「Ken Yokoyamaがやるなら」選曲へのこだわり
──選曲にはかなりこだわりが感じられますよね。そのバンドごとに、代表曲はほかにもあるだろうなというところを、あえてKen Yokoyamaがやるならという意図で選んでいるような印象があります。
横山 一応、各バンドの代表曲を選んだつもりなんです。もちろん、代表曲が複数あるバンドもいるので、いくつかの候補の中から「自分たちがやるならこれ」という感じで選んでいきました。
──例えばRancidだったら「Ruby Soho」や「Time Bomb」あたりを選んでも不思議じゃないわけで。でも、Ken Yokoyamaとして「Roots Radical」をこの音で鳴らされると、すごく納得するんですよ。
南 ああ、なるほど。僕は「Roots Radical」が一番好きな曲だから、これを真っ先に選んだだけで。
横山 基本、僕と南ちゃんで決めて、僕が「こうしよう」と思ったことを南ちゃんにジャッジを仰く。で、南ちゃんがよければJunちゃん(B / Jun Gray)とEKKUN(Dr)に「これやるよ!」って伝えて、南ちゃんから「いや、こっちじゃないですか?」とアイデアをもらったり、実際に音を出してみて「違った!」と直したり。楽しかったですね。
──ちょっとバンドを始めたての頃に「どの曲をコピーしようか?」と迷うのと近いところがありそうですよね。
横山 今の高校生とやってることは一緒だと思います。「ハイスタやって、サンボマスターもやろう!」みたいな(笑)。
「ライブでやりたかったから」
──Bad Religionでは「21st Century Digital Boy」が選ばれていますが、アルバムの中では唯一のミディアムナンバーなので、いいアクセントになっていますね。
南 それが狙いだったんです。こういうミッドテンポの曲を入れないと、アルバムを通して聴いたときに味気ないかなと思って。
横山 僕は最初、「Supersonic」(※2002年発売のアルバム「The Process Of Belief」収録曲)をやろうと思ったんですよ。でも、Junちゃんが(Jun Grayのモノマネをしながら)「でもあれ、2000年代の曲だから、90'sパンクじゃねえよな」と言ったので、「うるさいなあ」と思いながらぐっと堪えて(笑)。名盤「Against The Grain」(1990年発売)から選ぼうってことで、だったら「21st Century Digital Boy」だよねと南ちゃんが決めました。で、バンドで合わせてみたら気持ちよくて。
──僕は「21st Century Digital Boy」に関してはメジャーから発表されたリメイクバージョン(1994年発売のアルバム「Stranger Than Fiction」収録曲)から入った口で。というのも、80年代末から1992、3年くらいまではグランジやグラインドコアなどに夢中で、リアルタイムでは当時のパンクがすっぽり抜け落ちているんです。なので、1994年にGreen DayやThe Offspringがブレイクしたタイミングで再び当時のパンクに触れるようになって。本作に収録されている多くの楽曲の原曲も、後追いで知ったものばかりなんです。
横山 なるほど。そこは密かに大事な数年ではあるよね。NOFXが「White Trash, Two Heebs And A Bean」を出したのもその頃(1992年)だし、それが1994年だと「Punk In Drublic」の時期ですからね。
南 けっこう大きいですね。
──なので、ほとんどの楽曲は原曲を知っていたんですが、唯一Satanic Surfersは知らなくて。
南 バンドの存在も?
──Burning Heart Records所属ってことだけは知っていたんですけど、なぜか通っていなくて。
横山 MillencolinとNo Fun At AllがBurning Heartの二枚看板だから、そこはみんな聴くんだよね。
南 あ、そうなんですか。
横山 そうなの。だから、Satanic Surfersはちょっと別扱い。きっと90年代のパンクバンドをリアルタイムで聴いてきた人でも、いくつかは知らない曲が入っていると思うんです。僕たちはど真ん中だけど、その1つ2つを発見するのもいいですよね。今のこのタイミングで聴く90'sパンクも味わいがあっていいと思いますし。じゃあ、1曲目にSatanic Surfersが入っていて「なんじゃこれ?」って思いました?
──曲の展開含めてめちゃくちゃカッコよくて、すぐに「原曲は誰?」って調べましたし、これが1曲目なのも非常に納得でした。
横山 そう、カッコいいんですよね。
──さっきのプレイリストの話じゃないですけど、原曲を並べたコンピレーションアルバムではなくKen Yokoyama名義の新作としてカバーすることに、改めて強い意義を感じました。
横山 正直に言うと、各レコード会社から原盤を借りてコンピを作るでもよかったんですよ。90年代ってコンピが無数にあったじゃないですか。僕らはそこで新しい発見をたくさん経験していますし、ワクワクしながら聴いていたんです。でも、今はCDが売れない時代になってサブスクのプレイリストに取って代わられましたけど、そのコンピを作る感覚がこのアルバムを制作しているときにありました。じゃあ、なんで自分たちで録音したかっていうと、ライブでやりたかったから。これらの曲を自分たちのライブでやりたかっただけなんです。
90'sパンクは生きるためのアイデンティティ
──本作で選ばれた16バンドのうち、トニー・スライ(Vo, G)が急逝して解散したNo Use For A Nameと、本作をリリースする頃には活動終了しているNOFX以外は現在も現役なんですよね。
横山 すごいことですよね。ちょっと深読みをすると、90'sパンクって生きるためのアイデンティティなんじゃないですかね。若い頃はいろいろあって解散とか活動休止とかしたけど、結局そこに戻って細々とバンドを続けていくのは、彼らにとってアイデンティティなんですよ。それぐらい、90'sパンクが鳴らした音楽は真剣だったし豊かだった。中には金のためにやっていた人もいるかもしれないけど、結局は本質的によかったものだったのかもしれないですね。
──バンド活動と日常生活が密着していったのも、90'sパンクがきっかけだったのかもしれませんよね。
横山 そうですね。「パンク」って言うと、やっぱり70年代のオリジナルパンクを思い浮かべがちですし、そういう人たちの間では「90年代のパンクは俺たちの知ってるパンクじゃない」という論調が、僕らが活動を始めた頃は多かった。でも、鳴らしているサウンドとか音楽的知識、カルチャーは違うものの、結局パンクはやる全員にとってアイデンティティじゃないかという気がしますね。今、僕らのライブに来てくれるベテランたち(=観客)の顔を思い浮かべてみたけど、あいつらにとってもパンクはアイデンティティだもんね。
南 そうですね。
横山 90年代と今とでは生活の基盤もサイクルもまったく違うけど、「俺はこれが好きだ」っていうのをちゃんとライブのフロアで見せてくれる。パンクロックはアイデンティティの音楽なんですよね。サウンドも大事だけど、表層的な何かではないんですよ。
──そういった背景も、このアルバムを通して感じ取ってもらえたらうれしいですよね。
横山 今話していて気が付きましたけど、パンクロックがアイデンティティだからこそ、その歴史やストーリーを知ってもらいたいんですよ。少なくともTikTokで流行っているような訳のわからない音楽って、聴き心地がよければOKで、生まれた背景なんてあまり必要とされないじゃないですか。でも、パンクロックはそうじゃない。日本の若い子が好きなのがそういう物語を必要としない音楽なのだとしたら……僕はそこと並列で聴かれたい(笑)。ここの発言は「横山健の目が据わってました」って書いておいてください(笑)。同じ音楽なわけだし、だったらそこと並列で聴かれたい。でも、僕たちの音楽は歴史とかストーリーとか思想とかライフスタイルとか、リスナーに理解することを求める音楽。このアルバムがそういったところにつながっていけばいいですよね。
このカバーアルバムには“本質”が含まれている
──NOFXの話題に戻りますが、彼らは40年の歴史に幕を下ろすわけで、そのバンドとしての決断は簡単ではなかったと思うんです。健さん、南さんはここまで音楽を続けてきて、終わりを意識する瞬間ってありましたか?
南 もちろん、あとどれくらい演奏できるんだろうと考えることはありますよ。
横山 僕は……考えるどころか、すごく大きなテーマですね、ライブ1本1本の。現に僕、この秋で55歳になりますけど、体のほうはまだまだ大丈夫かなとは思いつつも、パッションが落ちていることを感じるんです。ステージに上がればそれも全部吹っ飛ぶのでまだ大丈夫ではあるんですけど、ライブ前の興奮とかまったくないんですよ。昔は遠足の前の晩みたいに寝られなかったし、本来ライブってそうであるはずなんですけど、最近は「明日ライブかあ……疲れんなあ」って(笑)。それだけ毎回、僕たちは消耗するライブをやっているし、少なくとも僕は1本1本すごく高い熱量でステージに立っているので、本当に疲れるんですね。当たり前のことかもしれないですけど、やってるほうにしたらそれって大問題で。ひどいライブをすると「ああ、もうここまでかな」と思ったりもしますし。でも、それを口にすると南ちゃんに「無責任だなあ」と怒られちゃうけど(笑)。
南 いやいや、言わないですって(笑)。僕なんかは常に平常心でいることを心がけているけど、健さんはもともとパッションが人一倍強いですからね。
横山 確かに、毎晩奇跡を起こすぐらいのパッションを持ってるからね。けど、それってミュージシャンとしては正解じゃないですか。
南 そうそう、フロントマンとしては。
横山 だから、ライブはキチガイがやるべきなんです(笑)。けったいな人間がやるべきで、僕はまさしくそういう範疇の人間。毎晩「見たことない景色を見るぞ!」と本気で思っているわけで、見られないと不機嫌になる(笑)。
──それを今後、いかにして1本でも多く続けていくか。いろんな事情で突然「今日で終わりです!」と言わざるを得ない日もやってくるかもしれないわけですから、年齢を重ねれば重ねるほど重要なテーマになりますね。
横山 そうですね。あんまり言いたかないですけど、応援してくれる連中の顔を思い浮かべたりもしますよね。本来そんなことを考えて音楽をやっちゃいけないと思うんですけど、1つのことを続けるには誰かの支えとか応援が必要で。それがお客さんだったり友達だったり、ずっと頭にチラついたりしますね。それで「もうちょっと行けるかな」と思ったりすることもあります。本来音楽は自分がカッコつけて興奮しながらやるものだし、そうじゃなきゃ相手に伝わるわけないし、人前でやる価値がない。だけど、最近は応援してくれる奴らのことがチラついて、ケツを蹴り上げられることがゼロではないです。
──きっと10年前の健さんだったら出てこない言葉ですよね。
横山 言いそうにないですよね(笑)。このタイミングに僕らがこのアルバムを出すことって、“いろんなことの本質”が含まれていると思うんです。サウンドの表層面だけを話していても面白いけど、深掘りしていけば今みたいな会話になったり、この先横山健はどうやっていくのだろう、音楽はどこへいくのだろう、どんな聴かれ方をするのだろう、あなたたち1人ひとりはどう思う? メンバーはどう思う? とかいろんな話になるじゃないですか。主語が大きくなっちゃいますけど、本質的なものをすごく多く抱えたアルバムになったと思います。もしかしたら、このタイミングでこのアルバムを作りたかった理由って、そういうことをテーマにした作品を残したいと無意識のうちに考えていたからなのかもしれませんね。
公演情報
The Golden Age Of Punk Rock Tour
- 2024年10月21日(月)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 2024年10月29日(火)福岡県 DRUM LOGOS
- 2024年10月30日(水)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
- 2024年11月1日(金)愛媛県 WStudioRED
- 2024年11月7日(木)新潟県 NIIGATA LOTS
- 2024年11月8日(金)宮城県 Rensa
- 2024年11月15日(金)神奈川県 CLUB CITTA'
- 2024年11月19日(火)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
- 2024年11月20日(水)愛知県 DIAMOND HALL
- 2024年12月1日(日)神奈川県 OPPA-LA
- 2024年12月6日(金)東京都 Spotify O-EAST
プロフィール
Ken Yokoyama(ケンヨコヤマ)
Hi-STANDARDの横山健(G, Vo)が、2004年2月にKen Yokoyama名義のアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースし、バンド活動を開始。2008年1月に初の東京・日本武道館公演を行った。2013年11月には横山のドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が劇場公開された。2023年5月に約8年ぶりとなるシングル「Better Left Unsaid」を発表し、初の東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのワンマンライブを開催。9月には木村カエラをゲストボーカルに迎えた楽曲「Tomorrow」を含むシングル「My One Wish」、11月に2023年第3弾シングル「These Magic Words」をリリースした。2024年1月に8thアルバム「Indian Burn」を発表し、2月から全国ツアーを行う。10月に1990年代のパンクカバーを収めた8.5thアルバム「The Golden Age Of Punk Rock」をリリース。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在は横山、Hidenori Minami(G)、Jun Gray(B)、EKKUN(ex. Joy Opposites、ex. FACT)の4人編成で活動している。
Ken Yokoyama(Band) OFFICIAL SITE