか?
大きく違ったものはないですね。アレンジャーさんには最終形を予測してオファーを出したので、人選的には間違いなかったという自負があります。
──アルバムの全体図は想定どおり?
はい。それが今回一番良かったことですね。編曲を人に委ねるのは、ある種博打とまでは言わないけど、何が返ってくるかわからないですから。そこがハマったっていうのは本当に大きいです。
音楽を続けるかどうかすらわかんない
──「MUSIC」はものすごく聴き応えのあるアルバムですし、これまで以上に広い範囲で清竜人という存在を知らしめる1枚になるんじゃないかと思います。ただ一方で、以前から応援していたファンの中には拒否反応を示す人もいるんじゃないかと。
はい。でもこれは僕自身の感覚ですけど、清竜人の音楽を好んで聴いてくださっていた方は、今回のアルバムも受け入れてくれるんじゃないかとは思ってるんですよ。アコースティックなサウンドが好きで聴いてた人は、離れてしまうかもしれませんが。
──そこはしょうがない?
うんまあ……しょうがないですよね。まあね、長くやってれば好きなものも嫌いなものも出てくると思うんで。今回のがダメだった人も、5枚目を聴いてくれればいいですし。
──つまり、これまでの道筋からここに到達したというわけではなく、この先はまたまた全然別のサウンドになるということでしょうか。
アコースティックなサウンドに戻るかもしれないし、全然別の方向に行くかもしれない。1枚1枚、毎回デビューアルバムのような気持ちでやっているので、音楽性だとかは1枚アルバムを出すとリセットされるというか。前作の「PEOPLE」は少し例外で、今回のアルバムを出す前にもう1枚作ることになったから、2枚目と4枚目の架け橋となるようなものにしようと思って作ったのがあのアルバムなんですよ。
──すでに5枚目につながるかもしれないアイデアは浮かんでいるんですか?
いや、全然。今回は本当に疲れたので。だから今はなんにも考えたくなくて。7月にライブがあるので、もうじきその準備も始まりますけど、ちょっとしばらくはプラプラしたい。作品のことなんて考えたくないですね。辞められるものなら辞めてしまいたい(笑)。
──アハハハハ(笑)。
本当に。今年で23なんですけど、やっぱり社会人としてキチンとやっていかないとっていうのもあるので、そのへんの兼ね合いもうまく考えて。これから先、音楽を続けるかどうかすらわかんないですけど、5枚目を作るとしたら、またまっさらな気持ちでやるとは思いますね。
清 竜人 - ニューアルバム「MUSIC」予告編
CD収録曲
- CAN YOU SPEAK JAPANESE?[編曲:高橋諭一]
- インモラリスト[編曲:a.k.a.dRESS(ave;new)]
- Fall♡In♡Loveに恋してるっ♪[編曲:MOSAIC.WAV]
- おどれどつきまわしたろか[編曲:たかはしごう]
- 雨[編曲:ANANT-GARDE EYES]
- GENERATION GAPなんて言わせない![編曲:川田瑠夏]
- りゅうじんのエッチ♡~ぼくのばちあたりな妄想劇~[編曲:新井健史]
- ゾウの恋[編曲:宮川弾]
- バカ♡バカ♡バカ♡[編曲:橋本由香利]
- ぼくはシンデレラ・コンプレックス[編曲:清竜人]
DVD収録内容
「EMI ROCKS 2012」のパフォーマンスを完全収録
- CAN YOU SPEAK JAPANESE?
- おどれどつきまわしたろか
- りゅうじんのエッチ♡
~ぼくのばちあたりな妄想劇~
ライブ情報
清竜人 MUSIC SHOW
2012年7月24日(火)
東京都 SHIBUYA-AX
OPEN 18:30 / START 19:30
料金:1F立見 6000円(ドリンク代別)
清竜人(きよしりゅうじん)
1989年生まれ、大阪府出身の男性シンガーソングライター。15歳でギターを手にし、作曲を始める。16歳のときには早くも自主制作盤を発表。そのクオリティの高さが音楽関係者の間で話題となる。2006年には「TEENS ROCK IN HITACHINAKA 2006」でグランプリを受賞し、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2006」に出演を果たす。映画「僕の彼女はサイボーグ」への挿入歌提供を経て、2009年3月にシングル「Morning Sun」でメジャーデビュー。同曲はau Smart SportsのCMソングに起用され、スモーキーな歌声とみずみずしいメロディがメディアやお茶の間の注目を集めた。同月発表の1stアルバム「PHILOSOPHY」では、自身の持つ音楽性の幅広さを証明した。その後もシングル、アルバムを精力的に発表し、ライブツアーも定期的に開催。情感豊かなサウンドが幅広く支持されている。