「どうせ聴かれないなら、出す意味あんのかな?」
木村 この曲を聴いた人からどういう反応が返ってくるかが楽しみですよね。
横山 ね! こういうサウンドをあんまり聴かない人も、カエラさんのボーカルが取っかかりになって入ってこられるんじゃないかな。というのも、パンクやロックンロールってもうあまり聴かれてないと思うんですよ。こういう音楽が好きな人はいなくならないと思うんですけど、今は世の中を全然捉えてないというか。うるさい音楽、歪んだギターを聴かない人が圧倒的に多いと思うんです。そんな中で僕らはギターミュージックをやっているけど、やっぱり全然聴かれてないなっていう気がするし、あまり必要とされてないなって。少しずつ先細りしてって、いずれなくなるのかなっていうふうに……。
木村 思ってません! やめて!(笑) 必要です。
横山 存在としてはなくならないけど、そんなに重要なものではなくなるんじゃないかなって、それは本当に思ってますね。昔はカルチャーとして世の中を変えたりしていたけど。僕なんか世の中を変えたけど……嘘です(笑)。
木村 いやいや、変えてますよ。
横山 カルチャーを巻き込んで世の中を変えたけど(笑)。
木村 あ、2回言うんですね(笑)。
横山 ……なんだけど、今や自分の鳴らしてる音にそこまでの訴求力はないなと思う節がある。それは僕らの問題じゃなくて、世の中の問題だと思うんですけどね。
木村 ファッションのように、おそらく巡って、また戻ってくると思うんですよ。いずれなくなるとは思ってない。でも確かに今じゃないんだなっていうのは私も感じるんです。じゃあ自分に今の時代の音楽ができるかって言われたら、できるわけではなくて。寄せることはできても、偽物になるというか、自分ではないものになる。そこには葛藤とか悩みがあったりしますね。
横山 ああ、そうなんだ。
木村 一生懸命作っても「どうせ聴かれないなら、出す意味あんのかな?」くらいまで思ったりするんですよ。でも今回レコーディングをさせてもらったときは、爆発するような思いとともに作品を作ることができて、もうそれで満足でした。いいものができた実感があれば、それでいい。
横山 僕もまったく一緒で。自分のサウンドを1つ持ってるつもりだけれども、やっぱり作ってると同じように「どうせ誰も聴いてくれないし」とか考えますね。だから曲がかわいそうだな、イコール、自分のエナジーがかわいそうだな、やめちゃおうかな、とか。
木村 それは究極ですよね。今はそう思わざるを得ない世の中で、パンクロックをやっているとそういう考え方になると思うんですけど、最近「また回ってくるな」みたいな感覚はあるんですよ。ちょっと前までは「これはもう……終わったかな?」って、虚しい時間がものすごく長くて。自分に嘘をつけないから、やりたいことをほかの形で作品に落とし込むことはできないし、私も「やめちゃおうかな」と思うときはありました。でも最近ちょっと吹っ切れ始めていて、また巡って来る気もしているので、地道に、楽しくていいなと思うものを全力でやるのがいいのかなと思っています。
横山 まあね。人にウケないんだったら、せめて自分にはウケたいよね。
木村 でも人にウケてないわけではなくて。だって健さんの曲って、ずっと人の心に留まって、人を支えてるものがいっぱいあるじゃないですか。
横山 あるね。
木村 でしょ?(笑)
横山 (笑)。
木村 もうそれで十分なんですよ。すべての曲がそうではないけれども、拡散されて有名になっても流れてしまって留まってない曲が今たくさんあるじゃないですか。それよりは、「絶対に人の心に留まる」と思える曲を作っていられたほうがいい。「Tomorrow」もそうですけど、そういう作品を作れていることがすごくうれしいです。自分1人で楽曲を作っているとわけわかんなくなってネガティブにもなるし、「全力でやってもどうせ誰にも聴いてもらえない」とか、すごいところまで考えたりするんです。でも健さんと一緒だといいものができた実感がものすごく湧いて、私にとってはいい時間になるんですよね。というか、すでにこの曲が自分の中で留まってるから。もうそれで幸せ。
横山 今の話を聞いて、今日から気持ちを切り替えようと思いました(笑)。
木村 パンクって、正直ですもんね。そこが一番いいんですよね。「こういうことを言っちゃうんだ?」みたいなことも言えちゃう。だからそれをどんどんぶつけてほしいです。正直でいられる時代じゃないからこそ、まっすぐな言葉とか勢いを求めている人は多いと思うんです。それで心が軽くなるし。だからやっちゃってください。
ソウルメイト
横山 次の作品はディレクターとして入ってもらってもいいですか?(笑)
木村 ディレクター、やったことないです!(笑) でもメンタル的なディレクターってことですよね?
横山 そうそう(笑)。
──まさに曲から感じる、カエラさんが明るいほうへ引っ張ってくれる感が……。
横山 体現しちゃいましたね。明らかに俺、今引っ張られたよ(笑)。
木村 健さんと一緒にいると面白いんですよね。本当、不思議な感じがします。もし前世というものがあったときに、片身だったのかな?みたいな感じがするんですよ。
横山 片身?
木村 左が健さん、右が私。1人の人間だったんじゃないかなって。
横山 ソウルメイトね。
木村 そう。しかもネガティブとポジティブの(笑)。私がポジのほうで、パカっと分かれて2人になった感じ。
横山 そんなに俺のことネガティブだと思ってんの?(笑)
木村 さっきものすごいネガティブでしたよ(笑)。同じ人間だったかどうかはわからないですけど、きっと前世で関わっていただろうなって。同じところにずっといたんじゃないかなって思うくらい、不思議な感覚があります。
横山 Ken Yokoyamaを始めたのは、カエラさんのデビューと同じ2004年なのよ。そのときから勝手に身近に感じていたんですよね。
2人の考える「幸せ」とは?
──最後、「Tomorrow」にちなんで、「今のお二人にとって“幸せ”とはなんですか?」という質問を投げさせてもらってもいいですか?
横山 あー、幸せかあ。こういう仕事をしているので、例えば大きい話が決まったときとか、自分のやったことが数字で見えたときとか、そういうのは喜びとしてありますよね。でも幸せってそんなものではなくて、すっごく小さなことだと思うんです。僕には昔から1つ哲学があって。幸せって人が持ってきてくれるような感覚があるじゃないですか。そうじゃなくて、自分で幸せになりにいかなきゃいけない。だから幸せを感じる力がないとダメなんですよ。いくら幸せな状況にいても、それを感じられなかったら幸せじゃないですもんね。だからなるべく自覚するようにしてますね。「俺、今、幸せだよなあ」って。
木村 同じ考えですね。幸せは自分で見つけるもの。それを人に分けることができたら一番いいですけど、その人がその幸せに気付かないと一方的なものになりますよね。
横山 そう。音楽とかライブも同じなんだよね。
木村 ネガティブなときとか、自分の魂と体が一致してないようなときって、人の言葉も入ってこないし、目で見ているものもすごく狭い。風が気持ちいいとか、ちょっとしたことに何にも気付けないし、人の言葉も素直に受け取れない。そういうときはおそらく不幸せなんです。一方、自分の感覚が鋭くなっていて、1つひとつの物事に気付けるときの自分はものすごく幸せだなって私は思う。
横山 なんにも生産性がない日でも、自分がよけりゃいいんだよね。今日はなんかいい感じだったなって。そこは理屈じゃないと思うんですよね。「これをできたからいい日だったな」って定義できない。……「今日、バナナ一房分のうんこが出た」とか。それは幸せですよね。
木村 あはは!
横山 ごめんなさい、ここカットで(笑)。
木村 でもそれを幸せだと感じ取れなかったら……って話ですよね。
横山 本当、そうなんですよ。結局、大きくまとめるとただのバイオリズムなのかもしれないですよね。人間、いい時期と悪い時期って必ずあるじゃないですか。でもなんとかしていい時期を増やせるようにしたいなと。
木村 いや、もうバナナの話で締めてもらっていいと思います(笑)。
──もしカット希望でしたらバナナの部分だけ除いて原稿をまとめますので(笑)。
横山 ははは。僕は全然大丈夫です。でもカエラさん的にもしかしたら……。
木村 めちゃくちゃ面白いですよ! その話が載ってたら幸せになるから。だってインタビューでそんなことを言える人いないですよね。私がもし高校生のときにこの文章を読んでいたら「この人アホすぎるな」「最高だな」って思うし、「よし今日も1日超いい日」「今日はもうバカでいよう」って思っちゃう。ふざけられるって最高ですよ。
横山 この時間を通して、僕、だんだんダメおやじになってません? ダメおやじになって、最後にはバナナ(笑)。そんなダメおやじをカエラさんが引っ張っていってくれる。今後また何か一緒にやる機会がきっとあると思うので、楽しみにしていてください。
木村 ぜひぜひ、よろしくお願いします。
Ken Yokoyamaライブ情報
Ken Yokoyama「My One Wish Tour」
- 2023年10月3日(火)愛知県 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
- 2023年10月13日(金)大阪府 ホテルメルパルク大阪 メルパルクホール
- 2023年11月9日(木)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
プロフィール
Ken Yokoyama(ケンヨコヤマ)
Hi-STANDARDの横山健(G, Vo)が、2004年2月にKen Yokoyama名義のアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースし、バンド活動を開始。2008年1月に初の東京・日本武道館公演を行った。この公演を最後にコリン(G)が脱退し、Hidenori Minami(G)が加入。同年秋にはサージ(B)も脱退し、Jun Gray(B)が加入した。2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で実施後、Gunn(Dr)が脱退し、松浦英治(Dr)が加入。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。2013年11月には横山のドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が劇場公開された。2015年7月にシングル「I Won't Turn Off My Radio」をリリースし、9月にアルバム「Sentimental Trash」を発表した。2018年6月にNAMBA69とのスプリットアルバム「Ken Yokoyama VS NAMBA69」を発表し、2組によるスプリットツアーを大成功に収めた。2018年12月に松浦が脱退し、新メンバーとしてEKKUN(ex. Joy Opposites、FACT)が加入。2020年9月に1stミニアルバム「Bored? Yeah, Me Too」、2021年5月に約6年ぶりとなるニューアルバム「4Wheels 9Lives」をリリースした。2023年5月にPIZZA OF DEATHのレーベル直販限定の完全受注生産シングル「Better Left Unsaid」を発表。同月に自身初となる東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのワンマンライブ「DEAD AT MEGA CITY」を行った。9月には木村カエラをゲストボーカルに迎えた楽曲「Tomorrow」を含むシングル「My One Wish」をリリース。
Ken Yokoyama (横山健) OFFICIAL SITE
横山健 (@kenyokoyamaofficial) | Instagram
木村カエラ(キムラカエラ)
東京都出身の女性シンガー。テレビ番組「saku saku」への出演をきっかけに、2004年6月にシングル「Level 42」でメジャーデビュー。2005年3月発売の3rdシングル「リルラ リルハ」が大ヒットを記録し、一躍全国区の人気を獲得する。2006年には再結成したサディスティック・ミカ・バンドにボーカルとして参加した。2007年6月に初の東京・日本武道館公演を成功させたほか、2009年7月に神奈川・横浜赤レンガパーク野外特設ステージにてデビュー5周年記念ライブを行い、約2万2000人を動員。同年末には「NHK紅白歌合戦」に初出場し、ヒット曲「Butterfly」を披露した。2013年にはビクターエンタテインメント内にプライベートレーベル・ELAを設立。2019年6月にメジャーデビュー15周年を迎え、デビュー日である6月23日に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)にてアニバーサリー公演を行った。2022年12月に11thアルバム「MAGNETIC」をリリース。2023年にはサバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」の国民プロデューサー代表への就任が発表された。
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KAELA KIMURA (@kaela_official) | Instagram
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