自分の中にある毒々しい感情をフィーチャー
──1stシングルとなる「I'm a slave for you」がリリースされました。表題曲は連続ドラマ「この男は人生最大の過ちです」の主題歌、そしてカップリング収録の「STOP」は同ドラマのエンディングテーマになっていますね。
もともとは主題歌だけというお話だったんですけど、結果的にはエンディングテーマもやらせていただけることになって。ドラマのタイアップは初めてだったので、「そういうことってよくあるのかな?」と思ったんですけど、実際はそんなことないらしく。すごくうれしかったです。制作に関してはまず、ドラマの原作マンガを読み込んで気になった場面やセリフからキーワードをいろいろ拾っていって。そこからいつものように共作で曲にしていったという流れです。
──作品からはどんなものを受け取りましたか?
すごくポップな雰囲気があるんだけど、実は人間の毒々しい部分まで深く描かれているなと思いました。デフォルメされてはいるけど、そこで描かれる感情は大なり小なりすべての人の心の中に存在するものだとも思えましたね。だからこそ多くの人に支持されている作品なんだろうなって。なので僕も音楽を作るうえでそこをフィーチャーすることにしました。完全に自分だけの曲じゃないし、完全にドラマだけの曲でもないというバランスを保ちながら、でも川口レイジらしく攻めなきゃいけなかったので、歌詞に関してはかなり頭を使いましたね。
──2曲共“slave=奴隷”が1つのテーマになっていますね。
テーマの異なる曲をいくつか提案させていただいたんですけど、結果的には“奴隷”をキーワードにした2曲が選ばれました。「I'm a slave for you」のほうは奴隷根性というか(笑)、人間の中にあるM心みたいな部分をフィーチャーしています。もう一方の「STOP」では好意を寄せる相手への“欲しい”という感情が爆発して、渇望してる様を描きました。どちらも自分の中にある感情がけっこう盛り込まれているところもポイントですね。そうじゃないと僕がやる意味がないと思ったので。
さわやかな曲を作ろうとしてもできない
──「I'm a slave for you」は、麦野優衣さんとRyosuke "Dr.R" Sakaiさんとの共作で作られた曲ですね。デビュー作収録の「Flame of Love」と同じ布陣です。
はい。お二人に関してはもう信頼感で選ばせていただきました。この人選でやれば間違いないだろうっていう。実際の制作は、そこまでタイアップであることを意識せず、いつも通りにいい曲を作ることだけを考えていた感じでした。しかも、この数カ月の間で麦野さんもSakaiさんもものすごく進化されていたので、それを思う存分吸収させていただけたのがうれしかったです。Sakaiさんが作業しているパソコンを覗き込んで質問ばかりしていたから、イヤがられていないか心配ですけど(笑)。
──アレンジはどんな方向性を目指しましたか?
おしゃれ感のある鋭角的なサウンドで、これまでの川口レイジのサウンドとあまり相違ないようにしたいという意向はお伝えしました。サウンドを作っていく過程においては、Sakaiさんとは常に同じ方向を見られている感覚があるんですよ。お互いに求めているものをわかり合えているというか。万が一そこに違いがあったときだけ指摘し合う感じだったので、基本的にはホントにスムーズでしたね。歌のレコーディングに関しても、OKかNGかは言わずともわかり合えてるし。違うなって思えば何も言わずに次のテイクを歌い始めたりしますからね(笑)。
──この曲のボーカルはどんなところを意識して録りました?
アプローチ的には、あまり感情を入れすぎないこと、クセを強く出しすぎないことを意識しましたね。要は全体のバランス。ただでさえサウンドが難しいものになっているので、歌のクセが強いと聴きづらいものになってしまうと思ったから。そこはデビュー作の頃からそうなんですけど、比較的素直に、シャープに聴こえるような歌を歌うことが僕らしさなのかなとは思ってます。
──しかしコメディ要素のあるドラマ主題歌に対して、ご自身の音楽性を一切ブレさせないシリアスな楽曲をぶつける川口さんチームの姿勢はもちろん、それを受け入れたドラマサイドの英断もまた痛快ですよね。
そうですね。僕もこの曲を選んでいただけたのはすごくうれしかったです。ただね、いわゆるJ-POP的な、さわやかな曲を作ろうとしてもできないっていう不自由さを感じているところも実はあるんですよ。そこがクリアになればアーティストとしてもっと面白い存在になれるんじゃないかなって。
──作ろうとしてもできないというのは?
そういう要素が自分のライブラリにほとんどないってことですね。僕の作る曲って、圧倒的に日本の音楽の要素が少ないんですよ。USやUKのサウンドにJ-POPの要素をうまく融合させることができたらきっともっと面白いことができるのに、今の自分にはまだそれができない。もちろん常に満足して曲をリリースしてはいるんだけど、自分にはもっと可能性があるんじゃないかなっていう気がしていて。
──その足りない部分を埋めるために、J-POPを掘ったりすることもあるんですか?
最近はサブスクでいろんな日本の曲を聴いています。なるほどなーって勉強になることも多いですね。
次のページ »
年齢もキャリアも、聴いてきた音楽も違う人たち