karin.|未来を歌わない19歳が自身と向き合い作った4曲

つらくても一生歌い続けたい

──表題曲「知らない言葉を愛せない」は「泣きながら自分の気持ちを歌にした」とのことですが、どんな状況で曲作りをして、どんなきっかけで生まれていった歌なのでしょうか。

前作のレコーディングのときに初めて「自分はこうありたい」というイメージが明確になったのに、私が未熟でそれをうまく表現できなかったんです。そのことがすごく悔しくて、泣きながらピアノに向かって作ったのがこの曲です。これがリード曲になるなんて思ってなかったんですけど、レコーディングをしてみたらこの曲が一番、今の自分に合ってる曲なんじゃないかなと思って。すごく素朴な音なんですけど、これを聴いてみんな共感してくれるんじゃないかなと思いました。

──Karin.さんが弾くピアノの音がすごくいいです。自分の心情を励ますような凛とした響きがあって。

ピアノはあんまり自信がないんですけど、たまにギターよりもピアノのほうが合うなと思うときもあって、その都度使い分けています。ギターは日常的にポロンと弾くんですけど、ピアノを弾くときは身が引き締まる感じ。「知らない言葉を愛せない」はピアノの音も入って、より緊張感のある仕上がりになりました。

Karin.

──「音楽に嫌われている」という歌詞もありますが、これはさっき話してくれた、前回のレコーディングのときに感じていたことですか?

そうですね。私は思ってることを歌詞にする過程で、歌うのがつらくなったり、自分から遠ざかってしまうような気持ちになることがあって。だから聴いてくれた人から「この曲を聴いて楽になれました」とコメントをもらうと、つらくてもがんばらなきゃ、これからも責任を持って歌い続けようという気持ちになります。

──Karin.さんの心の移ろいがドラマチックに描かれた「知らない言葉を愛せない」ですが、“あの頃”や“過去”や“傷”を歌って、今を生きることで、今後どんな変化が自分にあると思いますか?

こんなこともあったな、と思うんじゃないですかね。聴くたびにその頃に戻れますよね。

──古い日記を読み返して「こんなこと考えてたんだ!」と驚くニュアンスとはちょっと違いそうですね。

はい。毎日新しい自分に出会ってるわけじゃなくて、何周も何周もしてるから新しいように感じるだけで、ずっと積み重ねてるんだという気がします。

──Karin.さんは19歳でなぜそんな境地にたどり着いているんでしょう。もう人間として何回か生きたみたいな発言ですよね(笑)。

それ、よく言われます(笑)。

──「知らない言葉を愛せない」がKarin.さんのまた新たな代表曲の1つになっていくと思いますが、どんな思いで世に放ちましたか?

覚悟というか、自分の中ではつらいけど、一生歌い続けたい1曲。これからライブのときだけアレンジが変わったりするかもしれないし、透明だった曲がどんどん色付いていくのが楽しみです。

言葉の薄情さに気付く

Karin.

──3曲目の「人生上手に生きられない」は躍動感のあるバンドサウンドですが、この曲も“言葉”というキーワードが印象的です。言葉は人に思いを伝えるコミュニケーションツールではあるけど、Karin.さんは言葉を使うことに怖い部分も感じているのでしょうか。

言葉は残酷というか薄情だなと思っていて、歌にすればするほど感じますね。言葉はこんなにも大切なのに口に出すと薄っぺらくなってしまって、悲しい気持ちになることがあります。本当に大切な人なら言葉にしなくても伝わることがあるのに、世の中は言葉にしないと伝わらないことばかりで嫌になっちゃって。それを「泣き空」をアレンジしてくださった方に相談しました。「言葉の薄情さに気付いてしまいました……」って。

──そう相談されたら、なんて返せばいいんだろう……。

「もう少しゆっくり大人になりなさい」って言われました。

──正しい!(笑)

でも歌詞って正解も間違いもないので、そういう自由な部分が好きで音楽をやってるんだなとも思います。

教習所で生まれた「世界線」

──4曲目の「世界線」はこれまでよりちょっと広い世界に向けてのメッセージソングとも取れますが、こういう曲を作ろうと思ったのはなぜですか?

高校を卒業してすぐ、車の免許を取るために地元の教習所に通ってたんですけど、予約のキャンセル待ちのときにネットのインタビュー記事を見ていたら「何かを成し遂げるために大切なものは?」という質問に「愛だと思います。愛があればほとんどのことは成し遂げられます」と答えている人がいたんです。それって主観でしかないなと疑問を感じたんですね。誰かに「それは愛だよ」と指摘されて「これは愛なのか」と思うわけじゃない。自分が「これは愛なんだ」と思えばそれは愛だし、それを認識してない人が多いのかなって。自分のことを主観的な生き物だとすべての人が認識したら、世界の戦争はなくなるのかなとか。争いがなくなった先に何が見えるのかなとか。争いがなくなった、イコール平和、でもないわけじゃないですか。そんな単純なことじゃない。争いがあっても、私たちが生きているうえで、些細なことでも幸せだと感じることもある。争いがなくなることがすべてだと思っている人ってけっこう多いのかなとか、そんなことを考えながらこの曲を作りました。教習所で真剣に歌詞を書いてたら、すごく悲しそうな顔をしてたのか「体調大丈夫ですか?」と心配されました(笑)。

Karin.

──「世界線」ができあがったときの手応えはいつもと違いましたか?

「できた!」というよりも「できちゃった」って感じで。まだ19年しか生きてない私が世界を語るなって言われるかもしれないし、自分にとって重すぎるし規模が大きいので自信を持って歌えるのか、怖かったです。

──でも「蛍光灯が夜の寂しさを守って / 次の朝がくる」という部分はこの曲に込めたKarin.さんの愛ですよね。

そうですね。どんな人にも次の朝は平等にくるし、そのことを曲の中で伝えられたらいいなと思っていたので、このepの最後に聴いた人が何かを感じてほしいなと思います。

──高校卒業とコロナ禍という大きな変化の中で、今作を作って感じたことは?

今回のepはこれまでの中で立ち止まって、一番自分と向き合って作った作品です。コロナの影響がなければきっと今頃は夏フェスに出たりしてただろうし、自分のことを振り返るなんてできなかった。立ち止まって「何も持ってない」と感じたからこそ、自分が今まで何をしてきたのかを振り返ることができました。立ち止まることなく進んでいたら、自分が崩れてたんじゃないかな。このepを作れて、自分が一番励まされました。

Karin.