音楽ナタリー PowerPush - 筋肉少女帯人間椅子

平均年齢49歳の“新人バンド”デビュー

「中高生が初めて作ったような曲」なのにカバーしてくれるなんて

──カップリングでは2組がお互いの曲をカバーしていますが、それぞれこの曲を選んだ理由は?

大槻 「ダイナマイト」は人間椅子の中でもわりと短いストレートな曲なので、非常にアレンジのやりがいがあるなと思って。

橘高 俺はカバーするとき、そのままやるなら意味がないと思ってて。自分たちの曲をカバーしてもらったときも、独自解釈でアレンジしてくれてるほうがうれしかったのね。そう思って今までさんざん人の曲を筋少流にアレンジしてきたけど、今回はなるべく原曲の色を残しながら筋少らしくできる曲がいいなと思ったんです。「ダイナマイト」なら大幅に変えなくても筋少らしくなるなと。ほかにも候補はあったんだけど、それをやると完全に別物にしたくなっちゃうから。

──てっきり猟奇的なテーマの曲を選ぶんだろうと思っていたら、パチンコの曲だったので驚きました。

橘高 予想されちゃう選曲はイヤだったんです。きっとみんな文学的でプログレッシブな曲を予想してたと思うんだけど、収録曲が発表されるときに「あ、これを選んだか!」ってみんなに言われたかった。

大槻 僕はパチンコをやらないので、どういうことを歌ってるんだかわかってなくて、それがすごい不条理でよかったです(笑)。そういえばパチンコ屋さんの前でよく研ちゃんに会うんだよね。そういうのも理由だったのかなあ。

鈴木 よく会うね(笑)。俺はこのカバー聴いて、ドラムの音数が減るところで「こう来るんだ」ってびっくりしました。しかも、その上で思いっきり歌ってくるのかと思ったら、すごい気の抜けた歌が入ってて(笑)、そのあとにすさまじいギターが来るっていう、その対比が面白かった。

橘高 パチンカーじゃないから悲哀がないのよ(笑)。

大槻 人間椅子は、前に「僕の宗教へようこそ ~Welcome to my religion~」をセッションしたことがあるから、そっちをやるのかと思ってた。

和嶋 あー、やったね。今回選曲する基準として、いわゆる定番曲はできないと思ったんですよ。聴く人には原曲のイメージが強すぎるだろうし、あまりいじれないなと。あと、やるからにはハードロックっぽくしたい、人間椅子のサウンドはこうだってわかる曲にしたいと思って、ギターリフが効いてる曲ってことで「少年、グリグリメガネを拾う」を選びました。この曲は構成もシンプルだから、僕たちらしさが出せるかなって。

──確かに、原曲のアレンジをあまり変えていないのに、人間椅子のオリジナル曲みたいなハマリっぷりでした。

和嶋 「ダイナマイト」に比べて申し訳ないぐらいにアレンジが少ないですよね(笑)。

橘高 いや、あのシンプルさが人間椅子らしい。「グリグリ」があんだけドゥーミーになるなんて信じられないもん(笑)。2人で歌い分けてるってのも素晴らしいし。

内田 あの曲のリフって、オーケンが最初に作ったそのまんまなんですよ。中学生っぽい原初的なリフ感がある曲ですよね(笑)。

大槻 これ作った当時ね、メンバーから「シンプルすぎ」「中高生が初めて作ったような曲」って総スカンを食らいました(笑)。それでボツにしようってときに、サウンドプロデューサーだった岡野ハジメさんが「いや面白いからやろうよ」って、OKしてくれたんですよ。そういう曲が人間椅子さんにカバーしてもらえるなんて、ホントにうれしいよ。よかったなあ。

左から本城聡章(G / 筋肉少女帯)、和嶋慎治(G, Vo / 人間椅子)、橘高文彦(G / 筋肉少女帯)。

和嶋 今にして思えば、その衝動みたいなものも感じたんだね。これって初期に録られた曲じゃないですか。聴き込んだらさ、リズムが食ってたり食ってなかったりするところがけっこうあって「うわ、整理したいな」って。

橘高 わかる! わかるよ! 俺たちもいつも整理したいと思ってるのよ! ありがとう整理してくれて(笑)。

本城 まあ、1度録ったものを直せないのもバンドの醍醐味だからね(笑)。

橘高 これは原曲を知らない人が聴いたら、両方ともオリジナルだと思うはず。まあ、オリジナルはスペシャルなものだから、やっぱり人間椅子のファンが「ダイナマイト」のカバーを聴いたらオリジナルのほうがいいって言うに決まってるけど、筋少ファンが聴いたら満足してくれると思う。逆に、筋少は興味ないけど人間椅子の「グリグリ」だったら好き、っていう人もいっぱいいると思う。

大槻 カバーでその曲を初めて知って、オリジナルを聴いて新鮮に思ってくれる人もいると思うしね。

橘高 うん、カバーのいいところはそこだね。そうやってそれぞれのバンドの魅力を再発見してもらえるといいね。

本城 僕はこの曲のカバーをすることに決まるまでオリジナルを聴いてなくて。どんな曲かは知らないとできないから1回は聴いたんですけど、そっから先は意図的に一切聴かないようにしてレコーディングに臨みました。最近の筋少って、作曲者が1人で1曲にまとめてくるようなやり方が続いてたけど、このカバーは昔の筋少みたいにみんなで好き勝手にやったよね。

橘高 初期筋少を思い出したね。みんなで勝手に録音したのに、フェーダーを上げて同時に再生したら筋少の曲になってた、っていう感覚。筋少って実はシンプルな曲に、キャンパスに絵の具を塗るみたいにみんなで足していく作り方なんです。

次はお互いの「蜘蛛の糸」をカバーし合うのもいいね

──ちなみに、ほかにカバーしてみようと思った候補曲はなんですか。

和嶋 俺は「日本の米」を推してたんですけど。

橘高 それは意外! まったく予想もつかない!

大槻 ええー!? それすごいことですよ。高校ぐらいのときに作った曲なんで「グリグリ」どころじゃない。そんな曲をやろうとしてくれたなんて(笑)。

和嶋 いやだって、カッコいいと思ったんだよね。あれこそドゥーミーにやるといいかなと思う。あの曲はシュールだと思うよ。

大槻 シュールすぎるよ(笑)。僕は「もっと光を!」とか「青森ロック大臣」とか考えてた。「りんごの泪」もやってみたかったし。あと「幽霊列車」は筋少の「レティクル座行超特急」って曲と歌詞の世界観が近いんですよ。だから筋少でやると面白いかなと思ったんだけど、作り込まれてて楽曲として完成してるから、あれに手を入れるのは違うかなって。

橘高 もし筋少が「幽霊列車」をやるとしたら、アレンジをまったく変えて、あの完成している世界感に別角度の視点を提示してたと思う。でも今回それはやりたくなかったのよ。もし次またやるなら、もっと寄り添った選曲にしても面白いかもね。例えば、筋少の「蜘蛛の糸」と人間椅子の「蜘蛛の糸」をお互いにカバーし合うとか(笑)。

──完全生産限定盤に付いているヒストリーブックもすごいですね。ボリュームたっぷりで。

内田 そうそう、僕がメンバー全員にインタビューしてるんです。そのほか2バンドの歴史年表があったり、喜国雅彦さんのマンガが載ってたり。ものすごい文字量の入魂の1冊なんです。

ナカジマ いやー、これは面白いですよ。

大槻 僕は昔から人間椅子のファンだったので、ファン目線で読んですごく興味深かった。内田くんがこういう仕事を買って出るって、あんまりないことなんですよ。

橘高 そういえば「猫のテブクロ」(1989年発売のアルバム)以来ひさびさに見たかも(笑)。

大槻 内田くんが仕切ると、作品に内田節がにじみ出るんですよ。

橘高 で、このインタビュー集を読んで1つわかったのが、誰1人ハワイに行ったことがないってこと(笑)。実はどいつもこいつもアロハをよく知らないっていう。それって今回のコラボのすごく大事なポイントだと思う。

和嶋 あと、全員の話を読み比べると、ちょっとずつ矛盾があるんですよ(笑)。それぞれ記憶が勝手に改ざんされてる。やっぱ人って、自分の主観でものを覚えるんだなあと。

ニューシングル「地獄のアロハ」 / 2015年5月13日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
完全生産限定盤 [CD+DVD+Tシャツ+ブックレット] / 6458円 / TKCA-74221
通常盤 [CD+DVD] / 1944円 / TKCA-74225
CD収録曲
  1. 地獄のアロハ
  2. ダイナマイト(筋肉少女帯Version)
  3. 少年、グリグリメガネを拾う(人間椅子Version)
  4. 地獄のアロハ(Heavenly Version)
  5. 地獄のアロハ <KARAOKE>
  6. ダイナマイト(筋肉少女帯 Version)<KARAOKE>
  7. 少年、グリグリメガネを拾う(人間椅子 Version)<KARAOKE>
  8. 地獄のアロハ(Heavenly Version)<KARAOKE>
DVD収録内容
  • 地獄のアロハ(Heavenly Version)MUSIC VIDEO
  • 2012年5月19日 @赤坂BLITZ「地獄の決定打!筋肉少女帯 VS 人間椅子 VS 人間筋肉少女椅子帯」LIVE記録映像より
    1. 君は千手観音
    2. 僕の宗教へようこそ
    3. りんごの泪
    4. 釈迦
完全生産限定盤・通常盤(初回プレス分)封入特典

筋肉少女帯人間椅子メンバーコラボトレカ(1枚ランダム封入・全13種)

筋肉少女帯人間椅子ライブ
2015年6月7日(日)東京都 渋谷公会堂
OPEN 16:45 / START 17:30
料金:6800円(全席指定)
<出演者>
筋肉少女帯人間椅子 / 筋肉少女帯 / 人間椅子
筋肉少女帯(キンニクショウジョタイ)

筋肉少女帯

1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂ(Vo)と内田雄一郎(B)によって結成。インディーズでの活動を経て、1988年にアルバム「仏陀L」にてメジャーデビューを果たす。1989年に橘高文彦(G)と本城聡章(G)が加入し、「日本印度化計画」「これでいいのだ」「踊るダメ人間」などの名曲を発表。特に「元祖高木ブー伝説」はチャートトップ10入りを記録し、大きな話題に。大槻による不条理&幻想的な詩世界とテクニカルなメタルサウンドが好評を博すものの、1998年7月のライブをもって活動を“凍結”。各メンバーのソロ活動を経て、2006年末に大槻・内田・橘高・本城の4人で活動再開を果たす。2007年9月には約10年ぶりのオリジナルアルバム「新人」をリリース。東京・日本武道館公演や「FUJI ROCK FESTIVAL」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」といった大型イベントへの出演など、精力的なライブ活動を展開する。2013年にはメジャーデビュー25周年を記念したセルフカバーベストアルバム「公式セルフカバーベスト 4半世紀」、2014年には4年4カ月ぶりのオリジナルアルバム「THE SHOW MUST GO ON」をリリース。2015年5月には人間椅子とコラボバンド「筋肉少女帯人間椅子」でシングル「地獄のアロハ」を発表した。

人間椅子(ニンゲンイス)

人間椅子

和嶋慎治(G, Vo)、鈴木研一(B, Vo)、ナカジマノブ(Dr, Vo)による3ピースバンド。1989年に出演したTBSテレビ系「平成名物TV イカすバンド天国」で高い評価を獲得し、1990年7月にメルダックより「人間失格」でメジャーデビューを果たす。その後インディーズでの活動や、ドラマーの交代などを経ながらも、コンスタントにライブやリリースを重ねていく。Black Sabbath風のハードロックと地元・青森の津軽民謡を掛け合わせた独自のサウンドや、江戸川乱歩などに影響を受けた文学的な歌詞、確かなテクニックに裏打ちされたライブパフォーマンスで、音楽ファンの厚い支持を集め続けている。2012年、ももいろクローバーZのシングル「サラバ、愛しき悲しみたちよ」に収録された「黒い週末」に和嶋がギターで参加したことが話題に。2013年にはオジー・オズボーンのオーガナイズにより千葉・幕張メッセで開催されたロックフェス「OZZFEST JAPAN 2013」に出演し、そこでのパフォーマンスが大きな評判を呼ぶ。また2014年には、ふんどしの普及に貢献した著名人を表彰する「BEST FUNDOSHIST AWARD 2013」を受賞。同年6月にオリジナルアルバム「無頼豊饒」、12月にベストアルバム「現世は夢~25周年記念ベストアルバム~」をリリースし、2015年1月に約23年ぶりとなる東京・渋谷公会堂でのワンマンライブを成功させた。同年、筋肉少女帯とコラボバンド「筋肉少女帯人間椅子」を結成し、シングル「地獄のアロハ」を発表した。