最後のアルバムを作るとしたら今のトレンドを意識したものではない
──トラックについてですが、今回は温かいサウンド感が強いですね。
今回はIXLを中心にDickey、そしてDJ Mitsu the Beats(GAGLE)さんに参加してもらって。特にIXLとは昔からタッグを組んでいるし、最近は舞台音楽も一緒に作っているので、今回は一緒にトラックを作るぐらいの感覚で「こういうものにしたい」というアイデアを徹底して話し合いました。
──作品のテーマをサウンドでより具体化させるために。
そうですね。Mitsuさんに提供してもらったトラックで、必要なピースを固めて、完成形に着地しました。サウンドが生音っぽくなったのは、自分の好みの反映ですね。ドラムの打ち方や展開は今っぽくても、例えばウッドベースを多用したり、使う音の素材は生音っぽい感触のあるもので統一したんです。
──その方向に進んだのは?
もしも自分が最後のアルバムを作るとしたら、それは今のトレンドを意識したものではないな、と。だから、自分が好きになった時代のヒップホップの音色、オーセンティックなサウンドを中心にしたかったんです。
──Mitsuさんは「LESSON」など、これまでにもKENさんの作品に参加されていますね。
今回、「Dreams」と「Gift」は書きたいテーマとトラックの雰囲気がマッチしたんでMitsuさんのビートを使わせてもらいました。「Gift」はMitsuさんが子供の声を入れてくれたり、アレンジがめちゃくちゃ変わってます。
──幸せな家族の風景ですね。
ただ、子供が小さすぎると、子育てが大変すぎてハッピーな曲にならないような気がします。それを経てちょっと落ち着いたときに、「あの大変な時期も贈り物だったのかも」という気持ちで書けたというか(笑)。
──「Dreams」にはJAY'EDが参加しています。
JAY'EDとしっかり絡んだのは今回が初めてで。
──へえ! 世代もキャリアも近いし、2人とも客演が多いから、すでに共演したことがあるものだとばかり思ってました。
意外ですよね。このテーマだったら同世代の男性シンガーがいいなと思って、フックをきれいに歌ってくれる人で……JAY'EDだ!と。
──フィーチャリングボーカリストで言うと、「Nothing But You」にはAile The Shotaさんが参加しています。
僕、Shotaくんの書く曲がすごく好きで、歌のうまさはもちろん、歌詞も面白くて素敵だなと思っていたんです。これは女性との出会いを描いた曲だけど、サビまで俺が歌うと重いなと思って、誰にお願いしようかなと考えたときに、Shotaくんが思い浮かんで。お願いしたらすぐにオッケーしてくれました。
──「乾杯」でフレンズのおかもとえみさんとSKRYUさんをフィーチャーしたのは?
SKRYUとは以前から一緒にやりたいと思っていたんですけど、なかなかハマる曲がなくて。アルバムの完成が見えて、打ち上げ的な華やかな曲を書きたいなと思い始めたときに、テーマが「乾杯」だったらSKRYUしかいないなと思ったんですよ。でも、「俺とSKRYUの2人か~」と思って(笑)、そこでもう1人のパーティピープルとして、以前「Long Night」という曲で客演してもらったえみちゃんに参加してもらいました。
自分が面白いと思ったことをやっていくしかない
──話はまた全体像的な部分になるのですが、KENさんは今作の「OK」で「俺みたいなやつ他にいないだろ?」とラップされています。自身の作品をコンスタントにリリースして、職業作家的な活動も行い、フェスも開催し、バトルの審査員もやり、地元である町田市ではJリーグやパブリックな仕事にも関わり、単行本「ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390」も刊行し、ドラマ「警視庁麻薬取締課 MOGURA」では逮捕もされ(笑)。確かにここまで幅の広い仕事ができる人は、ほかにいないと思うんですよ。
俺も「俺みたいなやつはいないな」と思ってあのリリックを書きました(笑)。
──そのKEN THE 390が、今後進むべき方向は見えていますか?
今回「Last Note」というタイトルを付けて、キャリアを終わらせるような勢いで曲を書いたら、肩の荷が下りたんですよね。なので、またいろいろ頭の中にプランが浮かんできてたり、エンジンかかってきてる感じがありますね。ソロ以外で言えば、「進撃の巨人」の舞台音楽をやりましたけど、ラップが出てくる曲は1曲だけで、それ以外の10何曲は歌モノだったんですね。だから、そういう方向ももっと磨いていきたいよなとか。
──音楽的にもラップ以外のアートフォームに興味が湧いている?
単純に刺激になるし、面白いんで。もしかしたら、いろんなことをうまくやって、それをビジネスにつなげてるイメージがあるかもしれないですけど、俺はシンプルに自分のやりたいことをやりたいようにやっているだけなんです。目先のお金のために「これをやらなければ!」みたいなことは、今までぶっちゃけ考えたことがなくて。それよりもモチベーションが湧くことをやりながら10年経ったら、それがいろんなことにつながって、結果的に自分の会社(DREAM BOY)も10年続いていた、みたいな。
──単純な表現欲求が現在につながっていると。
このやり方が自分には合ってるのかなと思うんです。例えば5年前の自分が今の自分を想像できたかというと、まったく想像できないし、してもいなかった。でも、自分のクリエイティビティに従って全力でやると、こういう未来が待っていたわけで。どうせ未来の自分なんて想像できないんだから、やりたいことを全力でやり続けるのがいいんじゃないかと、ここ最近改めて思うようになりましたね。
──5年後を見据えて、とかじゃなくて。
そうですね。なんとなく思い描いていた自分の理想像に近付いてる気はしますけど、それでも身軽に動けるようにはしておきたい。“なりたい自分”って、ある意味、呪縛でもあるから。
──そして、今作のリリースを記念して、3月2日には渋谷duo MUSIC EXCHANGEで、「KEN THE 390 Oneman Live 2025」が行われます。
通常、アルバムを作るときには当然ライブのことも考えるんです。でも今回は本当にライブを前提として作っていなくて(笑)。ニューアルバムのライブなので全曲やる予定ですけど、コンセプチュアルな作品なので、じっくり聴いてもらうような時間が、いつものライブより増えると思います。その部分も含めて、新しい姿を楽しみにしてほしいですね。
ライブ情報
KEN THE 390 Oneman Live 2025
2025年3月2日(日)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
プロフィール
KEN THE 390(ケンザサンキューマル)
ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。MCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。2025年2月19日に通算13枚目となるアルバム「Last Note」をリリース。3月2日には東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにてワンマンライブを開催する。