音楽ナタリー PowerPush - 筋肉少女帯人間椅子
平均年齢49歳の“新人バンド”デビュー
アイドルの曲を聴いてリスナーの耳が肥えてきた
──作曲のクレジットには和嶋さん、内田さん、本城さん、鈴木さん、橘高さんの順で名前が並んでいますが、5人で一緒に曲を作ったんですか?
橘高 テーマが「地獄のアロハ」に決まってから、じゃあ5人で思い思いの曲を書きましょうってことになって。みんなでバラバラにデモを持ってきて曲出し会議をやったんです。
和嶋 そう、メールでやりとりするんじゃなくて、コンベンションの場を設けて顔を合わせて聴くっていう、すごく緊張することをやりまして。
大槻 僕、どれか1曲に決めるのかなーと思ってたの。そしたらワジーが「うーん……わかった!」って言って、持って帰って全曲1つにまとめてきたんでびっくりした。なるほどなあ、って。
和嶋 みんなの曲を聴いてみたら、お互いを意識してるというか、相手のバンドのカラーに寄せて作ったんだなあってまず感じて。
大槻 あ、それは俺も思った。「これ普段と違うな、人間椅子を意識して作ったのかな」とか。
和嶋 なおかつ、作った人の個性もあるわけです。その部分を全部組み合わせたらきっと面白くなるなと思ったんです。
橘高 その曲出し会議のときに、完成形で持ってきた人は誰もいなかったんだよね。全員きっとどこかで「組み合わせよう」って考えてたんだと思う。で、ふとワジーを見たら「これはここいいね、この曲はここだね」って、頭の中でメモ取ってるみたいだった。「あれ、和嶋くんもうひらめいてる?」って聞いたら「うん、だいたい見えた」って言うから、じゃあ全部任せようと思って。
──ということは、この曲は5人のアイデアが複雑に混じり合ってるんですね。
橘高 種明かしすると、作曲のクレジットに名前が載ってる順番にリフが出てくるんです。わかりやすいようにね。もちろん2回以上出てくるリフもあるけど、初出の場所の順番だと思ってもらえばわかるはず。
──クレジットを見ながら聴けば答え合わせができると。それは面白いですね。
橘高 俺が作ってきたデモ、人間椅子を意識して書いたリフもあったんだけど、そこはバッサリ切られて。逆に、ラストの速くなるパートはいかにも俺っぽいなと思うんだけど、「あ、そっちを拾うんだ」って思ったね。さっきワジーが言ったように、お互いを意識して寄り添おうとした部分よりも、それぞれの作家性があるところを集めてるんだよ。でもワジーが真ん中に芯を通してくれたから1曲として違和感なく聴けるようになってる。
大槻 こんなに展開が多いシングル曲って珍しいよね。でも、近年はリスナーが難しい曲調でも把握できるようになってきたと思うんですよ。かつてだったら、この曲はシングルとしてはアウトだったはず。「なんだかわかんない曲」って言われて。
内田 みんなの耳が肥えてきたんだろうね。
鈴木 それはあるねえ。
和嶋 今のアイドルの曲の複雑さ、正直僕たちも付いていけないもん(笑)。コンピュータを駆使しないとできないようなことやってるでしょ。
橘高 切って貼ってで作ってるから転調も強引だったりして。こんなの歌えないだろ!ってくらいの難しい曲でも、みんな普通に聴いてるんだよね。昔だったらNGなこと、みんな平気でやってると思う。だから今回この曲を作ったのは、時代的にもタイミングがよかったのかもね。
和嶋 でもやっぱり僕らはバンドだし、切った貼ったの音楽を作る人たちじゃないから、これはみんなで練習スタジオでリハーサルしながら完成させました。
橘高 筋少って90年代後半以降は、プリプロでアレンジしたらそのまま本録りなんです。ドラマーが正式なメンバーじゃないからっていうのもあって。だからみんなでスタジオに集まって音を出したのって、実はすっごいひさしぶりで。筋少側はみんなちょっとドキドキしてたんだけど、やってみたら学校の軽音部みたいでメッチャ楽しくてね。ギター部、ベース部と、煙草吸わないノブくんと大槻の禁煙部で(笑)。レコーディングが終わってミックスしてる間もずっとそんな感じだった。これがいつまでも続いたらいいなあ、って思いながら作業してましたね。
ナカジマ 特にギター3人は部活感すごいありました。横並びでずーっとギター弾いてて(笑)。
本城 ドラムを録る日なのにギターの3人もスタジオに集まって、ドラムもベースもない状態で3人だけでこの曲を丸々1曲演奏したり。それを横で見てたアシスタントが、呼吸の合いっぷりに感動してました(笑)。
ナカジマ レコーディング中だけじゃなくて休みの間も、空いてる人同士でいろんな話をしたんですよ。すっごい楽しかったですよ。俺まったくプロレス知らなかったんですけど、このスタジオで初めてプロレスの面白さっていうのを知りました。新しい発見ができたなあ。
大槻 あー、そういえば僕、ずーっとプロレスについて説明してた。
橘高 軽音部にもそういう、音楽以外の話で盛り上がってる奴いたよね(笑)。
修学旅行のあとの帰り道みたいな寂しさがあった
──歌詞はオーケンさんと和嶋さんが一緒に書いたんですね。
大槻 歌詞は、俺だったら書かないようなことをワジーは書いてきて、ワジーが書かなそうなことを俺が書いてきて、そのお互いのやり取りが面白かった。バンドって長いことやると、作る曲がよくも悪くもパターン化されてくるじゃないですか。でもコラボだとお互いの要素が入り混じって違うものができるから新鮮だったなあ。
和嶋 大槻くんが「地獄のアロハ」っていうコンセプトを考えてくれたあとに、1番とサビの歌詞を書いてメールしてくれて。僕はそれを読んで、ここは直したほうがいいんじゃないかっていうのを忌憚なく言ったんですよ。お互いずっと歌詞書いてるし、ホントは人に口を出されるのは嫌だと思うんだけど、これはコラボなんだからしっかり言おうと思って。意見交換してたら、大槻くんの中で「ここだけは変えたくない」っていう部分があって、そこを生かしてみたらすごくよくなったんです。他人の視点も大事なんだなって、すごく勉強になりました。
大槻 それは僕も思いました。クライアントさんがいる仕事だと、歌詞を変えてくれって言われるのはよくあることで、若い頃だったらそういうのに対して頑なになってたんです。でも今回はずっとワジーの意見に「そういう視点もあるんだろうな」ってモードになってましたね。
橘高 気を遣って言いたいことを言わないのはよくないけど、それで最後までやれたのは奇跡だったなと思う。やっぱさ、「これでケンカになって今後付き合いが気まずくなったらどうしよう」ってビビるもんでしょ。このキャリアの人たちはプライドもあるし、ヘタを見せられないし。なのに今回はお互いに遠慮なく意見言い合ったり、それどころか励まし合ったりして。
和嶋 まあ、みんなもう50歳になるんだからさ。恥ずかしいところ見せてもいいんですよ。
橘高 とはいえ、失敗して後悔を残すのはイヤだからね。だって普通、レコーディング現場ってメンバー同士ですらケンカするじゃん(笑)。結果、最後まで仲いいままで楽しくできたからよかったよ。「バンド間の仲が悪くなると困る」ってことについては、内田くんが一番責任感じてたね(笑)。
内田 僕が最初の橋渡し役だったからね。制作のスケジュールも予算も普段の筋少と同じくらいしかないのに、まずイチから関係性を作るところから始めなくちゃいけなくて。「やべえよ、どうなるんだろう」ってモジモジしてた。今だから笑って言えるけど(笑)。
大槻 なんかさあ、中学生くらいのかわいい女の子が1人混じってたらもっと楽しかったんじゃない? サディスティック・ミカ・バンドでいうところのミカの役。みんなもう歳だから、きっと父性が働いてさ、誰にでも優しい感じになれると思うんだよね(笑)。
──オーケンさんと和嶋さんのように、ベーシスト2人の間でも忌憚なき意見を言い合ったりしたんですか?
鈴木 なんとなく「こうだよね?」「うんうん」とか言い合ってましたよ。そんで録ってみたら「あれ? 内田くん、違うく弾いてんだなあ。さっきあんなに打ち合わせしたのになあ」と思って(笑)。
橘高 あはは(笑)。そうかー、ギター部は1音たりともズレは許されなかったね。チョーキングスピードまで合わせたしね。
和嶋 そう、ビブラートまで細かく合わせたから。
橘高 レコーディングとかが全部終わって、最後にMVの撮影があったんだけど、すごく時間がかかってキツかったの。曲が長いっつうのもあるし、人が多いからソロカットの数も2倍だし。でも、それが終わったら俺ちょっと寂しくなっちゃったの。修学旅行のあとの帰り道みたいな気持ち。まあ、すぐまたワジーと何日も一緒にいたけどね(笑)。
和嶋 うん、ホント修学旅行って感じだった。毎日ずーっと誰かと会ってる感じだったもん。
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- ニューシングル「地獄のアロハ」 / 2015年5月13日発売 / 徳間ジャパンコミュニケーションズ
- 完全生産限定盤 [CD+DVD+Tシャツ+ブックレット] / 6458円 / TKCA-74221
- 通常盤 [CD+DVD] / 1944円 / TKCA-74225
CD収録曲
- 地獄のアロハ
- ダイナマイト(筋肉少女帯Version)
- 少年、グリグリメガネを拾う(人間椅子Version)
- 地獄のアロハ(Heavenly Version)
- 地獄のアロハ <KARAOKE>
- ダイナマイト(筋肉少女帯 Version)<KARAOKE>
- 少年、グリグリメガネを拾う(人間椅子 Version)<KARAOKE>
- 地獄のアロハ(Heavenly Version)<KARAOKE>
DVD収録内容
- 地獄のアロハ(Heavenly Version)MUSIC VIDEO
- 2012年5月19日 @赤坂BLITZ「地獄の決定打!筋肉少女帯 VS 人間椅子 VS 人間筋肉少女椅子帯」LIVE記録映像より
- 君は千手観音
- 僕の宗教へようこそ
- りんごの泪
- 釈迦
完全生産限定盤・通常盤(初回プレス分)封入特典
筋肉少女帯人間椅子メンバーコラボトレカ(1枚ランダム封入・全13種)
筋肉少女帯人間椅子ライブ
- 2015年6月7日(日)東京都 渋谷公会堂
OPEN 16:45 / START 17:30
料金:6800円(全席指定) - <出演者>
筋肉少女帯人間椅子 / 筋肉少女帯 / 人間椅子
筋肉少女帯(キンニクショウジョタイ)
1982年に中学の同級生だった大槻ケンヂ(Vo)と内田雄一郎(B)によって結成。インディーズでの活動を経て、1988年にアルバム「仏陀L」にてメジャーデビューを果たす。1989年に橘高文彦(G)と本城聡章(G)が加入し、「日本印度化計画」「これでいいのだ」「踊るダメ人間」などの名曲を発表。特に「元祖高木ブー伝説」はチャートトップ10入りを記録し、大きな話題に。大槻による不条理&幻想的な詩世界とテクニカルなメタルサウンドが好評を博すものの、1998年7月のライブをもって活動を“凍結”。各メンバーのソロ活動を経て、2006年末に大槻・内田・橘高・本城の4人で活動再開を果たす。2007年9月には約10年ぶりのオリジナルアルバム「新人」をリリース。東京・日本武道館公演や「FUJI ROCK FESTIVAL」「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」といった大型イベントへの出演など、精力的なライブ活動を展開する。2013年にはメジャーデビュー25周年を記念したセルフカバーベストアルバム「公式セルフカバーベスト 4半世紀」、2014年には4年4カ月ぶりのオリジナルアルバム「THE SHOW MUST GO ON」をリリース。2015年5月には人間椅子とコラボバンド「筋肉少女帯人間椅子」でシングル「地獄のアロハ」を発表した。
人間椅子(ニンゲンイス)
和嶋慎治(G, Vo)、鈴木研一(B, Vo)、ナカジマノブ(Dr, Vo)による3ピースバンド。1989年に出演したTBSテレビ系「平成名物TV イカすバンド天国」で高い評価を獲得し、1990年7月にメルダックより「人間失格」でメジャーデビューを果たす。その後インディーズでの活動や、ドラマーの交代などを経ながらも、コンスタントにライブやリリースを重ねていく。Black Sabbath風のハードロックと地元・青森の津軽民謡を掛け合わせた独自のサウンドや、江戸川乱歩などに影響を受けた文学的な歌詞、確かなテクニックに裏打ちされたライブパフォーマンスで、音楽ファンの厚い支持を集め続けている。2012年、ももいろクローバーZのシングル「サラバ、愛しき悲しみたちよ」に収録された「黒い週末」に和嶋がギターで参加したことが話題に。2013年にはオジー・オズボーンのオーガナイズにより千葉・幕張メッセで開催されたロックフェス「OZZFEST JAPAN 2013」に出演し、そこでのパフォーマンスが大きな評判を呼ぶ。また2014年には、ふんどしの普及に貢献した著名人を表彰する「BEST FUNDOSHIST AWARD 2013」を受賞。同年6月にオリジナルアルバム「無頼豊饒」、12月にベストアルバム「現世は夢~25周年記念ベストアルバム~」をリリースし、2015年1月に約23年ぶりとなる東京・渋谷公会堂でのワンマンライブを成功させた。同年、筋肉少女帯とコラボバンド「筋肉少女帯人間椅子」を結成し、シングル「地獄のアロハ」を発表した。