kein特集|衝撃の復活劇から2年、新作でまさかのメジャーデビュー (2/3)

なぜ今メジャーデビューするのか?

──ここからは最新EP「PARADOXON DOLORIS」について伺っていきます。今作がメジャー1作目となるわけですが、そもそもkeinを始めた頃にメジャーは意識していたんですか?

玲央 してなかったです。今だから言いますけど、動員の伸び率やセールスを見たレコード会社からメジャーの話はいただいていたんですよ。ただ、当時のメジャーシーンと今のメジャーシーンは違っていて。昔はアーティストよりもレコード会社のほうが圧倒的に立場が上だったので、「メジャーに上がりたいんだったらこうなりなさい。こうしなさい」ということが本当に多かった。あのときメジャーに行ってたら、僕らはたぶん音楽を嫌いになって今はバンドをやっていないと思う。

──なるほど。

玲央 今作に関しては「ツアーはこれぐらいの時期にやりたいよね。だったら、これぐらいのボリュームの作品をこの時期に作りたいよね」という話がメンバー間で出ていたんです。制作に向けてプランニングして見積もりを取って進めていく中で、キングレコードさんから「うちからどうですか?」と声をかけていただいて。結果的にメジャーデビューすることになった。ただ、そのお話をいただく前から制作は進んでいるわけじゃないですか。キングレコードさんはそのことに対しても「もちろん存じ上げています。そのままでいきましょう」と言ってくださったんです。それまでの流れのままでkeinがメジャーデビューすることで、年齢だったり音楽的指向だったりでデビューをあきらめていたミュージシャンにも、「何もあきらめる必要はない」と思ってもらえるんじゃないかなと。そういう意味でも、僕らがメジャーデビューする意義は大きいのかなと思うので、好き放題やらせてもらっています。

kein

kein

keinの新曲がまともなわけがない

──前作「破戒と想像」は過去に制作した楽曲をまとめたものでしたが、今回は“今のkein”として新たに生み出した楽曲で構成されています。内容に関して、制作時にはどんなことを考えましたか?

aie 11月からのツアーが先に決まって、そこで「各会場2DAYSでやるのなら、新曲がないと成立しなくないですか?」と話したことで制作が決まったんですよ。

玲央 作るんだったらエネルギッシュな曲を入れた5、6曲サイズの作品集かなと。あとは各々が考えるkein像、各々が考えるライブのシチュエーションを考えて、言っちゃえば好き勝手に原曲を持ち込んで、その中からセレクトしていきました。

──全5曲中、aieさんは「Spiral」「リフレイン」の作曲を担当されています。どういったイメージで曲作りを進めたのでしょう。

aie 例えば自分がkeinのファンだとしたら、「2024年のkeinはどんな曲をやるんだろう?」と考えると思うんです。「どう考えてもまともな曲なわけねえよな」と思ったし、すでに決まっていた6本のツアーをバラエティがあるものにするためには?と考えて生まれたのが「Spiral」と「リフレイン」です。

──これまで持っている曲の中にこういう新曲が含まれたら、確実に空気感が変わりますものね。

aie そうですね。それくらい今の音、完全に現在進行形のバンドの音になってると思います。

aie(G)

aie(G)

違和感が“らしさ”

──攸紀さんは「Toy Boy」と「Rose Dale」を作曲していますが、どういうイメージで制作に臨みましたか?

攸紀 先ほどから何度か話題に出たように、ライブを第一に意識していて。解散前のkeinの持ち曲の中にはちょっと変な曲もあったので、その延長というか、「あのままkeinが続いていたら、こういう曲もやってただろうな」というイメージですかね。

──しかも、進化の飛び具合がすごいですよね。

攸紀 自分ではそのへんはよくわからないですけど。当時は曲の作り方をよく理解していなかったんですよ。もしかしたら間違った作り方をしていたのかもしれないけど、今の場合は説得力がある間違いというか、「ズレてるならズレてるままでいいんです」と言えるようになったのかな。

攸紀(B)

攸紀(B)

──玲央さん作曲の「Puppet」に関してはいかがですか?

玲央 去年のツアーを経て、「Sallyさんを含めた現在のメンバーだったら、どんなタイプの曲をやっても、ちゃんとkeinの楽曲として仕上がる」という安心感を得られたんです。だったら少し変拍子で、テンポ速めで、とリフから作っていったんですけど、基本的に僕はそのリフを弾いてないという(笑)。そのめちゃくちゃな感じもkeinだなと思いますね。やっぱりkeinってどこか引っかかりがあるというか、「なんでここにこういう音やフレーズが入っているの?」という違和感が“らしさ”だと思うんです。ただ、全体的には自然発生的に出した音で曲を仕上げていて。keinという幹があって、そこからみんなが忖度なしに、自分の好きなほうに枝葉が分かれていくんですよ。でも、全体像として見ると大きな木として成立しているという、そんなイメージですね。

眞呼が描く、人間の心の動き

──リスナーとしては、引っかかりを求めているというお話だったり、違和感がバンドの“らしさ”というお話も含めて、聴き終わったあとの充実度はフルアルバム級だなと思いました。

玲央 1曲目の「Spiral」なんて、aieさんが曲作りの終盤に「残り2時間あるから、もう1曲ぐらい作れますよ」ぐらいの感じでギターを弾き始めてできた曲なんですよ。みんなでaieさんのギターに合わせて演奏して、仮歌も入れて、それで完成してしまうのが今のkeinの強み。それに「本来バンドの曲作りってこんな感じだったな。DTMがない時代はこうだったな」と改めて学びになりました。

aie 偶然間違って弾いたフレーズがカッコよかったりすると、ほかのメンバーが「今のいいじゃん」と言ってくれて、それが採用されたりして。

──なるほど。眞呼さんは歌詞においてテーマじゃないですけど、どういうことを歌いたいと考えましたか?

眞呼 うーん……それを集約すると、この「PARADOXON DOLORIS」というタイトルになっちゃうんですよ。結局、全部含めたうえでそうなる感じですね。自分の境遇において、されてきたことをそのまま他の人にするのか、もしくはひっくり返して別のことをやるのかという、心の動きですよね。

眞呼(Vo)

眞呼(Vo)

──このタイトルが発表された際、眞呼さんは「“善の中の悪”あるいは“悪の中の善”という、人間のパラドキシカルな側面がニュアンスとして込められている」というメッセージを発信されていました。そういう対照的な側面は人間誰しもが持っているもので、常に同じ方向を向いているわけではない。その環境や状況によって、自分がどちら側になるかも変わってきます。

眞呼 だから加害者と被害者、どっちの側面も書くことにしたんです。聴く人がこの歌詞を自分に当てはめてくれたら、それはその人の曲になって、僕の手からは離れるんですよ。だから答えも違うし、問題点も違ってくる。その人の境遇に寄り添うじゃないですけど、その人の曲になってくれればいいなと思ってます。なので、歌詞を書いたのは僕ですけど、この歌詞の主人公は聴いている側の人。加害者と被害者、それぞれの立場になったことのある人なら、たぶん理解してもらえるんじゃないかなと思います。

──加害者と被害者でいったら、自分自身どちらの面もあるなと曲を聴きながら感じましたし、そこからこの歌詞をどう受け止めるのか、いろいろ考えるきっかけになりました。その考えも1人ひとりまったく異なるってことですね。

眞呼 そうですね。それこそが正解で、音楽って本来そうあるべきだと思います。