10代の横山健がCOBRAをカバー
──このシングルには、1980年代結成のパンクバンド・COBRAの「STRANGERS」のカバーも収録されています。オリジナルは1987年にリリースされたCOBRAのメジャーデビュー曲ですが、これを選んだ理由は?
「The Ballad」をタイトル曲にするなら、カップリングも日本語がいいなと思ったのがきっかけですね。で、なぜか歌うならこの曲がいいと思ったんです。「STRANGERS」は、10代の頃に地元のパンクスの先輩から教えてもらったんですよ。僕より5、6個上だったのかな。その人がこの曲をカセットテープで「なんでこんなんなっちゃうんだよ、超パンクだったのに」って笑いながら聴かせてくれたんですよ。「オイオイ!って激しい曲ばっかりだったのに、メジャーに行くといきなりこうなっちゃうんだぜ」って。その先輩には反論できなかったんですけど、自分は「めっちゃカッコいいじゃん」と思ってました。
──「メジャーに行った途端丸くなった」という話は、昔の音楽シーンではよく聞きましたよね。
まあCOBRAは極端でしたね。それ以降も、メジャーから出すとなった途端に服装が変わったり、音像もそれまでインディーで出してたラフでカッコいい感じからガラリと変わっちゃうバンドはけっこういましたけど、COBRAほど変わったバンドは珍しかったかもしれない。
──この曲をカバーしたいと思ったのは、前作のカバーアルバムが洋楽だったので、次は日本語を……という流れもあったんですか?
それはあんまり考えなかったです。「STRANGERS」は僕にとっては、10代の頃の風景が浮かぶような、ノスタルジックな気持ちになる曲なんですよね。当時はバンドを始めたばかりだったから、COBRAは全員が大スターで成功者に見えていましたし。それに、当時のCOBRAのメンバーだったLARRYさんが、のちにGARLICBOYSを結成して、僕らにとってものすごく面倒見のいい先輩になっていくわけで。僕はそういうLARRYさんの姿勢にも影響を受けましたね。言うなら、この曲をやるのは、僕にとっては「赤いスイートピー」をカバーするのと変わらない感覚というか。それくらい自分にとってスタンダードな曲ですね。
プロ麻雀チームに書き下ろした「RAIDEN GO」
──さらに、プロ麻雀リーグ・MリーグのTEAM RAIDENのチャンステーマ「RAIDEN GO」も収録されています。この曲もタイアップとは趣が異なりますが、何かのために書いた曲ということになりますね。
これはもう僕の独断でシングルに入れることにしました。「RAIDEN GO」はプロ麻雀士でもある萩原聖人さん本人からオファーをいただいて、萩原さん所属のTEAM RAIDENのために書いた曲です。こういう人と人のつながりによる依頼も、今の歳だからこそ「面白そうじゃん」って受け入れられたんでしょうね。若い頃ならやらなかったかもしれないことも、この歳になったからこそできるようになった。それも変化の表れかもしれません。
──変化と言えば横山さん、最近だと麻雀番組にも出られていましたよね?
Mリーグのシーズン中、何度か番組に呼んでいただいて。この前は「THEわれめDEポン」(麻雀バラエティ番組)にも出ました。惨敗しましたけど(笑)。
──今までああいう露出はされたことがなかったと思うので、新鮮でした。
麻雀の世界は、音楽の世界とは本質的にやっぱり離れてると思うんです。萩原さんという“人”を通じて僕もつながっただけ。でも、そういう音楽とは違った世界の末席に座らせてもらうというか、ちょっとだけ覗き見させてもらうというか、そういう体験はすごく楽しいですね。
人生、愛、家族みたいなことばかり思い浮かぶ
──新曲「Goodbye So Long」は、非常に内省的で繊細な歌詞ですね。「失う怖さを知ることで愛が完成する」という捉え方が、感情の深い部分の表れのようにも思います。
その感情に至ったのは必然だったかもしれないですね。僕、今56歳なんですけど、ぼーっとしているときに思い浮かぶことが、「人生とは?」「人を愛するとは?」「家族とは?」みたいなことばかりなんですよ。50代半ばの男にとって、それは当たり前のことなのかもしれないけれど、答えの出ないことを問い続けてしまう。僕はそういう性質なんでしょうね。
──過去を反芻している、ということでしょうか?
うーん、反芻ではないかな。過去を振り返ることもありますけど、もっと本質的なところで「自分はどういう人間なんだろう?」と考えることが多いです。自分を人間の代表としてくくるのはおこがましいですけど、自分を1つのサンプルにして、どういう思考回路なんだろう? どういう行動原理で動いているんだろう? 今これを幸せだと感じるのはなぜか? これをされてムカつくのはなぜか?って、そんなことばかり深掘りしちゃうんです。
人間の割り切れない根源的な感情を歌にできた
──人によって思考に癖があると思いますけど、昔からそうだったんですか?
昔はね、もうちょっと手前で思考が止まっていたはずなんです。でも歳をとったせいか、最近は特に考えますね。自分の考えがどんどん深くなってきているのがわかる。昔はもっと大枠の“概念”として捉えていたようなことが、今は自分自身の“リアルサイズなもの”として迫ってきている感覚もあります。
──考えが深まると、悩むことも増えそうですが、悩みを悪いものとして捉えないという受け止め方もできそうですよね。
そうやって突き詰めていくと、面白いんですよ。「幸せになるにはどうすればいいか」と問う前に、「じゃあ幸せってそもそもなんだろう?」とその根本を見つめてみる。そうすると、お金や仕事が今の自分に本当に必要なのかどうかが見えてくる。僕は最終的に「人間なんて、そんなもんよな」というところに行き着くんです。生き物としての本能や欲求は、理屈じゃないところから湧き上がってくる。それには抗えないし、従わざるを得ない。それでいいと思うんです。
──感情、理性、記憶、意識が心にあって、その動きによって悩みが生まれるといった内容の哲学本を最近読んだんですが、通ずるものを感じました。抗わずに受け止めることで、悩みが解消に向かうこともあるという話で。
案外、みんな蓋をする必要のないところにまで、世の中の目を気にして蓋をしていることが多い気がするんですよ。基本的な欲求なのに、なぜか今の世の中では「悪」とされているものも多い。そういった目に見えない恐怖に怯えて生きている。でも、人間なんて周りを気にせずに生きられるほど強くないし、「それも人間なんだね」って受け止めればいい。「Goodbye So Long」では、人間のそういう割り切れない根源的な感情を、ちゃんと歌にできたと思います。
ハイスタツアーを経て、次はKen Bandのツアーへ
──2023年に公開された横山さんのコラムに今の活動の進め方につながることが書かれていました。当時の横山さんは「Hi-STANDARDとKen Yokoyamaの活動をごっちゃにしない」というそれまでのルールから、「今は両方できる限りやりたい」と心境が変化したことをつづっていました。現在、Hi-STANDARDとKen Yokoyamaをほぼ並行して進んでいますが、気持ちの折り合いはどうつけているのでしょうか?
やっぱり折り合いはつかないですね(笑)。現場に行けばモードは切り替わりますけど、1人になると頭がごちゃごちゃになります。同時にいろんなことをするもんじゃないなって改めて思いますよ。ただ、整理がつかなくてイライラするのと、数年経って「あのときやっとけばよかった」と後悔するのを天秤にかけたら、後者のほうが絶対に嫌なんです。だから、今はやれることをやっておこうと。
──ピリピリすることもありますか?
しますよ。でもそれは周りに対してじゃなくて、自分自身に対してなんです。周りにはそんなに求めるものはないんだけど、自分の内側の小ささ、処理能力の低さにピリピリしちゃう。「こんなことやっちゃえ、なんとかなるよ」なんて言ったほうがロック的にカッコいいのかもしれないけれど、実際やってみて「こんなにピリピリしてんのかよ、俺」って、自分にがっかりすることもあります(笑)。
──ハイスタのツアーのあと、5月にはKen Yokoyamaのツアー「The Ballad Of Punkamania Tour」が始まります。「The Ballad」も、インタビューの冒頭でお話していただいたように、レコーディングから発表まで1年近くかかったということもあり、リリースのタイミングでまた改めて作品と向き合うことになりそうですね。
そうなんです。録り終えてから発表まで時間が空きすぎて、その間に「この曲は自分たちにとって何なんだろう?」と、自分でもわからなくなってしまった時期がありました。でもアニメの放送が始まって皆さんのリアクションを見ているうちに、「これはライブでやらなきゃいけない曲だ」とやっと思えるようになりました。今は改めて、人前で披露するために曲を体に馴染ませているところです。
公演情報
Ken Yokoyama "The Ballad Of Punkamania Tour"
- 2026年5月1日(金)東京都 Spotify O-EAST
<出演者>
Ken Yokoyama / Dizzy Sunfist - 2026年5月8日(金)石川県 金沢EIGHT HALL
<出演者>
Ken Yokoyama / HONEST - 2026年5月9日(土)滋賀県 滋賀U★STONE
<出演者>
Ken Yokoyama / HONEST - 2026年5月13日(水)愛知県 DIAMOND HALL
<出演者>
Ken Yokoyama / FIVE STATE DRIVE - 2026年5月14日(木)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
<出演者>
Ken Yokoyama / Maki - 2026年5月20日(水)秋田県 Club SWINDLE
<出演者>
Ken Yokoyama / HONEST - 2026年5月21日(木)宮城県 Rensa
<出演者>
Ken Yokoyama / HONEST - 2026年5月27日(水)神奈川県 CLUB CITTA'
<出演者>
Ken Yokoyama / HONEST
プロフィール
Ken Yokoyama(ケンヨコヤマ)
Hi-STANDARDの横山健(G, Vo)が、2004年2月にKen Yokoyama名義のアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースし、バンド活動を開始。2008年1月に初の東京・日本武道館公演を行った。2013年11月にはドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が劇場公開された。2023年5月に約8年ぶりとなるシングル「Better Left Unsaid」を発表し、初の東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのワンマンライブを開催。9月には木村カエラをゲストボーカルに迎えた楽曲「Tomorrow」を含むシングル「My One Wish」、11月に2023年第3弾シングル「These Magic Words」をリリースした。2024年1月に8thアルバム「Indian Burn」を発表し、2月から全国ツアーを行う。10月に1990年代のパンクナンバーをカバーした8.5thアルバム「The Golden Age Of Punk Rock」をリリース。同月に萩原聖人所属のプロ麻雀チーム・TEAM RAIDENにチャンステーマ「RAIDEN GO」を提供した。2026年3月にテレビアニメ「ゴールデンカムイ」最終章のエンディングテーマ「The Ballad」をシングルリリース。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在は横山、Hidenori Minami(G)、Jun Gray(B)、EKKUN(ex. Joy Opposites、ex. FACT)の4人編成で活動している。
Ken Yokoyama New Single [The Ballad] リリース特設サイト
Ken Yokoyama (横山健) OFFICIAL SITE




