三味線はポップスに合わないという考えを削ぎたい
──ラストのインストゥルメンタル曲「Drum Strings」も必聴ですね。
ありがとうございます! これは3日で作ったんですよ。いやあ、大変でした。
(マネージャー) レコーディング期間中、編曲の納期が1カ月過ぎている曲があって。「曲が届いてない。どうしよう」と思ってとりあえず違う曲から録っていったんですが、次のレコーディング日までに編曲が間に合う見込みがなかったので「自ら全部作っちゃおう」と考えたんです。
この手の曲は作ったことがなかったので「どうしよう!?」と慌てました。すでに作っていたインストの曲に寄せてしまうともったいないので、まったく違う曲にしようと思って。知り合いに「オススメの曲を教えてほしい」とお願いして、とにかくいろんな曲を勉強したんです。そのときにハービー・ハンコック feat. ジョン・メイヤーの「Stitched Up」を聴いて「こういうブルースロック、めちゃめちゃカッコいいな」と思い、「Drum Strings」の参考にしました。結果的にはブルースロックというよりもっとソウルフルな曲になって、私らしさが出てよかったですね。「歌ってしゃべるけど、三味線はめちゃくちゃうまいぜ」という男勝りな気持ちで作ったんですけど、ストリングスやブラスの音が入っていい感じにまとまりました。
──そういえば、この曲名と同じ演奏方法があるんですよね?
そうなんです! 私、三味線で“ドラムストリングス”という奏法を編み出したんですよ。
──インタビュー前に聴かせていただきましたけど、本当に弦の1本1本をリズミカルに速弾きされてましたね。
そもそも三味線奏者ってあまりリズム感がないんですよ。邦楽奏者のリズムの取り方もロックやジャズとは違いますし。
──津軽三味線も長唄三味線も、テンポはゆっくりですからね。
三味線はポップスに合わないという考えを削ぎたいんです。なので、こうやって音楽媒体でインタビューしていただけたのがうれしくて。
“ハートトゥハート”で音楽を作っていく
──今作を作ったことで、次へのビジョンは見えましたか?
ジャズやスウィングも好きなので、よりラグジュアリーな雰囲気の楽曲もいけるのかなと思うんですよね。今後は「かわいい!」よりも「素敵!」と思われる女性になるほうが音楽をやりやすいのかなと考えているんです。なので衝動的に鳴らすロックより、大人がやってもカッコいいロックや大人なR&Bを研究していきたいです。
──大人というワードが重要なんですね。
ピチカート・ファイヴの野宮真貴さんは今年で59歳ですけど、映像を観ると「カッコいいな、素敵だな」と思うんです。ああいう大人っぽくもかわいい曲を歌うことに憧れます。今回のアルバムは初めての全国流通盤だったので、「私、こんなことができます!」という自己紹介的な要素を詰め込みましたが、今度は“女でいることに喜びを感じられる曲”をたくさん作って、次作はコンセプティブにまとめてみたいなと思います。
──川嶋さんはお弟子さんもいらっしゃって、東京藝術大学では最年少の特別講師も務めています。本当にいろんな顔を持っていますが、最終的にはどこへ向かっていくのでしょう?
私はなるべく人と一緒に音楽を作りたいんです。「こうして!」と指示するのではなく、「みんなで作ろうよ!」というイメージで。自分で100%作るというより、そこからみんなで200%まで作るほうが好きなんですよね。でも自分でバンドを組むのも違う。私はリーダー的な役割にいて、「みんなで楽しく作ろうよ」という姿勢でいるほうが合っていると思うんです。それが一番ビジネスライクじゃなく、自然な気持ちで音楽と向き合えるかなって。
──バンドによっては作曲者がパソコン上でデモを作って、その譜面通りにメンバーが演奏するパターンも多いんですよ。意外とディスカッションのないまま制作されることも珍しくなくて。
そうなんですよね。「本当はこうしたほうがいいと思うんだよな」というアイデアはあっても、提案したところで曲を作った人に「いや、違う」と一蹴されちゃうと考えるのかもしれません。でも私は周りの力を借りつつ、考えを提示してくれた仲間のルーツも理解して、“ハートトゥハート”で音楽を作りたいです。
三味線が活躍する時代になるので待っていて
──お互いを尊重し合いながら仲間と音楽を作っていく姿勢は、幼少期の頃とは違うんじゃないですか?
ああ、違いますね。昔の私だったら「ギターも弾けるし、ドラムも叩けるし、全部自分で済むのにな」と考えちゃうと思います。
──昔は個人で音楽と向き合っていたわけですもんね。
「下手なら一緒にやらないで」くらいの気持ちでした。だけど今は「あの人とやりたい、この人ともやりたい」と思うようになりました。自分の知らないことを教えてもらえるのが楽しいんですよね。あの頃の私は、そういう仲間と出会えてなかったのかなと思います。
──音楽を通して、精神的にも成長されたんですね。
なんにせよ、三味線がうまいだけじゃ生きていけないんです。「志乃舞の三味線と一緒にいい音楽を作りたい」と求められるようになりたいので、ちゃんとお話しをして、音を鳴らして、以心伝心の関係にまでなるのが理想の音楽の作り方だと思っています。でも考えてみれば、この楽器だからこそ他人とわかり合いたいという気持ちが芽生えたのかもしれないです。私からいかないとみんなが近付いてくれない。一度音を鳴らせばわかってもらえると信じて、相手との関わり方を変えました。そうしたらキラキラ系のバンドや、オルタナ系ピアノロックバンドの後輩からも「志乃舞さんを呼ぼう」と言ってもらえるようになって。明らかにほかの三味線奏者、伝統芸能奏者とは一線を画した状況を手に入れられたなと感じていて、そのことを誇りに思っています。
──正直、まだまだ伝統芸能は敷居の高いものとして大衆との壁がありますよね。それはなぜだと思いますか?
私自身、三味線のアルバムってほぼ聴かないんですよね。
──それはどうしてですか?
全部同じに聞こえるんです。高い敷居の向こう側の人たちが「この違いがいいんだよね」と高い山の上で話しているだけなんですよ。
──玄人のものになっていると。
そんな現状だから、「伝統芸能を応援してください」と言われたところでリスナーが若年化しないんですよね。私たちが今、好きな曲を話すような感覚で文化を共有しなきゃいけないと思っていて。演奏している側、発信している側が歩み寄らないと壁は壊れないままなんです。
──だからこそ、川嶋さんの存在が必要になると思います。
まだまだ「え? 伝統芸能とポップス?」と感じる方はいるでしょうし、私が三味線でどんなにポップな曲を作ったとしてもちゃんと聴かない人には「またイロモノが来た」という印象を持たれると思うんです。だけど、今後はポップスをはじめ、三味線がいろんな場面で活躍する時代になるので待っていてほしいです!
イベント情報
- 川嶋志乃舞 主催イベント「ハイカラハーバー」
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2020年4月30日(木)東京都 WWW
※詳細は後日発表
- 川嶋志乃舞(カワシマシノブ)
- 三味線と歌で“日本”を表現する伝統芸能ポップアーティスト。3歳のときに佐々木光儀に弟子入りして太鼓や囃子、唄を学び、5歳で本格的に津軽三味線を習い始めた。小学1年生の頃に初めて津軽三味線全国大会に出場し、これまでに4度日本一の座を獲得したほか、海外文化交流使節団として海外公演も経験。その後、長唄三味線を杵屋五司郎に師事し、東京藝術大学邦楽科在学中に独学でポップスの作詞作曲を勉強した。10月9日に初の全国流通盤となるアルバム「SUKEROKU GIRL」「光櫻 -MITSUSAKURA-」を2枚同時リリースし、19日に東京・新宿MARZ、Marble、新宿Motionにて主催サーキットイベント「ハイカラサミット」を開催した。2020年4月30日には東京・WWWで主催イベント「ハイカラハーバー」を行う。